公開日:2024年12月24日(火)
調査名 | 若手従業員のメンタルヘルス不調についての定量調査 |
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調査内容 | 増加が指摘される若手従業員のメンタルヘルス不調の実態と要因、解決策 |
調査対象 |
【スクリーニング調査】 【本調査】 |
調査方法 |
調査会社モニターを用いたインターネット定量調査 |
調査期間 | 2024年8月6日-8月8日、8月29日-9月5日 |
実施主体 | 株式会社パーソル総合研究所 |
倫理的配慮:本調査中の設問表現に十分に倫理的配慮がなされていることを、所属機関責任者に確認した。また、調査前に要配慮個人情報を聴取する場合があるが、個人を特定することはなく、本調査プロジェクトの分析のみに活用することを明記し、同意いただける場合のみ調査に参加するよう教示した。
※図版の構成比の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、個々の集計値の合計は必ずしも100%とならない場合がある。
調査報告書(全文)
生活の質に影響を与えるような強い不安や悩み、気分の落ち込み、ストレスからくる体の不調などを指す。精神疾患以外の病気(婦人科系疾患や糖尿病、新型コロナウイルス感染症など)による精神的不調や、ストレスによる体調不良も含む。
※厚生労働省の運営する「こころの耳」サイトにおけるメンタルヘルス不調の用語解説を参考に筆者作成
https://kokoro.mhlw.go.jp/glossaries/word-1844/
過去3年以内に、治療なしでは日常生活が困難なほどのメンタルヘルス不調*を経験した正規雇用者は14.6%。(図略、報告書全文PDF19ページ参照)。性年代別に見ると、20代男性の18.5%、20代女性の23.3%が経験。若年層ほどメンタルヘルス不調の経験している割合が高い。
*以降、特に断りがない場合、「メンタルヘルス不調」のレベルは、治療なしでは日常生活が困難な状態を指す。
過去3年以内のメンタルヘルス不調経験者(当時正規雇用者)のうち、勤務先を退職したのは、25.3%。20代は35.9%と他年代と比べ多く、退職しやすい。
メンタルヘルス不調による退職者(当時正規雇用者)のうち、職場にメンタルヘルス不調を相談した20代は45.1%。つまり、組織が把握するメンタルヘルス不調による退職者数よりも、実際には約2倍の退職者が存在する。
メンタルヘルス不調経験者(当時正規雇用者)における休職率は20.8%。性年代別に見ると、20代男性で23.2%、20代女性で24.1%と20代は全体に比べてわずかに高い傾向。
過去3年以内のメンタルヘルス不調による休職者(当時正規雇用者)のうち、自主退職したのは29.9%。20代では45.7%と、休職後に自主退職しやすい。
メンタルヘルス不調になった部下の対応をした管理職の4~5割が、業務上や精神面の負担が大きかったと回答。(図略、報告書全文PDF37ページ参照)。
メンタルヘルス不調になった部下対応の課題は、「他のメンバーの業務量増加」が35.2%と最も多く、次いで「業務の調整負担(26.2%)」が続く(図表6)。また、「予兆が見抜けない(20.8%)」「仮病が疑われる(16.6%)」など、外面からわかりにくい点も課題に挙がった。しかし、実際に仮病で休職した割合は1.0%(105人に1人)で少なかった(図表7)。
若手にメンタルヘルス不調が多いことに影響していると考えられる若手特有の要因として、以下の5つが明らかになった。
① 仕事のプレッシャー・難しさ
② 目立ちたくない、確立された手法にのっとりたい、失敗したくない、怒られたくない、対立したくないという「拒否回避志向」の高まり と、上司による叱責との相性の悪さ
③ キャリア不安(将来のキャリア・生活、能力やスキルへの不安)
④ スマートフォンなどの画面付きデジタル端末の利用時間の増加
⑤ テレワークによる孤独感の高まり
5つの要因の詳細は報告書全文PDF参照。
また、メンタル不調が悪化する要因として、「職場にメンタル不調を相談する抵抗感」が関係していることが分かった。
まず、若手特有の要因について、5つの中でも②「拒否回避志向」は、近年強まっている若者の特徴と指摘される*5つの志向「人目を気にする」「受け身の姿勢」「失敗への恐れ」「怒られたくない」「対立回避」の背景に、失敗や 否定的評価を避けたい志向があると考え定義。調査結果からも、若年層ほど「拒否回避志向」は高い傾向が見られた(図表9)。ただし、若年者の拒否回避志向の高さには心理発達上の要因(年齢の影響)もある。この拒否回避志向が高い若手部下は、上司からの叱責によりストレス反応が高まりやすく、メンタルヘルス不調のリスクになりやすいことが確かめられた(図表10)。
*参考文献:金間 大介(2022). 先生、どうか皆の前でほめないで下さい ーいい子症候群の若者たち 東洋経済新報社、舟津 昌平(2024). Z世代化する社会-お客様になっていく若者たち 東洋経済新報社 など
また、③「キャリア不安(将来のキャリア・生活、能力やスキルへの不安)」についても、キャリア不安が高いほど、ストレス反応は高い傾向。20代はキャリア不安が高い層の割合が36.7%と他の年代と比べて多い。ストレス反応が高いとキャリア不安も高まることも想定されるが、キャリア不安がストレス反応を高めている側面があると考えられる。
次に、メンタル不調が悪化する要因の「職場にメンタル不調を相談する抵抗感」について、実際に全年代のメンタルヘルス不調者の行動として、「職場内での相談・報告」は46.1%で、およそ2人に1人。20代でも同様に低い。上司へ相談した人は30.6%で少ない。なお、「医師やカウンセラーに相談した・治療を受けた(49.3%)」が最多で、職場への相談より医療受診のほうが多い(年代差はなし)。
職場へ相談する人の割合が低い背景には相談することへの抵抗感がある。メンタルヘルス不調者の62.8%が、職場への相談に心理的な抵抗感をもっている。年代別に見ると、20代は68.0%でやや抵抗感が高い(図表13)。職場に相談しなかった20代のうち、35.2%が退職しており、他年代より退職率が高い(図表14)。
一方で、メンタルヘルス不調者が不調を職場に相談した後、76.8%は、「相談に乗る」「業務負担の軽減」「医療受診の勧奨」といった問題解決を支援する対応を受けている。
メンタルヘルス不調を経験しても辞めずに勤続した人のうち、不調を職場に相談した相談者は非相談者に比べ、人間関係や職場の雰囲気の悪さ、業務負荷の高さといった「職場ストレッサー」や症状の改善率が高い。一方で、メンタルヘルス不調者が対応した行動の中で最も多かった「医師やカウンセラーに相談した・治療を受けた(49.3%)」(図表12)は、それのみでは症状の改善につながる傾向がみられなかった。つまり、現在では医師やカウンセラーへの相談・治療だけでなく、職場に相談することが問題解決や回復の見込みを高める重要な手段であることが明らかになった。
若手従業員のメンタルヘルス不調に対する対処を探った。まず、若手のメンタルヘルス不調に関連する要因のひとつである「拒否回避志向」の高い若手部下が、ストレスによるメンタルヘルス不調のリスクなく成長を実感するには、「叱責」や「放任」よりも、「成長する業務分担」「フィードバック」が有効。メンタルヘルス不調のリスクなく成長を実感できているタイプの部下は、勤続意向が最も高く、キャリア不安(将来のキャリア・生活、能力への不安)も少ない。
他にも、ストレス反応を高めるキャリア不安(将来のキャリア・生活、能力への不安)は、上司と本音で話せる「親密さ」が若手部下のキャリア不安を低減する一方、「傾聴」は高める傾向。オープンに話せて率直な助言ができる関係が、若手に欠けがちな具体的なキャリアイメージの形成に役立つと考えられる
次に、メンタルヘルス不調を職場へ相談することに対する抵抗について、職場、特に上司へ相談することのハードルが高いのは、メンタルヘルス不調を相談した後に上司がどのように対応するかについて、上司と部下の間でイメージにギャップがあるからと考えられる。
例えば、上司は「相談があったら、親身になって対応する」が7割に対して、「上司は親身になって対応するだろう」と考える部下は3割しかいない。また、評価の認識についても上司は「メンタルヘルス不調になった部下も公平に評価する」が6割に対して部下は、「上司は公平に評価するだろう」が3割、「相談したら評価・評判が下がる」が4割。 特に、20代では相談後の「対応イメージがない」「評価・評判が下がる」と認識する人が多い。
これらのギャップを解消するには、メンタルヘルスに関する研修などの「セルフケア研修」や、「社内広報やメール等での情報提供・啓発」、「職場環境改善ワークショップ」といった非管理職向けの啓発施策を実施することで、相談後の職場の対応イメージを持つ部下を増やすことが考えられる。
また、メンタルヘルス不調を相談しても「自身の評価が下がる」「職場に居づらくなる」などの偏見の影響を受けず、仕事の出来に応じて公平に評価されることが従業員に伝わる環境作りが重要だ。
労働力不足の中、若手従業員のメンタルヘルス不調による退職は、企業にとって頭の痛い問題だ。休退職者の業務調整で、管理職の負担もふくらむ。法令に基づき多くの組織で相談体制が整備されたが、なぜ若年層のメンタルヘルス問題は解消しないのだろうか。
その大きな理由のひとつは、上司・部下間の認識ギャップにある。現在、管理職の多くは早期相談を推奨し、メンタルヘルス不調による不利益な取り扱いの違法性も認識している。しかし、現場では同じ認識が行き渡っておらず、「相談すれば評価・評判が下がる」との根強い認識や、相談後の職場の対応の不透明さから、職場に相談せず重症化するケースが依然として多い。加えて、休職中の収入や復職支援についての知識不足が休職への抵抗感を生み離職につながっている。特に、キャリアへの不安が強い若手は、相談による評価低下や休職による成長機会の喪失を懸念しがちだ。研修や上長との面談機会などを活用し、職場の対応・評価への影響を周知し、上長との間にある認識ギャップを埋めていきたい。
若手特有の問題もある。教育環境の変化などの影響もあってか、若手は他者からの否定的評価を避ける「拒否回避志向」が強く、上司からの叱責をストレスと捉えやすい傾向がある。叱責によらない成長支援には、成長につながる業務分担やフィードバックの提供が有効だ。
また、近年指摘されることの多いスマートフォンなどのデジタル端末の過剰利用は若手に多く、眼精疲労や脳の疲労を通じてストレス耐性を下げるリスクがある。デスクワークが多い職種では、健康増進策として啓発を進めることも検討に値する。
※本調査を引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所「若手従業員のメンタルヘルス不調についての定量調査」
調査報告書全文PDF
若手従業員のメンタルヘルス不調についての定量調査
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