公開日:2021年9月30日(木)
調査名 | 人事評価制度と目標管理の実態調査 |
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調査内容 | ■日本企業の人事評価と目標管理制度について、制度実態と運用実態を把握する。 ■従業員・上司における人事評価と目標管理制度についての意識と行動実態を明らかにする。 |
調査対象 | 【共通条件】 全国の正規雇用従業員/20-59歳男女/企業規模100人以上/第一次産業、学術研究、公務等除く 【企業調査】 合計サンプル数:800s -人事部(主任クラス以上)ないし経営層・経営企画部/自社の人的資源管理の全体動向について把握している者 【従業員調査】 合計サンプル数:8000s -一般メンバー層:役職なし。有効サンプル数:5000s -上司層:役職が係長-事業部長クラス・直接評価を担当する部下あり。有効サンプル数:3000s |
調査時期 | 【企業調査】 2021年 3月11日 – 3月15日 【従業員調査】 2021年 5月6日 – 5月11日 |
調査方法 | 調査会社モニターを用いたインターネット定量調査 |
調査実施主体 | 株式会社パーソル総合研究所 |
※報告書内の構成比の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、個々の集計値の合計は必ずしも 100%とならない場合がある
調査報告書(全文)
「MBO(Management by Objectives)」「OKR(Objectives and Key Results)」「その他フレーム」のいずれかの目標管理制度実施率は53.8%。MBOによる目標管理は3割超の企業で実施されている。評価者・考課者研修は約3割の企業で実施されるのに対し、被評価者研修は2割に満たない(図1)。
図1.目標管理制度と人事評価制度の実施率
企業の目標管理制度に対する全般的な課題は、「モチベーションを引き出せていない」「成長・能力開発につながっていない」「成果に報いる処遇が実現できない」とする企業が半数を超えている(図2)。
図2.目標管理制度における課題(企業)
従業員の目標管理制度への不満は、「目標を定量化するのが難しい」「個々人や部署により目標の難易度が違う」が約6割と多い(図3)。
図3.目標管理制度への不満 上位15項目(従業員)
自社の人事評価制度に対して、不満を感じている人の割合は、38.3%。評価のプロセスには36.3%、評価結果には33.2%が不満を抱いている(図4)。
図4.人事評価制度への不満(従業員)
目標管理制度をより効果的なものにするにはどうすればよいか。目標志向性に着目し分析したところ、目標志向性の3タイプ「熟達目標」「遂行接近目標」「遂行回避目標」(図5)のうち、「熟達目標」の志向性がワーク・エンゲイジメント、個人パフォーマンス、キャリア自律に対して最もプラスの関連が見られた。遂行回避志向性は、バーンアウトにプラスの影響が見られた(図6)。従業員育成のためには、目標管理のプロセスによって、自身の成長そのものを志向する「熟達目標」を引き出す必要がありそうだ。
図5.目標志向性の3タイプ(Dweck & Elliott, 1983など参照)
図6.目標志向性による成果への影響
そこで、次に熟達目標志向へプラスの影響を与える要因を探ったところ、「暗黙の評価観」が影響を与えていることが分かった。「暗黙の評価観」とは、組織成員が、自社の人事評価制度や評価結果について抱いている個々人のマインド・セットや認識のことを指す。「改善重視」、「明確さ重視」、「役立ち感」のポジティブな評価観は、熟達目標志向へプラスの影響を与えることが分かった。一方、「やらされ感」はマイナスの影響が見られた。(図7)。
図7.暗黙の評価観と熟達目標志向性
ポジティブな評価観には、上司の傾聴の姿勢やビジョンの共有が正の関連が見られた。職場風土では、再挑戦の歓迎、相互ヘルプの職場文化(助け合い文化)も同様にポジティブな評価観へのプラスの関連が見られた(図8)。
図8.ポジティブな評価観に影響を与える要素
では、上司(評価者)の評価プロセス遂行状況はどうか。評価プロセスを制度通りに実施できている上司は3割前後。実施していない上司は2割強(図9)。
図9.評価プロセスの遂行度合い(制度化されている場合)
そこで評価プロセスに影響を与える要因を見てみた。上司の評価に対する「暗黙の評価観」のうち、「改善重視」「明確さ重視」「役立ち感」の評価観は評価プロセスの遂行度合いに、「改善重視」「役立ち感」観は部下に使う面談時間にポジティブな関係が見られた。上司がやらされ感を持っている場合はともに低い(図10)。
図10.上司(評価者)の暗黙の評価観が評価プロセスに影響を与える要素
また、上司の「評価者研修経験」「目標設定に関する研修経験」「人事制度全体の説明・研修経験」は評価プロセスの遂行度合いと、部下に使う面談時間に対して、ともにポジティブな関係が見られた(図11)。
図11.上司(評価者)の研修経験が評価プロセスに影響を与える要素
しかし、評価者研修は、全体の37.4%が受けたことが無い。定期的に受けている割合は15-18%程度であった(図12)。
図12.上司(評価者)の研修経験実態
一方で、部下(被評価者)の研修経験の実態を見たところ、7割以上が被評価者研修や目標設定に関する研修・トレーニングを受けたことが無く、63.6%が人事制度・人事評価制度全体に関する説明・研修も受けたことが無いことが分かった(図13)。
図13.部下(被評価者)の研修経験実態
MBOに代表される目標管理制度は、従業員の成果測定や課題発見のために多くの企業で運用されているが、その多くが形骸化してしまっている様子がうかがえた。従業員育成のためには、目標管理のプロセスによって、自身の成長そのものを志向する「熟達目標」を従業員から引き出す必要がある。
今回の調査からは、熟達目標の志向性の高低には、従業員が自社の人事評価そのものに対して感じている「暗黙の評価観」が影響を与えていることが示唆された。「人事評価は、自分の課題を明らかにするためにある」「成長のために評価が必要だ」といったポジティブな評価観を持つ従業員は、上述の熟達目標志向性が高い傾向にあった。また、そうした前向きな評価観は、日常のマネジャーの傾聴行動(話を聞く姿勢)や、メンバー同士が助け合う組織風土によって促進されていた。
目標管理を人事評価・処遇に紐付けている多くの企業では、評価の公平性のために評価プロセスや等級要件を精緻化したり客観化しようとしたりすることも多い。しかし、従業員と組織の持続成長のためには、そもそも「メンバーから自社の評価システムがどのように見られているのか」や、「自社の目標管理の目的を伝え訓練する場があるのか」といった、より現場に根ざした検討を行いたい。
※本調査を引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所「人事評価制度と目標管理の実態調査」
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