公開日 2018/07/13
前回のレポート『ミドル・シニア層の約4割を占める「伸び悩みタイプ」とは?』では、40代~60代のミドル・シニア2,300名を5つの行動特性に基づいてクラスター分析を行なった結果、「ハイパフォーマータイプ」「バランスタイプ」「伸び悩みタイプ」「事なかれ・安住タイプ」「不活性タイプ」の5つの人材タイプに分類できることをお伝えしました。5つの人材タイプの中でも、全体のボリュームゾーン(約4割)を占める「伸び悩みタイプ」のパフォーマンスが、会社全体の経営に与える影響については無視できるものではありません。そこで、分析結果を手掛かりに、今回から3回にわたって「伸び悩みタイプ」の躍進を促すためのヒントについて考えていきたいと思います。初回は、「上司」編です(調査概要は下記参照)
この『ミドルからの躍進を探求するプロジェクト』では、
「ミドル」 「シニア」の定義を【ミドル:40歳~54歳】 【シニア:55歳~69歳】としています
上司のマネジメント行動が、部下である40代~60代のミドル・シニアの躍進行動に対して影響を与えていることは想像に難くないでしょう。では、一体、上司のどのようなマネジメントが部下の躍進行動を促すことにつながるのでしょうか。また、躍進行動を阻害してしまうマネジメントの特徴とはどのようなものなのかを見ていきましょう。
40代~60代のミドル・シニアを「40代」「50代」「60代」の3グループに分け、各年代の躍進行動に対して影響を与える上司のマネジメント行動を考えます。
【図1】 躍進行動に影響する上司のマネジメント行動
興味深いことに、40代・50代・60代の部下の躍進行動を促す上司のマネジメント行動として共通していたのは、全27項目中、「仕事の仕方に対する尊重・裁量の付与」という項目のみであることがわかりました。つまり、業務の進め方や進捗状況を細かく管理・監督するマイクロマネジメントではなく、いかに部下の仕事の仕方を「認めて・任せるマネジメント」を行えるかがミドル・シニアの躍進行動を促すマネジメントの鍵であるといえるでしょう。なお、40代の部下に対しては、この「認めて・任せるマネジメント」以外に効果的なマネジメント行動は確認されませんでした。この結果から、40代の場合、担当している仕事の特性や仕事に対する本人の意識など、直属上司「以外」の要因による影響が大きいことが示唆されます(上司以外の要因については次回以降のレポートで扱う予定)
続いて、50代部下の躍進行動を促す上司のマネジメント行動は、「責任ある仕事の割り当て」「定期的な会話」「平等な関わり」「仕事の仕方に対する尊重・裁量の付与」という結果でした。この結果から、責任のある仕事を与えて、やり方は本人に任せ、他のメンバーと同じように日々の定期的な会話の中で状況を確認するマネジメントが重要だということがいえます。
一方、50代部下の躍進行動を阻害するマネジメント行動として、「好き嫌いによる評価」と「上司による社内調整」が挙げられました。ここで興味深いのは「上司による社内調整」です。特に、新卒生え抜きのキャリアを歩んできた50代の場合、「社内調整」を強みに挙げるケースが少なくありません。そうした《会社専門家》である50代の部下を前にして、上司が良かれと思って社内調整をすることは、「自分の強みが認められていない」という印象を部下に与えてしまう恐れがあるということです。社内人脈に長けた部下には社内調整業務を任せるなど、本人の強みを活かせる業務付与の工夫が必要ということを示唆しています。
最後に、60代部下の躍進行動を促す上司のマネジメント行動は、「上司の自己開示」「仕事ぶりの観察」「仕事の仕方に対する尊重・裁量の付与」であることが分かりました。一般的にマネジメントの原則として「傾聴」の重要性が指摘されますが、今回の調査ではまず上司自ら自分の考えや意見を60代の部下に表明するといった「発信」の重要性を示唆しています。特に年下上司との年齢差が開く60代部下の場合、年下上司が考えていることが分かりづらいと感じている人も少なくないでしょう。そこで、上司自ら意識的に意見を言葉にし、発信する習慣を持つと良いでしょう。
一方、60代部下の躍進行動を阻害するマネジメント行動は、「差別的な配慮」と「課題に対する厳しい指摘」でした。年齢や立場に過剰に配慮したマネジメント行動はかえってネガティブな影響を与えてしまうという結果です。さらに、課題に対しては「受け止め方」を意識して、その伝え方を慎重に検討する必要がありそうです。
さて、ここまで40代~60代のミドル・シニアの躍進行動に影響を与える上司のマネジメント行動について見てきました。その結果、上司のマネジメント行動が影響を与えるのは、主に50歳以降の部下に対してであり、40代の部下に与える影響は限定的であることが分かりました。それでは、ここでいう「上司」とは一体どのような人たちなのでしょうか。
私たちの調査によれば、上司の年齢が年上から、部下よりも年下にシフトするのは53.5歳であることがわかっています。つまり、これまで見てきた調査結果のうち、50代~60代部下を持つ上司の大半は「年下上司」であるといえます。
【図2】 (部下と比較した)上司の年齢
これまで見てきた部下の躍進を促すマネジメント行動が、どの程度実践できているかを「年上上司」と「年下上司」に分けて比較してみると、いずれの行動も「年上上司」に比べて「年下上司」の方が実践できていないことがわかりました。その中でも10ポイント以上の差があるギャップが特に大きい項目は、50代では「責任のある仕事の割り当て」と「定期的な会話」、60代では「上司の自己開示」という結果になっています。
【図3】 年上上司と年下上司の比較
この結果から、「責任ある仕事の割り当て」「定期的な会話の機会」「自己開示」など40代~60代のミドル・シニアの躍進を促すマネジメント行動に対して、年下上司が苦手意識を持つ傾向が顕著に表れています。
やや逆説的な表現になりますが、年齢逆転マネジメント力を強化する上でのポイントは、いかに「年齢逆転を意識しないか」です。調査の結果からも、年下上司による年上部下への年齢配慮や特別扱いは裏目に出やすいことがわかっています。年上部下がこれまでの豊富なキャリアの中で培ってきた強みや個性にフォーカスした目標設定と裁量権の付与を行い、近い距離で定期的に仕事ぶりを観察しつつ、時には耳の痛いフィードバックをも辞さない。こうしたマネジメントの基本を相手の年齢に関係なく、いかに年上部下に対しても行えるかが年齢逆転マネジメントの要諦といえるでしょう。
年功序列が組織風土として根付いた日本企業のような組織では、こうした「年下上司」の現状を理解したからといって、すぐに「年齢逆転のマネジメント」を強化・実践できるほど容易なものではありません。「上司個人の努力問題」に帰結するのではなく、会社としても関係性の構築をベースとした年齢逆転マネジメントの実践をトレーニングする年下上司向けの学習機会を提供するなど、支援体制の充実が求められています。
今回は、40代~60代のミドル・シニアを部下に持つ上司に向けた年齢逆転マネジメントについてお伝えしました。次回は、「キャリア支援」編です。どうぞお楽しみに。
株式会社パーソル総合研究所/法政大学 石山研究室 「ミドル・シニアの躍進実態調査」 |
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調査方法 | 調査会社モニターを用いたインターネット調査 |
調査協力者 | 以下の要件を満たすビジネスパーソン:2,300名 (1)従業員300人以上の企業に勤める40~69歳の男女 (2)正社員(60代は定年後再雇用含む) |
調査日程 | 2017年5月12日~14日 |
調査実施主体 | 株式会社パーソル総合研究所/法政大学 石山研究室 |
■引用について
引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例
出典:株式会社パーソル総合研究所・法政大学 石山研究室「ミドル・シニアの躍進実態調査」
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