公開日 2015/05/01
2020年に指導的立場の女性の割合を30%にするという政府目標の下、多くの企業が女性登用や女性活躍施策に注力している。しかし、実際に管理職を務めてみると、様々な困難や思いがけない壁に遭遇することも多い。だからこそ、それらを乗り越え、活躍する女性管理職には、それぞれ個々に信念や心がけていること、また周囲の支援や影響などもあるのではないだろうか。
そこで、HITO総研では、IT、メーカー、金融、エネルギー、サービス業など、それぞれ異なる業界で管理職として活躍する13人の女性にインタビューを実施。管理職として気をつけていることや苦労した経験などについてうかがった。
その取材のなかで浮かび上がってきたキーワードは、「変えていく力」。変化の激しい経営環境に合わせて、企業も人もしなやかに変化していかなければならない今、自分と周りの「何か」を変えていくこともまた、管理職として活躍し続けるためには非常に重要な力と言えよう。
本稿では、そんな彼女たちの「変えていく力」と、「変えていく力」を最大限発揮するためのヒントを探るべく、インタビューの結果を(1)ビジネスやサービスを変えるために行ったこと(対顧客)、(2)組織・職場を変えるため、また(3)部下を変えるために行った工夫(組織・職場運営/人材マネジメント)、そして(4)自分自身の価値観が変わった瞬間という、4つの視点でまとめた。
また最後に、管理職として活躍中の彼女たちが考える、女性管理職を増やしていくために企業が行うべきことについてもメッセージをいただき、まとめているので、ぜひご参照いただきたい。
今回取材した13人の話の中には、新製品のローンチや販路開拓、サービス改善や新制度構築など、社内外の顧客に対する提供価値を変えてきたエピソードが複数あった。そんなエピソードを語る女性たちの行動に共通して見られたのが、「現場重視」「そもそもの目的に立ち返る」「直感に近い違和感を大事にし、そこにあるギャップを分析する」「恐れずやってみる」という姿勢である。
例えば、情報のインプット・分析を習慣化していたり、必要に応じて直接ヒアリングやアンケートを実施したりするなど、彼女たちは総じて、自分の顧客は誰かを常に意識し、そのニーズを正確につかむよう心掛けていた。そして、そこでつかんだ「現状」と「自身が考えるあるべき姿」との間にあるギャップや違和感を敏感に感じとり、ギャップが生じる原因を考え、解決策へとつなげている。
一つひとつの行動は地道なものだが、これら一連の行動は高い課題設定力の表れと言える。また、従来のやり方や常識と異なる考え・アプローチを恐れずに「まずはやってみよう」という姿勢も持ち合わせ、結果として新たな価値の創造という大きな変化を生み出している。
顧客への提供価値に変化をもたらすには、組織と職場が変化を生み出す体質になっていることが必要である。新しいことに厭わず挑戦し、変化を生み出せる組織運営、職場づくりをするために、彼女たちはどのような工夫をしているのだろうか。
ほぼ全員に共通することは、まず目的意識をしっかり部内で共有し、方向性を合わせること。その上で、こまめな声掛けや明るい雰囲気で職場のコミュニケーションを活性化させていることであった。特に部下に対しては、余裕がなく対話できなかった場合も後で必ずフォローしている。一方、上司への報告場面では、根拠を示しつつ論理的に伝えるなどコミュニケーションの手法を変えている。職場でのコミュニケーションは、新たなビジネス機会の創出やリスクヘッジにもなり得る貴重な情報交換のタイミングである。コミュニケーションが滞らない工夫は、そうした機会損失の防止にも繋がるだろう。
また、部下の挑戦に責任を負い背中を押すところや、自身が新しいことに挑戦し変化を体現しているところも特徴的であった。ただし、自分の専門外の分野については、詳しい部下に素直に頼る一面も持つ。挑戦への姿勢は先導するが、すべてにおいて先頭に立つわけではない、そんなスタイルが多いようだ。
組織や職場の風土をつくっていくためには、その組織・職場を構成する社員たちが主体的に考え、変化に挑戦していくようマネジメントすることも欠かせない。そんな人材マネジメントの観点において見られた特徴は、まず部下を育て上げようという姿勢である。
具体的には、部下一人ひとりの成長を支援するため、まずはじっくり対話をして相手のキャリア観の理解に努める。そのうえで今後伸ばすべき能力を見極め、成長に必要な仕事に挑戦させては「できる」という自己効力感をもたせながら主体性を伸ばしていく。そのため、部下の志向性や性格、力量といった個性に合わせて、アドバイスの内容や伝えるタイミング、対話の時間さえも人によって変えているケースが多かった。なかには、目標を達成するための仕事の計画を週ごとに一緒に立て、進捗を細やかにフォローするといった並走スタイルも見られた。
このように個別対応する一方で、業務負荷については部下の力量を鑑みつつ、繁閑に応じて業務の割り振りを変えたり、一時的に業務を細分化して再配分したりするなど、全体での公平性を保つ工夫もしていた。
さて、ここまで対顧客、組織・職場運営、人材マネジメントという観点で13人の女性管理職の共通点を見てきたわけだが、これらすべての基盤となっているのは、おそらく彼女たち自身の価値観や経験ではないだろうか。
そこで、彼女たちが日頃から心がけていることやこれまでに自分の考え方に影響を及ぼしたものなどを聞いた。そこで浮かび上がってきたポイントは、何よりもまず全員が前向きで明るいこと。そして、自律的であることだ。特に後者について、出産や配属、人との出会いによって、自分で規定していた「こうでなければならない」「こういうものだ」という考えから脱却し、周囲と自分との立場・考え方の違いや変化にしなやかに応じられるようになった人もいた。
「管理職とは、部下の仕事について包括的な知識を持ち、どんな質問にも答えられなければならない」「育児をしながら、仕事も完璧に遂行しなければならない」。こうした思い込みを捨て、新たな枠組みで仕事や生活を見つめられるように変わったことで、彼女たちには周囲を変えていける力がより一層備わったのではないだろうか。
インタビューの最後に、生き生きと活躍する女性管理職を今後社内に増やしていくために、人事部はどのような支援をすべきかについて意見を聞いた。
そこで共通していたポイントは、まず人事部が現場をよく知ること、そのうえで制度を考え構築すること。そして、その制度が現場に浸透し根付くように、男性社員を含めた社員一人ひとりの考え方や意識を変える働きかけを継続して行い、風土を変えていくことであった。そんな取り組みがやがて、「女性」に限らずすべての社員一人ひとりが自律的に、そしてお互いを認め合いながら生き生きと働ける環境づくりに繋がるのだろう。
自身が管理職を務めてきた彼女たちの経験や意見は、様々な示唆に富んでいる。読者の企業にも、今回インタビューした13人の管理職たちのような生き生きと働く女性管理職はいるだろうか。もし今、その存在が1人でも思い浮かんだならば、その人々と対話をし、協力を得ることによって、御社での女性活躍推進のスピードと浸透度もまた変わってくるかもしれない。
※この記事は2015年3月に発行したHITO総研の機関紙「別冊HITO SPRING 真の女性活躍推進に向けて」でまとめた記事を再編集したものです。
本企画において取材した女性管理職の個別インタビュー記事は、
DODAの女性のための専門サイト「Woman Career」にて連載しています。
http://doda.jp/woman/guide/hito/
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