戦略人事実現の4つのポイント ~人事部が目指す姿と妥当解~

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本コラムは、『日本の人事部はどこに向かっていくのか?〜調査「人事部大研究」から見えてきた人事部の現在地~』と題し、日本企業を人と組織の側面で支える人事部に着目して、その現在地とあるべき姿を明らかにする(全3回)。

第3回の本コラムは、戦略人事実現に向けてどのような打ち手が考えられるのかを見ていく。

  1. 従業員規模5,000人を境に戦略人事実現度と人事部の特徴が分かれる
  2. 戦略実現度の高い企業の4つの特徴と自社にとっての妥当解とは
  3. まとめ

従業員規模5,000人を境に戦略人事実現度と人事部の特徴が分かれる

戦略人事の実現に向けた人事部のこれからを探るべく、従業員300人以上の企業を対象に定量調査「人事部大研究」を実施した。およそ半数の企業が人事部の役割は「定例・定型的な人事労務管理」が中心と回答しており、「戦略人事を実現している」との回答は約3割に過ぎない。回答者である人事部管理職には、従業員500人未満の企業の人事部管理職、1万人以上の企業の人事部管理職がそれぞれ2割弱含まれている。図1をご覧いただきたい。従業員規模別に見て、大企業ほど戦略人事実現度が高いのかというと、必ずしもそうではない。

図1:企業規模別戦略人事実現度

図1:企業規模別戦略人事実現度

出所:パーソル総合研究所「人事部大研究」


「戦略人事が実現できている」「どちらかといえばそう思う」という企業は従業員規模500人未満の企業で25.0%、2,000人~5,000人未満の企業でも27.7%と、5,000人未満については数百人であっても数千人であっても戦略実現度はほとんど同じような水準だ。ところが、5,000人を超すと、5,000人~1万人未満の企業では38.5%、1万人以上の企業では41.6%と、戦略人事実現度は10pt以上高くなる。

また、5,000人規模を境として人事部の組織体制にも変化が見られる。5,000人を超えると、役員クラスの人事責任者を置く企業が増え、CHRO設置率、人事担当役員設置率が10pt以上高くなる(図2)。人事部門を統括部や本部として位置付ける企業が10pt以上増え、傘下に人材開発、働き方改革、グローバル人事、HRテックなどの専門部署を設置する企業も目立ってくる。HRBPや部門人事の設置率も10pt以上増える(図3)。また、事務処理・データ処理におけるアウトソーシング利用率も10ptほど上がる。

図2:企業規模別CHRO/人事担当役員設置率

図2:企業規模別CHRO/人事担当役員設置率

出所:パーソル総合研究所「人事部大研究」

図3:企業規模別HRBP/事業部人事設置率

図3:企業規模別HRBP/事業部人事設置率

出所:パーソル総合研究所「人事部大研究」


5,000人規模を境に戦略人事実現度の高い企業が増え、人事部組織の位置づけや専門性を高めている企業が多くなることは確かだ。5,000人は人事部が質的に変化を起こす閾値のようにも見えるが、一方で、5,000人以上の企業であっても戦略人事を実現している企業は半数に届かず4割ほどに過ぎない。では、戦略人事を実現する人事部とはどのようなものなのだろうか。

戦略実現度の高い企業の4つの特徴と自社にとっての妥当解とは

企業規模にかかわらず、戦略人事実現度が高い企業の特徴を分析したところ、①「人事部・人事責任者の位置づけ」、②「人事部メンバーの専門性と事業経験」、③「アウトソースの活用と人材配置」、④「人材情報の一元管理と活用」という4つの特徴が見えてきた。

5,000人以上になると4つの特徴を備えた企業が増えるということではあるが、5,000人以上でなければ4つの特徴を備えられないということではない。肝心なことは自社の状況に応じた人事部の在り方をどう考え、形作るかだ。

①人事部・人事責任者の位置づけ

戦略人事実現度が高い企業の約75%は「人事責任者が経営会議に常時参加し、決定に対する影響力を持っている」、人事責任者の経営関与度が高い企業だ。組織の位置づけとしても、取締役会・社長直下に人事部を置く企業では約半数が戦略人事を実現できている。

戦略人事の実現状況を見ると、戦略人事として認識していながら実現できていない典型的な課題は「次世代人材の発掘・育成」だ。これは、トップが旗を振り、経営と人事部が一体となって全社視点で取り組むタレントマネジメントの代表的テーマになっている。特に上場企業ではコーポレートガバナンスコードの要請もあって、その推進体制の整備が進んでいる傾向があるが、「次世代人材の発掘・育成」の重要性は非上場企業であっても変わらない。また、それに限らず、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)や働き方改革など、経営戦略として捉え取り組むべき課題が増えている。人材の側面から企業のサステナビリティ(持続性)を高めるこれらの課題を主体となって推進するのは人事部(コーポレート人事部)しかないといってよい。

まず、経営に近い、しかるべき場所に人事部と人事責任者を位置づけることが、戦略人事実現に向けたポイントの一つだといえそうだ。もし人事部と人事責任者がそうした位置づけにない場合は、経営課題としての次世代人材、D&I、働き方改革などの重要性に対する経営陣の認識が不足している、人事部からの訴求や提案が十分でないということかもしれず、それらの重要性を経営陣に繰り返し説き続けることから始めなくてはならなさそうだ。

②人事部メンバーの専門性と事業経験

人事部に人事分野の専門性が高い人材と事業経験のある人材の両方が配置されている場合に、戦略人事実現度が高くなる。また、HRBP(HRビジネスパートナー)や事業部人事の設置率が高いほど、戦略人事実現度が高い。HRBPについては人事部管理職の間でも認知度は4割弱にすぎず、まだHRBPと事業部人事それぞれの役割の違いが明確に意識されているとは言い難い状況だが、形態がHRBPであれ事業部人事であれ、役割として「事業部長とともに組織構想や人事構想を検討している」企業は戦略人事実現度が高い。

人事部が従うべき「戦略」には2種類に大別できる。一つは前述の「経営戦略」であり、もう一つは「事業戦略」だ。換言すると、人事部はサステナビリティを追求するコーポレート経営陣の戦略・要請に応えるとともに、事業責任者の戦略・要請に応えることが期待されている。事業戦略・要請への対応にはアジリティ(機敏性)が求められる。人事部も施策を推進するうえで事業理解が欠かせず、そのためには事業部門との緊密な連携が必要だ。

HRBPや事業部人事の設置はその流れに沿うものだが、例えば単一事業の企業であれば、基本的に人事部が経営戦略・事業戦略両方への対応を行うはずで、HRBPや事業部人事を設置するかどうかは各企業の事業の数や規模に左右される。分業の在り方の問題といってもよいかもしれない。今回の調査では、HRBPと事業部人事の役割の切り分けをどうするか、また、HRBPを本社所属にするか事業部所属にするかなど、まだ明確な方向性が定まっているとはいえず、全社最適と事業部最適のバランスをどうとるか、各社の状況や考え方によってさまざまなパターンがありそうだ。

人事部のメンバー構成については、HRBPや事業部人事を設置しない場合でも、人事部経験しかない人事の専門家だけでなく事業部育ちの人材を人事部に配置することや、人事部員に事業部門経験をさせることなどが有効だ。

③アウトソースの活用と人材配置

戦略人事実現度が高い企業は、低い企業と比べて人事戦略・企画、人材開発・育成、組織開発を担当する人材の充足度が高い。人事部傘下にそれらの専門部署を設置するかどうかは企業規模などによるとしても、人事部に専門能力を持つ人材を配置すること、メンバーの専門性を高めることは欠かせない。これらの人材は全体的に不足感が強く、戦略人事実現のボトルネックになっている。

戦略人事実現度が高い企業と低い企業とでは、人事部内の各職務に対する人員配置の傾向が異なっており、戦略人事が実現できている企業では「給与・勤怠・福利厚生」「採用」担当の人員比率が低く、「HRテック推進」や「組織開発」「アウトプレースメント」担当の人員比率が高い。また、福利厚生、事務処理、教育・研修、キャリア支援、採用実務、人材開発企画など、給与計算だけではなく多くの業務でアウトソース実施率が高く、人事部メンバーは戦略的業務に重点配置している様子がうかがえる。全体では人事部の人員不足を感じている企業は約6割だが、今後人員を増やす予定の企業は2割弱にとどまる。なかなか人事部増員に踏み切ることもできない中、アウトソーシングの活用は有力な選択肢だ。

また、人員不足とともに、4割超の企業が「専門性をもつメンバーの不足」「企画構想力の低さ」など、人材の質についても課題感を感じている。戦略人事実現に向けて、アウトソーシング活用と人事部メンバーの専門性・企画構想力開発を同時に進める必要がありそうだ。
企画構想力向上というと個人の能力開発をどう行うかという視点にとらわれがちだが、1人でできなければチームでやればよいという発想でいくと、人事部のメンバー構成と企画プロセスを見直すことも人事部の企画構想力向上の答えの一つになりそうだ。

④人材情報の一元管理と活用

人材情報の一元管理を行っている企業は戦略人事を実現できている傾向が顕著だ(図4)。人材情報の一元管理を行っている企業のうちの6割以上が、「次世代人材の発掘・育成」「緊密な社内連携」「事業部の人的資源の調整・配分」「従業員支援」などが「十分できている」「ある程度できている」と回答しており、一元管理を行っていない企業よりも実現度が数十ポイント高い。ある面、人材情報の一元管理は戦略人事実現に向けて最も効果が高いといえるかもしれない。

図4:人材データ活用と戦略人事実現度との関係

図4:人材データ活用と戦略人事実現度との関係

出所:パーソル総合研究所「人事部大研究」


人材情報の管理状況を見ると、「人事考課・評価」「異動・経験部署」のデータは6割前後の企業が一元管理しているが、「キャリア志向やキャリア目標」「スキルや強み」のデータを一元管理している企業は35%程度に過ぎない。たいていは基本的な属性情報の一元管理に留まり、実際に異動配置などに活用できるレベルの人材情報は蓄積できていない。

また、戦略人事の主要な要素について戦略人事としての認識度と実現度を尋ねたところ、「データドリブンな意思決定」や「HRテクノロジーを使いこなす」は認識度・実現度ともに十数%と、数ある項目のなかで最も低い結果だった。残念ながら、人材情報の一元管理・活用が戦略人事に非常に有効なことに多くの企業が気づいておらず、実行していないということだ。

まとめ

戦略人事を実現するためには経営戦略・事業戦略を把握することが必要条件だ。人事部体制も整えなくてはならない。まだそれだけでは足りず、従業員のエンゲージメントを意識しつつ推進することが欠かせない。一元化された人材情報は戦略人事実現のためのインフラだ。ぜひ、戦略人事実現度が高い企業の4つのポイント

 ①人事部・人事責任者の位置づけ
 ②人事部メンバーの専門性と事業経験
 ③アウトソースの活用と人材配置
 ④人材情報の一元管理と活用

を押さえた自社なりの人事部の姿を探っていただきたい。

執筆者紹介

藤井 薫

シンクタンク本部
上席主任研究員

藤井 薫

Kaoru Fujii

電機メーカーの人事部・経営企画部を経て、総合コンサルティングファームにて20年にわたり人事制度改革を中心としたコンサルティングに従事。その後、タレントマネジメントシステム開発ベンダーに転じ、取締役としてタレントマネジメントシステム事業を統括するとともに傘下のコンサルティング会社の代表を務める。人事専門誌などへの寄稿も多数。
2017年8月パーソル総合研究所に入社、タレントマネジメント事業本部を経て2020年4月より現職。

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