精神障害者雇用にまつわる誤解を解く

公開日 2023/08/24

執筆者:シンクタンク本部 研究員 金本 麻里

精神障害者雇用コラムイメージ画像

うつ病、統合失調症などの精神障害のある人が、「障害者雇用」の枠組みの中で合理的配慮を受けながら就業できるようになったのは、2006年からと最近のことだ※1。2022年時点で、障害者手帳を持ち就業している精神障害者は約11万人※2であり、就業可能年齢である精神障害の外来患者数(約200万人※3)からみればまだまだひと握りではあるが、着実に増えている。

しかし、精神障害者の人が障害者雇用枠で働くということの障害者本人や企業にとっての有効性について、まだ広く一般に理解されてはいないのではないだろうか。本コラムでは、精神障害のある人が障害者雇用枠で働くということに関するよくある誤解を解き、その有効性について提示したい。

なお、精神障害をはじめ障害のある人が就職する場合、「一般枠」と「障害者雇用枠」の2種類の求人から選ぶことができる。一般枠は、障害者用ではない一般の求人枠を指す。一方、障害者雇用枠は、企業が障害者を雇用するために設けた求人枠を指し、企業側も合理的配慮をすることを前提に募集している。

※1 1992年より、企業が精神障害者(障害者手帳保持)を雇用した場合、障害者雇用の助成金を受けられるようになった。2006年より、企業の障害者雇用率の算定対象に精神障害者が加わり、精神障害者の雇用が法定雇用率の達成につながるようになったため雇用が広がった。
※2 厚生労働省(2022)「障害者雇用状況の集計結果」 ここでの精神障害者は、精神障害者保健福祉手帳保持者。
※3 内閣府(2022)「障害者白書」 2017年時点の25~64歳の精神障害の外来患者数。ここでの精神障害は、ICD-10の「V精神及び行動の障害」から知的障害(精神遅滞)を除き、てんかんとアルツハイマー病を加えたもの。

本調査における「精神障害者」の定義
精神障害者の定義は場面によってさまざまだが、本調査では気分障害や神経症性障害、統合失調症、依存症、てんかん、およびそれらの関連疾患を抱えている方(高次脳機能障害、認知症、発達障害、性同一性障害は除く。)と定義。つまり、後天的に発症することが多い心の病気を抱える方を対象としている。
  1. 誤解を解く① 精神疾患は「病気」でもあり「障害」でもある
  2. 誤解を解く② 精神障害を「障害の社会モデル」で捉え直す
  3. 誤解を解く③ 精神障害は症状が安定すれば就労できる
  4. 誤解を解く④ 障害者雇用枠での就労は精神障害者・企業双方にとって有効
  5. まとめ

誤解を解く① 精神疾患は「病気」でもあり「障害」でもある

精神障害者は近年まで、法律的にも政策的にも「患者(医療の対象)」とみなされてきたという点は、コラム「企業が向き合う精神障害者雇用の今 ~歴史的経緯とマクロ的動向から読み解く~」でも述べた。「精神障害」がある状態は、すなわち「病気」が治癒していない状態のため、「無理は禁物。しっかり休養し、治癒してから働いたほうがよいのでは?」と感じる人が多いかもしれない。しかし、精神疾患は、治癒することもあるが、慢性的な経過をたどったり、再発を繰り返したりすることも多い疾患である。

精神疾患が「治った」状態は、「寛解」と表現されることが多い。寛解とは、病気・障害があっても日常生活または社会生活との折り合いがつく状態を指し、がんや白血病などの再発リスクが高い病気に使われる。精神障害も、症状が落ち着いた後に、再発のリスクを慢性的に抱えることが多いということだ。また、寛解後にも、疲れやすさや不眠、認知機能の低下、幻聴などの残遺症状が残ることがある。

職場での発症を例に挙げると、先行研究によれば、精神疾患による休職後の復職率は1年間で約7割※4。また、気分障害は5年間で約4割※5、統合失調症は服薬を続けた場合1年間で約3割※6が再発するというデータがある。もちろん適切な配慮や医療的介入によって再発率は下がるが、単純に計算すればうつ病などの気分障害を発症して休職した人のうち、復職し再発することなく5年以上就労継続できる人は、約4割と半数に満たない。また、先ほどの気分障害の再発率は初めての発症時のデータであり、再発を繰り返すほど、低い負荷でも再発するようになることも示されている※5

精神疾患が慢性的な再発リスクを抱え、疲れやすさ・不眠などの残遺症状が長く残る病気であるならば、その部分はもはや病気(治療をすれば完治するもの)というより、障害(治療では完治しないため、配慮や工夫により軽減を図るもの)と呼ぶべきであろう。

※4 西浦千尋ら(2015)民間企業における長期疾病休業の発生率、復職率、退職率の記述疫学研究
※5 Kessing, L.V. et al.(1998)Reccurrence in affective disorder. I. Case register study.
※6 Hogarty, G. E. et al. (1991) Family psychoeducation, social skills training, and maintenance chemotherapy in the aftercare treatment of schizophrenia. II. Two-year effects of a controlled study on relapse and adjustment. Environmental-Personal Indicators in the Course of Schizophrenia (EPICS) Research Group

誤解を解く② 精神障害を「障害の社会モデル」で捉え直す

「障害の社会モデル」という考え方がある。これは、障害によって生み出される障壁が、本人の心身機能の問題ではなく、社会(モノ、環境、人的環境など)のあり方によって生み出されている、という考え方だ。障害を生み出しているのは社会のほうなのだから、それを解消するのが社会の責務である、というこの思想は、現在の障害者福祉のスタンダートになっている。

症状がある程度安定してきた後も精神「障害」が続く場合、働く上で職場環境や業務負荷を調整する必要性が生じてくる。そのような調整を社会が許さないのだとすれば、「障害の社会モデル」では、それは社会が生み出している障壁と捉えられる。

ほかにも、精神障害発症後の社会環境は、本人にかなりつらい体験をもたらすことも多い。就業機会の少なさに加え、周囲の精神障害に対する偏見による心ない言動や、内面化された偏見によって本人が障害を隠したいと感じることも、疾患によるものではなく、社会的な障壁だ。つまり、「障害の社会モデル」のいうところの「社会によって生み出された障壁」が、精神障害について、いまだに大きく残っているのである。

誤解を解く③ 精神障害は症状が安定すれば就労できる

《精神障害のある人を、完治していない状態で障害に配慮して雇用する》と聞くと、多くの人は、「精神障害があるなら働くのは難しいのではないか?」、また「本人も働きたいとは思っていないのではないか?」と感じるのではないだろうか。

まず、前者の「精神障害があるなら働くのは難しいのではないか?」という点については、パーソル総合研究所が行った調査結果を参照したい。精神障害者の雇用が進まずノウハウが「手探り」の段階の企業では、「適切な治療を受けていれば就労できる人は多い」と答えた障害者雇用担当者は4割にすぎなかったが、雇用が進んでいる企業では7割に増加した(図1)。精神障害のある人の「仕事の潜在能力」に対する評価も雇用が進むにつれ高まる傾向があった。

図1:雇用ノウハウ状況別に見た、精神障害者雇用担当者の持つ精神障害者へのイメージ

図1:雇用ノウハウ状況別に見た、精神障害者雇用担当者の持つ精神障害者へのイメージ

出典:パーソル総合研究所(協力:パーソルダイバース)「精神障害者雇用の現場マネジメントについての定量調査」


精神障害のある人がハローワークで求職者登録をするときには、「働くことが可能な状態である」という主治医の意見書を提出する必要がある。主治医の意見書が絶対的に正しいとは限らないが、精神障害といえば発症直後の重い症状に関するエピソードが取り上げられることが多いためか、実際に精神障害のある人を雇用してみると、「想像していたよりも働いてもらえる」という印象を持つ担当者が多いと考えられる。

また、後者の「本人も働きたいとは思っていないのではないか?」という点については、精神障害のある人の中には、社会貢献意欲、そして金銭面の両面で、働きたいと考える人が多いことを申し添えておきたい。働いて社会の一員として貢献できている実感を得ることは、障害の有無にかかわらず重要だが、特に精神障害は思春期以降の発症がほとんどであり、働き始めた後に発症する人も多いため、なおさら重要な意味を持つ。また、先天的な障害であれば、福祉的支援を受けることに慣れている場合もあるが、後天的な障害であれば福祉的支援を受けることに抵抗を感じる人も多い。しかし、働かずに自立して生活できるほどには、障害年金などの福祉的支援は多くはない。生活のため、お金を得るために就職したいという人は多い。

誤解を解く④ 障害者雇用枠での就労は精神障害者・企業双方にとって有効

では、障害者雇用枠での就業は、精神障害者にとって、また企業にとって、効果をあげているのだろうか。 同調査では、障害者雇用枠で働く精神障害者の人と、一般枠で働く精神障害者の人(いずれも、障害者手帳保持者)の状態を比較した。すると、一般枠よりも、障害者雇用枠で働いている精神障害者の人のほうが、働くことを通じて幸せを感じている傾向があった(図2)。パフォーマンスも高く、安定的に就労している傾向もあった。身体障害者と比較しても、精神障害者の人ほうが、雇用枠による差が大きい。

図2:障害者雇用枠で働く精神障害者は、一般枠に比べ、働く幸せ実感・不幸せ実感の状態が良好

図2:障害者雇用枠で働く精神障害者は、一般枠に比べ、働く幸せ実感・不幸せ実感の状態が良好

出典:パーソル総合研究所(協力:パーソルダイバース)「精神障害者雇用の現場マネジメントについての定量調査」


この理由について分析すると、まず障害者雇用枠で働く精神障害者の人は、自身の障害を受容し前向きに捉えており、自分に必要な配慮や自身の能力を理解し、セルフケアをしている傾向があった。また、上司や同僚の対応にも顕著な差があり、障害者雇用枠で働く精神障害者の人の上司や同僚は、障害への配慮のみならず、業務上のフォローや感謝・ねぎらいといった一般的な対応も良好な傾向があった。組織的に障害に対する合理的配慮に取り組むことで、障害に対する捉え方が変わるためだと考えられる。逆に、一般枠ではコミュニケーションに課題を抱える傾向があり、この点が能力発揮を妨げていると考えられた。

これらの結果から、障害への配慮がある障害者雇用枠就労のほうが、良好な状態で就業でき、能力も発揮できることが示唆された。この効果は身体障害者よりも精神障害者でより大きいことから、精神障害者の人に対してこそ、障害者雇用の制度を活用し合理的配慮を行うことで、本来持っている業務能力の発揮につながるといえる。

精神障害のある人の中にはIT系の専門スキルを有しているなど、もともと持っていた業務能力が高い人も多く、障害に適切に配慮し戦力化できれば、人手不足の中、企業にとっても貴重な戦力になり得る。また、近年のダイバーシティ推進やESG投資の潮流によって、企業価値を高める上で障害者雇用がより重要になってもいる。

以上のように、精神障害者本人・企業の双方にとって、障害者雇用枠での就労の有効性が確認できたが、同調査からは、精神障害のある人が障害者雇用枠で働くことの心理的ハードルの高さもうかがえた。精神障害のある人には、障害発生後にまず一般枠で働き、考え直して障害者雇用枠に移行する人が多い。その割合は、障害枠就労者の53.7%に上る(図3)。

図3:障害発生後の就労経験(障害種別)

図3:障害発生後の就労経験(障害種別)

出典:パーソル総合研究所(協力:パーソルダイバース)「精神障害者雇用の現場マネジメントについての定量調査」


この背景には、精神障害への偏見が根強いため、障害開示をためらう心理や、障害者雇用枠に希望する職種や給与での求人が少ないことなどがある。このような状況を払拭するには、ロールモデルの発信などにより、障害者雇用枠での就労を、人生をよりよくするための前向きな選択肢として捉えられるような空気づくりや、精神障害者の障害特性・希望に合う求人を増やすことが大切になるだろう。それによって障害者雇用枠の有効活用がさらに進めば、社会がつくり出している精神障害者の障害(社会的障壁)がまたひとつ、なくなることにつながるだろう。

まとめ

本コラムでは、精神障害者が障害者雇用枠で働くということに関する誤解を解きながら、その合理性について考えた。本コラムのポイントは以下の通りである。

・精神障害は、寛解後も再発のリスクが続き、残遺症状が残ることも多い。そのような場合、治療により完治する「病気」と捉えるよりも、配慮や工夫により軽減を図る「障害」と捉える必要がある。

・障害によって生じる障壁は、当事者の心身機能の問題ではなく、社会のあり方によって生み出されているとする「障害の社会モデル」が現在のスタンダードな考え方ではあるが、精神障害者に関しては就業機会の少なさや偏見など、社会的障壁がいまだ多い。

・精神障害者の就労可能性や能力は過少評価されており、雇用が進むと評価が高まる傾向がある。また、働きたいという意欲が高い精神障害者の人は多い。

・一般枠で働く精神障害者の人よりも、障害者雇用枠で働く精神障害者の人のほうが、働くことを通じて幸せを感じており、パフォーマンスが高く、安定的に就労している傾向がある。障害者雇用の制度を有効活用することで、精神障害者の社会的障壁をなくすことにつながると考えられる。

本コラムが、精神障害者雇用に対する理解促進の一助となれば幸いである。

執筆者紹介

金本 麻里

シンクタンク本部
研究員

金本 麻里

Mari Kanemoto

総合コンサルティングファームに勤務後、人・組織に対する興味・関心から、人事サービス提供会社に転職。適性検査やストレスチェックの開発・分析報告業務に従事。
調査・研究活動を通じて、人・組織に関する社会課題解決の一翼を担いたいと考え、2020年1月より現職。


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