公開日 2018/03/01
「2025年には583万人の労働力が不足する」という推計と、その不足を解消する打ち手の1つである「日本で働く外国人を増やす」に今回焦点を当て、その現状や、外国人の採用・人材マネジメントにおけるポイントをお伝えし、受入にかかる今後の課題について考えたいと思います。
日本で働く外国人は1980年代のバブル期に深刻化した労働力不足を背景に増加を始めました。2008年以降は年平均約10%の増加を続け、2016年には初めて100万人を超えています。国籍別では2008年時点で中国、ブラジル、フィリピンの順に多い状況でしたが、近年のベトナム・ネパールからの留学生増加を反映し、2016年時点ではベトナムが2位に躍り出ています(1位は中国)。
外国人労働者の受入に関するこれまでの日本政府の基本的な考え方は、「専門的・技術的分野の労働者は就労目的での在留を認め積極的に受け入れるが、単純労働者の受入は十分慎重に対応する」というものでした。しかしそれだけでは労働力不足を補うことが難しいため、実際には次の5つの形態で単純労働者も含んだ「働く外国人」を受け入れています(人数と構成比は2016年時点)。①専門的・技術的分野の在留資格:大学教授や経営者、弁護士や調理師など専門能力や技術を持つ者。約20万人(18.5%)/②特定活動:EPAに基づく外国人看護師・介護福祉士候補者等。約1.9万人(1.7%)/③技能実習:技術移転を通じた開発途上国への国際協力を目的とした、技能実習生。約21万人(19.5%)/④資格外活動:留学生のアルバイト等。約24万人(22.1%)/⑤身分に基づき在留する者:日系人の定住者等。約41万人(38.1%)
これらの在留資格と国籍を掛け合わせてみると、技能実習の約74%・資格外活動の約69%が中国とベトナムの2ヵ国で占められていることが特徴的だといえます。また、国内の地域別では、外国人労働者は全体の51%が関東地方で働いており、東京都に限定してもその割合は31%。一方で、北海道・東北・中国・四国地方を合計しても全体の10%にも満たず、外国人労働者は特定の地域に集中しています。
産業別では、過去から一貫して、製造業に従事する労働者が圧倒的に多い状況です。製造業は技能実習が40%、身分に基づき在留する者が43%と大半を占める一方で、サービス業は留学生のアルバイトを中心とした資格外活動の労働者の割合が大きく、卸売・小売業が37%、宿泊業・飲食サービス業が63%となっています。それでは、各企業はどのように外国人労働者の採用や人材マネジメントを行っているのでしょうか。先進的な事例を見てみたいと思います。
コンビニエンスストア業界では、大手各社が主要な送り出し国に研修施設を設置し日本文化や接客業務についての事前研修を実施したり、留学生が多く通う専門学校に出向き業務内容の説明会を開催するなど、「戦力」を一足先に確保しようとかなり力を入れています。また、複数の言語で接客マニュアルを作成したり、外国人に人気の富士山や雪国でのイベントを開催するなどの特色ある取組を実施している企業もあります。大手電子機器製造販売企業では、入社後のキャリアプランがイメージしやすい職種別採用を実施しているほか、日本語能力テストの受験料補助や母国帰国休暇を制度として創設するなどの取組を実施し、外国人社員の活躍を後押ししています。
これらの事例を踏まえ、外国人と共に働く際のマネジメントポイントをまとめました。
▽仕事内容や職場イメージなどを外国人の先輩社員が説明するなどし、理解と関係性構築を促進する。▽募集・採用段階で労働条件や担当業務、仕事の進め方について明確化する。外国語によるマニュアル等で確実に伝える。
▽日本語能力試験の受験費用補助や日本人社員向けの英語教室を実施し、相互のコミュニケーション力向上を図る。
▽コミュニケーション能力要件の指標化など、外国人社員も納得できる公正な能力評価の仕組みを構築し、早期離職やモチベーション低下を防止する。▽十分な日本語能力を有する外国人社員の中から現場の責任者を抜擢し、キーマンとして活躍してもらう。
▽労災防止に関する標識や掲示を外国語で行う。また、安全衛生上のキーワード「危ない」「触るな」「よけろ」などは日本語で徹底的に理解してもらうようにする。▽母国の風習を勘案して柔軟な休暇制度を用意する。
▽住宅に関する情報提供や、病状を踏まえた適切な医者の紹介を積極的に行い、生活面をフォローする。▽宗教や文化の違いに配慮する。
今後の重要な課題とは何でしょうか。それは、外国人が「働きたい」と思う国への進化だと考えます。日本が外国人に選ばれるために、安価な労働力としての期待だけではなく、外国人も日本人同様に活躍できる労働環境の整備や処遇の改善、共生に向けた各企業の努力が求められています。
また、国が今後の外国人労働者の受入について中長期的な展望を明らかにすることも重要です。人手不足やグローバル化の進展等、外国人と共に働くことはもはや特別なことではなくなってきています。日本人・外国人の双方にとってより良い「外国人と共に働く」社会の実現に向けて、今回のコラムが皆様のヒントになれば幸いです。
主要参考文献
依光正哲「日本における外国人労働者問題の歴史的推移と今後の課題」、一橋大学、2002年
厚生労働省「外国人雇用状況の届出」、2008年〜2016年
厚生労働省「外国人労働者を巡る最近の動向」、2016年
宮島喬、鈴木江理子「外国人労働者受入を問う」、岩波書店、2014年
厚生労働省「外国人の活用事例集」、2017年
齋藤誠也「外国人雇用の現状と課題」、企業診断ニュース、2008年
渡邊博顕「日本における外国人労働者雇用の現状と課題」、労働政策研究・研修機構
本コラムは「冷凍食品情報(2017年7月号)」(一般社団法人日本冷凍食品協会発行)に掲載いただいたものを再編集して掲載しています。
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