人事部は今なぜ変わろうとしているのか? 〜企業人事の歴史から読み解く〜

人事部大研究コラムイメージ画像

日本企業の人事部は、ここ数年で大きな局面を迎えている。アフターコロナによる働き方の変化、ジョブ型雇用への転換、人的資本経営に資する人材投資の可視化など、これまでの変化とは桁違いである。人事部が自ら変わらなければ、これらの変革は進まないといっても、過言ではないだろう。

しかし2021年にパーソル総合研究所が実施した調査「人事部大研究」からは、人事部が従来の枠組みを超えられていない実態が浮かび上がった。戦略人事、タレントマネジメント、HRテックといった潮流に右往左往しているようにも見える。

人事部はどこを目指し、どうすれば変われるのか。『日本の人事部はどこに向かっていくのか?〜調査「人事部大研究」から見えてきた人事部の現在地~』と題し、日本企業を人と組織の側面で支える人事部に着目して、その現在地とあるべき姿を本コラム含めて3回にわたって明らかにしていく。

第1回の本コラムでは、今なぜ人事部は変わろうとしているのかについて、企業人事の歴史から紹介する。

  1. 高度経済成長を牽引した日本の人事部
  2. 民心平穏なレガシー人事部からの決別
  3. 戦略人事が意図すること
  4. ダイバーシティによって人事業務が煩雑化
  5. 本社人事による「選択と集中」
  6. 戦略人事ゆえの事業部人事/HRBP
  7. ジョブ型とHRBP
  8. まとめ

高度経済成長を牽引した日本の人事部

戦後から高度成長時代にかけて、「三種の神器」といわれる終身雇用、年功序列、企業内組合が海外とは大きく異なる日本固有の雇用として形成され、その牽引役は人事部であった。新卒一括採用に始まり、研修や人事異動、人事評価に退職制度など、働く人のキャリアに長期にわって関わる人事部の存在は大きく、企業の成長に貢献し、日本経済を人的側面から支えてきた(図1)。

新卒で大量に採用した人材を、自社仕様のゼネラリストとして育てるためにさまざまな部署に異動させたり、研修機会を与えたりしながら適材適所を実現することが人事部のミッションであり、結果的に従業員の給与やキャリアパスを決定づける存在として社内で影響力を持つ組織となっていった。また人事部に配属される人材は将来を期待されるエース級が多かったことや、秘匿性が高い業務特性から周囲からはブラックボックスとなっていたために、畏敬と猜忌の念が入り混じった存在でもあった。

図1:人事部の位置づけ

図1:人事部の位置づけ

筆者作成

民心平穏なレガシー人事部からの決別

しかし、バブル崩壊とその後の低成長時代で経済に陰りが見え始めたのと同時に、労働人口の減少を背景に企業有利の買い手市場から、働き手に有利の売り手市場に移行したことが軌を一にして、人事部の存在が相対的に低下してきた。例えば、高度なスキルを持つDX人材の獲得競争は激化し、これまで人事部が培ってきた新卒中心、ゼネラリスト的な人材を採用する手腕は発揮しづらくなった。高度な専門性をもつ人材のキャリア採用が必至となり、必然的に採用業務は本社人事から事業部といった現場に移行していったのである。

このように、買い手から売り手による労働市場の構造的な変化や、新卒大量一括採用・ゼネラリスト育成から中途通年即戦力・スペシャリスト採用への質的な変化など、これらに伴う人事部から事業部への権限の変化は、かつての日本型雇用を支えてきた、民心平穏を優先する「レガシー人事部」から決別することを意味し、時代に即応した新たな人事部に生まれ変わることが期待されるようになってきた。

その中で特に注目されているのが、本社人事と事業部人事、あるいはHRBP(HRビジネスパートナー)の役割をそれぞれ先鋭化していく「戦略人事」という考え方である。

戦略人事が意図すること

実は戦略人事という概念は海外で1990年代に登場し、日本でも戦略人事を掲げて人事部を刷新しようとする動きがあったが、限定的であった。しかしその後にグローバル化の加速、コロナ禍による働き方の変化、SDGsによる企業の健全なる持続性、多様性が問われる過程で日本型雇用の限界が露呈し、ジョブ型雇用転換への波が押し寄せてきたことで、近年になって再び戦略人事が着目されている。

今回実施した調査「人事部大研究」の結果から得られたのは、改めて「戦略人事とは何か?」を問い直す必要があるとの示唆であった。 「戦略人事とは、戦略的に人事を運営すること」にあるなら、その戦略はどこから来るのか?それは端的にいえばサステナビリティ(持続性)を目指す経営戦略と、アジリティ(機敏性)を追求する事業戦略に他ならない。戦略人事とはその両面をサポートする戦略パートナーとしての人事部、あるいはその人事的施策のことである(図2)。

図2:戦略人事の概念

図2:戦略人事の概念

筆者作成


このように定義すれば、人事部はこれまで以上に経営ボードと事業部に近い存在でなければならない。さらに言及すればVUCAワールドに身を置く昨今、刻々と変化する事業戦略を後追いするだけではなく、その先にある自社の人材や組織の姿を人事部が自ら描き、事業部が描く成長シナリオにバインドさせながら全社を先導していく存在として位置づけられていくべきであろう。

ハーバード・ビジネス・スクールで教鞭を執っていたラム・チャランは、「CHROの仕事で最も重要なのは、CEOが率いる経営陣の一員として、四半期ごとに社員のパフォーマンスを診断し、問題点を洗い出すことである。そのためにもCEOは、CHROとCFOの3者による定期的な会合『G3(三頭体制)』を設置することが大事だ」と述べていることに集約される。

また、本社人事は事業部に入り込んで現場に人材や組織の観点で支援したり、事業部人事は刻々と変化する日常に反射神経で応える柔軟性をもち合わせたりしながら、本社人事と事業部人事がこれまで以上に連携し、事業と経営に資する人事としての役割を果たすことが肝要となる。

ダイバーシティによって人事業務が煩雑化

今回の調査では、重要であると認識されながらも、その実行が伴っていない人事施策が散見された。人員や時間といったリソースに限りがある中で戦略人事を推し進めていくためには、本社人事による「選択と集中」が欠かせない。専門性の観点から最適な施策の選択をする、あるいは選択肢を増やす重要性は高まっている。そして選択と同時に重要なことは、重要施策を担う部署(本社人事または事業部人事/HRBP)への責任と権限の集中である。

しかし選択と集中の前に、効率性の観点でオペレーショナルな人事業務をアウトソーシングすることや、専門性の観点で外部機関を活用する余地を改めて探ることは、限られたリソースにおいては避けられない。なぜなら、レガシー人事部時代の同質性の高さゆえに画一的であった人事業務とは異なり、ダイバーシティを重視した結果、多様性ある高難度な業務が増えてきたからである。外国人労働者の雇用、副業・兼業の容認、正社員から派遣、業務委託に至る多様な雇用形態やテレワークの推進、シニア人材の活性化、女性リーダーの育成や経営幹部への登用といった、前例のない取り組みが積み重なってきている。眼前の業務に追われている限り、重要な人事施策に集中することが困難な環境にある。

外部への情報流失リスクがセキュリティーの強化によって低減されつつある今日では、自前主義に固執することなく、外部専門機関に委託、あるいは協働することで、煩雑さから解放されてはじめて、選択と集中に向かうことができる。

本社人事による「選択と集中」

重要施策の選択に関しては、専門性が高い領域(人事戦略や人事企画、人材開発、組織開発など)に配置できる人材が不足しているという調査結果から、前述のように例えば外部ブレインと協働することで成功事例の分析手法やデータの読み方といった知見が社内に蓄積され、最終的には経営ボードや事業部から戦略パートナーとしての信頼を得られるなど、選択肢を増やすとともに社内リソースの現状レベルに応じて最適な選択をする重要性は増している。

集中に関しては、調査で明らかになった重要度が高い一方で実行度が低い人事施策「最適な人員配置」「次世代経営人材の選抜・育成」「人事データの活用」の阻害要因を明らかにしなければ、いつまでも解決の糸口が見つからない。そのためにも、事業部人事では主導できない施策に関しては本社人事にその責任と権限を集中させて、阻害となっている要因を取り除いていくことが極めて重要となる。

戦略人事ゆえの事業部人事/HRBP

戦略人事に向けて本社人事と同等に欠かせないのが、事業部人事あるいはHRBPといった部門人事である。今回の調査結果からは、事業部人事とHRBPの区別が明快ではなく、両者の設置意図に曖昧さが見られた。戦略人事を推し進めていくのなら、部門人事の位置づけと役割・機能の明確な再定義からはじめることが肝要であろう。

戦略人事実現度が高い企業ほどHRBP設置率が高く、事業部の組織活性化の支援、事業部の社員との面談、事業部の社員のキャリア支援といったHRBPを通じた人事施策が、事業成長に大きく貢献していることも分かった。

HRBPの本来の設置目的は、自社の戦略人事推進に向けて本社と部門の人事それぞれが担う役割と機能を分けて、責任と権限を明確にすることにある。したがって本社人事は、女性活躍などの全社的なガバナンスを要する施策を実施する存在として位置づけ、HRBPは本社人事と緊密に連携していきながらも、事業部の事業目標を人事観点から支援する戦略パートナーとしての役割と、人事オペレーションを高度に遂行するアドミニストレーションのプロフェッショナル機能をあわせもつ存在として明確に位置づけるべきであろう。

ジョブ型とHRBP

ジョブ型人材マネジメントを導入し、推進していこうとする企業は、その特性からHRBPの設置はもとより、本社人事の権限をHRBPにより多く移譲していくことが求められる。具体的には、これまで人員計画を本社人事が考え各部門に人材を配分していたプロセスや、採用数を含めて部門単位で必要人員を決める人材リソースマネジメントを、HRBPに移譲する例などが挙げられる。これにより、自組織のニーズに基づいたタイムリーな採用と登用、育成と人材流動化によるダイバーシティの向上が期待できる。

HRBPに配置するべき人材として、本社人事・人事企画経験者、事業部経験者に加えて人材育成・コーチング経験者、経営企画業務経験者を配置するなど、部門の事業戦略に沿った人材の適用が望ましいことは、今回の調査からも明らかになったことだ。

まとめ

企業人事の歴史に沿って日本企業の人事部を取り巻く変化や戦略人事が着目されるに至った背景、戦略人事の要諦を見てきた。

 ・高度経済成長を牽引したレガシー人事部からの決別
 ・ダイバーシティ推進による人事業務の煩雑化
 ・本社人事による人事施策の「選択と集中」
 ・戦略人事の重要性とそれゆえの事業部人事/HRBPの役割

これらマクロ的な雇用環境の変化と同時に、コロナ禍が相まって加速している現在、人事部はより一層の変革を求められていることが分かる。

次の第2回コラムでは、変化しつつある人事部の実態を定量調査「人事部大研究」の分析と考察によって明らかにしていき、最終的には人事部がどこを目指せばいいのか、どうすれば人事部が変われるのか、を提言していく。

執筆者紹介

佐々木 聡

シンクタンク本部
上席主任研究員

佐々木 聡

Satoshi Sasaki

株式会社リクルート入社後、人事考課制度、マネジメント強化、組織変革に関するコンサルテーション、HCMに関する新規事業に携わった後、株式会社ヘイ コンサルティング グループ(現:コーン・フェリー)において次世代リーダー選抜、育成やメソッド開発を中心に人材開発領域ビジネスの事業責任者を経て、2013年7月より、パーソル総合研究所 執行役員 コンサルティング事業本部 本部長を務める。2020年4月より現職。また立教大学大学院 客員教授としても活動。

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