戦略人事の「運用」業務に着目して人事部員の育成を

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2021年10月、2022年6月と2回にわたり「人事部大研究」と銘打った調査を実施した。1回目は人事部の管理職が対象、2回目は管理職ではない人事部員を対象にしている。

1回目の調査 は、人事部の実態と戦略人事への取り組み状況を明らかにすることを目的としたものだ。ざっくりまとめると、「定例・定型的な人事労務管理が中心的」な役割だという人事部が約半数を占めており、戦略人事の実現に向けて、人事部門はこれまで以上に経営ボードと事業部門に近い存在になることが求められている。本社人事と部門人事(またはHRBP)の役割分担を明確にすること、そして、戦略人事のインフラとしてHRデータを活用することがカギになりそうだという結果だった。

2回目の調査は、非管理職の人事部員のキャリア意識に焦点を当てている。人事部員は、「事業部門連携」、「従業員支援」、「権限委譲」、「管理職の優秀さ」、「人事部内の連携」の実現度が高い人事部が魅力的だと考えており、「従業員対応」、「従業員支援」、「専門性発揮」にやりがいを感じている。また、「自社の人事部で管理職になりたい」者は24.6%と、他職種と変わらない水準である。人事部員というと、少々近寄りがたい会社側の人というイメージがありそうだが、むしろ従業員への寄り添い意識が強く、ごく「普通な」社員といえそうだ。ちなみに、「人材戦略立案から施策実行までを担っている」、「人事部から経営層に対して積極的な提言が行われている」という戦略人事的要素は、人事部員からみた魅力度・実現度ともに低いという結果だった。

そこで本コラムでは、人事部員たちが明日の戦略人事の担い手になりうるのか、その可能性を高めるためにはどうすればよいかについて紹介する。

  1. 戦略人事の担い手とは
  2. 「定型」業務はアウトソース、「定例」業務は高度化
  3. 人事部の中核人材には《ザ・人事業務》の経験を
  4. 武器はHRデータ
  5. 自社にこだわるエンゲージメントが高い人材は少ない
  6. まとめ

戦略人事の担い手とは

戦略人事を推進するためには、「経営の視点」、「事業の視点」、「従業員の視点」の3つが欠かせない。例えば、全社最適の人材ポートフォリオやDI&Eには「経営の視点」、専門人材の育成・登用には「事業の視点」、エンゲージメント向上やキャリア開発には「従業員の視点」が中心になるが、どれを推進するにしても3つの視点のバランスが重要だ。調査結果からは、人事部員の興味関心は少々従業員視点に寄りすぎているように見える。

一般に、人事部員は、管理職ではない一般社員層であっても労働組合の加入対象外になる企業が多いように、人事部員も従業員のひとりであるとはいえ、そもそも仕事を行う上で企業側の立場を忘れるわけにはいかない存在のはずだ。少なくとも、明日の「戦略人事の担い手」であるとするなら経営視点・事業視点の強化が望まれる。

それでは、「戦略人事の担い手」とは具体的に何をする人だろうか?まず、戦略人事を企画と運用に分けて考えてみよう。戦略人事というと企画ばかりが注目されがちになるが、企画ができても、それだけでは戦略人事は進まない。戦略人事を推進できるか否かは、企画の後工程の運用にかかっている。戦略分野では戦略策定よりも実行管理のほうが難しいといわれて久しい。これはそのまま人事分野にも当てはまる。

人事管理(評価・報酬・異動管理)を筆頭に、労使管理(組合交渉など)、組織開発、人材開発、採用等々の運用を見逃してはならない。これらの運用担当者も戦略人事に不可欠な担い手だ。

なぜ人事管理を筆頭に挙げたかというと、運用面では、担当業務によって、「経営・事業・従業員」の3つの視点を要求される程度が異なるからだ。給与・勤怠・福利厚生を中心とした労務管理であれば事務能力があれば遂行できる。しかし、人事異動や人事評価の調整になると、そうはいかない。3つの視点すべてが要求される。特に人事異動調整はその難易度が高い。人事異動が《ザ・人事》である所以だ。

「定型」業務はアウトソース、「定例」業務は高度化

前述のとおり、「人事部大研究」1回目の調査では「定例・定型的な人事労務管理が中心的」な人事部が約半数とのことだった。残り半数は、「人事施策の策定から実行」「人事施策の実行」を中心的な役割とする人事部だ。「定例・定型的な人事労務管理が中心的」を選んだ企業は、ルーチンを粛々とこなしているというニュアンスで回答したものと思われる。それが人事部の実態だ。

さて、「定例・定型的な人事労務管理」のあるべき姿としては、定例業務と定型業務は異なる。人事管理と労務管理も異なる。人事管理は多くは定例業務だが、定型業務ではない。労務管理の多くは定例業務であり、定型業務だ。

誤解を恐れずにいえば、定型業務・労務管理中心ならば、人事部は単なる事務処理部門だという意味に近い。しかし、定例業務・人事管理中心であれば必ずしもそうではなく、戦略人事の担い手たりうる。

定例業務と定型業務の字面は一字違いでも、その内容はまったく異なる。「定例」業務は月次や年次などのサイクルで周期的に発生する仕事ということで、簡単な仕事という意味ではない。「定型」業務は、マニュアルなどでやり方が決まっている仕事を指す。

人事部に定例的な仕事が多いことは至極当然だ。給与・勤怠・福利厚生などの労務管理は定例業務であり、かつ、標準化されている定型業務だ。人事評価や採用、異動などの人事管理は定例業務であっても事務手続き部分を別にすると定型業務ではなく、「経営・事業・従業員」の3つの視点を踏まえた判断が必要になる。本来、戦略人事の運用の多くは定例業務の中で行われるものだ。

アウトソースについては約7割の企業が何らか利用しており、給与計算では34.8%に達する(1回目の調査)。アウトソースは定型業務の外出しだけでなく、コンサルティング会社やシンクタンクなどの外部ノウハウの吸収手段にもなっている。また、アウトソースを行っている企業ほど人事部員の継続就業意向、管理職意向が高い(2回目の調査)。人事部内の業務構成が非定型業務寄りになり、人事部員がやりがいを感じる業務に従事しやすくなることが影響している。いずれにせよ、人事部を定型業務に埋没させないようにすべきであり、アウトソースは定例業務高度化、ひいては戦略人事へのシフトへ向けた後押し策の一つになる。

人事部の中核人材には《ザ・人事業務》の経験を

戦略人事の担い手を育てるために、人事部員に何をどう経験させるかは極めて重要だ。戦略人事の企画の主担当は管理職クラスが中心になる場合が多いとしても、運用は人事部員の担当余地が大きくなる。実際の業務分担は、企業規模や業態、人事部の規模や体制によって制約される部分も多いだろうが、ポイントは、人事評価調整や異動配置などの《ザ・人事業務》を経験させることではないかと考えている。

業務分担の方法は、垂直分業と水平分業に大別できる。垂直分業は、レベル別に仕事を分担するやり方だ。例えば、課長が決めた方針を受けて係長が企画し、具体的な実行計画を立てる。主任はその計画の成否を左右する仕事を担当して、若手は資料作成などで主任をサポートするというようなやり方だ。垂直分業の場合、人事権者や事業部門管理職への対応は人事課長にお任せということになりかねない。それでは、人事部員がザ・人事業務を経験していることにはなりにくい。任せる程度と範囲の見極めは必要だが、自ら矢面に立ってこそ3つの視点が身に付くというものだ。

一方、水平分業の典型は、各メンバーが同じ種類の仕事を同時並行的に行う並行分業だ。部門人事やHRBPのように基本的には同じ仕事だが、担当組織が分かれているようなパターンだ。このほか、人事評価調整を管理職担当と一般社員担当に分けるのも並行分業だ。ある範囲内とはいえ、ひとまとまりのザ・人事業務を経験し、3つの視点を強く意識できるメリットがあり、お勧めだ。

ところが、実際の人事部員のキャリア意向としては、「人事戦略・企画」、「人材開発・育成」が人気であり、「人事管理」の希望者はそれほどではない(2回目の調査)。人事戦略・企画や人材開発・育成のような華やかな響きがあるわけではないが、人事部員たちに戦略人事運用の重要性、人事管理業務の重要性をもっと強調していく必要がありそうだ。

武器はHRデータ

人事課長にとっても人事権者や事業部門管理職の矢面に立って人事評価調整や人事異動調整を行うことは簡単な仕事ではない。ましてや管理職ではない人事部員にとっては、尚のことだ。人事部員にとって、折衝相手の管理職はたいてい社内的な地位も経験も上だろう。では、無理難題なのかというと、必ずしもそうではない。人事部員にとって、HRデータは強力な武器になるはずだ。

人事情報の一元管理ができている企業ほど、戦略人事が実現できている傾向が明確だったが、従業員のキャリア志向や、スキル・強みのデータが一元管理されている企業は4割に満たない(1回目の調査)。 人事部が戦略人事を実現するため、そして、人事部員を戦略人事の担い手にするために、HRデータの拡充と分析が必須といえそうだ。

自社にこだわるエンゲージメントが高い人材は少ない

最後に、今どきの人事部員像について、気になった点を挙げておく。多くの人事部員は「普通な」社員で、特に自社に強い思い入れがある人が多いというわけではなさそうだ。人事職を続けたい人57.4%の半数近くは転職意向を持っており、他社の人事部へ行きたい(もしくは他社の人事部でもよい)と考えている。同様に、人事の管理職になりたい人29.7%のうち半数以上が他社人事部の管理職になりたい(もしくは他社人事部管理職でもよいと考えている(「人事部大研究」2回目調査)。もちろん、人事部員は転職してはならないなどということはない。ただ、この数字を妥当とみるか、課題ありとみるかは意見が分かれるのではないだろうか。

まとめ

パーソル総合研究所が実施した調査「人事部大研究」の結果から、人事部員たちは明日の戦略人事の担い手になりうるのか、その可能性を高めるためにはどうすればよいかについて見てきた。本コラムのポイントは、以下の5つである。

・人事部員は、従業員への寄り添い意識が強く、ごく「普通な」社員が多い。
・戦略人事の担い手になるためには、「経営視点」と「事業視点」の強化が望まれる。
・戦略人事は企画のみならず運用が重要であり、人事評価や異動配置の調整などの定例的な人事管理がカギを握っている。
・人事部員の育成上、それらのフロント業務を経験することが望ましいのではないか。
・事業部門管理職等との交渉にあたり、HRデータが人事部員の武器になる。

執筆者紹介

藤井 薫

シンクタンク本部
上席主任研究員

藤井 薫

Kaoru Fujii

電機メーカーの人事部・経営企画部を経て、総合コンサルティングファームにて20年にわたり人事制度改革を中心としたコンサルティングに従事。その後、タレントマネジメントシステム開発ベンダーに転じ、取締役としてタレントマネジメントシステム事業を統括するとともに傘下のコンサルティング会社の代表を務める。人事専門誌などへの寄稿も多数。
2017年8月パーソル総合研究所に入社、タレントマネジメント事業本部を経て2020年4月より現職。


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