公開日 2020/10/30
人材データの分析をしている企業の半数以上が、「データ活用目的が不明瞭であること」や「データの一元管理」などの課題により、分析結果を意思決定に活用できていないことがわかりました。本調査結果を見ながら、人材データの分析を意思決定に活用するための道筋についてご紹介します。
パーソル総合研究所が2020年7月末に実施した「人材マネジメントにおけるデジタル活用調査2020」では、従業員100名以上の企業の41.0%が既に人材データを使った何らかの分析を実施していた。従業員5000名以上の大企業に絞ると、分析実施企業の割合は58.7%にのぼる。
一方で、人材データの分析をしている企業の実に半数以上が、分析を意思決定に活用できていないこともわかった。せっかく手間暇かけて分析を実施しているのに活用できていない理由はどこにあるのだろうか。
調査データを紐解いてみると、分析を意思決定に活かせていない企業では、「データ活用目的が不明瞭であること」や「データの一元管理」、「分析レベル」がハードルとなっていることがわかった。
では、人材データの分析を意思決定に活用するためにはどうしたらいいのだろうか。
具体的な調査結果を見ながら、人材データの分析を意思決定に活用するための道筋について議論したい。
人材に関するデータの分析実施状況を見ると、分析を意思決定に使えている企業は16.9%にすぎない。分析しているが意思決定に使っていない企業をあわせると、分析を実施している企業は41.0%にのぼるが、分析をしている企業の半数以上が分析結果を意思決定に活用できていない。
図1.人材に関するデータの分析実施状況
また、人材データを分析したいという意向があるのにできていない企業は35.5%を占め、現時点でもまだ分析に至っていない企業が多く存在していることがわかる。
では、分析したいのにできていないのはなぜなのだろうか。また、分析していても意思決定に活用できていないのは何が障壁となっているのだろうか。
調査結果をもとに、各フェーズの特性と課題をまとめたのが下記の図2である。
図2.企業のデータ活用の4フェーズ
フェーズ1から順番に見ていくと、分析したいと思っていない企業<フェーズ1>は従業員300名未満の小規模企業が約半数を占め、人材データも整備されていない。
続いて、分析したいと思っているものの分析実施に至っていない企業<フェーズ2>では、「分析人材の不足」や「分析方法・施策への紐づけ・データ選択といったリテラシーの不足」に関する課題認識を抱えている。データの整備状況を見ると、人事データに加えて採用・育成データは保有しているものの、組織診断結果や対話内容、行動記録といったワークスタイルデータの保有には至っておらず、データの一元管理も進んでいない。
分析しているが意思決定に使えていない企業<フェーズ3>では、「データ活用目的の不明瞭さ」が課題として認識されている。分析を意思決定に使えている企業とそうでない企業で保有しているデータの種別数に差は見られないが、意思決定に使えていない企業では、データの一元管理が不十分である傾向が見てとれる。また、分析レベルを見ると、意思決定に使えていない企業では簡易な分析に留まっている傾向がある。分析を意思決定に使えていない企業はデータが一元管理されておらず、簡易な分析に留まっていることから、統合的・複合的な分析ができておらず、意思決定に資する結果が得られていない可能性も考えられるだろう。
ここで興味深いのは、フェーズ3になって「データ活用の不明瞭さ」が課題となることだ。
最初は、人材不足やリテラシー不足に目が行き、なんとか分析を開始してみるものの、実際に分析を始めると、活用目的が不明瞭であることから意思決定に活用できず、行き詰まりを感じるようになるのかもしれない。
分析を意思決定に活用できているフェーズ4になると、データの一元管理も進んでおり、高度な分析も手掛けている傾向が見られる。しかし、だからといって、データを一元管理して高度な分析をすれば意思決定に活用できると考えるのは尚早だろう。意思決定に活用できている企業だからこそ、より活用するために、課題に応じて必要なデータを整備したり、高度な分析にチャレンジしたりするなど、必要に応じた良いフィードバックループがまわっている可能性も考えられる。
なお、フェーズ4では「組織間の断絶」が課題として認識されていることも特徴であるが、ここから読み取れることとして、意思決定に活用できている企業でも、組織間の協力を得て分析結果を施策に落とし込んでいくなど、さらなる活用の余地が残されているといえる。
人材データの分析をする以上、目指すべきは分析を意思決定に活用できているフェーズ4の段階に到達することである。では、人材データ分析を意思決定に活用するためには、何から手をつけるとよいのだろうか。
意思決定への活用のステップとして本調査結果から考えられることは、まずは、活用目的を明確にすることだ。データ活用目的が明確であれば、目的に応じて必要なデータが明らかになり、必要なデータの一元管理を進めることにもつながるだろう。 「人材データの活用目的を絞らない企業は、十分な効果を得られていない」という調査結果もある(三菱UFJリサーチ&コンサルティング,2019)注1。データの活用目的を明確にすることで、課題に応じたデータ整備や分析にフォーカスすることができ、課題解決につながっていくのではないだろうか。
例えば、「当社で活躍する社員の特性から、求める人材像を明確化したい」ということが目的であれば、基本的な社員属性や評価情報といった人事情報に加えて、保有スキルデータやコンピテンシー等の人材アセスメントデータもあわせて見ていく必要が生じ、それらのデータが統合的な分析ができるかたちで整えられている必要がある。
よく聞く話として、データ自体はあるものの「事業部が持っていて取り出せない」「部長が個人的にローカルでExcelやWordファイルで持っている」といったこともある。せっかくデータを取得して保有していても、いつでも分析に使える状態になっていなければ宝の持ち腐れである。必要な時に必要なデータが分析に使えるかたちで取り出せるように一元管理を進めることが重要である。 目的に応じて分析を進めていくと、単純に属性別の割合の高低を見るといったことだけでなく、どの要因の影響が強いのかが気になるようになり、結果的に重回帰分析といった高度な分析にチャレンジし、より意思決定に使いやすい結果が得られるといったことにもつながるだろう。
人材データの分析に取り組んでも意思決定に活用できなければ十分な成果は見込めない。意思決定に活用するためには、まずはデータ活用目的を明確にし、その上で必要なデータを一元管理し、適切な分析手法を選択することで統合的・複合的データ活用を行い、自社の課題解決に活かしていくことが有効なのではないだろうか。
注1:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「人事のデジタル化に関する実態調査」
下記資料のP.6より「人材データの活用・タレントマネジメントシステムの導入目的を絞らない企業は、十分な効果を得られていない」という記述を参照:https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2020/01/cr_200131.pdf
シンクタンク本部
研究員
砂川 和泉
Izumi Sunakawa
大手市場調査会社にて10年以上にわたり調査・分析業務に従事。定量・定性調査や顧客企業のID付きPOSデータ分析を担当した他、自社内の社員意識調査と社員データの統合分析や働き方改革プロジェクトにも参画。2018年より現職。現在の主な調査・研究領域は、女性の就労、キャリアなど。
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