公開日 2015/10/14
近年、「不本意非正規」と呼ばれる層の存在が問題視されている。総務省「労働力調査」(平成25年平均)によれば、正社員として働く機会がなく、非正規雇用で働いている人(不本意非正規)の割合は、非正規雇用労働者全体の19.2%。25~34歳に限ってみれば、実に3割以上が不本意非正規となっている。
また、下図をご覧頂きたい。3,727名のビジネスパーソンを対象にインテリジェンスHITO総合研究所が2014年3月に行った調査結果(※1)の結果によれば、キャリアは自律的に形成するものと思いつつも、自分なりの見通しを持てずキャリアに不安を持つ人が非正規社員には多い傾向が示唆された。
非正規社員のキャリア意識が低く、不本意就労が続く状況は、企業経営にも大きな損失になることは言うまでもない。それでは、非正規社員のキャリア意識を高めるために、企業はどのような支援をすべきなのだろうか。ここでは、「キャリアラダー」という考え方をご紹介する。
キャリアラダーとは、知識・スキルの難易度に応じて職務を段階的に細分化し、本人の努力次第で上位職へ登って行ける道筋(ラダー:はしご)とそのための育成支援を提供する仕組み。つまり、「努力が報われるシステム」(※2)である。
もともとキャリアラダーの考え方は1980年代のアメリカで広まった。当時のアメリカでは、高度な専門性を武器にした高賃金労働者層と代替可能な低賃金労働者層の二極化が進み、中間に位置する職階が急減。低賃金労働者がエントリーレベルの仕事から抜け出せなくなり、短期間で職を転々とするようになった。こうした事態は経営にとっても無視できない問題に発展。そこで、「decent works(働きがいのある人間らしい仕事)」を求めてキャリアを高められるよう、中間の職階を復活させ、「キャリアラダー」を設ける動きが広まった。
キャリアラダーは、今日の日本企業における非正規社員の無期雇用化や戦力化を促す有効な施策として期待されている。現在では、特に看護の領域で導入が進んでいる。同領域では看護職に求められるレベルについて、ゼネラリストコースであれば5ステップ、マネジメントコースであれば8ステップ、専門職コースであれば6ステップと設定している。各ステップにおける「職務の目的」「臨床実践の目標」「目指すべき行動」「臨床実践の課題」が明文化され、これらの達成度を基準に上司との評価面談を通じて、ステップアップしていく仕組みだ(※3)。
ただし、キャリアラダーはどの業界・職種でも通用するものではない。キャリアラダー研究者のフィッツジェラルド(2008)は、キャリアラダーは看護職のように複数のスキルカテゴリーが実質的に存在し、連続性のある仕事組織でなければ、設計不可能だと指摘する(※4)。仕事組織のタイプを無視して設計してしまうと運用不可能な「偽のラダー」が生まれ、結果的に「やりがいの搾取」を招く恐れもある。キャリアラダー戦略をベースにしたキャリア形成支援は、非正規社員の無期雇用化を促すだけでなく、組織へのエンゲージメントを高め、生産性向上やコーポレートブランドの発展にも大きく貢献する可能性がある。
機関誌HITO vol.7では、その先駆的な企業としてギャップジャパン社の取り組みを紹介している。非正規社員を周辺人材ではなく、価値を生み出す主体として位置づけ、キャリア形成を支援することがはたく個人と経営にとっていかに重要であるかをご理解いただけるのではないだろうか。>>機関誌HITO vol.7 多様な正社員の未来
※1 同調査における非正規社員は1,420 名。なお、非正規社員には、契約社員、嘱託社員、パートアルバイト、派遣社員を含む。
※ 2 阿部真大 2010「論点提起Ⅰ 非正規雇用の日本的特殊性とキャリアラダー戦略の可能性」『キャリアラダーとは何か』(J.フィッツジェラルド著)勁草書房
※ 3 公益社団法人日本看護協会HP http://www.nurse.or.jp/ 2014 年10 月7 日閲覧
※ 4 J.フィッツジェラルド(2008)「キャリアラダーとは何か―アメリカにおける地域と企業の戦略転換」(筒井美紀,阿部真大訳)勁草書房
※本記事は、機関誌「HITO」vol.07 『多様な正社員の未来』からの抜粋記事です。
※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のもの。
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