公開日 2015/05/15
栃木工場において貴重な経験をした後、金融部門GEキャピタルリーシングへ異動となった木下氏。GEキャピタルリーシングは8年前にGE社が買収した旧・日本リースを母体にしており、GE社の企業文化の浸透が徐々に進んでいるという状況でした。統合後の課題の1つは社内の人事異動が滞っていることでした。そこで木下氏は、停滞していた人材の異動の流れを蘇らせるために動きます。
-栃木工場の後、金融部門のGEキャピタルリーシングへ異動されました。まったく異なる分野へ異動されたのですね。
木下氏: はい。しかし、人事としての動きは栃木工場の時と基本的に同じです。ビジネスの戦略を理解し、現場の声を集めて、ギャップを明らかにして改善する。意外にも栃木工場とGEキャピタルリーシングの間には類似点がありました。組織が縦割で、組織横断的な横の風通しが十分ではなかったところです。
逆に最大の違いは、栃木は工場1カ所で完結しますが、GEキャピタルリーシングは営業社員が全国に散在している点。そこで、全国行脚して人事面談や手作りのアンケートを回収して回りました。
当時GEキャピタルリーシングの成長戦略を実現するために、営業社員を増員したい部署や、社内プロセス短縮化などの重要なイニシアティブに、経験豊富で優秀な社員を計画的に配置する必要があったのですが、円滑な社内の人事異動を実現するのが難しい状況でした。
GEへの統合後に社内公募制度が導入されたのですが、多くの社員が「社内公募に応募すると、周囲に迷惑をかけることになる」と認識していて、応募することに抵抗感を持っていることがわかりました。「GEは社内公募制度を通じて異動が実現する仕組みをグローバルで活用しており、会社が仕掛ける人事異動が存在しない」と誤解している人が多数いました。
また数年前に業績賞与が導入されたのですが、部署異動すると現在と同等の業績賞与がもらえないかもしれないという不安の声も聞かれました。
そのため結果的に社内人事異動は停滞し、多くの人が統合後同じ部署で働き続けていることがわかりました。増員や欠員補充などでオープンポジションがでるとやむを得ず外部の中途採用に頼るしかない状況で、既存の社員のキャリア開発の機会が限定されている印象でした。部署を横断する人事異動がないことで、部署間の壁が厚くなっているようにも感じました。
そこで、社内の人事異動の活性化のために人事異動における障害を取り除いていくことに着手しました。まず異動した年の業績賞与は特別措置で年収の固定比率とし、異動時の経済的な不安要因を取り除きました。そして営業社員全員に異動の希望をとりました。同時に、営業リーダー・シニアマネジャーの合意を得て、ビジネスへの影響を最小限にするために年1回の一斉タイミングで実施できることになりました。
その結果、営業戦略上重要な拠点への増員、組織の風通しをよくする潤滑油として他部署への異動、優秀な社員のキャリア開発目的の異動、最年少支店長の任命など、様々な目的に沿った異動計画を作成し、全体の1割ほどの営業社員の一斉人事異動を実現することができました。
異動実施後は、「会社からの一方的な辞令ではなく、個人の希望も聞いてもらえたので納得感が高い」と、異動した社員から満足の声をいただきました。ビジネスの成長のために最適な人材配置と、個人の意思に基づいて成長を促すキャリア開発を実現することの両立がある程度できたと思います。やはり人事制度は運用が何より大事。機能していなければ意味がありません。
-人やビジネスを成長・活性化する運用方法を考えて人事は動かなければならないということですね。
-そんな矢先に、金融危機に直面したわけですね。
木下氏: 当時のGEキャピタルリーシングは順調に成長しており、営業組織に100名追加採用する案があったほどでした。それが金融危機で反対に、組織を縮小しなければならない方向へ一変。同じ経営陣が昨日までと正反対のことを言わなければならない状況は、非常に心苦しかったです。 またこの危機を受けて、別会社だったGEキャピタルリーシング法人とフリートサービス法人、そして買収によって新たに加わったGE三洋クレジット法人の3法人を統合し、GEキャピタル・ジャパンとして再編成する計画をより速度を上げて進めることになりました。私はGEキャピタルリーシングの人事責任者を務めながら、3法人の人事部門のCoE(*)化を進める役割を担いました。3社を統合したスケールメリットを最大限に生かして生産性を高めることに注力しました。
*CoE=Center of Excellence。各人事部門の統括およびナレッジの集約等を行い、全体でのガバナンスや最適なサービスを実現させる機能。
そうして、だんだんとGEキャピタル・ジャパンとしての組織経営やCoEの運営に道筋が見えてきた頃、私にGEキャピタル・アジアパシフィックに異動の話がきました。GE入社以降、メンターとしてもお世話になったインド人の人事リーダーに声をかけていただき、ご縁を感じました。まだまだ大変な状況だったので正直迷ったのですが、「こういう状況だからこそ、誰もが新しいマインドで歩き出さなければならない。自分も率先して前向きに次のステージへ挑戦しよう!」と決意し、ともに苦難を乗り越えてきたGEキャピタル・ジャパンの皆さんにもご理解いただいて、GEキャピタル・アジアパシフィックに異動することになったのです。
※金融危機を経て、GEキャピタル・アジアパシフィックへ異動になった木下氏。日本からアジアへ、国内を見る立場から、アジアパシフィック全域を見る立場へと飛躍します。グローバルの視座で多様な人材を知ったことで、改めて日本の人材に対する気づきがあったといいます。最終回の次回は、そんなGEキャピタル・アジアパシフィックでのお話から、今のお仕事に至るまでを紹介します。
■ 木下 達夫(きのした・たつお)氏
日本GE株式会社 人事部長
外資系消費財メーカーP&G人事部を経て、2001年日本GE株式会社入社。北米・タイ勤務を経験。その後、プラスチックス事業部ブラックベルト、06年同事業部栃木工場人事責任者、07年金融事業部人事ディレクター、その後同事業部アジア人材組織開発リーダーとして活躍。12年5月より現職。
※内容・肩書等はすべて取材当時(2014年12月)のもの。
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