公開日 2019/01/25
近年、「女性の活躍」が声高に叫ばれ、多くの企業が女性管理職を増やすことに奔走しています。管理職を増やすことだけが「女性活躍推進」ではないものの、目先の数値目標達成のために性急なポジティブ・アクションを進めようとして様々な軋轢が生じ、「活躍」の本来のあり方や、それを阻む真因が見えづらくなっているように思われます。
女性の活躍に関しては様々な調査や研究がおこなわれていますが、「活躍」を阻害する要因のひとつとして女性側の意欲の低さが指摘されています。
厚生労働省「平成26年度雇用均等基本調査」によると、従業員30人以上の企業において、女性の活躍を推進する上で必要な取り組みとして「女性のモチベーションや職業意識を高めるための研修機会の付与(38.1%)」が上位に挙がっています。裏を返せば、「女性のモチベーションや職業意識が低いこと」を企業として問題視していることがわかります。
確かに、女性の管理職意向が低いことは様々なデータで示されており、その意味で、「昇進意欲」は低いと言わざるを得ません。しかし、管理職意向が低いことは、そのまま女性の仕事への意欲全般が低いことを意味するのでしょうか。
本コラムではこの問いについて考えていきます。結論を先取りすると、女性は「管理職意向がない」からといって「成長意欲が低い」わけではなく、仕事への意欲全般が低いとは言えません。仕事において前向きな「成長意欲」がある女性が管理職を目指すには、旧来の画一的な「管理職」のあり方を見直し、女性も管理職として働きやすい「環境」を整備することが必要であり、環境を整備する前に、「女性は意欲が低い」などと嘆くのは、本末転倒だと言えます。
昨今の働き方改革にも女性活躍推進の狙いが含まれており、副業・兼業やテレワークなど、時間や場所にとらわれない働き方が徐々に浸透してきています。しかし、まだ導入企業が少ないこともあり、こうした働き方が推進されることで本当に女性の「活躍」が進むのかについては、これまであまり検証されてきませんでした。
パーソル総合研究所が実施した「働く1万人の就業・成長定点調査2018」の結果を用いて、副業・兼業やテレワークなどの時間や場所にとらわれない柔軟な働き方の推進が女性の管理職意向を高めることを示し、女性にとっても魅力的な管理職のあり方について議論した内容をご紹介します。
※なお、本コラムでは、特に議論に上りやすい正社員に絞って議論します。
まず、管理職になりたい人の割合について、あらためて見てみましょう。性年代別に管理職になりたい人の割合を見ると、図1に示すように、特に20代・30代で女性の管理職意向が低いことがわかります。
図1.管理職になりたい人の割合<性年代別>【ベース:正社員(非管理職)】
では、同様に、仕事を通じた成長をどれくらい重視しているかという「成長意欲」についても見てみましょう。管理職意向は年代とともに下がりますが、成長に関しては、年代にかかわらず7割以上の人が重視しています(図2)。また、いずれの年代においても女性は男性よりも成長を重視している人の割合が高く、特に、20代・30代でその傾向が顕著です。「女性は意欲が低い」は少なくとも「成長」意欲の観点からは誤解であると言えるでしょう。
図2.成長を重視している人の割合<性年代別>【ベース:正社員】
女性は、成長意欲は高いのに、管理職意向は低い。このことをわかりやすく示すと、図3のような関係になります。男女ともに、成長意欲のある人の方が成長意欲のない人よりも管理職になりたいと思う割合が高くなっています。しかし、成長意欲のある男性の46.1%が管理職になりたいと答え、その割合は管理職になりたくない人 (33.6%)を上回るのに対して、成長意欲のある女性で管理職になりたい人はわずか20.0%にすぎず、64.4%が管理職になりたくないと思っています。一方、男性においては、成長意欲がないにも関わらず管理職になりたい人も約2割存在します。
(なお、管理職への昇進可否が定まる40代以降は、管理職になれなかった結果として「意欲の冷却」が生じることが考えられるため、ここでは20代・30代に絞って分析しています。)
図3.管理職意向<成長意欲の有無別>【ベース:20代・30代正社員(非管理職)】
※「どちらともいえない」と回答した人の割合は割愛
このように成長意欲と管理職意向との関係性に男女差があることから、そもそも「成長」の捉え方が男女で違うのではないかという疑問が湧きます。そこで「成長としてイメージするもの」を確認したところ、上位3項目は男女ともに「仕事の効率・スピードが上がること」(男性71.9%,女性77.3%)、「新しい知識や経験を得ること」(男性71.7%,女性80.0%)、「給料・報酬が上がること」(男性69.2%,女性79.8%)となっており、主な項目の顔ぶれに男女差は見られませんでした(グラフは割愛)。
では、なぜ女性は成長意欲が高いのに管理職になりたがらないのでしょうか。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングが2015年に公表した「女性管理職の育成・登用に関する調査」によると、女性は「管理職は家庭(プライベート)との両立が困難」と考えて管理職になりたくないと考える割合が男性に比べて高く、「管理職の多忙なイメージ」が子育て等の家庭生活との両立を困難と認識させ、女性の昇進意欲を低下させていると指摘しています。
子育てが両立困難の主な要因なのであれば、子どもがいない女性は子どもがいる女性よりも管理職意向が高くなると考えられます。しかし、今回の調査データで家庭の状況(未既婚・子ども有無)別に管理職意向を見たところ、男女ともに「未婚・子なし」で管理職意向が低く、子どもがいる女性は子どもがいない女性よりも管理職意向が高い傾向が見られました(図4)。日本においては未だなお、第1子出産を機に正社員として働く女性の約3割が辞めるなか([注1])、もともと管理職意向がある人が出産後も働き続けていることも考えられますし、既婚男性に関しては、家庭をもち、一家の大黒柱として出世することをよしとする規範意識が根強く残っているのかもしれません。
図4.管理職意向<ライフステージ別>【ベース:20代・30代正社員(非管理職)】
いずれにせよ、未婚や子どものいない女性でも管理職意向が低いことから、「家庭(プライベート)との両立困難」で管理職になりたくない、という女性の思いは、子育てとの両立に限られるものではなさそうです。少なくとも、しばしば言われる「両立困難」という理由は、深掘りする必要がありそうです。管理職になりたくない人たちにとって「子育て等の家庭との両立」は表面的な断り文句であり、実のところは長時間拘束されて過大な責任を負担する旧来型の管理職のあり方に疑問を呈しているのかもしれません。
現在の働き方改革においては、長時間労働の是正がメイントピックに据えられています。職場の長時間労働是正は、女性が管理職として働きやすい環境を整える上でも有効であると考えられますが、女性管理職を増やすにあたって、果たしてそれだけで十分なのでしょうか。
今回の調査結果から、働き方に関するどのような取り組みが女性の管理職意向に影響するかを見てみたいと思います。
図5.管理職意向<1年内に導入・強化された制度別>
【ベース:成長意欲がある20代・30代女性正社員(非管理職)】
図5より、成長意欲がある20代・30代女性全体と比べて、「長時間労働の是正」やそのために必要である「業務の見直し」を推進している職場では女性の管理職意向が高くなっていることが見て取れます。しかし、それ以上に「副業・兼業制度」「クリエイティブ・オフィス」「在宅勤務・オフィス外勤務(以下、テレワーク)」を推進している職場で女性の管理職意向が高いことがわかります。「副業・兼業制度」を導入した職場では51.5%が管理職になりたいと答えており、20代・30代女性全体の平均20.0%と比べると2倍以上の水準となっています。
なお、男性においても図6に示すように、長時間労働の是正よりも「副業・兼業制度」「クリエイティブ・オフィス」「テレワーク」を推進している職場で管理職になりたい人の割合が高くなっていますが、各種施策を推進していると全般的に管理職意向が高く、施策間に大きな差は見られません。
図6.管理職意向<1年内に導入・強化された制度別>
【ベース:成長意欲がある20代・30代男性正社員(非管理職)】
「副業・兼業」や「クリエイティブ・オフィス」、「テレワーク」が推進されていると女性の管理職意向が高いということをどのように捉えたらいいでしょうか。
まず、「副業・兼業」および「クリエイティブ・オフィス」の推進に関しては、「時間による成果やコミットメント」を求める風土ではなく、「創造性」や「時間にかかわらないパフォーマンス」を求める風土への転換が促される可能性があります。
Kato,Kawaguchi,and Owan(2013)は企業内人事データの分析により、女性においては長時間労働の人が昇進しやすいという関係を示していますが([注2])、副業・兼業やクリエイティブ・オフィスが推進されることで、時間によるコミットメントを重視する風土が形骸化し、時間的制約が生じやすい女性も勤務時間をセーブしながらキャリアを伸ばしやすい環境が形成されると推察されます。
欧米では、「週4日勤務の管理職」や「管理職の役割を複数名でシェアリングする(ジョブシェアリング)」などのフレキシブルな管理職の形態も見られます。時間によるフルコミットメントを重視する風土が見直され、そうした柔軟な管理職のあり方が実現すれば、管理職は女性にとっても魅力的なポジションになりうるのではないでしょうか。
一方、「テレワーク」の促進は、場所の拘束からの解放を意味します。従来も、子育て中の女性にはテレワークが特権として認められることはありましたが、最近では制度を全員に適用する企業も徐々に増えてきています。他のメンバーもテレワークで働くようになれば、管理職になっても気兼ねなく制度を利用できる環境が整うと考えられます。
繰り返しになりますが、本稿で示したように、女性が「管理職になりたがらない」からといって「成長意欲が低い」わけではありません。「成長意欲」という仕事に対する前向きな姿勢があっても、旧来の管理職のあり方ではやっていけないと感じていることが問題なのです。
今回の調査結果からは、「副業・兼業制度」「クリエイティブ・オフィス(創造性を重視した執務スペース)」「テレワーク」の推進といった、より多様で柔軟な働き方へのシフトが、女性の管理職意向を高める可能性が示唆されました。勿論、厳密な効果を測定するには制度導入前後における意向の変化の分析などが必要ですが、今回の結果は取り組みを推進する上でひとつの拠り所になるのではないでしょうか。
長時間労働の是正はファーストステップではありますが、その先に、従来の時間・場所を拘束される管理職のあり方が見直されるとき、女性にとっても管理職の仕事は実現可能で魅力的に思えるようになるのかもしれません。
[注1]国立社会保障・人口問題研究所「第15回出生動向基本調査(夫婦調査)」(2015)
対象は子どもが1人以上いる初婚どうし夫婦であり、第1子出産前後の正規職員(妻)における就業継続率は2010~14年で69.1%。
[注2] "Dynamics of the Gender Gap in the Workplace: An Econometric Case Study of a Large Japanese Firm," with Takao Kato and Daiji Kawaguchi, Discussion Paper 13-E-038, May 2013.
パーソル総合研究所「働く1万人の就業・成長定点調査2018」 | |
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調査方法 | 個人に対するインターネット調査 |
調査協力者 | 全国男女 15歳~69歳 有職者(派遣・契約社員・自営業含む) |
調査対象人数 | 回収数10,000s 性別及び年代は国勢調査(就業人口構成比)に従う |
調査時期 | 2018年2月 |
調査実施主体 | 株式会社パーソル総合研究所 |
※引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所「働く1万人の就業・成長定点調査2018」
シンクタンク本部
研究員
砂川 和泉
Izumi Sunakawa
大手市場調査会社にて10年以上にわたり調査・分析業務に従事。定量・定性調査や顧客企業のID付きPOSデータ分析を担当した他、自社内の社員意識調査と社員データの統合分析や働き方改革プロジェクトにも参画。2018年より現職。現在の主な調査・研究領域は、女性の就労、キャリアなど。
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