公開日:2024年2月20日(火)
調査名 | 仕事と私生活の境界マネジメントに関する定量調査 |
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調査内容 | 仕事と私生活の境界コントロール実感が個人と組織に与えるメリット、および、個人の境界マネジメントが境界コントロール実感に与える影響を確認するとともに、職場における境界マネジメント支援策について定量的に明らかにすることを目的とした。 |
調査対象 | 共通条件:全国 男女 20-50代 正社員(代表取締役・社長を除く) 従業員規模(正社員数)51人以上の企業 第一次産業を除く 現在仕事をしていない人(産休・育休中など)は除く 【正社員全体】 n=1021 ※労働力調査(2022年)の性年代構成比を元に割付 【育児期女性ブースト】 n=1076 共通条件に加えて、中学生以下の子どもと同居している女性 ※国民生活基礎調査(2021年)の末子年齢構成比を元に割付 【テレワーカーブースト】 n=200 共通条件に加えて、直近3か月間で平均して週に3日以上のテレワークをしていた人 ※労働力調査の性年代構成比に基づいて集計したスクリーニング調査におけるテレワーカーの性年代構成比を元に割付 ※正社員全体/育児期女性/テレワーカーのサンプル数は重複ありでカウント |
調査時期 | 2023年9月20日-10月2日 |
調査方法 | 調査会社モニターを用いたインターネット定量調査 |
調査実施主体 | 株式会社パーソル総合研究所 |
※報告書内の構成比の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、個々の集計値の合計は必ずしも100%とならない場合がある。
調査報告書(全文)
共働き世帯の増加や性別役割分担意識の希薄化、柔軟な働き方の広がりによって、仕事と私生活の境界は曖昧になりやすく、仕事と私生活を両立させるニーズが高まっている。そこで、「仕事と私生活をうまく切り分けられている」「働く時間を自らコントロールできている」「仕事のストレスを私生活にもちこんでいない」など、仕事と仕事以外の生活の切り分け実感を「境界コントロール実感」として測定し*、有用性を分析した。
*1 Kossek, E. E. (2016). Managing work–life boundaries in the digital age. Organizational Dynamics, 45(3), 258–270. における境界コントロールの概念や日本の正社員に対して実施したヒアリングを参考にして項目を作成した。
境界コントロール実感が高いと、「継続就業意向」「自発的貢献意欲」「人生満足度」「はたらく幸せ実感」が高く、「バーンアウト(燃え尽き)傾向」が低いことが分かった。
*1 Shuck, B., Adelson, J. L., & Reio Jr, T. G. (2017). The employee engagement scale: Initial evidence for construct validity and implications for theory and practice. Human Resource Management, 56(6), 953-977.より「行動的エンゲージメント」項目を参照 (4項目、α=.874)
*2 Kristensen, T. S., Borritz, M., Villadsen, E., & Christensen, K. B. (2005). The Copenhagen Burnout Inventory: A new tool for the assessment of burnout. Work & stress, 19(3), 192-207.より「仕事関連のバーンアウト」項目を参照 (6項目、α=.881)
*3 Diener, E. D., Emmons, R. A., Larsen, R. J., & Griffin, S. (1985). The satisfaction with life scale. Journal of personality assessment, 49(1), 71-75.より「人生満足度尺度」を参照 (5項目、α=.941)
*4 パーソル総合研究所×慶應義塾大学 前野隆司研究室 「はたらく人の幸せに関する調査」より「はたらく幸せ実感」尺度を使用 (5項目、α=.968) https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/spe/well-being/img/Well-Being_AtWork_ver1.pdf
個人が仕事と私生活をうまく切り分けるための方策を「境界マネジメント」として測定し*因子分析を実施。結果、次の6つの要素が抽出された。①退勤時間になったら仕事を止めるといった「切断」、②自分の感情をコントロールするように心がけるといった「感情制御」、③どの仕事にどのくらいの時間をかけるかを事前に計画するといった「計画」、④力をかけないことや止めることを選ぶといった「縮小」、⑤希望する働き方を職場で伝えるといった「調整」、⑥仕事の優先順位をつけるといった「優先」である。これらの6要素の平均値を「境界マネジメント」とし、境界マネジメントが境界コントロール実感に与える影響を分析したところ、境界マネジメントは境界コントロール実感にプラスに影響することが明らかになった。
*Kreiner(2009)やAllen et al.(2021)の定性的研究において抽出された概念を参考に、日本の正社員に対して実施したヒアリングで得られた要素を加味して項目を作成した。
参考:
Kreiner, G. E., Hollensbe, E. C., & Sheep, M. L. (2009). Balancing borders and bridges: Negotiating the work-home interface via boundary work tactics. Academy of management journal, 52(4), 704-730.
Allen, T. D., Merlo, K., Lawrence, R. C., Slutsky, J., & Gray, C. E. (2021). Boundary management and work‐nonwork balance while working from home. Applied Psychology, 70(1), 60-84.
個人が仕事と私生活をうまく切り分けるための方策「境界マネジメント」の実践に対して、どのような人事管理や上司のマネジメントが影響を与えるかをみた。「働き方についての制度を柔軟に利用させてくれる」「希望に応じて休みをとらせてくれる」といったように上司が「柔軟な働き方を許容」していることや、人事管理として「長時間労働の是正」が行われていることが、メンバーの境界マネジメントの実践に特に影響している。
自らの人生(=ライフ)に対する主体的な意識や行動(=オーナーシップ) *について因子分析を行った結果、「理想ライフの設計」「学びの拡張」「自己責任自覚」の3つの要素が抽出された。これらの要素はキャリアのWill/Can/Mustに近いことから人生のWill/Can/Mustとして整理し、これらの人生に対する主体性を総じて「人生主権(ライフ・オーナーシップ)」と名付けた。「理想ライフの設計(Will)」「学びの拡張(Can)」「自己責任自覚(Must)」の3つの要素が仕事と私生活をうまく切り分けるための個人の方策「境界マネジメント」の実践にプラスに影響している。
*日本の正社員に対するヒアリング結果や堀内・岡田(2009,2016)のキャリア自律尺度の概念 、ドイツにおける時間主権の概念などを参考に、人生や生活への主体性の観点で項目を作成した。
因子分析の結果を元に、各次元において因子負荷量が高い項目の平均値を使用した。
理想ライフの設計(5項目、α=.914)、学びの拡張(7項目、α=.907)、自己責任自覚(10項目、α=.932)
参考:
堀内泰利・岡田昌毅(2009)キャリア自律が組織コミットメントに与える影響 産業・組織心理学研究,23, 15-28.
堀内泰利・岡田昌毅(2016)キャリア自律を促進する要因の実証的研究 産業・組織心理学研究,29, 73-86.
仕事と育児の両立が課題となる育児期*の女性と、仕事と仕事以外の生活の切り分け実感「境界コントロール実感」の関係をみた。図示はしていないが、育児期の女性の58.1%が「毎日時間に追われている」。しかし、時間不足を感じている育児期女性でも境界コントロール実感が高い人とそうでない人がいる。
*本調査においては、中学生以下の子どもと同居している場合を「育児期」のライフステージとして分析した。
育児期女性において、時間不足感が高いが境界コントロール実感が高い人は、時間不足感が低く境界コントロール実感が低い人より人生満足度が高い。つまり、時間不足でも境界コントロール実感が高ければ人生満足度が高いことから、時間不足の解消よりも境界コントロール実感を高めることが人生満足度にプラスに影響するといえる。
私生活の境界が曖昧になりやすく、労働時間が長くなりがちであるといった課題が指摘されるテレワークと、仕事と仕事以外の生活の切り分け実感「境界コントロール実感」の関係性をみた。
残業時間が長いテレワーカー*は境界コントロール実感が低い。テレワーカーは、残業時間が短い場合には境界コントロール実感が高いが、残業時間が長い場合には境界コントロール実感が大きく下がる。
*調査においては週3日以上テレワークをしている人をテレワーカーとして分析した。
個人が仕事と私生活をうまく切り分けるための方策「境界マネジメント」の実践度別にみると、残業時間が長くて境界マネジメントの実践度が低いテレワーカーは、境界コントロール実感が低い。
日本においては今後、男性の家事・育児参画や女性管理職の増加で、仕事と家庭の両方の責任を担う対象が広がると考えられる。さらに、テレワークの浸透に際して時間管理の問題に向き合う必要があることから、境界マネジメントの重要性はより一層高まるものと思われる。また、従業員の離職防止や自発的貢献意欲の向上といった組織成果の観点からも、本人にとってのWell-beingの観点からも、重要だ。
組織においては、まず「境界マネジメント」の技法を従業員に伝え、奨励する必要がある。 そのためには、人事部門が、仕事と私生活の意図的な切断や感情コントロールといった具体的な境界マネジメントの技法を知ること、社内で共有することから始めたい。境界マネジメントを促進するためには、労働時間の短縮や有給休暇の取得を奨励するだけでなく、現場の上司が柔軟な働き方を認めることも不可欠だ。中でも、中抜けなどの柔軟な時間の使い方の許容や仕事よりも家庭を優先させることの許容といった上司のマネジメントに改善の余地がある。
テレワークでは、残業時間が長くなると境界コントロール実感が失われやすい。ただし、残業時間が長い場合でも境界マネジメントを行えば、境界コントロール実感を高められる。そのため、残業が多い職場でテレワークを許容する際には、境界マネジメントの実践を促すことが肝要だ。
個人としても、具体的な境界マネジメントの技法を学び、日常生活に取り入れることが重要だ。そのために、自分自身の人生に対する主権(ライフ・オーナーシップ)を意識することが大切である。
特に、仕事と育児の両立が課題となる育児期の女性は、時間不足を感じやすい。しかし、時間不足の解消と境界コントロール実感の向上は別々に考える必要がある。育児期の女性が人生の満足度を高める上では、時間不足を解消することも大切であるが、それ以上に、境界コントロール実感を高めることを意識して境界マネジメントを実践すべきである。
※本調査を引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所「仕事と私生活の境界マネジメントに関する定量調査」
調査報告書全文PDF
仕事と私生活の境界マネジメントに関する定量調査
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