公開日:2022年3月22日(火)
調査名 | 地方移住に関する実態調査 |
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調査内容 | ■地方圏への移住の意思決定に影響を与える要因構造の可視化に関する研究 調査1.地方圏移住者の暮らし方・働き方、移住時の影響要因に関する実態調査 調査2.地方圏への移住を検討している方の暮らし方・働き方、移住時の影響要因に関する実態調査 調査3.地方圏へ移住する際の意思決定に影響を与える要因構造の可視化 調査4.移住者の住・生活満足要因分析 |
調査対象 |
■調査1、調査2 【地方移住意向者】*地方圏への移住意向がある就労者(検討段階別に3群聴収) 【地方移住無関心者】*地方圏への移住に関心がない就労者 ■調査3、調査4※調査1・2サンプルより抽出 【地方移住意向者】 |
調査時期 | 2021年3月25日~3月31日 |
調査方法 |
調査会社パネルを用いたインターネット調査、要因分析ツール「CALC」*による解析 |
実施主体 | 株式会社パーソル総合研究所 【分析協力】クウジット株式会社 |
※報告書内の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、合計と内訳の計は必ずしも一致しない場合がある
調査報告書(全文)
「移住」とは、自らが何らかの意思を持って、主たる生活拠点を別の地域に移すことと定義し、会社都合の転勤およびバカンスなどの行楽的滞在は除くこととした。一方で、近年増えている2拠点居住やノマドワーカーなどについては、「多拠点居住」として統合して調査・分析の対象とした。
本調査においては、代表的な移住形態を以下の5つの型に分類し、分析を行うこととした。(以降、移住タイプと称する)
*分類は、一般社団法人 移住・交流推進機構の定義を一部援用した。https://www.iju-join.jp/feature_cont/guide/003/02.html(最終閲覧日:2022.1.18)
「地方圏」とは、移住意向者・無関心者の移住検討先の地域より、東京23区、さいたま市、千葉市、横浜市、川崎市、大阪市、京都市、神戸市を除く、国内の市町村とした。
移住経験者のうち最も多い移住タイプは、「Iターン型」38.6%であった。次いで、「Uターン型」20.2%が多かった(図1)。移住に際して、転職経験のない人は53.4%であった(図2)。従来、移住には転職が伴うと考えられ、地方圏には適した仕事がない事が課題視されてきた感があったが、働き方の選択肢が増える中、“転職なき移住”が主流となっていることが示唆される。伴って、移住時の年収増減については、20代~60代のどの年代も半数以上の人が年収に変化がなかった。また、20代・30代では増収となった割合が多く、50代以降では減収割合が増加する傾向が確認された(図3)。
移住経験者が移住した際に影響した項目は、「地域での日常的な買い物などで不便がない」37.4%、「都市部へのアクセスがいい」34.9%、が上位にあがった(図4)。特に若年層ほどこの項目への関心は高い傾向が確認された。また、若年層ほど、「自然が豊かで身近に感じられる」、「十分な広さや間取り、日照など快適な家に住める」、「穏やかな暮らしを実現することが出来る」といった暮らしにおける心の余裕や快適さを希求していたことが特徴的である。
※5件法:とても影響する、影響する、どちらでもない、影響しない、まったく影響しないで回答。「とても影響する+影響する」の回答割合から導出
移住経験者の移住タイプ別特徴を図5にまとめた。移住後の地域における暮らしについて「地域生活の幸せ実感」「地域愛着」「住・生活満足」という3つの観点で評価したところ、Uターン型は、「暮らしの評価」が最も高かった。Jターン型は、移住後の収入増減において62.0%が「変動なし」と回答し、収入変動が最も少ない。Iターン型は、移住タイプの中で最も多い形態(38.6%)であり、男女ともに年代と共に増加する。配偶者地縁型は、男女共に20代の暮らしの評価が最も高く、以降低下するがシニア層で再上昇する。多拠点居住型は、移住で成したいことがある人が最も多く、“志”移住の典型例ともいえる。
※「暮らしの評価」とは、移住後の地域における暮らしについて「地域生活の幸せ実感」「地域愛着」「住・生活満足」を指標として評価したもの。「職業生活の評価」とは移住後の働き方について「はたらく幸せ実感」「はたらく不幸せ実感」「職業生活満足」を指標として評価したもの。
移住意向者が検討している移住タイプは「Iターン型」が最も多く56.7%、次いで、「多拠点居住型」40.1%であった(図6)。今日の「移住」に対し、多拠点居住への関心の高さが確認された。また、移住に無関心な人の在宅勤務可能率が32.7%に対して、5年以内に移住を計画している人の在宅勤務可能率は54.6%と高く、テレワークや遠隔地居住が可能な人ほど、移住を具体的に検討していることが確認された(図7)。
※移住意向者=「5年以内で計画」「10年以内で計画」「時期未定」の3層。「無関心者」は比較参考。
一方で、移住意向者の51.3%は、何らかの不安があり移住に踏み切れずにいる状態が確認された(図8)。移住時の年収減少への覚悟を確認したところ、20代では、46.7%が「考えられない」と回答し、減収を許容していない。しかし、年代が上がるごとに減収を許容する傾向が確認された(図9)。
移住意向者が移住検討時に影響すると回答した項目では、「地域での日常的な買い物などで不便がない」76.4%、「地域の医療体制が整っている」75.0%が上位となった(図10)。前述図4の通り、移住経験者が移住した際に最も影響した項目「地域での日常的な買い物などで不便がない」37.4%に比べると、37.6pt増加してした。
また、「街並みの雰囲気が自分の好みに合っている」「穏やかな暮らしを実現することが出来る」といった主観的な期待感も特徴的であった。移住に際しては、生活上必要な具体的条件(都市・生活基盤の担保)だけでなく、移住候補地に対してポジティブな印象や期待感が抱けるといった情緒的な側面も重視されているようだ。
※5件法:とても影響する、影響する、どちらでもない、影響しない、まったく影響しないで回答。「とても影響する+影響する」の回答割合から導出
移住意向者の移住タイプ別特徴を図11にまとめた。Uターン型は、居住地のこだわりとして親や子供世帯との同居意向が最も高かった(31.7%)。Jターン型は、移住に際する年収の増減において、「減収は考えられない」が24.0%と最も少ない(減収を許容する傾向)。Iターン型は、20代男性が特徴的に多い。配偶者地縁型は、現在の暮らしの評価が最も高かった。多拠点居住型は、職業生活の評価が高い傾向が見られた。
移住に際する意思決定に影響を与える要因を分析したところ、「転職」、「在宅勤務ができる」、「勤務先がテレワークを許容する」という3点は、移住タイプのいずれにおいても、移住意思決定と直接的に紐付いた要因であった。転職支援や勤務先のテレワーク環境といった要素は、移住を意思決定する際の共通要因ともいえる(図12)。
移住先の地域住民の支援的態度は、自身に地縁が無い、Iターン型・配偶者地縁型では影響が大きく、多拠点型やJターン型では相対的に影響が小さい傾向であった。地縁に乏しい移住者には、制度等の整備のみならず、地域ぐるみの支援的風土が求められると考える。
Iターン型は、移住者の38.6%と最も多く、意向者の56.7%が志向しているタイプである。Iターン型意向者の現在の暮らし評価は、総じて低い傾向があり、新天地への期待を抱く人も少なくないと推察される。しかし、人生設計の明確さ・経済的余力・地域人脈に乏しい人も多く、移住後のリアリティショックへの耐性が懸念される。
地方圏への移住は、今後の生活をより豊かにするための選択肢の一つとして魅力的である。本調査からは、Uターン型や配偶者地縁型など、地域への事前知識と一定の人脈を有しており、かつ、地域への愛着が抱けていることが移住後の暮らしの質を担保している様がうかがえた。副業等で地域への参画機会を作り、定期的な候補地訪問や関係づくりを経たうえでの意思決定を推奨したい。
移住後の暮らしの評価が高かったのは、配偶者地縁型やUターン型。今後のさらなる調査が必要であるが、この背景には、一定の地域情報や地域の人的なネットワークを有することが考えられる。配偶者地縁型やUターン型は、移住者にとってもリアリティショックや孤立といったリスクが低いと考えられるため、促進すべき移住タイプと考える。
移住の意思決定要因分析や性・年代別の関心項目から、移住タイプや性・年代により異なる介入観点が確認された。特に若年層ほど移住に際する収入減少を許容しない(20代:46.7%)のが特徴的だ。また、「日常の買い物に不便がないこと」「都市部へのアクセスがいいこと」などが影響項目上位に挙がった。意思決定分析では、「テレワーク環境や通勤費の補助など」の影響が確認された。
これらの点から、政令指定都市および中核市には一定の利があるといえる。他方で、デジタル基盤整備によって仕事と日常生活の利便性を担保することができれば、地域ごとの魅力で心豊かな暮らしを提案できると考える。促進対象により異なる移住時のニーズを確認し、妥当性の高い施策検討のための議論が深まることを期待したい。
2020年以降、多くの学生はオンラインツールを駆使した学習経験を有する。ITリテラシーを培った優秀な学生らは、テレワーク環境が整備されている企業をより魅力的と感じることは必然であろう。また、地方圏移住を検討している従業員も少なくないと推察される。個々人が抱える家庭の事情なども加味すれば、優秀人材のリテンションの観点からもテレワーク環境の物理的・制度的整備は無視できない。従業員の移住支援は、優秀人材の獲得とリテンション施策として検討すべきと考える。
※本調査を引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所 「地方移住に関する実態調査」(Phase1)
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