外国人社員を襲う「職場内孤独」という病

外国人社員を襲う「職場内孤独」という病

コロナ禍による出入国制限が長期化している。日本だけでなく、多くの国で厳しく入国制限が課されているが、日本で働いている外国人はすでに166万人存在しており(2019年10月時点・厚生労働省「外国人雇用状況」より)、帰国が難しい外国人材も多く、帰省もままならない状況が続いている。この混乱のなかで母国から離れて働き続けることは、日本人以上にストレスを感じやすい状況におかれていることは容易に想像できる。実は、パーソル総合研究所による調査でコロナ禍以前から浮かび上がっていたのが、外国人材の「孤独」の問題だ。本コラムでは、そうした外国人材の「孤独」の問題について、調査データを用いつつ論じていきたい。(パーソル総合研究所 「日本で働く外国人材の就業実態・意識調査」)

外国人材の多くが職場で孤独感を感じていることが明らかになっている。特に問題なのは、正規雇用の外国人材で、「私は孤立しているように思う」が32.6%にのぼる。また、様々な属性の影響を統制しても、抱いている孤独感が高ければ高いほど、外国人材のパフォーマンスや就業意向に悪影響を与えることが明らかになっている。この背景はどういったことが考えられるだろうか。

まず、端的な「人数」の問題がある。外国人労働者が増えたとは言っても、外国人材の数が日本人を上回っているという国内の職場は、インバウンド向けの特殊なサービスや、地方の製造業、飲食・販売現場くらいのもので、多くの職場では日本人がまだまだ中心だ。データを見ても、正規雇用で働く外国人材の75%にとって、外国人の同僚は職場で2割以下となっている。この数値は、パート・アルバイトの職場では50%を超えており、正規雇用の外国人材はそもそも日本人に囲まれた職場で働いている。こうした、自分と似た境遇の人が周囲にいないこと、そして母国から離れてこの島国で働く外国人にとってストレスの種になる。

 そして、もう一つの背景として、職場や上司に対して言うことができない、多くの不満の存在がある。正規雇用にしぼってデータを見ていこう。

  1. 外国人が職場で言えない「隠れ不満」
  2. 組織として求められる対応とは

外国人が職場で言えない「隠れ不満」

日本で働く正規雇用の外国人材が最も感じている不満上位は、「昇進・昇格が遅い」「給料が上がらない」「給料が安い」で、25%を超える。次いで高いのは「明確なキャリアパスがない」、「無駄な会議が多い」で20%を超えてくる。こう見ると、なによりもキャリアと処遇への不満が大きいことがわかる。

日本企業は、長期雇用の習慣が未だに強く根付いており、組織内のキャリア上昇についても「長い一本のはしごをゆっくり登る」タイプの構造をしている。近年は若手からの早期活躍や早期選抜を進める企業も多いが、対象は先端的技術を有するごく一部の従業員であり、企業内秩序の多くが、年功的な階層構造を前提としている。「終身雇用」崩壊は幾度も叫ばれてきたが、データを見れば長期雇用の傾向そのものはほとんど変わっていない。

これらの習慣は、日本型雇用の「外部」から来る外国人にとっては奇妙に映って当然であるし、合理性を欠くものに見える。いくつかのはしごを乗り継ぐように会社や組織を選択し、自立的にキャリアアップをはかることの多い日本以外の多くの国の雇用習慣からみれば、会社命令の業務異動に従い続け、曖昧な人事評価をうけながら10年、15年かけて出世していく日本企業の在り方は、とても許容できるものではないだろう。

もう一つの問題は、こうした不満の多くを、企業側が把握していないことだ。「いやいや、うちは把握している」と言う企業のためにデータで示しておこう。パーソル総合研究所が別途実施している企業の人事担当者への調査データを用いて(注1)、外国人材の不満や課題について、「企業が認識している」割合と、「従業員本人が感じている」割合との認識ギャップを見たものが下図だ。外国人材が抱いている先述のような不満を、ほとんど企業側は理解できていない。全体の不満の数で見れば、外国人材の不満は、企業が認識している不満の2.6倍にのぼる。自社に外国人材を雇用している企業は、彼ら彼女らが会社側が理解している以上の隠れた不満を抱いている可能性をまず認識するべきだろう。(注1:外国人雇用に関する企業の意識・実態調査)

図1.職場への不満
図1.職場への不満 ※企業意識数値:正社員、パート・アルバイト雇用企業の平均値
出所:パーソル総合研究所「外国人雇用に関する企業の意識・実態調査(2019)」

また、そうしたキャリアや職場全体への不満とは別に、上司のマネジメントへの不満も高い。外国人材が抱く上司への不満上位は「アイディアや意見を受け入れてくれない」、「私の成果を自分の手柄にしてしまう」などだ。これらの不満内容は、日本人でも不満に感じることであるから、より厳密に見るために、外国人上司と日本人上司を比べてみたのが下図になる。これを見れば、とりわけ日本人上司への外国人材の不満の高さが浮き彫りになる。

図2.上司のマネジメント行動【ネガティブ項目:日本人上司と外国人上司の比較】
図2.上司のマネジメント行動【ネガティブ項目:日本人上司と外国人上司の比較】

新型コロナ・ウイルスの世界的流行は、グローバルな人の移動を急激に鈍化させている。これはつまり、「帰りたくても帰れない」外国人が多く日本で働いている。こうした不満を多く抱えつつも、同僚や会社にも言うことができず、かといって故郷に帰国することもままならない外国人労働者の心のケアは、もっと注視されていい問題だ。

組織として求められる対応とは

キャリアパスの不明瞭さや、コミュニケーションへの不満は、当の外国人材が離職してしまうということと同時に、他者推奨意向にも負の影響があることが確認できている。つまり、そうした不満をためる職場は、自分が辞めたくなると同時に、「人に勧めたくもなくなる」ということだ。こうした口コミの動向は、人口減少社会である日本が、今後外国人材から選択される国になれるかどうかにも影響してくる。

こうした外国人材の孤独や不満に対するケアやサポートには、それほど特別なことが必要とされているわけではない。データからは、「同僚とのコミュニケーション機会の付与」、「定期的な面談」、「自分の母国語に対応できる指導者の配置」などの支援が外国人材の孤独感を低下させることがわかった。逆に言えば、こうした会社からのサポートや配慮が手薄い職場では、やはり孤独感が高まっているということだ。

だが、現在の企業において、どれだけ実施されているかというと、心許ない。「同僚とのコミュニケーション機会の設置」「定期的な面談」の実施率は全体で3割を下回っている。「相談窓口」の設置は12.5%とさらに低調で、やはり追加でコストがかかってくる施策には踏み切れていない企業が多いということだろう。
こうした支援について「まだ数が少ない外国人材に対してそんなコストはかけられない」というのが企業の本音であろう。しかし、そのように外国人材の「孤独」や「隠れ不満」を放置し続ければ、グローバルな人材競争における自社のブランディングを毀損し続けている可能性がある。今後、新型コロナ・ウイルスの影響が弱まり、労働力のモビリティが再度高まったとき、選ばれる企業になれているかどうかは、そうした意識の有無にかかっているだろう。

執筆者紹介

小林 祐児

シンクタンク本部
上席主任研究員

小林 祐児

Yuji Kobayashi

NHK 放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年入社。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行っている。専門分野は人的資源管理論・理論社会学。著作に『罰ゲーム化する管理職』(集英社インターナショナル)、『リスキリングは経営課題 日本企業の「学びとキャリア」考』(光文社)、『早期退職時代のサバイバル術』(幻冬舎)など多数。


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