公開日:2022年6月30日(木)
調査名 | パーソル総合研究所 「女性活躍推進に関する定量調査」 |
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調査内容 | 女性管理職比率向上に向けて、女性活躍の現状と課題をフェーズ別に整理する。 その上で、フェーズ別の課題に対して有効な施策を男女格差の観点から明らかにする。 |
調査対象 |
①企業調査 n=800 ②従業員調査 n=4800(性別×年代別に各1200s)+役職別ブーストサンプル n=370 |
調査時期 |
①企業調査 2021年 12月20日-12月24日 |
調査方法 |
調査会社モニターを用いたインターネット定量調査 |
実施主体 | 株式会社パーソル総合研究所 |
※報告書内の構成比の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、個々の集計値の合計は必ずしも100%とならない場合がある。凡例の括弧内数値はサンプル数を表す
調査報告書(全文)
各企業における女性管理職の比率ごとに、0%:フェーズ【Ⅰ】/1%以上10%未満:【Ⅱ】/10%以上20%未満:【Ⅲ】/20%以上:【Ⅳ】、の4フェーズに分類したところ、女性管理職が1%以上10%未満であるフェーズ【Ⅱ】の企業が最も多く41.5%を占め、次いで女性管理職が一人もいないフェーズ【Ⅰ】の企業が25.3%であった。(図1)。
図1.女性管理職の割合別に見た企業実態
企業の女性活躍推進における課題を人事・経営層に聞くと、「女性の昇進意欲が無い」が42.4%、「十分な経験を持った女性が不足している」が41.6%、「登用要件を満たせる女性が少ない」が40.8%で上位を占めていた。さらに上位の課題について、フェーズごとに特徴を見た(図2)。フェーズ【Ⅰ】はそもそもの課題感が低く、【Ⅱ】【Ⅲ】【Ⅳ】では、「女性の昇進意欲が無い」が共通の課題であった。
図2.女性管理職比率のフェーズ別に見た女性活躍推進の課題と特徴
女性管理職比率が上がると、管理職意向(管理職への昇進意欲) がある男性の割合は増加傾向にあった。一方で、管理職意向がある女性の割合は、フェーズ【Ⅰ】:14.3%、【Ⅱ】:16.9%、【Ⅲ】:16.2%、【Ⅳ】:13.4%と同程度であり、組織内の女性管理職比率が高まっても、女性の管理職意向が上がっていない。(図3)。
図3.管理職意向がある人の割合(女性管理職比率のフェーズ別)
女性活躍推進のベースとなる就業継続と管理職への昇進意向について、男女による比較分析を行った。就業を継続するかどうかは、男女ともに長時間労働ではないことを前提とし、その上で、男性はその会社で「収入が上昇することの見通し」、女性は「経験が得られることの見通し」があることが鍵となっていた(図4)。
図4.就業継続における男女比較
主に女性を対象とした施策として行われる「スポンサーシップ制度」や「ロールモデル公開」、「育児の両立支援」などの施策が「男性」の管理職意向を上昇させていた。また、これらの施策は、女性の管理職意向を直接上昇させておらず(別の施策のほうが有意)、男女の意欲格差是正に寄与していない可能性が示唆された(図5)。
勤務形態に占めるテレワーク割合の高さは、男性の管理職意向を上げる影響は見られたが、女性ではその傾向が確認できなかった(図6)。また、子供を持つ女性のみにおいて、テレワーク実施率が高くなるほど残業時間が長い傾向が見られた(図7)。
図5.女性向け施策と管理職意向への影響
図6.テレワーク割合の管理職意向への影響
図7.テレワーク実施率の残業時間への影響
「女性」の管理職意向を上げていたものから、子あり/子なしで共通性の見られるものを抜粋した。大きく「労働時間の見直し」、「管理職・登用の見直し」、「男性の産休制度」の施策が、女性の管理職意向を高めていた(図8)。男女のライフイベントの違いから生まれる意識の差を前提とし、より「女性」の意欲を上げる施策を打ち、意欲格差を是正する必要がある。
図8.女性の管理職意向を高める人事施策
分析によるファンディングスから、女性活躍推進に必要な施策を「時間」「経験」「展望」の3つの観点で整理した。
現在主流となっている労働時間に上限を設ける「管理的残業施策」は、労働時間管理から 除外される管理職の負荷が下がらず、女性の管理職意向を上昇させていなかった(図9)。残業施策は、法定時間を守るだけでなく、時間あたり成果の評価、マネジャーへの訓練など、より働き方そのものに働きかける「組織開発的残業施策」を増やす必要がある。
「残業削減のためのマネジメント層への研修・トレーニング」や「人事評価への時間あたりでの成果観点の包含」のほか、「管理職の短時間勤務制度」を実施している企業では、管理職意向がある女性の割合が実施していない企業の2.6倍の水準で高かった。このことから、管理職の負荷全体が上がっていないかを見直すとともに、時短管理職など長い労働時間を前提としない管理職の枠組みの整備も有効といえそうだ。
図9.残業施策と女性の管理職意向
上司が部下へ幹部候補として期待をかけている割合を部下の男女別で見た(図10)。独身の男性部下は33.7%、小さな子どもがいる男性部下は31.7%で、差がなかった。それに対して独身の女性部下は22.4%、小さな子どもがいる女性部下は14.2%であった。女性に対して幹部候補として期待していないことが分かる。
図10.幹部候補として期待をかけている割合
※ベース:部下をもつ上司。女性従業員比率が0%や100%の会社に勤務している人は除く
男女の業務経験率の差を見ると、女性は「転勤」や「新規プロジェクトの起案・提案」「新規プロジェクトの立ち上げ」といった新規経験、「部門横断的なプロジェクトへの参加」「他企業、他組織との共同プロジェクト」といった経験が全般に少ない(図11)。上司のジョブアサインの偏りの是正とともに、新規企画提案やピープルマネジメント経験を積極的に促すなど、女性の経験格差を是正できるような措置を企業主導で行う必要がある。
図11.男性の方が多い業務経験(上位10項目)
課長登用年齢を業界別に見ると、「宿泊、飲食サービス、生活関連サービス、娯楽業」は平均で34.7歳と比較的若いが、その他の業界は40歳前後だった。女性は結婚を期に時間を重視し給与を重視しなくなる一方、男性は結婚を期に管理職意向が上がる(図12)。
「ゆっくりとした自然選抜」では、登用時期が男女の意識が大きく変わる結婚・出産の後になってしまい、自動的に女性が不利になり続ける。育児・出産の前に「管理職候補としての期待感」や「選抜・育成機会」を与え、リーダー職への期待を均等に配分することが必要になる。
図12.日本の管理職選抜・登用
管理職になる上での不安を聞いたところ、「精神的な負担が大きい」が男性33.8%、女性48.9%であった(図13)。ほか、上位10項目すべてにおいて、女性の方が男性よりも不安を多く抱えており、それらが払拭されないままでは、登用後も管理職として働き続けられないリスクがある。
「不安に対する具体的支援の申し出」や、「管理職候補になった理由の説明」などの登用時の働きかけがあることによって、管理職として働き続けたい人の割合が女性は1.7倍(有意差あり)になったことから、特に女性にとって重要であることが示唆される。(男性については有意差無し)
図13.管理職になる上での不安(上位10項目)
続いて、自社の女性活躍施策についての懐疑心を尋ねると、自社の施策は「法律の改正に合わせて行っているだけ」、「表面的な世間体を整えているだけ」、「実際には効果が薄い」と感じている女性が4割、男性でも3割を超えた。一方で、「自社には必要ない」は男女ともに約1割と低い(図14)。
図14.女性活躍への懐疑心
女性活躍への懐疑心の影響を分析すると、自社の女性施策について、「一貫性の欠如」「現場理解の欠如」という会社メッセージと現場現実との差、「わかりやすさの欠如」「独自性の欠如」という社内コミュニケーションの領域が強く懐疑心と結びついていた。
また、自社の女性施策について、「一貫性の欠如」「現場理解の欠如」「独自性の欠如」を感じている従業員は、会社がこれからも変わらないだろうという負の未来展望につながってしまっていた(図15)。
施策の社内コミュニケーションについて「一貫性」「現場理解」「わかりやすさ」「独自性」を軸に戦略的に実施し、働く女性の組織への未来展望を明るいものにする必要がある。
図15.女性活躍への懐疑心の影響
女性活躍施策を社内で推進するときに生じる、「1. 現場の抵抗」と「2.経営層の承認」という2つのハードルをいかに乗り越えるかについて、人事部のあり方を中心に分析した。
女性活躍施策の推進を管理職層に抵抗される傾向の強い人事部の特徴を見た。人手不足で外部頼みの人事部は女性管理職層から、メンバーに多様性のない人事は男性管理職層からの抵抗にあいやすいことが明らかになった(図16)。
図16.現場から抵抗される傾向の強い人事部の特徴
経営層において、「メンバーに多様性があることが自社や仕事に役立つ」という信念であるダイバーシティ信念が高いほど、好意的性差別意識が低く、自社の女性活躍推進に積極的であった。このダイバーシティ信念は、ビジネス環境への危機感を抱くほど強くなっている。(図17)。
一方で、自身の出世のサンクコスト意識(自分の地位に対する過去の努力蓄積実感)を感じるほどダイバーシティ信念は弱い。また、サンクコスト感覚は、上位幹部層への平均登用年齢が高い企業ほど強い傾向にあった。
図17.ダイバーシティ信念への影響要因と女性活躍への積極性要因
人事部として、「人事部メンバーそのものに多様性があること」、「人事領域の専門性のあるメンバーがいること」、「攻めの提案ができていること」、「現場理解のための人的・時間的リソースがあること」などのリソースや活動方針を持っていることで、女性活躍施策実施に必要な社内の理解が促進されている(図18)。
図18.社内を動かす人事部の特徴
多くの企業で、女性活躍施策が実施されるようになってから一定の期間が経過した。その進捗は企業によって濃淡があるが、共通して大きなハードルとなり続けているのが「男女の意欲格差」だ。
若年層全体の意識が変化し、キャリアを企業に依存することが忌避されるようになってきたなかで、これまで主に「女性向け」施策として行われてきた両立支援等が「男性」側の管理職への昇進意欲を向上させ、意欲格差を是正する効果が薄いことが示唆された。コロナ禍によって広がったテレワークも、管理職意向を上げる効果は男性にしか見られず、より踏み込んだ施策を実施しない限り、「意欲格差」は温存されてしまう。
さらには、経営や現場の理解を得られている人事部の在り方も明らかになった。人事メンバーに多様性があること、専門性のあるメンバーがいること、受け身ではなく「攻め」の提案ができていることなどの特徴が抽出されている。
大手企業を中心に、女性活躍にすでに数十年取り組んできた企業もあるが、効果に限界が見え、従業員に「飽きられて」いる場合も多い。女性活躍推進のための施策で提示した「時間」「経験」「展望」の3つの観点で施策を見直すと同時に自社内への浸透策を検討するにあたり、本調査結果が少しでもヒントになれば幸いである。
※本調査を引用いただく際は出所を明示してください。
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