公開日 2015/05/27
女性の活躍によって企業や経済を活性化させるべく、2020年に指導的立場の女性割合を30%にするといった数値目標が政府から打ち出された今、各企業ではどのような取り組みが進み、どのような課題があるのだろうか。様々な業界で女性活躍を推進する企業の担当者にお集まりいただき、日々の取り組みの中で感じている本音を語っていただいた。
Aさん(百貨店業)
「グループ人事の担当です。特に女性活躍推進の専門部署があるわけではないので、自主的に勉強し、人事施策に生かしています」
Bさん(金融業)
「当社も女性活躍推進の専門部署はありませんが、重要な施策であることは間違いないので皆で自主的に活動しています」
Cさん(小売業)
「ダイバーシティ担当として日々、女性活躍推進に取り組んでいます」
Dさん(運輸サービス業)
「最近、女性活躍推進の専門組織ができました。その新部署で、自分自身も育児と仕事を両立しながら様々な施策に取り組んでいます」
―みなさんの企業では現在、女性活躍推進について具体的にどのような取り組みをされていますか?
Aさん 当社は昔から女性が多い職場で、育児などの両立支援はしてきました。最近では、育休中に参加できるセミナーの開催や、復帰後に土日だけフルタイムで働ける制度など、なるべく早くフルタイム勤務に復帰していただくための支援制度を整えています。
Bさん 当社はこれまで女性の定着率改善のための育児両立支援や、マネジャー層の女性比率を上げる取り組みを行ってきました。最近では、男女問わず育児・介護をはじめ自分のライフイベントに合わせて一時的な降格を選択できる制度を整えるなど、制度はかなり充実していると思います。一定成果も出てきており、今後の課題は、部長クラス以上の女性の割合を増やすことです。
Cさん かなり以前から会社としてダイバーシティに力を入れてきました。しかし、小売業ならではの長時間労働がネックとなって、育休制度はあっても復帰する自信がなく辞めてしまう女性がまだまだ多いです。積極的に女性を管理職登用してはいるものの、管理職に向いていなかったときにキャリアを一時的に元に戻せるような制度が整備できていないので、一度管理職になると辛くても耐えるしかないという課題が生じています。
Dさん 当社は育児両立支援の制度は非常に充実しており、育休取得者も復職者も多いです。しかし、そうした女性たちが復帰後に管理職登用され、本当に活躍できているかは疑問です。いまだに長時間勤務できないと急なトラブルにも対応できないという不安や周囲への遠慮から、時短勤務の方を中心に女性は昇進に手を挙げにくいのが現状です。
― 両立支援策は充実しているものの運用がうまくいっていないようです。背景には2つの問題が考えられます。1つは職場のマネジメントの問題、もう1つはキャリアアップ支援の在り方に関する問題です。まず職場のマネジメントについて、課題に感じるところはありますか。
Aさん 当社ではいまだに男性の管理職層に認識のギャップのようなものがあります。経験を積ませることが育成やキャリアアップに繋がるのに、女性に対して誤った思いやりをかけてしまい、仕事のアサインや登用のチャンスが巡ってきても、何らかのライフイベントと仕事を両立している女性は外してしまうというケースが散見されます。Cさんと同様、当社も店舗が長時間営業していますから、長時間勤務が当たり前となり、それがネックとなっています。働く環境とマネジメントの改善にテコ入れしなければいけません。
Bさん 男性だけでなく女性の管理職にも理解のない人はいます。当社は、労働時間は関係なく営業目標の達成が絶対、という考え方が主流。時間に制約のない人は、「長時間働いて目標達成している人がエライ」という思考に陥りがちで、効率的かどうかは関心事ではありません。営業目標は時短勤務であっても平等に課されます。しかし、なかには夜遅い時間しか会えないお客様もあり、担当顧客を調整するなどの配慮は必要だと思います。
Cさん 当社では、女性向け商品に注力しようと商品開発部に女性を増やしたところ、彼女たちが続々と育児休職に入る事態に陥ってしまいました。そんな女性たちに対し、仕事上配慮することを面倒だと思う人たちがまだまだいます。ですから、育休から復帰しても補助的な役目に回らず活躍してもらえるよう、彼女たちの働きで業績が上がっているなど、目に見える成果の提示が大事だと感じています。
―管理職登用の際は、どのような要件で誰がどのように昇進させているのですか。
Bさん 管理職に求める能力要件は一応決められていますが、実際に登用する際にテストがあるわけではありません。業績で見ている部分が大きいです。登用は基本的に現場が決めますが、人事も人事枠を持っているので、女性やその他検討すべき人が候補に入っていない時は意見します。
Cさん 当社は管理職登用時にアセスメントがあります。直近半年の業績と上長の推薦、面談で見ています。管理職の要件はありますが、やはり当社も業績で判断する比重が大きいです。現場の推薦に任せていると、業績を上げているという理由だけで、かなり経験の浅い若手が推薦されてくることもあります。女性が候補に入ってこないこともあるので、場合によっては人事部で女性社員だけのランキングを作っておき、「この方は?」と提案します。また、いわゆるスーパー営業マンがある日突然管理職になって部下を持ち、「自分を真似ろ」というマネジメントしかできないようなケースもあります。そのため、今後は部下一人ひとりの個性を生かして業績に繋げられるような部下育成力のある人を登用すべく、コンピテンシー評価に切り替えていこうとしています。
―キャリアアップに関しては、何か支援をされていますか。
Dさん 全国の各エリアで管理職候補の女性をリストアップして育成しています。また次世代育成も視野に入れ、仕事に対する動機づけの新人研修や、上司のマネジメントスキル向上施策にも注力し始めています。また、現在管理職である女性たちがモチベーションを高く保ち、さらに上の役職を目指せることを目的とした研修なども強化中です。
Bさん 世代や役職ごとに施策は結構やっています。若手に対しては結婚出産前にキャリアを考えるフォーラムを開催したり、管理職候補者へは選抜研修を行ったり、役職者にはメンタリングやコーチングも行っています。そのせいか、女性も課長代理までは多数昇進しています。でも、部下持ちの管理職となると尻込みしてしまう。社内アンケートを取ると、女性だけでなく若手の男性社員からも「フレックス制度があっても取りづらい」などの意見が多く挙がっていることから、女性の意識というより、長時間労働が当たり前という働き方に問題があることは明らかです。個人の数字至上主義からチーム力を上げる方向へ、会社全体の働き方を改革することが喫緊の課題だと思います。
―最後に皆さんが思うこれからの時代を担う女性管理職像を教えてください。
Dさん 当社では、男女かかわらず長時間労働を厭わない働き方に長けた人が管理職になる傾向にあります。よって、同じようなタイプが管理職に選ばれてしまう。今後はもっと固定観念にとらわれずに、それぞれの特性を生かして成果を生み出す人が必要になります。そんな多様な人材を育成できる人が管理職として求められるのではないでしょうか。
Cさん 私も、一人ひとりの部下の個性を注意深く見て、きちんと育成できる人であることが一番大切だと思います。
Bさん 管理職自身がメンバーの力を引き出して業績達成に導くようなチーム運営のできる人が望ましいですね。今後は時間の制約がある人にはある人なりに、個に合わせたマネジメントで部下の能力を最大限発揮させ、チーム力を上げる方向に変えていくことが求められるのではないでしょうか。
Aさん 当社のように女性が多い職場では、育休・子育ては当たり前。ビジネス自体もライフスタイルの多様化によって日々変化しています。そのため、ライフスタイルを含め、いろんな経験をしている社員がマネジメントの立場になるべきです。その人たちによって、顧客への新しい価値を提供したり、そんな価値提供ができる部下を育成したりするよう、変わっていくことが望まれます。
― 顧客への価値創造、組織・職場マネジメント、部下育成など、様々な側面において「変えていく人」が必要なのかもしれませんね。貴重なお話ありがとうございました。
※この記事は2015年3月に発行したHITO総研の「機関誌別冊HITO SPRING 真の女性活躍推進に向けて」の転載です。
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