正社員マネジメントの在り方とは?【後編】

公開日 2015/11/18

正社員マネジメントの在り方とは?

前編では、これからの正社員マネジメントを考える上で、正社員を「価値創造型人材」「価値実現型人材」に分け、それぞれに異なった人材マネジメントを考えるべきとの考えと、「価値創造型人材」の早期選抜の重要性について触れていただいた。では、「価値創造型人材」をいかに見極めるべきなのか。後編では「価値創造型人材」の採用・育成・開発におけるポイントと、「価値実現型人材」の動機づけについてご紹介する。

「価値創造型人材」をいかに見極めるか、また採用するか

では、早期の段階で、「価値創造型人材」をどのように見極めればいいのか。これは、現実的には非常に難易度が高い。先述したように、従来の正社員マネジメントでは、長期にわたり多くの上司が複眼的に人事評価を行うことで、納得感の高い経営幹部への登用を実現してきたと言えよう。ところが、早期に選抜するとなると、そのような複眼的な評価は難しい。またポテンシャルの評価が中心となり、実績の評価ではないところでさらに困難度が増す。

考慮すべき点としては、次の2点になろう。第1に、「価値創造型人材」のポテンシャルを評価することは、「価値実現型人材」には難しいということだ。実際に修羅場を乗り切ってきた希少な「価値創造型人材」だからこそ、早期選抜においてもポテンシャルの見極めが可能となる。つまり、見極めを行うアセッサーは、「価値創造型人材」に限ることが必要となる。となると、現時点で全社を見渡しても「価値創造型人材」が非常に少ない場合には、戦略的に中途採用することが選択肢のひとつになるだろう。

第2に、20代後半から30 代前半までの業務の与え方に変化が必要となろう。従来の正社員マネジメントにおいては、20代の業務は、3カ所程度ローテーションすることはあっても、その目的は社内の業務を全体的に理解してもらうことにあり、いわば将来に向けた修行の場の位置づけにあった。その段階で、評価に大きな差をつけることには慎重であった。しかし、「価値創造型人材」を早期選抜するとなれば、20代の業務の実績そのものを評価に結びつけていく必要がある。そこで、担当してもらう業務を、実績が判別しやすい特徴を持つように工夫して変えていくという取り組みが求められるだろう。

採用について言えば、最初の段階で、社内の「価値創造型人材」の絶対数が限られていれば、まずは戦略的中途採用に頼らざるを得ない。しかし、一定数の「価値創造型人材」が確保できた段階になると、早期選抜で若手を見極めることが可能になり内部育成が主な手段となっていくだろう。社会経験のない新卒採用の段階でポテンシャルを見極めることは困難だろうが、「価値創造型人材」の見極めの目線が社内で共有されるようになってくると、ある程度は新卒採用の選考基準に反映できていく可能性もある。

「価値創造型人材」の早期選抜後のマネジメント

早期選抜後は、「価値創造型人材」をどのように育成、開発していけばいいのだろうか。端的に言えば、先述した十分条件を満たすマネジメントを行うことが重要だろう。そのために留意すべき点が2点ある。第1に、「価値創造型人材」は全社の人材である、という認識を社内で共有しなければならない、ということだ。「価値創造型人材」は優秀であり、実績を確実にたたきだす、ということであれば、部門としては抱え込みたくなるであろう。しかし部門で抱え込んでしまっては、連続的に修羅場経験を積むことはできない。「価値創造型人材」は全社の人材として系統的に育成していくことが求められる。

第2に、「価値創造型人材」の処遇は、「価値実現型人材」と異なるハイリスク・ハイリターンなものにすべきである、ということだ。いったん「価値創造型人材」に選抜されると、次々と修羅場をこなさなければならないし、責任権限も重くなる。また、早期選抜されたものの、設定された修羅場に対応できず、脱落してしまうリスクを背負うことになる。そうであれば、それに相応しい高い処遇を設定しなければ、公正とは言えないだろう。このようなハイリスク・ハイリターンな処遇をするからには、「価値創造型人材」として位置づけられる場合には、本人の自発的意思が前提となろう。仮に、「価値創造型人材」として早期選抜されても、本人がそれを望まなければ、「価値実現型人材」として処遇すべきであろう。

価値創造型人材の見極め・採用と育成・開発におけるポイント.png

また、いったん「価値創造型人材」として選抜されても、修羅場に対応していけない場合は、「価値実現型人材」に戻るというルートも確保しておくべきであろう。その場合であっても、「価値実現型人材」としては十分に活躍できる可能性があるからだ。

「価値実現型人材」をどのように動機づけるか

誤解の無いように指摘しておけば、「価値実現型人材」が経営幹部になる可能性がないわけではない。例えば、戦略を実行する部門の部門長は「価値実現型人材」が登用されることが多くなるであろうし、その部門長が役員待遇であることも往々にしてあるだろう。会社にとって多くの「価値実現型人材」に活躍してもらうことは、重要な意義を持つ。

しかしながら、社長などの経営トップは、抜本的変革を行うことにこそ価値があり、「価値創造型人材」から登用されることになるだろう。つまり、従来の正社員マネジメントでは、誰しもが社長になり得るという可能性を動機づけのひとつとしていたわけだが、今後はそれを動機づけとすることはできない。

では、今後は「価値実現型人材」をどのように動機づけていけばいいのであろうか。端的に言えば、昇進可能性による動機づけを、役割遂行による動機づけへと変えていくことになるだろう。これまでは、誰しもが社長になれるかもしれないという意味で、社内の業務を汎用的に、つまり万遍なくこなすことを重視する意識が存在したかもしれない。

価値実現型人材.png

しかし、これからは、価値を実現するために、専門的な役割を果たすこと自体が重視されるし、それが動機づけに繋がるだろう。これは、会社としては、「価値創造型人材」に対して、求められる役割をより明確に説明する責任が発生するということであるし、専門性の向上に向けた継続学習を促すことも意味しよう。

人事部に求められる役割と能力

ここまで述べてきた「価値創造型人材」と「価値実現型人材」のマネジメントを実現するために、人事部が果たすべき役割と能力とは、何であろうか。「価値創造型人材」を早期選抜するということは、従来の年功序列型の人材マネジメントと決別することを意味しており、大きな抵抗を伴う変革を意味する。多くの場合、経営トップにとっても、簡単には意思決定できない変革であろう。

人事部としては、なぜ「価値創造型人材」を早期選抜することが必要なのか、それを経営トップに理解してもらわなければならない。これは簡単なことではない。しかし方法はある。1番効果的なことは、実際に経営トップに「価値創造型人材」と接してもらい、その価値を理解してもらうことである。そのための具体的な方法は2つある。

まず第1には、社外の「価値創造型人材」と経営トップを引き合わせることである。これは人事部として直接把握している人材でも良いし、エグゼクティブサーチなど第3者を活用する方法もあろう。

第2には、「価値創造型人材」を戦略的に中途採用し、その価値を社内で示す方法がある。ただし、多様性に乏しい会社では、中途採用した「価値創造型人材」が実力を発揮できない場合もあるので、この点については人事部がしっかりとフォローする必要があろう。

こうした役割を果たすためには、人事部が社外の「価値創造型人材」と多く接し、その目利きができる能力が必要である。もちろん、経営トップとわたりあって議論することが前提となってくるわけで、人事部にとっても、従来の正社員マネジメントの時よりも一段高い能力が求められる時代が到来したと言えよう。

*本記事は、機関誌「HITO」vol.08『正社員マネジメントの未来』からの抜粋記事です。
※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のもの。

<執筆者紹介>

石山 恒貴 氏

これからの正社員の在り方を考える研究会 座長
法政大学大学院政策創造研究科 教授

石山先生-150x150.jpgNEC、GEにおいて、一貫して人事労務関係を担当、バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社において執行役員人事総務部長を経て、2013年4月より現職。主要著書に『組織内専門人材のキャリアと学習:組織を越境する新しい人材像』(日本生産性本部生産性労働情報センター)、翻訳に『サクセッションプランの基本』(ヒューマンバリュー社)。主要論文に、「人事権とキャリア権の複合効果」、「組織内専門人材の専門領域コミットメントと越境的能力開発の役割」など。


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