管理職の在り方を考える(1) 日本企業の管理職は劣化したのか?

公開日 2015/10/28

「評判」と「徒弟制」を大事にしてきた日本企業

tsunagi500-300x300.jpg管理職の機能低下が叫ばれて久しい。
管理職は経営層とメンバーをつなぐ「連結ピン」の役割を期待されている、と社会心理学者のR.リッカートは言っている。「連結ピン」の役割とは、トップの意向を部下一人ひとりのやる気が出るように言葉を選び直して伝える一方、部下の不満をきちんと「提案」という形に仕立て直して経営側に伝えることである。

高度成長期において、日本企業はそのような「連結ピン」の役割を果たせる管理職に支えられて、良いものを造り続け、技術を伝承し、大きな成長を果たした。当時、そうした管理職人材の発掘において大切にされていたのは、「評判」と「徒弟制」である。具体的には、様々な部署をローテーションで回らせ、その人の仕事ぶりや周りとの協調性に対する社内の「評判」を、管理職への昇進に反映させた。そして、「徒弟制」という表現からも読み取れる通り、社員は様々な先輩社員と、親方-弟子関係と呼べるくらいの深い付き合いを通して、「専門力(技術力・現場力)」と「人間力」を身に付けた。さらに、そうして育った社員の中から仕事ができ、かつ人望も備わっているような「人間力」の溢れる社員を管理職に登用してきたのである。

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行き過ぎた効率経営で生じた「マネジメント劣化」

しかしバブル崩壊後、こうした企業のやり方に大きな変化が訪れる。売上が伸びない中、企業にとっては、経営として利益を出すためにどう効率化していくべきかが重要な課題となった。そこで、多くの企業は効率経営を最優先し、「人間力」を見てきた「評判」を度外視して、計数管理に強い人材ばかりを管理職に登用し始めたのだ。

Restructuring-300x225.jpg計数管理に強い人材は、経営効率のために組織や業務の効率化を主導した。中には、それだけでは経営危機から逃れられずに、「リストラクチャリング」という名の下、社員の解雇に着手せざるを得ない企業が少なくなかった。そんな今までに経験のない効率化施策によって、社員はやる気を奪われ、元気がなくなっていった。2000年代には、早期希望退職制度によるリストラや短期的に一面的な成果を求める成果主義が導入された。新卒一括採用を控える企業が続出したのも、この時期である。こうした施策の導入により、後輩に教える経験やノウハウは失われ、「徒弟制」は機能しなくなってしまったのである。失敗が報酬につながるだけに、社員には、目標設定において無難な企画や短期的プロジェクトに終始しようとする姿勢が生じ、個人主義・短期志向に陥った。こうして仕事や人に余裕がなくなり、OJTや技術伝承がなかなか進まなくなり、現場力が衰退していった。

管理職層のコアスキルである「専門力(技術力・現場力)」や「人間力」の軽視により、管理コアスキルが劣化したことを「マネジメント劣化」という(ただし、日本企業の専門力が「技術力・現場力」であるのに対し、グローバル企業の専門力が「企画力・戦略実行力」という違いで見ると「マネジメント相違」といえるかもしれない)。

「マネジメント劣化」は当然、人材マネジメントに大きく影響する。マネジメントそのものが機能せず、そうした上司の下では社員が育たず戦力化もなされず、優秀な社員のモチベーションを低下させ、やる気を失わせた。その結果、職場は荒み、業績が悪化した。社員は元気をなくすばかりか、メンタル不全を訴える人まで増加したのである。

マネジメントの在り方次第では、企業は成長どころか存続すら危うくなる。そのため、管理職人材をどう見立て、配置し、育成するかは非常に重要になってくる。


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