公開日:2024年6月5日(水)
調査名 | カスタマーハラスメントに関する定量調査 |
---|---|
調査内容 | ・サービス系職種における顧客からのハラスメント・嫌がらせの実態とその影響を確認する。 ・ハラスメントの負の影響を防止するための人材マネジメント・施策の在り方について示唆を得る。 ・医療・福祉領域のペイシェントハラスメントの実態と取り組みについて明らかにする。 |
調査対象 | ■顧客折衝のあるサービス職 全国20~69歳男女 【SC調査】n=20,108s 【本調査】3年以内カスタマーハラスメント被害経験者 n=3000s 対象職種: 事務・アシスタント、営業、カスタマーサポート、飲食・宿泊接客系職、理美容師、航空機客室乗務員、コンサルタント、教員、ドライバー、警備、医療・福祉系職員 |
調査時期 | 自由回答調査:2024年 2月6日 - 2月9日 定量調査 :2024年 3月21日 - 3月25日 |
調査方法 | 調査会社モニターを用いたインターネット定量調査 |
調査実施主体 | 株式会社パーソル総合研究所 |
※図版の構成比の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、個々の集計値の合計は必ずしも100%とならない場合がある。
調査報告書(全文)
顧客折衝があるサービス職のカスタマーハラスメント(カスハラ*)被害の経験率を確認した。35.5%が過去にカスハラ被害を受けた経験があり、20.8%は3年以内にカスハラ被害の経験があると回答。
*ここでのカスタマーハラスメントとは、顧客などからの暴行、脅迫、ひどい暴言、不当な要求などの著しい迷惑行為を指す。
カスハラ被害経験者の32.6%が、ここ3年で職場のカスハラ被害が「増加」と回答。3年以内のカスハラ経験率が最も高い職種は「福祉系専門職員(介護士・ヘルパーなど)(34.5%) 」 。 3年以内のカスハラ経験率と離職率をマップ化すると、「福祉職(介護士・ヘルパーなど)」「宿泊サービス」「受付・秘書」は経験率と離職率がともに高い。
カスハラの被害内容は「暴言や脅迫的な発言(60.5%)」が最も高く、「威嚇的・乱暴な態度(57.7%)」、「何度も電話やメールを繰り返す(17.2%)」と続く。
なお、医療・福祉領域のペイシェントハラスメント*では「身体を殴る・蹴るといった攻撃」「胸を触るなどといった性的な行動」「感染症対策の不協力・感染させるような行動」が多い傾向。
*ペイシェントハラスメントとは、医療現場における迷惑行為のこと。医療・福祉のスタッフが患者や患者家族から暴力、 暴言、 尊厳の侵害などを受けることを指す。
カスハラ被害の経験率は、男女ともに若年層が高い。一方で、カスハラ加害者は、女性よりも男性が多く、年代では高齢層ほど多くなる。
カスハラ被害後の会社側の対応は、「嫌がらせの被害を認知していたが、何も対応はなかった」が36.3%で最も高い。認知無しも19.3%。
カスハラ被害を相談した人の25.5%が社内でのセカンド・ハラスメント*を経験。セカンド・ハラスメントの内容は、会社や上司から「ひたすら我慢することを強要された(11.0%)」、「軽んじられ、相手にしてもらえなかった(8.9%)」、「一方的に自分自身に責任転嫁された(8.2%)」と続く。
*ここでのセカンド・ハラスメントとは、カスハラ被害者が、被害を報告・相談した時に起こるハラスメントのこと。
カスハラ被害直後の心境として、「仕事を辞めたいと思った」が38.0%、「出勤が憂うつになった」が45.4%と高い。また、「次の転職時は顧客やり取りの無い仕事につきたい」が37.5%。
1年以内のカスハラ被害あり層と被害なし層を比較すると*、被害あり層は「他の会社に転職したい」「今の会社を辞めたい」「今の職業を変えたい」といった転職意向が1.8~1.9倍高かった。また、年間の離職率平均も1.3倍高い。
*1年以内被害者と未経験者を比較。2層の性年代・職群の内訳差は∓1.6ポイント以内とほぼ同様。
カスハラの悪影響を最小化するために必要なことを、「信頼資産」と「心の負債」という考え方で整理した。カスハラの悪影響を最小化、つまり、カスハラに強い職場にするには、①何かあっても同僚・会社・上司が助けてくれるという「信頼資産」を組織的に貯めておくこと、②トラブルがあると自分では何もできない、対応できないと感じる「心の負債」を減らしておくことが必要だ。
何かあっても同僚・会社・上司が助けてくれるという「信頼資産」が高い群は低い群と比べ(3層比較*)、カスハラ後の心境として「仕事を辞めたい」が23.2ポイント低く、およそ半減。「出勤が憂うつになった」は14.9ポイント低く、「転職時は顧客やり取りの無い仕事につきたい」が18.6ポイント低い。トラブルがあると自分では何もできない、対応できないと感じる「心の負債」はその逆の傾向が見られた。
*カスハラ経験者を分布に合わせて3層分割し、高い層と低い層を比較
「信頼資産」と関連が高いのは、チームワーク志向の「組織文化」、会社の対応やトラブル対応・事例などの「カスハラ知識」、上位層や同僚との相談可能人数「相談ネットワーク」がプラスに関連している。
「信頼資産」が高い組織は、「チームワーク志向」「自由闊達・開放的」な組織文化が高い(3層分割の高低比較)。逆に、低い組織は「顧客意向の尊重」と、誰が言うか・するかが重視される「属人思考」が強い。「カスハラ知識」と「相談ネットワーク」は、それぞれ高い層ほど「信頼資産」が高く、「心の負債」が低くなっている。
部下の回答傾向から、上司への信頼度の高いタイプと低いタイプを抽出し*、タイプ別の比較を行った。部下からの信頼度が高いタイプの上司は、「部下の成長への志向性」が高く、「傾聴・観察」「成長支援」「率先垂範」などの行動をしている。信頼度が低いタイプは「顧客志向」だけが強い。
*大規模サンプルのクラスター分析・重回帰分析
従業員が認知している会社のカスハラ予防・解決策は、「実施されている」が37.0%にとどまり、「実施されていない(43.0%)」が最も高い。実施している会社の具体的な取り組みは、「社内に相談窓口が設置されている(47.5%)」、「クレームやハラスメントの事例が社内で共有されている(39.5%)」が続く。
カスハラ予防・解決策について、企業での実施率と従業員の期待度のギャップの大きさを見ると、従業員の期待度に対して、実施率が低いのは、「電話応答での自動録音」。次に、「対外的な方針・態度の公表」「名札のフルネーム表記廃止」だった。
本調査では、ホワイトカラーを含めた顧客折衝のある職種について、広範囲に及ぶカスハラの実態が確認され、また、近年増加傾向にあることも示唆された。特に医療・福祉職は頻度高く発生している。
その一方で、会社の対応は後手に回っている。対応している企業は事前予防も含めて4割に満たない。それどころか、一部ではセカンド・ハラスメントのような我慢の押しつけや従業員への責任転嫁が行われている実態も明らかになった。
不特定多数の客との折衝がある中で、カスハラ発生を完全に防ぐのは難しい。人材マネジメントの観点からは、未然に防ぎきるよりも、「カスハラに強い」組織をつくるという発想が重要になる。
カスハラの負の影響を最小化するためにデータから示唆されたポイントは、以下である。
1.みなで助け合えるという職場の「信頼資産」を貯める
2.トラブルが起こっても何もできないという「心の負債」を減らす
予防的措置、研修訓練による知識付与、マネジメント改革は、こうした「カスハラに強い組織づくり」に直結しており、企業として積極的な施策が必要だ。カスハラ後にも、被害者を適切にケアし、事例として共有していくことで、会社への信頼資産を貯めることにもつながっていく。また、社内だけではなく、対外的に会社としての態度や対策を表明していくことも求められている。
目指すべきは、増えるカスハラに怯え続けることではなく、カスハラが「起きたとしても大丈夫」と思えるような強い組織づくりである。
※本調査を引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所「カスタマーハラスメントに関する定量調査」
調査報告書全文PDF
カスタマーハラスメントに関する定量調査
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