中間層人材のタレントマネジメントの在り方が
次世代経営人材の発掘・育成効果を変える

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企業におけるタレントマネジメントの取り組みは、具体的にどのような状況にあるのか。また、これからどのような方向に進んでいきつつあるのか。本コラムでは、主に2020年に筆者が実施した大手企業の人事責任者/人事企画責任者向けヒアリングの結果を踏まえて、タレントマネジメントの動向について考察する。

  1. 企業におけるタレントマネジメントの動き
  2. タレントマネジメントに関する取り組みの優先順位
  3. 中間層人材を対象としたタレントマネジメントと、次世代経営人材の発掘・育成

企業におけるタレントマネジメントの動き

パーソル総合研究所では、かねてより「日本型タレントマネジメント」の調査研究に取り組んできた。そのひとつとして、2019年には「タレントマネジメントに関する実態調査」と題して、人事部門の役職者300人を対象に定量調査を実施している。同調査結果では、すでに用語としての「タレントマネジメント」は人事部門にある程度広く認知されていた。

図1:人事用語としての「タレントマネジメント」の認知状況(n=300)

図1:人事用語としての「タレントマネジメント」の認知状況(n=300)

タレントマネジメントに関する取り組みの優先順位

ただし、一口にタレントマネジメントといっても、その定義は多様であり、匿名のアンケートや量的調査だけでは取り組みの実態や具体論は見えづらい。業種・企業形態や従業員数、さらに各社の方針や背景によって取り組みが異なることも想定される。そこで、2020年に大手企業の人事責任者/人事企画責任者にタレントマネジメントの具体的取り組みに関するヒアリング調査を行った。

調査結果は約30社のヒアリングを行った中から、グループ企業の親会社ポジションにある会社21社を抜き出してまとめている。それはなぜか。親会社ポジションの会社と子会社とでは、タレントマネジメントのテーマに明確な違いがあったためだ。過去3年間・今後3年間のタレントマネジメントに関する取り組みとして優先順位が高いものを聞いた結果、親会社ポジションの会社では過去3年間、今後3年間とも、優先順位第一位は「次世代経営人材の発掘・育成」だったが、子会社では、このテーマは親会社主導で行っているとの回答が多く、タレントマネジメントのテーマからすっぽりと抜け落ちている様子が見られた。グループ経営の企業では、親会社人材の子会社経営ポジションへのアサインに加え、主要子会社間での経営人材のクロスアサインが活発化しつつあるものの、持株会社を除けば、子会社プロパーからの次世代経営人材の発掘はまだ緒に就いたばかり、未着手に近い状況といえそうだ。タレントマネジメントを子会社目線で見た場合、現状では次世代経営人材の発掘・育成は親会社の担当領域との認識が強いのではないだろうか。

こうした背景から、親会社ポジションの会社に注目し、タレントマネジメントの取り組みの優先順位を聞いた結果が下図だ。

図2:タレントマネジメント関連の取り組みの優先順位(過去3年間)

図2:タレントマネジメント関連の取り組みの優先順位(過去3年間)

図3:タレントマネジメント関連の取り組みの優先順位(今後3年間)

図3:タレントマネジメント関連の取り組みの優先順位(今後3年間)

「次世代経営人材の発掘・育成」は、親会社ポジションの会社ではコーポレートガバナンスコードの影響もあり、経営陣からの要請が強い。これまでもこれからもタレントマネジメントのメインテーマだ。すでに十年来取り組んでいるとの会社も多く、指名委員会の前段階に社内の人材委員会を設置し、毎年定期的に人材プールを更新しているなど、次世代経営人材の発掘・育成の「型」が整ってきているようだ。その効果として、初期の人材プールからの登用者が出始めている、登用年齢が早まっている、事業部門間・子会社間でのクロスアサインが活発になってきているなどの声が聞かれる。次世代経営人材の発掘・育成については「型」は整ったので、次は、人材の将来性を具体的にどのような手法でどう判断するか、社内の人材委員会のメンバー構成や内容をどうするのかといったソフト面のブラッシュアップに課題が移ってきている。

また、今後については、事業構造転換の流れを受けて、新規事業企画やDXなどの「戦略的ポジション人材の発掘・育成」への注力度が高まってきている。こちらは各社とも戦略的ポジションの特定、高度専門職の処遇制度の見直しなどの動きが活発で、キャリア採用による人材獲得競争の様相を呈している。

中間層人材を対象としたタレントマネジメントと、次世代経営人材の発掘・育成

次世代経営人材、戦略的ポジション人材とも、戦略からのカスケードが大前提であり、多くの社員のうちの数%を対象にした「選抜型」のタレントマネジメントだ。そのせいもあって、特に自社の次世代経営人材発掘・育成の運用実態は、人事部門の中でも一握りの人のみが知り得るブラックボックスで、その考え方や枠組みも社内で公に語られることはほとんどないようだ。選に漏れた社員のモチベーションへの配慮ということだろうが、もはや経営職は全社員(総合職)が参加する昇進トーナメントの勝ち上がりではなく、経営職としての専門能力・経験で決定するものになりつつある。そもそも、仕事や働き方に対する考え方が多様化している昨今では総合職といえども全員が経営職を目指すというステレオタイプの前提自体が怪しく、経営人材のキャリアパスに乗れないからといって、即、大多数の社員のモチベーション低下につながるということではないだろう。むしろ、次世代経営人材発掘・育成の考え方や枠組みを社員に明示した上で、経営職への意志と適性がある人材を早期にプールし、育成していく必要があるように思う。

一方、大多数の社員にタレントマネジメントは無縁なのかというと、そんなことはない。優先順位としては、喫緊の対応を要するコーポレートガバナンスコードと事業構造転換の関係上、次世代経営人材と戦略的ポジション人材の陰に隠れがちであるが、構造的な人材不足や働き方改革、エンゲージメント重視等々の流れを受けて、すべての社員を対象とした「適所適材・適材適所の配置」「キャリアプランへの組織的支援」の重要性がこれまで以上に高まっている。ヒアリング調査においても、中間層人材については個々人の意思や意欲を尊重した社内公募制を軸とする動きがみられ、人事の変革がすでに始まっている気がしてならない。会社主導で仕事と人材をマッチングさせることと、社員本人がやりたい仕事に手を挙げることとでは、少なくとも昇進を含めた異動配置に関する人事権の在り方や運用体制が大きく異なってくる。もちろんそれにとどまらず、キャリア開発・支援の在り方も変わる。

マネジメントポジションやグループ会社ポジションを含むできるだけ多くのオープンポジションを用意し、手挙げ運用を拡大することによって、社員のキャリアパスは本格的に自律化し、多様化する。裏を返せば、社員にとって経営ポジションも多様なキャリアパスの選択肢のひとつにすぎなくなるということだ。そうすると、若年層からの次世代経営人材の発掘・育成もオープンに行うことができ、効果が上がるように思うが、皆さまはどうお感じだろうか。

執筆者紹介

藤井 薫

シンクタンク本部
上席主任研究員

藤井 薫

Kaoru Fujii

電機メーカーの人事部・経営企画部を経て、株式会社日本総合研究所において20年にわたり人事制度改革を中心としたコンサルティングに従事、主席研究員/組織人事戦略クラスター長として同分野を牽引する。その後、タレントマネジメントシステム開発ベンダーに転じ、取締役としてタレントマネジメントシステム事業を統括するとともに傘下のコンサルティング会社の代表を務める。労政時報など人事専門誌への寄稿も多数。
2017年8月パーソル総合研究所に入社、タレントマネジメント事業本部 クライアント・パートナー部 部長を務める。2020年4月より現職。

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