公開日 2018/01/31
最終更新日 2020/03/06
前回のレポート『「働かないオジサン」は本当か?データで見る、ミドル・シニアの躍進の実態』で、躍進するミドル・シニアの割合は全体の2割であることをお伝えしました。それでは、躍進するミドル・シニアに共通する行動特性としてどのような特徴があるのでしょうか。
私たちは、まず「ミドルからの躍進を探究するプロジェクト」(法政大大学院石山研究室共同)に、調査研究パートナーとしてご参画頂いた日系大手製造業の協力を得て、そこで働く従業員とその上司、役員層の計約30名に対してインタビュー調査を実施し、躍進するミドル・シニア社員に共通する行動の特徴を洗い出しました。インタビュー調査に基づいて仮説を設計し、その上で2,300名に対するアンケート調査(※1)を通じて仮説の検証を行いました。
こうした一連の手続きに基づいて調査を実施した結果、躍進するミドル・シニアが実践する5つの行動特性が明らかになりました。
【図表1】躍進を促す5つの行動特性
5つの行動特性それぞれの概要を見ていきましょう。
躍進しているミドル・シニアには、自分が関わる仕事に対して、「外的キャリア」ではなく、「内的キャリア」に基づいて意味づけする、という行動特性があります。外的キャリアに基づく意味づけとは、「出世や昇進に有利な仕事である」など、目に見えやすい役職・ポストを基準に仕事を捉える態度を意味します。一方、内的キャリアに基づく意味づけとは、「専門性を発揮できる仕事か」「社会や組織の課題をいかに解決する仕事か」といった社会に対する意義・自分にとってのやりがいに基づいて仕事を捉える態度を指します。新人や若手であれば、上司や周囲が、担当する仕事の意味を考える機会を与えてくれることでしょう。しかし、ミドル・シニアになるとそのような援はなくなります。自ら主体的に仕事を意味づけできるか、時には外部の環境変化に合わせて仕事を意味づけし直すことも重要です。
躍進しているミドル・シニアには、「失敗を恐れず、新しい仕事に積極的にチャレンジする」という行動特性があります。キャリアが長くなると、仕事の習熟度が増し、この先どうすれば失敗するのか、ある程度、見通しがつくようになってきます。その失敗に対する既視感が足かせとなり、失敗を恐れて一歩踏み出すことが難しくなるのです。また、技能伝承はミドル・シニアの重要な役割ですが、「若者に譲る」という思考が前に出過ぎると、それは行動しないための言い訳となっている可能性もあるので注意が必要です。
躍進しているミドル・シニアには、「過去の経験を通じた教訓を振り返って自分の考えに昇華し、異なる場面でも適応できるように自分のノウハウにする」という行動特性があります。ここでのポイントは、「経験の振り返り」と「自論化」です。いくら経験が豊富であったとしても、それを振り返る術がなければ新たな場面で活用することはできません。また、変化が激しさを増す中、過去に経験した出来事と全く同じ状況に出くわすことはそう多くありません。他の場面でも活用できるよう、経験から得た教訓を自分の言葉で語れるようにしておくこと(自論化)も重要です。そのためには、例えば社外の勉強会に参加するなどして普段とは異なる人に、自分の経験やキャリアを発信する機会を積極的に設けることが有効です。
躍進しているミドル・シニアには、社外や他部門など多様な人とのコミュニケーションに意欲的で、積極的に自分とは異なる主張や意見を引き出し、受け止めようとする行動特性があります。特に同一組織に長くいると、つい自分の行動範囲を限定したり、受け身の姿勢で周囲からの接触を待とうとしたりする傾向が見られます。こうした態度は部下や後輩にも伝播し、職場の生産性に不可欠な情報伝達が滞ってしまう恐れがあります。この行動特性のポイントは、職場の飲み会やイベントを主体的に企画するといったことではなく、あくまで「仕事上の交流機会」を増やすということです。周囲に提供できる専門性や強みがすぐに思いつかない場合、まずは仕事上の課題を自ら周囲に発信して、年齢に関係なく、答えを求めて交流機会を増やすことも有効です。
躍進しているミドル・シニアにとって最も重要なことは仕事の目的を達成することであり、それに無関係な仕事相手との年齢差にはこだわらない、という特徴があります。私たちの調査(※1)によれば、上司の年齢が自分よりも年上から年下に逆転するのは、53.5歳であることが分かっています。つまり、50歳中盤からは大半が年下上司の下で仕事を進めることになる中、年下上司からの指摘を素直に受け止められなかったり、年齢差にこだわって仕事をうまく進められないことは躍進のブレーキ要因となります。年下上司にも年齢逆転に伴う配慮や遠慮があることが分かっています。受け身の姿勢で年下上司からの接触を待つのではく、よき理解者・相談役となるよう積極的にフォロワーシップを発揮することが重要です。
上述した5つの行動特性は、ジョブパフォーマンス(=ジョブパフォーマンスを上げている状態、躍進状態)に対して影響しているのかを検証するために、ジョブパフォーマンスを成果変数とした重回帰分析を行いました。その結果を示したのが図表2です。その結果、5つの行動特性はいずれもジョブパフォーマンスに対して統計的に有意に影響していることが確認されました。その中でも特に、「学びを活かす」と「年下とうまくやる」の2つが強い影響を示しており、重要な行動特性であることが明らかになりました。
【図表2】躍進を促す5つの行動特性とジョブパフォーマンスの関係
以上、本レポートでは、法政大学石山恒貴研究室と共同で実施した2300名のミドル・シニアを対象にした定量調査の結果を基に、「躍進するミドル・シニアが実践する5つの行動特性」をお伝えしてきました。躍進を促す5つの行動特性「仕事を意味づける」「まずやってみる」「学びを活かす」「自ら人とかかわる」「年下とうまくやる」は、いずれもジョブパフォーマンスに対して統計的に有意に影響していることが明らかになりました。中でも「学びを活かす」と「年下とうまくやる」は重要な行動特性であることも分かりました。
それでは、実際にどの程度の人がこの行動特性を持っているのでしょうか。また、思うような活躍が出来ずに伸び悩んでいるミドル・シニアの特徴とは一体、何でしょうか。そこで、次回レポートでは、今回お伝えした5つの行動特性を基にクラスター分析を実施し、5タイプに分かれたミドル・シニアの人物像に迫っていきたいと思います。どうぞお楽しみにしてください。
(※1)調査概要は以下の通りです。
株式会社パーソル総合研究所/法政大学 石山研究室 「ミドル・シニアの躍進実態調査」 |
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調査方法 | 調査会社モニターを用いたインターネット調査 |
調査協力者 | 以下の要件を満たすビジネスパーソン:2,300名 (1)従業員300人以上の企業に勤める40~69歳の男女 (2)正社員(60代は定年後再雇用含む) |
調査日程 | 2017年5月12日~14日 |
調査実施主体 | 株式会社パーソル総合研究所/法政大学 石山研究室 |
※引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所・法政大学 石山研究室「ミドル・シニアの躍進実態調査」
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