従業員のキャリア自律に関する定量調査

公開日:2021年9月7日(火) 

調査概要

調査名 従業員のキャリア自律に関する定量調査
調査内容 ■キャリア自律が本人・組織へもたらすメリットおよびキャリア自律を促すための要因を明らかにする。
■キャリア自律と離職との関係、就活や学生時代の活動との関係など、その他の関連要素の実態を把握する。
調査対象 [共通条件] 全国 男女(年齢20-59歳)正規雇用の就業者 企業規模不問(除外業種:第一次産業)
①一般正社員層[n=10000]
※ 労働力調査における正規従業員の性別・年代割合に合わせて割付

②新卒層[n=1000]
新卒で正社員採用された企業で現在も正社員として働いている20代
就業期間5年以内の一般従業員(非役職者) ※男女均等割付
調査時期 2021年 4月26日 – 5月6日
調査方法 調査会社モニターを用いたインターネット定量調査
調査実施主体 株式会社パーソル総合研究所

※報告書内の構成比の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、個々の集計値の合計は必ずしも 100%とならない場合がある

調査報告書(全文)

調査結果(サマリ)

キャリア自律度を高めるメリットとキャリア自律の実態

キャリア自律は成果指標に対してプラスの効果

昨今注目が高まっている「キャリア自律」。まず、実際にどのような効果があるのかを見てみたところ、キャリア自律度(※1)が高い就業者は、個人パフォーマンス(自己評価)やワーク・エンゲイジメント、学習意欲、仕事充実感が高く、人生満足度も高いことが分かった(図1)。

図1.キャリア自律と各成果指標/キャリア自律度の高低別

キャリア自律と各成果指標/キャリア自律度の高低別

 

(※1)キャリア自律の要因《心理》と《行動》を合わせて「キャリア自律度」と定義(図2)。

図2.キャリア自律尺度

キャリア自律尺度

※5:あてはまる~1:あてはまらない の5件法で聴取。要因ごとに平均値を算出し、心理・行動・キャリア自律度それぞれ各要因の平均値を算出
参考:堀内 泰利,岡田 昌毅.”キャリア自律を促進する要因の実証的研究” 産業・組織心理学研究 29(2),73-86,2016.よりキャリア自律心理尺度およびキャリア自律行動尺度を一部改変して使用

 

では実際、就業者はどのぐらいキャリア自律を実現しているのだろうか。

キャリア自律の度合いは20代をピークに40代にかけて低下

性年代別にキャリア自律度を見ると、20代では男性平均3.29、女性平均3.20と比較的高いが、40代になると男性平均3.08、女性平均3.05と、男女ともに20代をピークに40代にかけて低下している(図3)。

図3.キャリア自律度/性年代別

キャリア自律度/性年代別

 

このほか、最終学歴、従業員規模、業種、職種、個人年収別に、キャリア自律度の高い・低い属性を調査した(図4)。特に職種別では、サービス職や商品開発・研究職、間接部門職、営業・販売職、専門・技術職でキャリア自律度が高い傾向が見られた。

図4.属性別キャリア自律実態まとめ

属性別キャリア自律実態まとめ

キャリア自律の促進要因

キャリア自律度を高めるにはどうすればよいか、促進要因を分析した。

【人事管理要因】

企業の人事管理の面では、①「組織目標と個人目標の関連性」②「ポジションの透明性」③「キャリア意思の表明機会」④「処遇の透明性」がそれぞれ従業員のキャリア自律にプラスの影響が見られた(図5)。また、図にはないが人事管理ポリシーとして⑤「多様性」「専門性」「成果」を尊重する風土がある場合、従業員のキャリア自律度が高い傾向があった。

図5.企業の人事管理がキャリア自律に与える影響

企業の人事管理がキャリア自律に与える影響

【現場マネジメント要因】

現場における上司のマネジメントの面においては、部下への①「期待感の伝達」②「ビジョン共有」③「理解とフィードバック」といった行動による、部下のキャリア自律へのプラスの影響が見られた(図6)。

図6.上司のマネジメント行動が部下のキャリア自律に与える影響

上司のマネジメント行動が部下のキャリア自律に与える影響

【業務経験・研修要因】

①各種研修訓練の手厚さ
教育研修施策の受講経験と、キャリア自律の向上効果をまとめた(図7)。「キャリアカウンセリング」「自己啓発手当」「スキルアップ研修」などの教育研修は、従業員のキャリア自律にプラスに影響している。なお、「キャリアカウンセリング」は影響が大きいが、経験率は6.4%と少ない。

図7.教育研修の経験・受講とキャリア自律向上効果

教育研修の経験・受講とキャリア自律向上効果

②越境学習の機会
過去の業務経験がキャリア自律に与える影響を分析したところ、「新規プロジェクトの起案・提案」や、「部門横断的なプロジェクトへの参加」「新規事業・新規プロジェクトの立ち上げ」などがキャリア自律にプラスに影響している(図8)。一方、「不採算事業撤退」は抑制効果が見られた。

図8.業務経験率とキャリア自律に対する影響(全年代)

業務経験率とキャリア自律に対する影響(全年代)

③意思を反映する異動配置

異動の経験(職務変更を伴う異動)と、キャリア自律度の関係を見たところ、社内公募での異動経験者はキャリア自律度が高かった(図9)。

図9.業務経験率とキャリア自律に対する影響(全年代)

業務経験率とキャリア自律に対する影響(全年代)

キャリア自律度と転職との関係

キャリア自律度と転職意向は相関しない

キャリア自律度が高まると転職意向も高まるのではないかという声もある。そこで、キャリア自律度と転職との関係を見たところ、キャリア自律度は転職意向と相関していなかった。一方で、市場価値(転職市場における自身の価値認識の高さ)が高いほど転職意向は高い関係が見られた(図10)。

図10.業務経験率とキャリア自律に対する影響(全年代)

業務経験率とキャリア自律に対する影響(全年代)

 

さらに、キャリア自律度の高低と市場価値の高低で4群に分類して分析した(図11)。

図11.キャリア自律度・市場価値によるタイプ分類と割合

キャリア自律度・市場価値によるタイプ分類と割合

 

市場価値が高い群では、キャリア自律度が高い《タイプⅠ》の転職意向が「高く」、市場価値が低い群では、キャリア自律度が高い《タイプⅡ》において、タイプⅠとは逆に転職意向が「低い」傾向が見られた(図12)。特に市場価値とキャリア自律度が高い《タイプⅠ》の20代は、転職意向も高い傾向があった(図13)。

図12.キャリア自律度・市場価値によるタイプ別転職意向

キャリア自律度・市場価値によるタイプ別転職意向

図13.市場価値とキャリア自律度高低別転職意向(年代別)

市場価値とキャリア自律度高低別転職意向(年代別)

転職意向を抑制するポイントは「やりたい仕事ができる見込み」を高めること

転職意向が一番高い《タイプⅠ》(キャリア自律度【高】×市場価値【高】)において、今の会社での見通しが転職意向に与える影響を見ると、「昇進の見通し」「やりたい仕事ができる見込み」が転職意向を下げていることが分かった(図14)。

図14.今の会社での見通しが転職意向に与える影響《タイプⅠ》

今の会社での見通しが転職意向に与える影響《タイプⅠ》

 

また、図5でキャリア自律度を高める要因だと分かった、人事管理要因②「組織目標と個人目標の関連性」、人事管理要因③「ポジションの透明性」、人事管理要因④「キャリア意思の表明機会」は、「やりたい仕事ができる見込み」を促進していることも明らかになった(図15)。

図15.やりたい仕事につながる人事管理

やりたい仕事につながる人事管理

分析コメント

人材マネジメント全体でキャリア自律の推進を

現在、就業価値観の多様化や希望退職募集の増加などを背景に、「キャリア自律」が注目を集めている。今回の調査でも、従業員のキャリア自律度を高めることは、社内でのパフォーマンスやワーク・エンゲイジメント、仕事充実感など、業務や従業員の職業生活の質向上へのさまざまなプラスの影響が確認された。

一方で、キャリア自律度が高いことは、市場価値(自己認知)の高い若手の転職を促している傾向が見られた。しかし、「昇進の見通し」「やりたい仕事ができる見込み」を与えることによって転職意向を抑制することが分かっており、その「やりたい仕事ができる見込み」を促進するためには、キャリア自律度を高める要因でもある「組織目標と個人目標の関連性」「ポジションの透明性」「キャリア意思の表明機会」がプラスにはたらくことが明らかになった。

では、企業は、従業員のキャリア自律のために何をするべきだろうか。調査結果からは、先に述べた「組織目標と個人目標の関連性」「ポジションの透明性」「キャリア意思の表明機会」以外にも、「多様性」「専門性」「成果」の尊重、「ビジョン共有」「意思を反映する異動配置」など人材マネジメント全体で自律を推進する必要性が示された。それらをまとめたのが図16である。企業・人事は、個人に向けた単発の研修や啓蒙活動に偏ることなく、トータルの組織環境づくりに取り組むことが求められる。

図16-1.キャリア自律のビオトープ・モデル(生息空間モデル)

キャリア自律のビオトープ・モデル(生息空間モデル)

図16-2.キャリア自律のビオトープ・モデル(生息空間モデル)

キャリア自律のビオトープ・モデル(生息空間モデル)

※本調査を引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所「従業員のキャリア自律に関する定量調査」


本記事はお役に立ちましたか?

コメントのご入力ありがとうございます。今後の参考にいたします。

参考になった0
0%
参考にならなかった0
0%

follow us

公式アカウントをフォローして最新情報をチェック!

  • 『パーソル総合研究所』公式 Facebook
  • 『パーソル総合研究所シンクタンク』公式 X
  • 『パーソル総合研究所シンクタンク』公式 note

関連コンテンツ

もっと見る
  • 調査解説動画
  • 「日本の人事部」HRアワード2024 書籍部門 優秀賞受賞

調査レポート一覧

ピックアップ

  • 労働推計2035
  • シニア就業者の意識・行動の変化と活躍促進のヒント
  • AIの進化とHRの未来
  • 精神障害者雇用を一歩先へ
  • さまざまな角度から見る、働く人々の「成長」
  • ハタチからの「学びと幸せ」探究ラボ
  • メタバースは私たちのはたらき方をどう変えるか
  • 人的資本経営を考える
  • 人と組織の可能性を広げるテレワーク
  • 「日本的ジョブ型雇用」転換への道
  • 働く10,000人の就業・成長定点調査
  • 転職学 令和の時代にわたしたちはどう働くか
  • はたらく人の幸せ不幸せ診断
  • はたらく人の幸福学プロジェクト
  • 外国人雇用プロジェクト
  • 介護人材の成長とキャリアに関する研究プロジェクト
  • 日本で働くミドル・シニアを科学する
  • PERSOL HR DATA BANK in APAC
  • サテライトオフィス2.0の提言
  • 希望の残業学
  • アルバイト・パートの成長創造プロジェクト

【経営者・人事部向け】

パーソル総合研究所メルマガ

雇用や労働市場、人材マネジメント、キャリアなど 日々取り組んでいる調査・研究内容のレポートに加えて、研究員やコンサルタントのコラム、役立つセミナー・研修情報などをお届けします。

調査報告書

これまで発表した調査報告書すべてをダウンロードいただけます。

ラインナップを見る

おすすめコラム

PAGE TOP