公開日 2015/04/24
政府は「2020年に指導的地位に占める女性の割合を30%にする」という目標を掲げている。企業にとってイノベーションが競争優位の源泉となる昨今、ダイバーシティ戦略の実現が重要であることは言うまでもない。そのダイバーシティ戦略実現において、最も身近な人的資源である女性の活躍を推進していくことは必然である。しかし、まだまだ指導的地位に立ち、活躍する女性は増えていないのが現状である。本調査においても管理職になりたくない女性は75.6%に上った。女性管理職を増やしていくには、管理職を希望しない人に働きかけて意向を変えていくこと、また希望している層がどのような人たちなのかを見極め、適切に働きかけていくことが必要であろう。
そもそも、今まさに管理職を務めている女性たちは、どのような考えや思いをもって管理職に就き、日々管理職として仕事に向かい合っているのだろうか。2015年3月に発刊したインテリジェンスHITO総合研究所の機関誌 別冊HITO「真の女性活躍推進に向けて」でインタビューした女性管理職13人のエピソードからは、彼女たち自身の価値観やアイデンティティ、経験、学びが、仕事・キャリアへの考え方や取り組みに大きく影響を与えていることがうかがい知れた。
アイデンティティと学びの姿勢が、管理職意向や仕事への取り組み方・キャリアへの考え方にどのように影響を及ぼすのかが明らかになれば、より適した働きかけによって、管理職として活躍する女性を増やしていけるかもしれない。 そこで、HITO総研は、転職サービスDODAと共同で調査を実施。全国の働く女性1,058人を対象にWEBアンケートを行い、アイデンティティと学びの姿勢の特徴や管理職意向、仕事の取り組み方・キャリアの考え方への影響について分析した。 その結果、アイデンティティの在り方と学びの姿勢には4つのタイプがあること、また、それぞれのタイプによって管理職への意向や、仕事・キャリアに対する考え方に違いがあることが見えてきた。
ここでは、その調査分析結果を紹介するとともに、より多くの女性に管理職として活躍してもらうために留意すべきマネジメントのポイントをタイプ別に紹介する。
今回の調査では、<参考>表1の質問項目を「アイデンティティの在り方」「学びの姿勢」としてアンケートを実施。分析の結果、働く女性のアイデンティティと学びの姿勢は4つのタイプ(「バランスタイプ」「悩める子羊タイプ」「ほどほどタイプ」「内外ギャップタイプ」)に分かれ、図1のような特徴があることが分かった。また、タイプによって、勤続年数などの職歴にもそれぞれ異なる傾向が見られた。
次に、管理職意向について、4タイプで違いがあるのかを調べた。 まず、管理職になりたいかを質問したところ、全体では「なりたい」と回答した人が24.4%、「なりたくない」と回答した人が75.6%であった。これをタイプ別に見ると、バランスタイプと内外ギャップタイプは管理職に「なりたい」割合が高く、悩める子羊タイプとほどほどタイプは低い傾向であった。
管理職になりたい・なりたくないと考える理由については、タイプ別にどのような違いがあるのだろうか。以下は、それぞれのタイプにおける管理職意向の理由についての回答傾向をまとめたものである。
【グラフ3】それぞれのタイプ別に見た「管理職になりたい理由・なりたくない理由」
※数値は、全体における各タイプの出現率に対する各理由の出現率の差
※赤枠は顕著な「なりたい理由」、青枠は顕著な「なりたくない理由」
最後に、管理職として活躍する女性を増やしていくために必要な対応を、4タイプ別に述べていきたい。
まず、管理職になりたいタイプは「バランスタイプ」と「内外ギャップタイプ」。この2タイプをターゲットにすることは、女性管理職を増やす一番の近道と言えるだろう。この2タイプへの働きかけとしては、管理職になりたい理由として「自分の影響範囲を広げたいから」「より責任の重い仕事がしたい」を挙げる人が多いことから、実際に影響力があって責任の重い職務をアサインすることが有効であろう。その際には、リーダーシップに関する研修の受講や、仕事へのフィードバック、メンターをつけるなどの配慮が必要である。
なぜなら、「内外ギャップタイプ」は管理職になりたくない理由として、「失敗するのが怖いから」「ロールモデル・目標となる女性管理職がいないから」という回答が非常に多いためだ。そばに女性のメンターを置き、励まし、悩みを聞く、出来たら褒める、といった支援によって自己効力感を高めることが必須であるだろう。一方の「バランスタイプ」も、「女性管理職が少なく、男性の中の少数派になる自信がないから」が管理職になりたくない理由に挙がっており、同様に小さい成功体験の積み重ねによって自己効力感を高めることが重要であることがうかがえる。
また、調査とは別に、HITO総研にて様々な企業の女性管理職を取材するなかで、自身が女性管理職になったことにより、管理職になれなかった男性社員に申し訳ないという気持ちを持っている人が散見された。従来、男性社員を優先的に管理職のポジションにつけてきた会社が、女性社員を同等に評価し、積極的に管理職に就けるように変わってきているなかで、会社の変化に意識が伴わない男性社員たちからの冷ややかな視線や自分に対する自信不足から、そうした感情を持ってしまうようであった。そのため、自信を持たせることと同時に、経営陣や事業責任者が責任を持って、そうした無意味な批判から守ることも非常に重要になるだろう。
「悩める子羊タイプ」と「ほどほどタイプ」は、管理職になりたくないという意向が高かった。なりたくない理由を見てみると、「ほどほどタイプ」は「長時間労働になりそうだから」が挙がっており、労働時間もほどほどを好む姿勢がうかがえる。「悩める子羊タイプ」は、「失敗するのが怖いから」「リーダーシップを取る自信がないから」「女性管理職が少なく、男性の中の少数派になる自信がないから」が多い。先述の通り、「悩める子羊タイプ」は勤続年数が3年目、6年目、8年目、9年目、11年目、12年目に多くなる傾向にある。したがって、管理職への意向が低い「悩める子羊タイプ」の状態の人を支援するには、3年ごと、または30歳の節目などにキャリア研修を設定するほか、悩み相談の場やキャリアに対する自律性を高めるための内省機会を用意するなどが有効だろう。
なお、調査対象者の1,058人全員に対し、社内異動の回数を聞いてみたところ、70%近い人が0回という結果であった。本当は異動を希望していたにも関わらず異動の機会がなかったため、結果的に同じ仕事にずっと携わることとなり、仕事にマンネリ感を感じて悩んでいるケースがあるかもしれない。社内異動で様々な仕事を経験し、刺激を得たり視野を広げたりすることによって、管理職に対する意向が高まる可能性も考えられる。個人のキャリアに合った異動の機会を用意することも、より多くの女性管理職の活躍を促す有効な策ではないだろうか。
【資料ダウンロード】
女性管理職を増やすために ~はたらく女性の価値観4タイプとマネジメントのヒント~
※本コンテンツは、別冊HITO「真の女性活躍推進に向けて」における『アイデンティティや学びの違いが仕事・キャリアに及ぼす影響』を基に再編集しています。
【調査概要】
■調査期間:2015年1月24~25日
■調査方法:インターネット調査
■調査対象:全国の正社員として働く25~44歳の女性。有効回答者数は1,058人。内訳は以下。
・年齢:25~29歳=270人、30~34歳=265人、35~39歳=259人、40~44歳=264人
・職種:営業系=97人、企画事務系=192人、企画/事務系(アシスタント職)が=286人、販売/サービス系=116人、 技術系=106人、クリエイティブ系=30人、専門職系=30人、その他=171人
・勤務先会社規模:29人以下=287人、30~99人以下=192人、100~299人以下=180人、300~999人以下=144人、1,000~2,999人以下=66人、3,000~4,999人以下=44人、5,000人以上=145人
政府は「2020年に指導的地位に占める女性の割合を30%にする」という目標を掲げている。企業にとってイノベーションが競争優位の源泉となる昨今、ダイバーシティ戦略の実現が重要であることは言うまでもない。そのダイバーシティ戦略実現において、最も身近な人的資源である女性の活躍を推進していくことは必然である。しかし、まだまだ指導的地位に立ち、活躍する女性は増えていないのが現状である。本調査においても管理職になりたくない女性は75.6%に上った。女性管理職を増やしていくには、管理職を希望しない人に働きかけて意向を変えていくこと、また希望している層がどのような人たちなのかを見極め、適切に働きかけていくことが必要であろう。
そもそも、今まさに管理職を務めている女性たちは、どのような考えや思いをもって管理職に就き、日々管理職として仕事に向かい合っているのだろうか。2015年3月に発刊したインテリジェンスHITO総合研究所の機関誌 別冊HITO「真の女性活躍推進に向けて」でインタビューした女性管理職13人のエピソードからは、彼女たち自身の価値観やアイデンティティ、経験、学びが、仕事・キャリアへの考え方や取り組みに大きく影響を与えていることがうかがい知れた。
アイデンティティと学びの姿勢が、管理職意向や仕事への取り組み方・キャリアへの考え方にどのように影響を及ぼすのかが明らかになれば、より適した働きかけによって、管理職として活躍する女性を増やしていけるかもしれない。 そこで、HITO総研は、転職サービスDODAと共同で調査を実施。全国の働く女性1,058人を対象にWEBアンケートを行い、アイデンティティと学びの姿勢の特徴や管理職意向、仕事の取り組み方・キャリアの考え方への影響について分析した。 その結果、アイデンティティの在り方と学びの姿勢には4つのタイプがあること、また、それぞれのタイプによって管理職への意向や、仕事・キャリアに対する考え方に違いがあることが見えてきた。
ここでは、その調査分析結果を紹介するとともに、より多くの女性に管理職として活躍してもらうために留意すべきマネジメントのポイントをタイプ別に紹介する。
今回の調査では、<参考>表1の質問項目を「アイデンティティの在り方」「学びの姿勢」としてアンケートを実施。分析の結果、働く女性のアイデンティティと学びの姿勢は4つのタイプ(「バランスタイプ」「悩める子羊タイプ」「ほどほどタイプ」「内外ギャップタイプ」)に分かれ、図1のような特徴があることが分かった。また、タイプによって、勤続年数などの職歴にもそれぞれ異なる傾向が見られた。
次に、管理職意向について、4タイプで違いがあるのかを調べた。 まず、管理職になりたいかを質問したところ、全体では「なりたい」と回答した人が24.4%、「なりたくない」と回答した人が75.6%であった。これをタイプ別に見ると、バランスタイプと内外ギャップタイプは管理職に「なりたい」割合が高く、悩める子羊タイプとほどほどタイプは低い傾向であった。
管理職になりたい・なりたくないと考える理由については、タイプ別にどのような違いがあるのだろうか。以下は、それぞれのタイプにおける管理職意向の理由についての回答傾向をまとめたものである。
【グラフ3】それぞれのタイプ別に見た「管理職になりたい理由・なりたくない理由」
※数値は、全体における各タイプの出現率に対する各理由の出現率の差
※赤枠は顕著な「なりたい理由」、青枠は顕著な「なりたくない理由」
最後に、管理職として活躍する女性を増やしていくために必要な対応を、4タイプ別に述べていきたい。
まず、管理職になりたいタイプは「バランスタイプ」と「内外ギャップタイプ」。この2タイプをターゲットにすることは、女性管理職を増やす一番の近道と言えるだろう。この2タイプへの働きかけとしては、管理職になりたい理由として「自分の影響範囲を広げたいから」「より責任の重い仕事がしたい」を挙げる人が多いことから、実際に影響力があって責任の重い職務をアサインすることが有効であろう。その際には、リーダーシップに関する研修の受講や、仕事へのフィードバック、メンターをつけるなどの配慮が必要である。
なぜなら、「内外ギャップタイプ」は管理職になりたくない理由として、「失敗するのが怖いから」「ロールモデル・目標となる女性管理職がいないから」という回答が非常に多いためだ。そばに女性のメンターを置き、励まし、悩みを聞く、出来たら褒める、といった支援によって自己効力感を高めることが必須であるだろう。一方の「バランスタイプ」も、「女性管理職が少なく、男性の中の少数派になる自信がないから」が管理職になりたくない理由に挙がっており、同様に小さい成功体験の積み重ねによって自己効力感を高めることが重要であることがうかがえる。
また、調査とは別に、HITO総研にて様々な企業の女性管理職を取材するなかで、自身が女性管理職になったことにより、管理職になれなかった男性社員に申し訳ないという気持ちを持っている人が散見された。従来、男性社員を優先的に管理職のポジションにつけてきた会社が、女性社員を同等に評価し、積極的に管理職に就けるように変わってきているなかで、会社の変化に意識が伴わない男性社員たちからの冷ややかな視線や自分に対する自信不足から、そうした感情を持ってしまうようであった。そのため、自信を持たせることと同時に、経営陣や事業責任者が責任を持って、そうした無意味な批判から守ることも非常に重要になるだろう。
「悩める子羊タイプ」と「ほどほどタイプ」は、管理職になりたくないという意向が高かった。なりたくない理由を見てみると、「ほどほどタイプ」は「長時間労働になりそうだから」が挙がっており、労働時間もほどほどを好む姿勢がうかがえる。「悩める子羊タイプ」は、「失敗するのが怖いから」「リーダーシップを取る自信がないから」「女性管理職が少なく、男性の中の少数派になる自信がないから」が多い。先述の通り、「悩める子羊タイプ」は勤続年数が3年目、6年目、8年目、9年目、11年目、12年目に多くなる傾向にある。したがって、管理職への意向が低い「悩める子羊タイプ」の状態の人を支援するには、3年ごと、または30歳の節目などにキャリア研修を設定するほか、悩み相談の場やキャリアに対する自律性を高めるための内省機会を用意するなどが有効だろう。
なお、調査対象者の1,058人全員に対し、社内異動の回数を聞いてみたところ、70%近い人が0回という結果であった。本当は異動を希望していたにも関わらず異動の機会がなかったため、結果的に同じ仕事にずっと携わることとなり、仕事にマンネリ感を感じて悩んでいるケースがあるかもしれない。社内異動で様々な仕事を経験し、刺激を得たり視野を広げたりすることによって、管理職に対する意向が高まる可能性も考えられる。個人のキャリアに合った異動の機会を用意することも、より多くの女性管理職の活躍を促す有効な策ではないだろうか。
【資料ダウンロード】
女性管理職を増やすために ~はたらく女性の価値観4タイプとマネジメントのヒント~
※本コンテンツは、別冊HITO「真の女性活躍推進に向けて」における『アイデンティティや学びの違いが仕事・キャリアに及ぼす影響』を基に再編集しています。
【調査概要】
■調査期間:2015年1月24~25日
■調査方法:インターネット調査
■調査対象:全国の正社員として働く25~44歳の女性。有効回答者数は1,058人。内訳は以下。
・年齢:25~29歳=270人、30~34歳=265人、35~39歳=259人、40~44歳=264人
・職種:営業系=97人、企画事務系=192人、企画/事務系(アシスタント職)が=286人、販売/サービス系=116人、 技術系=106人、クリエイティブ系=30人、専門職系=30人、その他=171人
・勤務先会社規模:29人以下=287人、30~99人以下=192人、100~299人以下=180人、300~999人以下=144人、1,000~2,999人以下=66人、3,000~4,999人以下=44人、5,000人以上=145人
本記事はお役に立ちましたか?
はたらくソーシャル・リスニング/24年4月
女性管理職比率の現在地と依然遠い30%目標
学歴や職業にかかわらず、すべての女性が能力を発揮できる社会を実現するには──働く母親たちへの調査を通じて見えてきたこと
女性活躍のハードルは日本独特の昇進構造 ~遅い昇進、平等主義的選抜からの脱却~
女性の管理職への昇進を後押しする上司の働きかけとは
蔓延する女性活躍への「懐疑」と「抵抗」
女性の管理職昇進意欲を高める鍵は「管理職への両立支援」
女性活躍を阻む「管理職の罰ゲーム化」
女性活躍推進に関する定量調査
“小1以降の壁”を企業はどう考えるべきか?
ワーキングマザー調査
644万人の人手不足~4つの解決策の提言~(労働市場の未来推計2030)
特別号 HITO REPORT vol.4『労働市場の未来推計2030 ~644万人の人手不足~』
労働市場の未来推計 2030
「管理職になりたがらない女性」を「意欲が低い女性」と同一視してはいけない~時間や場所に縛られない職場が未来の管理職をつくる~
労働市場の今とこれから 第5回 女性活躍推進のいま
HITO vol.11『「両立」支援は誰のため? ~事業vs.育児 キャリアvs.育児?~』
7割が異動経験なし。でも異動経験者のほうが管理職意向が高い
女性管理職登用を阻む「就業時間の壁」
考えよう。女性のキャリアマネジメント
管理職に最もなりたい年代は「30代前半」
【覆面座談会】女性の活躍を阻むものは何か
女性管理職が「自らのキャリア」を切り拓くために
真の女性活躍推進に向けて
女性管理職のエピソードから導き出す「変えていく力」への近道
女性たちが管理職になりたくない理由【HITOデータ vol.001】
別冊HITO SPRING『真の女性活躍推進に向けて』
日本の職場における働きづらさの正体
follow us
メルマガ登録&SNSフォローで最新情報をチェック!