公開日 2015/01/07
男女問わず誰しも、一人の人間の中には男性的な側面と女性的な側面が存在し、人生の中年期に男性的な側面と女性的な側面の折り合いをつける。このように指摘するのは、心理学者ダニエル・レビンソンである。レビンソンは著書『ライフサイクルの心理学』で、男性的な側面の要素を「業績と野心(仕事で成功したり、出世したり、自分や家族のためを思って財産をつくったりするもとになる(資質))」、あるいは「体力や強靭さ(時間のかかる厳しい仕事を引き受け、"やめる"ことなく厳しい肉体的ストレスに耐えるスタミナ)」などと表現している。一方、女性的な側面の要素については、人の面倒を見て育成したり、人の成長を支援したりする資質であると指摘している。
そして、例えば20~30代に成功や権力といった男性的な側面を優先させて生きてきた人は、中年に差し掛かると成功や権力への欲求が和らぎ、他者を理解し受け入れたり育てたりといった女性的な要素への欲求が強まってくるという。中年期におけるこうした男性的な面と女性的な面の折り合いは、人間の発達に必要なことであり、後半の人生をより豊かなものにする重要なポイントなのだそうだ。
しかし、日本の企業戦士の多くは、定年までずっと男性的な面を優先させなければならない組織や状況に身を置いている。その代表例は、まず熾烈な社内出世競争だろう。日本企業では入社後しばらくは責任や権限が与えられず、昇進が叶い始める15年後の管理職の椅子を競って働く。競争する相手は主に同期入社社員や自分の2~3年前後に入社した社員だ。前年度売上対比で成長をはかる企業が多く健在である日本において、現場目標となる売上成績を競争相手の社員たちより少しでも多く上げるために長時間労働を厭わず働く。さらに年次別で行う研修方法が、同期を競争相手として意識させることにますます拍車をかける。
グローバルの企業と比べてみると、その特徴はより鮮明だ。グローバル企業はマーケットシェアを追求し、利益志向であるケースが多い。グローバル企業が市場(社外)に目を向け、将来の経営層候補を育てている間に、日本企業は自社の前年比成長に注目して力を注ぎ、社内競争を白熱化させてきたというわけだ。
また、評価方法も社内競争激化に一役買っている。まずグローバルの評価のやり方から見てみると、彼らは職務を明確に規定し、それについての出来不出来で絶対評価を行う。また、人事査定評価は管理職以上のみが対象となる。一方、日本企業では新入社員からほぼ全社員を対象に、人事査定評価が行われる。ただし、各職務の仕事内容や難易度などが曖昧であるため、評価は主観的に相対評価され、査定結果もフィードバックされない。しかも「成果」の定義も曖昧なため、「全力」「一丸」などといった「熱意」や「意欲」といったものが評価される。こうした状況が、熱意・意欲を態度や姿勢で示そうとする「会社人間」を生み、「長時間労働」を後押ししたのである。
これに加え、最近では個人主義を促進するような成果主義がまかり通っているために、チームの成果よりも個人の手柄を優先して評価する傾向がある。こうなれば、もはや敵は部下にまで及び、職場は完全なる個人同士の戦場と化す。後進の育成はままならなくなり、労働時間競争で不利な立場にありがちな女性は優秀であっても競争の舞台から降りざるを得なくなる。これでは女性躍進も期待できない。
グローバル化やICTなどの技術進展によってイノベーションが必要となっているなか、日本企業にとって女性躍進や後進育成は喫緊の課題である。特に女性躍進については、2020年に指導的立場の女性の割合を30%にすると政府も目標を掲げ、注力している。しかし実態は、2013年時点で管理的職業に従事する者のうち女性割合は11.2%程度と、米国の43.7%に比べ4分の1程度に留まる(図1)。
出典:内閣府「男女共同参画白書 平成26年版」
(備考) 1. 総務省「労働力調査(基本集計)」(平成25年)、独立行政法人労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2014」より作成。2. 日本は平成25年、その他の国は2012年(平成24年)のデータ。3. 総務省「労働力調査」では、「管理的職業従事者」とは、就業者のうち、会社役員、企業の課長相当職以上、管理的公務員等を言う。また、「管理的職業従事者」の定義は国によって異なる。
また、部長相当職に占める女性の割合を10年前と比較しても、2003年の3.1%から2013年の5.1%まで2.0ポイントしか伸びていない(図2)。これも、先に述べたような日本における出世や肉体的ストレス勝負に偏った組織文化が、女性の働きにくさを助長してきた結果と言えるのではないだろうか。
出典:内閣府「男女共同参画白書 平成26年版」
(備考) 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」より作成。
日本企業がグローバルで勝てる組織へと体質改善するためにも、今こそ日本のビジネスパーソンたちは、女性的な要素を取り戻すべきではないだろうか。そのためには、組織も男性的資質を偏重する在り方から脱却する必要があるだろう。例えば、市場シェアを追う経営に切り替えたうえで、チームワークを単位とした仕事の推進などは有効だろう。また、多様な人とチームを組んで効果的に働く方法を学べるようなダイバーシティ研修を積極的に実施するのもよいだろう。評価についても、個人単位ではなくチーム単位で評価をしたり、部下育成を評価ポイントに入れるなどの策が考えられる。これらの施策実行によって、女性の働きやすさも格段に変わるはずだ。日本企業が変わるには、女性自身の活躍はもちろん、男女問わず働く個人や組織の"女性的資質の躍進"が鍵を握っている。
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