若手社員の成長実感の重要性 ~若手の成長意欲を満たし、本人・企業双方の成長につなげるには~

公開日 2020/09/09

執筆者:シンクタンク本部 研究員 金本 麻里

若手社員の成長実感の重要性

パーソル総合研究所が毎年実施している「働く10,000人の就業・成長定点調査」の2020年のデータをもとに、「20代の正社員」にフォーカスを当て、成長を実感することのパフォーマンス等への効果や、その高め方について見えてきたことをご紹介します。

  1. 若手社員が成長を実感することの重要性
  2. 新卒入社2~3年目、意欲低下と同時に高まる成長志向
  3. 若手社員に成長を実感してもらうにはどうすればいいのか
  4. まとめ

若手社員が成長を実感することの重要性

下のグラフは、過去1年間にどれだけ成長を実感したか(以降、成長実感と呼ぶ)によって若手社員を高群・中群・低群に等分割し、パフォーマンスや仕事への意欲(ワーク・エンゲイジメント)、現在の会社への継続就業意向の高さを比較したものです。成長を実感している若手社員ほど、これらの要素が統計的に有意に高い傾向がありました。

図1.成長実感とパフォーマンス、ワーク・エンゲイジメント、継続就業意向の関係
図1.成長実感とパフォーマンス、ワーク・エンゲイジメント、継続就業意向の関係

また、こういった成長実感の影響は、若手社員の成長志向が高いほど顕著です。以下は、成長実感3群のワーク・エンゲイジメントを、さらに仕事を通じた成長を重要視する度合い(以降、成長志向と呼ぶ)によって3群に等分割して表現したグラフです。成長志向高群>中群>低群の順で、グラフの傾きが急になっており、成長志向が高い若手社員ほど、成長実感とワーク・エンゲイジメントがより密接な関係にあることが分かります。

ワーク・エンゲイジメントの低下は、離職の先行要因と言われています。先に述べた、成長志向が高い前途有望な若手ほど、成長が感じられないと早期離職するという事例を裏づけるような結果と言えます。

図2.成長志向別、成長実感とワーク・エンゲイジメントの関係
図2.成長志向別、成長実感とワーク・エンゲイジメントの関係

新卒入社2~3年目、意欲低下と同時に高まる成長志向

以下のグラフは、新卒入社社員の入社年次別の成長志向と、ワーク・エンゲイジメントの推移を表したものです。1年目まではワーク・エンゲイジメントが高いが、2~3年目で一時的に低下し、その後4~5年目以降で再度盛り返す、という変化が見られます。このような、1年目はやる気があったのに、2年目に低下するという傾向は、他の調査でも確認されています。入社後に理想と現実のギャップから落ち込んでしまう「リアリティ・ショック」と呼ばれる現象や、仕事の能力が十分身についていない中で、仕事が本格的に始まる大変な時期であることが影響していると考えられます。

図3.新卒入社者の入社年次別 ワーク・エンゲイジメント、成長志向
図3.新卒入社者の入社年次別 ワーク・エンゲイジメント、成長志向

ここで注目したいのは、同じタイミングで成長志向はむしろ高まっているという点です。「こんなはずではなかった」という思いや焦燥感から、目の前の仕事に対する意欲は低下しているものの、仕事での成長を重要視する気持ちは高まっており、バネが一旦縮んだような状態であると言えます。入社2年目は、1年目のような手厚いフォローがなくなり、周囲の関わりが手薄となりやすい時期でもあります。このタイミングで突き放し・放置型のマネジメントをすると、この会社では成長が見込めない・困難だと感じ、もっと自分が成長・活躍できそうな職場に転職を考えやすいでしょう。一方、このようなタイミングで、うまく若手社員に成長実感を持たせることができれば、バネが跳ね上がるように、「この会社で成長していこう」という意欲を引き出すことができそうです。

若手社員に成長を実感してもらうにはどうすればいいのか

では、若手社員に成長を実感してもらうには、どうすればいいのでしょうか? その一つのヒントとして、同調査で取得している、若手社員の成長実感理由TOP10を見てみましょう。

図4.若手社員の成長実感理由 TOP10
図4.若手社員の成長実感理由 TOP10

「以前より難しい仕事を担当した」「責任のある役割を与えられた」「仕事量に余裕ができた」といった理由が最も多いことが分かります。自分の能力よりも少しだけ難しい課題を行うことは、フロー状態というハイレベルに集中した状態を引き出し、学習効果が高いことが心理学の知見でも知られています。3つ目に仕事量の余裕が挙がっている点は、仕事を詰め込みすぎず、内省や自己啓発の時間を設けることも、若手社員の成長に重要であることが窺える結果です。

また、20代で特に多かった成長理由として、「上司から仕事の助言を得ることができた」「上司からフィードバックを得ることができた」があげられます。当然ですが、若手社員の成長には、メンターや上司の関わりが重要です。

では、特に上司のどのような関わりが、若手社員の成長実感を高めるのでしょうか?以下に、若手社員の成長実感を高める上司のマネジメント行動を分析した結果を示します(14項目中、有意な効果が認められた3項目を記載)。

図5.若手社員の成長実感を高める上司のマネジメント行動
図5.若手社員の成長実感を高める上司のマネジメント行動

「スキルや能力が身につく仕事を任せる」「仕事上の悩みや不満を聞く」「納得できる注意や叱り方をする」といった行動が、若手社員の成長実感を高めていることが分かります。特にスキルや能力が身につくような業務アサインは影響が強く、どの年代でも共通する成長実感要因でした。自身のスキルアップにつながっていると感じられる業務を与えること、また業務がどうスキルアップにつながるのかを上司が説明していくことが重要だと言えます。

「仕事上の悩みや不満を聞く」「納得できる注意やしかり方をする」は、20代で顕著な成長実感要因です。慣れない仕事をする中で出てくる若手の悩みや不満を突き放さずに解きほぐすこと、注意や叱責についても、頭ごなしに叱るのではなく、なぜいけないのか、どうすればいいのかをきちんと教えていくことが、上司が若手社員に成長実感を与えることができるかの分かれ目と言えそうです。

まとめ

今回の分析結果から、若手社員に成長を実感してもらい、活躍と定着を促すには、以下の3つのポイントが重要であることが分かりました。

  • 成長志向の高い若手社員程、成長実感の意欲向上・離職防止効果が高い
  • 2~3年目の停滞期は、成長志向が高まっており、成長支援の好タイミング
  • 上司が若手社員に成長を実感してもらうには、スキルや能力が身につく業務配分や、悩みや不満に向き合うこと、納得できる注意や叱り方をすることが重要

若手が成長実感を持ちながらいきいきと働くことは、本人にとっても、組織にとってもよい結果をもたらします。今回の分析結果がそのための一助になれば幸いです。

執筆者紹介

金本 麻里

シンクタンク本部
研究員

金本 麻里

Mari Kanemoto

総合コンサルティングファームに勤務後、人・組織に対する興味・関心から、人事サービス提供会社に転職。適性検査やストレスチェックの開発・分析報告業務に従事。
調査・研究活動を通じて、人・組織に関する社会課題解決の一翼を担いたいと考え、2020年1月より現職。


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