公開日 2017/10/04
2017年9月13日東京フクラシア東京ステーションで『【デジタル化を通じた戦略的人事の実現】~人材活用の効率性2倍の仕掛け~』セミナー(株式会社パーソル総合研究所、テンプスタッフキャリアコンサルティング株式会社共催)が開催されました。基調講演では株式会社people first代表取締役八木洋介氏に「デジタル化時代の心の通う人事」と題し、デジタル化時代に人事が取り組むべき課題などについて講演いただきました。
昨今、デジタル化が進み、人事の分野でもデータを活用することが必須となっています。人事データを活用することで、人事上の不便の解消や適材適所の実現、採用の成功などに貢献することが見込まれます。しかし、ただデータを利用すれば、人事の仕事が務まるわけではありません。データを活用することは、今や当たり前のことであり、人事としての真の差別化はデータ化できないところから生まれると私は考えています。『ワーク・ルールズ!』という書籍で、元グーグルの人事部門のトップであるラズロ・ボックは「直観を信じるな、データを使え。しかし、同時にハートも使え」という趣旨のことを書いています。データにもとづきながらも、心のこもった人事施策をすることが必要だと私も考えています。
では少し具体的に、私が株式会社LIXIL時代に実践した戦略人事の考え方についてお話しします。
人事戦略を作るといった時に、まず必要なのは目標を設定することです。目標がなければ、人事戦略を作ることはできません。LIXIL時代に掲げた目標は「人と組織で最高のパフォーマンスを出す」ということでした。目標を明確化すると、比較的容易に戦略が見えてきます。「人と組織で最高のパフォーマンスを出す」為にまず第一に考えたことは「人を活かす」ということです。この目標を達成するために、最高の人材を採用することや一番仕事のできる人に一番難しい仕事を任せること、人材を育成することなどを実施しました。以下、施策を具体化していく際のポイントを見ていきましょう。
人材を適切に評価するということは非常に難しいことです。教科書的によく、客観的に評価しないといけないということが言われますが、最終的に人間が評価する以上、究極的に言えば、主観的な評価にならざるを得ません。しかし当然ですが、単に上司が主観的に評価をすればいいということではありません。公正さ(フェアネス)を担保するために大切なのが議論をすることです。そして、この議論のツールとして有効なのが「9ブロック」です。「9ブロック」とはパフォーマンスを3段階、バリュー(リーダーシップ等)を3段階に分けてマトリックスにしたもので、これをもとに議論をして、適切な人材の評価を実現します。そして、当然ですが、評価に関わる者は常に主観を磨く努力をすることです。
よいパフォーマンスをしてもらう上で、モチベートすることは非常に重要です。モチベートする要因として、外的要因の代表的なものに報酬があり、内的要因の代表的なものにキャリア選択があります。報酬に関しては、どのような報酬体系であればモチベートすることができるのかを真剣に考える必要があります。内的要因であるキャリア選択に関しては、自分のキャリアを自分で決められるようにすることが重要です。やらされた仕事をやっていてもモチベーションは上がりません。本人がやりたい仕事を適切にアサインすることでモチベートすることができるのです。
組織設計にはいくつもの考え方がありますが、私が基本と考えているのは、組織階層を少なくすることです。私が考える組織の方程式を使用すると、約5万人の会社で5階層、約30万人の会社で6階層になります。変化に対応し、イノベーションを生むことが重視される中で、階層が多い組織ではイノベーションを阻害してしまう可能性があります。
「グローバル」の特徴を一言で言うと、「ダイバーシティ」です。お互いの違いを認めた上で、公平で一貫性があってストーリー性のある施策を取ることが重要です。日本の会社では、男性中心の年功序列制度など年配の男性が優遇される施策を行っている例が多く見られます。しかし、このような制度を外国に持ち込んだとしたら、必ず差別として非難されます。当たり前のことですが、年齢や性別などに関わらず公平な施策を実施して能力のある人によいパフォーマンスを出してもらうことが重要です。
人を育てるという時に、効率的な学びとして取り上げられる「経験70%、薫陶20%、研修10%」というのは正しいでしょうか。私は違う形で、経験と薫陶や研修を捉えています。経験や学びは非常に重要ですが、そのままではなかなか実践では役にたちません。経験や学びは、研修や薫陶という刺激を与えることで、気づきをもたらします。本人が気づきから経験や学びを整理し、そのことについて深く考えることで再現可能で実践的な知恵を得ることができると考えています。
また、信頼して権限を委譲することも重要です。「報連相」などのマイクロマネジメントをしていては、部下のモチベーションは上がらず、成長もしません。さらには経営のスピードを落とすことにもつながります。部下を育てる上で上司がするべきことは、大きなビジョンを示し、部下を信頼し、必要な時には相談に乗ることです。人は任され、責任を果たしてこそ成長するのです。ただ、信頼を破ったときには、厳しく接することは当然です。
社員がやる気をなくすのはどのような時でしょうか。会社の戦略や方針に疑問を持ち、やる気が出ない社員もいますが、多くが当たり前のことができていない組織を目の当たりにした時にやる気をなくすのではないでしょうか。例えば、きちんと挨拶をする、人を信じ尊重する、悪いことをしている人がいないなど、理不尽で当たり前のことができていない組織では、社員はやる気をなくしてしまいます。理不尽を排除し、当たり前のことをしっかりやるということが重要なのです。
一般的に、ある分野でプロになるには、1万時間が必要といわれています。そして、1万時間という経験や学びの時間を確保する為には、自ら継続的に努力することが不可欠です。しかし、自ら継続的に努力をすることは、誰にでもできることではありません。そこで薫陶や研修といった刺激から気づきを得て、モチベーションにすることが重要だと考えています。私は次世代リーダーに対し「教科書があることぐらいは勉強しなさい」と言っています。戦略やマーケティング、ファイナンスなど経営の分野にはしっかりした教科書があり、最低限学べるものくらいは勉強していないとグローバルレベルの競争には勝てません。
リーダーとは他人をリードする人のことですが、他人をリードする為には自ら継続的に努力するなど自分をリードできるような人である必要があります。日本人は子供の頃から自己主張を抑えなさいと育てられますが、日本人以外は自己主張を促進するように育てられています。日本人がリーダーとなる為には、自分の中にしっかりとした軸を持って、自分も他人もリードしていくことが必要です。
LIXILでは8〜9か月のリーダーシップ研修を実施しました。「気づきを与える」という効果を最大にするため一定の期間をあけて(2か月程度)定期的に集まってもらいました。また、研修での気づき、考えたことをエピソード記憶として頭に刻みつける効果を狙って、万里の長城やモンゴルでの研修も実施しました。人との接触を断ち、自然の中に身を置くことで徹底的に自分の人生観や、経営観、すなわち先ほどいった「軸」を作ることに集中してもらいました。
人事の役割にとはなんでしょうか。人事とは自らが変革者であり、会社のビジョンの語り部、社員を啓蒙する人です。また、インパクトのある言葉、記憶に残る言葉で社員に気づきを与える存在でなければなりません。そして本来、人事とは血の通った、生き生きとしたものです。規則やルールで縛るのではなく、人の思いを実現する人事を実現することが重要です。
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