公開日:2023年2月22日(水)
調査名 | パーソル総合研究所 「就業者の多拠点居住に関する定量調査」 |
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調査内容 | ・多拠点居住の目的に応じた類型化と、各多拠点居住タイプの特徴・実態について明らかにする。 ・多拠点居住の各タイプにおいて、地域での「労働力」と「消費」の観点から、地域との関わり合いを明らかにする。 ・多拠点居住の各タイプにおいて、多拠点居住の意思決定要因及びウェルビーイング要因を明らかにする。 |
調査対象 | 共通条件:政令指定都市+東京23区内に主たる居住地を有する就業者 ※(パート・アルバイトは除く)20~69歳男女 ① 多拠点居住者:n=1498s 【サブ拠点の地域に毎月1泊以上滞在している就業者】 ② 多拠点居住計画者:n=216s 【多拠点居住する計画を立てており、サブ拠点の地域も決まっている就業者】 ③ 多拠点居住意向者:n=786s 【多拠点居住したい気持ちの強い就業者】 ※対象メイン居住地域:札幌市、仙台市、さいたま市、千葉市、東京23区、横浜市、川崎市、相模原市、静岡市、浜松市、名古屋市、京都市、大阪市、堺市、神戸市、岡山市、広島市、北九州市、福岡市、熊本市 |
調査方法 |
調査会社モニターを用いたインターネット定量調査 |
調査期間 |
2022年 11月9日-11月14日 |
実施主体 | 株式会社パーソル総合研究所 |
共同研究機関 | 叡啓大学保井・早田研究室、クウジット株式会社 |
※報告書内の構成比の数値は、小数点以下第2,3位を四捨五入しているため、個々の集計値の合計は必ずしも100%とならない場合がある。
調査報告書(全文)
「多拠点居住」とは、主たる生活拠点を都市圏 (政令指定都市+東京23区内)に持ちながら、別の都道府県にも生活拠点を設けて定期的に行き来する生活とした。
なお、仕事(現業の主務、副業・兼業など)やワーケーション、ボランティア、趣味、家庭事情による特定地域への定期的な移動を対象とし、会社都合の不定期な出張や観光による訪問は対象外とした。
多拠点居住者に多拠点居住の目的を尋ねたところ、「気分転換したり、リフレッシュするため(38.9%)」が最も高く、「自分の時間を過ごすため(38.1%)」、「個人の趣味を満喫するため(30.7%)」と続く。
図1.多拠点居住の目的
多拠点居住の目的に基づいて、多拠点居住者・計画者・意向者を以下の5つのタイプに分類した。
①多拠点生活志向タイプ(29.6%):
多様な目的から複数地域を行き来する生活を志向するタイプ。何かしらの形で地域で活動する意欲が高い。
②地域愛着タイプ(13.6%):
自身の気分転換・リフレッシュや、その地域の魅力を堪能するため多拠点居住を行うタイプ。
③趣味満喫タイプ(13.0%):
自身の趣味や嗜好を堪能するため多拠点居住を行うタイプ。
④家族支援タイプ(21.9%):
近親者の介護や実家等の保有物件を管理するなど家族支援的に多拠点居住を行うタイプ。
⑤受動的ワークタイプ(22.0%):
その地域に仕事等があり、受動的に多拠点居住を行うタイプ。地域を行き来する生活への意欲は低い。
また、「多拠点生活志向タイプ」、「地域愛着タイプ」、「趣味満喫タイプ」は、能動的に多拠点居住を選択している「能動的意思決定タイプ(56.2%)」と考えられる。
図2.多拠点居住の目的タイプ
多拠点居住のきっかけは、「在宅勤務やテレワークの浸透(15.3%)」が最も高く、「行き来する地域での観光(12.0%)」、「近親者の介護(11.9%)」と続く。
多拠点居住のきっかけを多拠点居住の目的タイプ別に見たところ、全体平均と比べて「多拠点生活志向タイプ」と「趣味満喫タイプ」は「在宅勤務やテレワークの浸透」が最も高く、「多拠点生活志向タイプ」はTVやSNSによるきっかけも高い傾向であった。「地域愛着タイプ」は「その地域での観光」、「家族支援タイプ」は「近親者の介護・死別」、「受動的ワークタイプ」は「異動」や「その地域での仕事」がきっかけとなっている。
図3.多拠点居住のきっかけ(多拠点居住の目的タイプ別)
「多拠点居住に際する意思決定に影響する要因は多拠点居住の目的タイプごとに異なる」と仮定し、多拠点居住の目的タイプ別に意思決定要因分析(CALC分析*)を行ったところ、それぞれ以下のようなことを重要と考えていたり意思決定に影響していたりすることが分かった。
多拠点生活志向タイプ:地域内の《人》
地域愛着タイプ:地域を行き来する上での《金銭面・仕事面による支援》
趣味満喫タイプ:組織・家庭内における《障壁を取り除く》こと
家族支援タイプ:家庭の環境・状況と《職場内でのサポート体制》
受動的ワークタイプ:家庭内での《居心地》
*CALC分析は、因果モデルを推定し、介入の観点を示唆する有用な分析アプローチ。CALCはソニー株式会社の登録商標です。CALCは株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)が開発した技術で、株式会社電通国際情報サービス(ISID)、ソニーCSL、クウジットの3社による業務提携に基づき提供されています。
多拠点居住を開始した時に「転職をした・副業を始めた」ケースは、全体で2割程度。
いずれのケースも、「多拠点生活志向タイプ」で高く、特に副業については34.3%で、全体と比べて13.5ptの差がある。
図4.多拠点居住に伴う転職・副業(全体・多拠点居住の目的タイプ別)
多拠点居住者の中で、現在も解決していない切実な悩みがある割合は36.4%。悩みの詳細を見ると、「その地域に行き来することで生じるコストが高かった」、「その地域に行き来することが身体的に大変だった」が高く、特に「家族支援タイプ」はその傾向が強い。
サブ拠点となる地域への月間の訪問回数と宿泊日数を見たところ、全体平均は訪問回数3.1回、宿泊日数4.8泊であった。それに対し「家族支援タイプ」は、訪問回数3.1で全体平均と同じにもかかわらず、宿泊日数4.6泊と、訪問1回あたりの移動負荷が高いことが分かった。
図5.多拠点居住の悩み
多拠点居住者がサブ拠点となる地域に関わる仕事・活動を行っている割合は34.9%。タイプ別に詳細を見ると、「多拠点生活志向タイプ」の地域に関わる仕事・活動の実施率が51.6%で最も高く、「家族支援タイプ(37.7%)」、「地域愛着タイプ(36.4%)」が同程度で続く。また、「多拠点生活志向タイプ」は、地域に関わる副業を行っている割合が24.1%で特に高い傾向。
図6.地域に関わる仕事・活動の実施率(全体)
図7.地域に関わる仕事・活動の実施率と内容(多拠点居住の目的タイプ別)
サブ拠点となる地域での月間支出額について見たところ、「多拠点生活志向タイプ」が11.2万円で最も高く、次いで「家族支援タイプ(8.1万円)」、「趣味満喫タイプ(7.2万円)」と続いていく。「地域愛着タイプ」は6.6万円で最も低い。
図8.地域での月間支出額(全体・多拠点居住の目的タイプ別)
サブ拠点となる地域の「労働力」と「消費」を高める要因を分析したところ、地域で「頻繁に連絡を取る友人・知人の数」や「時々連絡を取る友人・知人の数」が、その地域における「労働力」や「消費」を向上させる傾向が見られた。
図9.地域の「労働力」「消費」を高める要因
多拠点居住者・計画者・意向者の身体的・精神的・社会的により良い状態=ウェルビーイング(主観的幸福感)を比較したところ、多拠点居住者のほうが計画者・意向者よりも高い傾向が見られた。「多拠点居住」という生活スタイルがウェルビーイングを高める傾向にあることがうかがえる。
多拠点居住の目的タイプ別にウェルビーイングを見たところ、どのタイプにおいても多拠点居住者のほうが高い傾向であった。特に「多拠点生活志向タイプ」や「地域愛着タイプ」でその傾向が強い。
図10.多拠点居住者と計画者・意向者のウェルビーイング比較(全体・多拠点居住の目的タイプ別)
多拠点居住者のウェルビーイングに影響する要因においても多拠点居住の目的タイプ別に要因分析(CALC分析*)を行ったところ、それぞれ以下の内容がウェルビーイングにつながっており、「地域愛着タイプ」以外のタイプは、共通して地域で関わる人との関係性が影響していることが分かった。
多拠点生活志向タイプ:労働による地域貢献や地域で関わる人達との関係性深耕。
地域愛着タイプ:金銭面における懸念の払拭。
趣味満喫タイプ:サブ拠点となる地域で会う人との関係性構築。
家族支援タイプ:サブ拠点となる地域で会う人との関係性構築。多拠点居住に対する家族の理解。
受動的ワークタイプ:サブ拠点となる地域で会う人との関係性構築。多拠点居住に対する家族の理解。
さらに、「サブ拠点となる地域における友人・知人の数」がウェルビーイングに与える影響を多拠点居住の目的タイプ別に確認したところ、「趣味満喫タイプ」や「家族支援タイプ」は、頻繁に連絡を取るような《濃い》関係性の友人・知人を増やすこと、「多拠点生活志向タイプ」や「受動的ワークタイプ」は、時々連絡を取ったり挨拶を交わしたりする《ゆるい》関係性の友人・知人を増やすことがウェルビーイングにつながることが示唆された。
図11.ウェルビーイングとサブ拠点地域における友人・知人の関係性(多拠点居住の目的タイプ別)
以上のような結果を基に、今後、多拠点居住に関係する可能性のある以下3者に対して、それぞれ提言を示す。
多拠点居住を行っている就業者のウェルビーイングは、計画者や意向者よりも良好であった。しかし、経済的負担やサブ拠点となる地域での人間関係など、克服すべき課題も少なくない。
地域貢献や自己実現、組織や家族の意向など多拠点生活の主目的や背景はさまざまだが、複数の地域コミュニティに関わる体験は、自身の職業能力や生活能力(人とのつながりや社会関係資本など)を育む越境的学習機会ともなり、曖昧で不確かな将来への自己投資として考えることもできよう。仕事におけるパフォーマンス発揮のみならず、人生をより豊かなものとするためにも、自分にとって望ましい環境を自己選択する姿勢は大切にしたい。
多拠点居住者は計画者・意向者と比べてウェルビーイングが高い傾向が確認された。就業者がウェルビーイングの高い状態にあると、仕事に対し熱意・没頭・集中する傾向が強まるとの先行研究から、多拠点居住の支援施策は福利厚生に留まらない。また、地域での副業やボランティア活動等を越境的学習機会と考えれば、就業者の能力開発やミドルシニアの活性化・セカンドキャリア支援といった従来の企業内教育では得難い人的資本への投資ともなろう。
他方で、介護や実家管理などで行き来する就業者は、移動にかかる経済的負担や働き方の制約など切実な悩みも抱えていた。リテンションや優秀人材獲得への投資として、多拠点居住を許容・支援するための制度や体制構築、社内風土の醸成施策について検討されることを提案したい。
都市圏在住者の移住・定住には一定のハードルがあるため、地域を訪れる多様な人と地域住民(企業など)との交流を通じた地域創生に取り組まれている地域は少なくない。この点において多拠点居住者への期待は大きい。
しかし、多拠点居住者とは一様ではなく、5つのタイプに分類され、その関心も多様であった。これは、地域の情報発信や政策立案に際して考慮すべき点が異なることを示唆している。また、労働・消費への貢献の高い「多拠点生活志向タイプ」 はもとより、地域との関係が薄い「受動的ワークタイプ」もまた潜在的な力を秘めている。ゆるく「挨拶や会話を交わす知人」を増やすための施策と共に、地域での「役割」と「出番」をいかにつくり出すかが重要な検討ポイントとなろう。
※本調査を引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所「就業者の多拠点居住に関する定量調査」
調査報告書全文PDF
就業者の多拠点居住に関する定量調査
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