公開日:2020年6月24日(水)
調査名 | 留学生の就職活動と入社後の実態に関する定量調査 |
---|---|
調査内容 | 外国人留学生、元外国人留学生の就職活動に関する意識・実態を把握し、就職後の定着・活躍に関わる就職活動要因や入社後の企業のサポート体制を明らかにする |
調査対象 | 合計サンプル数 500人 <共通条件>居住地日本全国、外国籍 ※国籍の比率は実態に即して割付 <学生> 300人 四年制大学1-4年生、修士1-2年生、(博士課程は除外)、卒業後に日本での就業意向がある者 <社会人> 200人 日本の大学を卒業しており、日本で就職活動を行った人かつ現在日本で働いている人(内外資不問) 初職 正社員5年以内 ※就職活動をして正社員で就職した者 |
調査時期 | 2020年2月14日 - 3月2日 |
調査方法 | 調査モニターを用いたインターネット定量調査 |
調査実施主体 | パーソルキャリア株式会社「CAMP」/株式会社パーソル総合研究所 |
調査報告書(全文)
・留学生の過半数が、日本型の雇用や就職活動のあり方に関して、さまざまな違和感を抱いている。
・就職活動関連の情報を得るための手法として、留学生は日本人に比べて、合同会社説明会や学校の就活ガイダンスの活用は少ない。実際に、留学生が第一志望とする企業では、留学生を採用するために「留学生の積極採用を情報公開」(35.4%)や、「留学生へのキャリア支援・サポートの情報提供」(33.1%)など、さまざまな施策を行っている。
・キャリアに対する意識に関しては、「独立志向」を持つ留学生は日本人の2.5倍。留学生の約4割が、学生のうちから将来を見据えたビジネス活動に時間を割いている。
・入社企業に対する満足度は、日本人より留学生の方が高く、内定承諾直後には96.4%。その後徐々に低下し、入社3年以内に70.3%まで低下するが、いずれの時点でも留学生の満足度は日本人を大きく上回る。
・留学生が、入社後に不満を感じる点として、「労働時間が長い」「サービス残業が多い」「休暇がとりにくい」といった就業環境や、「与えられている裁量や権限が小さい」といった若いうちから活躍しやすい環境でないことなどが挙げられる。
・留学生が入社後に定着・活躍をするためには、入社前の「職業適性」「日本文化」への理解、特に「職業適性」の理解が影響。「職業理解」の理解促進には、学生生活において「社会勉強」に時間を割くことや、「学生生活でさまざまな経験をすることが大切である」という意識を持つことが有効である。
日本型雇用の特徴や日本の就職活動のあり方に関して、留学生の過半数はさまざまな違和感を抱いている。具体的には、「定年までの雇用が前提とされていること(終身雇用)」で62.6%、「自分が希望しないかたちで転勤・異動があること」で59.5%、「勤続年数に応じて賃金が上がる仕組みがあること(年功賃金)」で54.0%が違和感を抱いていた。新卒の採用基準に関しては、「具体的な技能・スキルが求められないこと」で56.2%、「資格が重視されないこと」で56.0%となった。
また、新卒一括採用に対する違和感も強い。具体的には「新卒者をまとめて採用する仕組みがあること」で65.4%、「選考開始、内定出しのタイミングにルールがあること」で62.1%、「4月入社が一般的であること」で59.3%が違和感を抱いていた。
図1.日本企業の雇用・採用のあり方への違和感
図2.日本の就職活動のあり方への違和感
就職活動関連の情報収集に活用した情報源について、留学生と日本人とのギャップが大きい順にランキング化すると、1位「企業・口コミサイト以外のWebサイト」(留学生=34.7%、日本人=9.6%と25.1ポイント差)、2位「企業のSNS公式アカウント」(留学生=26.4%、日本人=7.3%と19.1ポイント差)、3位「公式アカウント以外のSNS」(留学生=23.1%、日本人=5.8%と17.3ポイント差)。留学生は日本人に比べて、合同会社説明会や学校の就活ガイダンスの活用は少ない。そのため、企業側はネットやSNS上などに、留学生向けの情報を充実させる戦略を取るべきである。
図3.留学生が就職活動で活用した情報源ランキング
留学生が第一志望とする企業では、留学生を採用するためにさまざまな施策を行っている。例えば、留学生が第一志望とする企業のうち約3割は、「留学生の積極採用を情報公開」(35.4%)、「留学生へのキャリア支援・サポートの情報提供」(33.1%)などを実施していた。将来有望な留学生を採用するためには、専ら留学生をターゲットとした取り組みが必要である。
図4.留学生の第一志望企業の採用活動
就職を希望する業種について、留学生と日本人とのギャップが大きい順にランキング化すると、1位「宿泊、飲食サービス業」(留学生=14.8%、日本人=4.6%と10.2ポイント差)、2位「教育、学習支援業」(留学生=17.5%、日本人=8.6%と8.9ポイント差)、3位「卸売、小売業」(留学生=17.5%、日本人=10.0%と7.5ポイント差)。留学生が最も希望する業種は、「情報通信業」で23.7%。これらの業種の企業では、日本人に加え、留学生を意識した採用活動を行うことで、人材獲得がしやすくなる可能性がある。
図5.留学生の希望業種ランキング
平均内定社数は留学生2.61社、日本人2.33社と、留学生の方が多い。企業側は、留学生に対する内定後のフォローを、日本人以上に行うことが必要な可能性がある。
図6.留学生の内定者数
「キャリアに対する意識」について、留学生と日本人とのギャップが最も大きかったのは 「将来、独立したい」で2.5倍もの差があった(留学生=58.9%、日本人=23.3%と35.6ポイント差)。次いで、「新しい事業を自分で起こす機会に恵まれたい」(留学生=60.4%、日本人30.5%と29.9ポイント差)、「責任者のある仕事を任されたい」(留学生=69.6%、日本人41.0%と28.6ポイント差)。留学生は、「独立志向」「やりがい・成長志向」が強いことが明らかになった。一方、「リストラがない会社で働きたい」(留学生=56.2%、日本人=71.1%と14.9ポイント差)、「定年まで同じ会社で働きたい」(留学生=33.3%、日本人=41.3%と8.0ポイント差)などは、日本人の方が高く、「安定志向」が強くみられた。
図7.留学生と日本人のキャリアに対する意識の差
「学生生活で時間をかけていた活動」について、留学生と日本人のギャップが大きい順にランキング化すると、1位は「起業など、ビジネス活動を行う」 (留学生=41.6%、日本人=12.6%と29.0ポイント差)だった。2位は「授業に関する勉強」(留学生=81.2%、日本人=56.3%と24.9ポイント差)、3位は「授業と関係のない勉強を自主的にする」(留学生=66.7%、日本人=42.8%と23.9ポイント差)、4位は「新聞を読む」(留学生=43.3%、日本人=19.9%と23.4ポイント差)となった。留学生が、非常に熱心に勉強に取り組んでいることが定量的に示された。
図8.留学生の学生生活で時間をかけていた活動
入社をした企業に対する満足度は、留学生の方が日本人より高いことが明らかとなった。留学生の満足度は、内定承諾直後96.4%、入社直後91.9%、入社3年以内70.3%となるが、日本人は73.5%、64.3%、46.8%と推移する。いずれの時点でも留学生の満足度は日本人を大きく上回り、比較的高いという結果だった。
図9.就職先企業への満足度
留学生が、入社後に抱く不満をランキング化すると、1位「労働時間が長い」(51.5%)、2位「サービス残業が多い」(42.5%)、3位「休暇がとりにくい」(38.5%)と、労働時間に関わるものが上位となる。5位は「与えられている裁量や権限が小さい」(31.0%)。長時間労働を求められる一方で、若いうちから活躍がしやすい環境ではないことに不満があるとうかがえる。
図10.留学生の入社後の不満
就職先企業に対する入社前の理解度合いを、「組織」「職業適性」「日本文化」の3つの観点から聞いたところ、「職業適性」に該当する項目の理解度が比較的に高いことが分かった。中でも、「自分の能力や適性」が69.0%と最も高いことが判明した。
図11.入社前の組織・職業特性・日本文化の理解度
入社前の「組織」「職業適性」「日本文化」の理解度合いが、どのように入社後に影響するのかを分析。すると、入社前に「職業適性」「日本文化」の理解を深めることが、入社後の「パフォーマンス」や「定着」に、ポジティブな影響を与えていることが分かった。特に、「職業適性」の理解が進んでいると、その傾向が強いことも判明した。
図12.入社前の「組織」「職業適性」「日本文化」への理解度が与える影響
学生生活において「社会勉強」に時間を割いている人や、就職活動においては「大学生活でのさまざまな経験をする」、「就活マニュアルにこだわりすぎない」ことが重要であると意識していた人が、入社前に「職業適性」の理解が促進されていることが分かった。学生時代から社会に触れることで、知見や視野が広がり、必要とされる能力や自分の向き・不向きなどが認識できるようになると考えられる。
図13.入社前に「職業適性」の理解を深めるための行動・意識
日本で学ぶ留学生は、日本人学生と比べて勉強熱心であり、キャリア意識も高く、企業で活躍できる潜在力は高いと言える。だが、そうした留学生の多くが、日本独自の就活の慣習に戸惑いを感じていることが明らかになった。優秀な留学生を獲得したい企業はまず、形式張ったマナー重視の就職活動ではなく、より具体的な能力やスキルを見極める方向に舵を切るべきだ。また、留学生を意識した情報提供や機会創出など、日本人とは異なる取り組みによっても、留学生を惹きつけることができそうだ。
日本企業からはしばしば「留学生は入社後に定着しない」という声を聞くが、実は入社企業に対する満足度は留学生の方が日本人より高い。また、社会人となった元留学生が日本で働きたい年数は平均11.6年と長い。定着するかどうかは留学生のマインドの問題ではなく、企業側の制度や組織マネジメントの問題として捉えるべきだろう。労働時間や裁量・権限、報酬などを改善すれば、自社への定着・安定的に活躍してくれることが示唆された。現状では、言語サポートや制度整備なども不十分(下図参照)であり、今後の外国人材との協働のためにも、一層の充実が求められる。
図14.企業の入社後のサポート・配慮
入社後の活躍を促進するために、「企業や仕事内容への理解を深める」「自身の能力を適切に把握する」ことなどが重要であると明らかになった。これは、留学生だけではなく、日本人にも共通して言えると考える。社会に出てからのキャリアを具体的にイメージし、それを実現するための準備を学生時代から進めることが、活躍の鍵となるためだ。
そのために学生は、就職活動をスタートするよりも前の段階から、インターンシップに参加する、社会人とコミュニケーションを取るなどの経験を積むことが必要である。このような経験を通じて、社会人からフィードバックが得られ、伸ばすべき強みや、足りないスキルを認識することができるなど、自己理解が進み、自分が取るべき行動が明確化される。将来のキャリアを充実させるためには、社会に対するアンテナを張り、さまざまな社会人との繋がりを作るという意識を持って学生生活を過ごすことが、留学生、日本人問わず重要であると考える。
※本調査の詳細は下記をご覧ください。
本調査を引用いただく際は、出所として「パーソル総合研究所×CAMP」と記載してください。
本記事はお役に立ちましたか?
follow us
メルマガ登録&SNSフォローで最新情報をチェック!