公開日:2024年12月4日(水)
調査名 | 更年期の仕事と健康に関する定量調査 |
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調査内容 | 企業が更年期の健康問題、特に女性の更年期問題への対応策を検討する際の示唆を得るべく、更年期症状の実態と職場における有効な対応策を定量的に把握するための調査を行った。 |
調査対象 |
【スクリーニング調査】25ー64歳の男女(就業形態不問)2万人を国勢調査の性別・年齢(5歳刻み)構成に合わせて回収・集計 【本調査】※①・②・③のサンプル間に重複あり。農業・林業、漁業、鉱業・採石業・砂利採取業従事者は除く ②正社員全体:25-64歳の正社員男女 計2000人
③女性上司:50人 |
調査方法 |
調査会社モニターを用いたインターネット定量調査 |
調査期間 | 2024年7月24日-8月8日 |
実施主体 | 株式会社パーソル総合研究所 |
※図版の構成比の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、個々の集計値の合計は必ずしも100%とならない場合がある
※倫理的配慮:調査実施にあたっては、調査の目的と内容を説明した上で、同意が得られた者のみを対象とした
調査報告書(全文)
更年期の症状であることを自覚しているかどうかにかかわらず、具体的な症状をどの程度実感しているかについて、チェック項目の合計得点(更年期症状スコア[女性:SMI/男性:AMS])を基に、4区分(女性:「なし」「軽度」「受診推奨」「要長期治療」、男性:「なし」「軽度」「中程度」「重度」)に分類*。「軽度」以上のレベルに分類された40-50代の人を「症状保有者」として分析した。
*4区分化
女性:0~25点「なし」/26~50点「軽度」/51~65点「受診推奨」/66点以上「要長期治療」 男性:0~26点「なし」/27~36点「軽度」/37~49点「中程度」/ 50点以上「重度」
【注意】 更年期障害に明確な基準はなく、閉経状況の確認や他の疾患の可能性を除外することによって診断が行われる。よって、このチェック項目によるスコアはあくまでも本人が実感している症状のレベルであり、このスコアのみで更年期症状・障害であるとは言いきれない点はご注意いただきたい。
40-50代正社員のうち、「軽度」レベル以上の更年期症状保有者は、女性が44.5%、男性が37.2%。ただし、症状には個人差が大きい。女性の1割弱が「要長期治療」レベル、男性の1割弱が「重度」レベルに分類される。
症状レベルが高い ほど更年期症状があることを自覚している割合が高い。しかし、女性においては、「要長期治療」レベルでも41.3%が更年期症状であることを自覚していない。男性においては、「重度」レベルでも66.1%が更年期症状であることを自覚していない。
更年期症状が仕事の支障になる日数は、症状レベルが上がるほど多い傾向が見られる。 平均すると、女性では、「軽度」レベルで月に約6日、「要長期治療」レベルで約11日。男性では、「軽度」レベルで月に約4日、「重度」レベルで約9日。ただし、同じ症状レベルであっても個人差が大きい。
*仕事の支障になる具体例としては、ホットフラッシュ(突然の発汗やほてりなど)で集中力が途切れる、十分な睡眠が取れないことで日中の眠気や注意力の低下が生じる、などが挙げられる。
更年期の症状レベルが高い 場合(女性の「要長期治療」レベル/男性の「重度」レベル)、任された役割を果たしているなどの「ジョブ・パフォーマンス(役割遂行度)」や「継続就業意向」が低い傾向が見られる。
更年期女性のパフォーマンスや離職防止(継続就業意向)と関係する要素として、本人の「セルフケア」、上司の「ラインケア(日常的なサポートや職場改善)」、同僚の「ピアサポート」の側面から分析した。
パフォーマンス低下防止に関しては、「食事改善(セルフケア)」や、希望に応じて休暇をとらせてくれるなどの「柔軟な働き方の許容(ラインケア)」、症状や対処、相談先、職場の制度などの「情報提供(ピアサポート)」が行われていると、更年期女性のジョブ・パフォーマンス(役割遂行度)が高く、パフォーマンス低下防止とプラスの関係が強い。
離職防止に関しては、評価基準を明確に説明してくれるなどの「評価の透明性(ラインケア)」や部下全員に対して健康の重要性を日頃から話しているなどの「健康の重要性伝達(ラインケア)」、希望に応じて休暇をとらせてくれるなどの「柔軟な働き方の許容(ラインケア)」、相談にのってくれたなどの「情緒的支援(ピアサポート)」が行われていると、更年期女性の継続就業意向が高く、離職防止とプラスの関係が強いことが分かった。
一方で、「上司や同僚にわかってもらえないと思うので相談しづらい」「症状について話しても上司や同僚にわかってもらえなかった」という「症状への理解不足(症状の軽視など)」への認識があると継続就業意向が低く、離職につながりやすい。
では、更年期症状に対して、本人の「セルフケア」や上司の「ラインケア」や同僚の「ピアサポート」など職場内の支援を促すには何が必要か。
まずセルフケア促進について分析したところ、更年期症状であることを自覚していると、「温度調整」や「食事改善」、「仕事中のリフレッシュ」といったセルフケアを行っている割合が高いことが分かった。そのため、企業としても更年期診断チェックシートの共有や専門家への紹介など、本人に対し自覚を促進する取り組みを検討するとよいだろう。
次に職場内支援の促進について分析したところ、同僚へ更年期症状の相談を行っている場合、同僚から症状や対処、相談先、職場の制度などの「情報提供」や、相談にのるなどの「情緒的支援」のサポートを受けた割合が高いことが分かった(図表8)。先述の通り「情報提供」や「情緒的支援」が行われていると、パフォーマンスや継続就業意向が高くなるため、同僚への相談は有益といえる。
しかし、症状の状態やケア、治療方法、症状による働き方の調整について、職場で上司や先輩・同僚に相談をしている女性は、症状レベルにかかわらず1~2割程度。男性は1割前後にとどまる(図省略)。
更年期症状に関して周囲への相談を促す施策を探ったところ、3つの方向性が明らかになった。
① 職場の更年期ハラスメント(症状の軽視など更年期に関するネガティブな言動)を予防
「精神的な症状(気分の変動や集中力の低下)に対して理解が得られなかった」「症状を軽視された」といった職場の理解不足を経験した人のうち約8割が、上司や同僚にわかってもらえないと思うので相談しづらいと思っている。そのため、更年期症状の軽視や嘲笑などのハラスメントを予防することが重要だ。
② 上司への信頼感を醸成
上司のマネジメントとして、評価基準を明確に説明してくれるなどの「評価の透明性」、部下全員に対して健康の重要性を日頃から話しているなどの「健康の重要性伝達」、希望に応じて休暇をとらせてくれるなどの「柔軟な働き方の許容」が行われていると、部下から上司への信頼感が高い。そして、上司への信頼感が高いと、更年期症状について上司に相談している割合が高いことが分かった。
上司のマネジメント行動、部下から上司への信頼感、上司への相談にはプラスの関係性が見られる。
※分析の詳細は調査報告書全文PDF Appendixを参照ください。
③ 本人のヘルプシーキング力(頼る力)を高める
「更年期の予防や対処のために周囲にサポートを求めることができる」「更年期と思われる症状が急に出た時に適切な助けを求めることができる」「更年期について心配なことがあれば専門家に相談できる」といった「ヘルプシーキング力(頼る力)」が高いと、上司に症状の状態や対処法、症状による働き方の調整の相談をしている割合が高い。
健康に関する情報は難しいという「難解バイアス」や今の生活を変えたくないという「変化不安バイアス」が特に、「ヘルプシーキング力(頼る力)」を阻害している。しかし、「更年期の典型的な症状」や「女性だけでなく、男性にも更年期症状があること」についての知識があると、これらのバイアスが低い。
更年期症状は、企業の中核となる年齢層で出現しやすく、パフォーマンス低下や離職などに伴う企業への影響も大きい。今回の調査では、更年期におけるパフォーマンス低下や離職を防止する上で、本人のセルフケアに加えて職場の支援が重要であることが明らかになった。
更年期の女性本人がセルフケアを行う上では、企業の支援も欠かせない。例えば、柔軟な休暇・休憩の取得やテレワークができれば、症状が出た際に対処するだけでなく、通院もしやすい。また、ホットフラッシュなどの症状が出やすい中で仕事中の温度調整が未充足ニーズとして大きいことから、室温調整が難しい場合に保冷剤など体温調整できるアイテムを提供することも考えられる。さらに、生活習慣改善に向けて、企業が栄養指導などを通じて伴走することも一考に値する。こうしたセルフケアにつなげるために、まずは、「本調査における更年期症状保有者の定義(症状レベル)」で提示したような症状が更年期症状であることの自覚を促すことから始めたい。
また、職場の支援としては、上司や同僚が更年期に対する理解を深め、更年期に対するネガティブな言動をなくし、健康と仕事の両立に対するポジティブな言動を増やすことが重要である。ネガティブな言動として、侮蔑・嘲笑や症状を軽視するような言動、体調不良による休みや休憩を認めないといった「更年期ハラスメント」は離職につながりかねない。一方で、ポジティブな言動として、上司は、健康と仕事との両立に対して理解があることを示すことが不可欠である。具体的には、柔軟な働き方を認めること、健康の重要性を伝えること、評価基準を明確に示すなどで透明な評価を行うことを心掛けたい。こうした上司のマネジメントは、女性だけでなく男性のパフォーマンス低下や離職の防止にも有効である。また、同僚が相談にのる、体調を気遣うといった情緒的な支援や情報提供を行うことも更年期女性のパフォーマンスや離職防止に大きな意味をもつ。
こうした職場内の支援は、本人が職場で上司や同僚に相談すると得られやすい。逆に、上司がこうした健康に理解のあるマネジメントを行っていることや、職場で更年期に対するネガティブな言動がないことが相談のしやすさにつながる。つまり、セルフケア(自覚・対処・相談)と職場内支援は、互いに歯車としてかみ合って回ることで、更年期の症状と仕事との両立がしやすくなる。企業としては、症状に応じた柔軟な働き方ができるようにするとともに、更年期の従業員に対するネガティブな言動を防止することや、更年期に対する負の信念を低減させる知識の提供で本人のヘルプシーキング力(頼る力)を高めることなどによって、支援の歯車を機能させるための働きかけを行うことが望ましい。
※本調査を引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所「更年期の仕事と健康に関する定量調査」
調査報告書全文PDF
更年期の仕事と健康に関する定量調査
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