非管理職層の異動配置に関する実態調査(2021)

公開日:2022年4月1日(金) 

調査概要

     
調査名 非管理職層の異動配置に関する実態調査(2021)
調査内容 非管理職層の異動配置の考え方と取り組み実態、今後の方針を明らかにする
調査対象

●大手企業31社(五十音順)
株式会社アマダ/株式会社インフォメーション・ディベロプメント/H.U.グループホールディングス株式会社/株式会社ATグループ/SBテクノロジー株式会社/エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社/大塚製薬株式会社/岡三証券株式会社/オリエンタルモーター株式会社/鹿島建設株式会社/キヤノンITソリューションズ株式会社/グローリー株式会社/サッポロビール株式会社/株式会社商船三井/J.フロント リテイリング株式会社・株式会社大丸松坂屋百貨店/住友電装株式会社/双日株式会社/ソフトバンク株式会社/東京海上日動あんしん生命保険株式会社/日本たばこ産業株式会社/日本通運株式会社/日本郵船株式会社/パナソニック株式会社インダストリー社/パナソニック株式会社コネクティッドソリューションズ社/ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社/株式会社ポーラ/本田技研工業株式会社/株式会社ミツトヨ/ヤマハ発動機株式会社/株式会社ユナイテッドアローズ/株式会社ラクス※企業名は2022年3月現在
●人事責任者/人事企画責任者
●調査対象一覧に社名開示するが、伺った内容と個社名をひもづけて掲載しないことを条件に協力いただく
●ご協力企業プロフィール
・従業員規模10,000人以上(製造業4社・非製造業2社)
・従業員規模5,000~9,999人(製造業3社・非製造業4社)
・従業員規模3,000~4,999人(製造業4社・非製造業3社)
・従業員規模3,000人未満(製造業4社・非製造業7社)
合計 製造業15社・非製造業16社
※工場を持つ企業を製造業、それ以外を非製造業に分類した
※人数は単体の正社員数

調査時期 2021年6月3日~8月19日
調査方法

1社当たり60~90分のヒアリング調査

実施主体 株式会社パーソル総合研究所

※報告書内の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、合計と内訳の計は必ずしも一致しない場合がある

調査結果(サマリ)

非管理職層の異動配置方針は「あると言い切れない」企業が大半を占める

非管理職層の異動配置について「明確な方針がある」という企業は約2割。(図1)。適所適材・適材適所の重要性とは裏腹に、方針が確立しているとは言い難い様子がうかがえる。

図1.異動配置方針の有無

異動配置方針の有無

人事部門の多くは人事異動案を作らない

「誰がどこに異動するか」という人事異動案を人事部門が作る企業は全体では約3割(図2)。製造業では1割にすぎない。人事部門は管理職の異動と事業部門間異動を担当し、非管理職層の異動については各部門に任せる形だ。特に、大手の製造業は事業や職種の種類が多く、それらに即した人事異動を行うために、方針策定を含めて各事業部門に委ねる傾向が強い。

各事業部門で人事異動案を作成する企業のうち、部門人事の専門組織を設置している企業は4分の1であり、その他の企業では各事業部門の企画室や管理部などの組織が人事異動業務も担当している場合が多い。中には事業部門の支援役としてHRBPや職能本部組織を置く企業もある。

図2.人事異動案の作成主体

人事異動案の作成主体

※割合は全31社に対する値
※人事部門が規定上の人事権を持っていても原則として部門案をそのまま承認するという運用になっている場合は「各部門」とカウント

「適材適所」型の人事異動を行う会社は思いのほか少ない

適材適所型の異動は定期異動で実施される

毎年4月・10月など決まった時期に行う定期異動が中心の企業と、必要に応じて行う随時異動が中心の企業が半々(図3)。

定期異動型の企業には人事部門の人事権が強く、ポジション想定前にあらかじめ異動候補者リストを作るという適材適所型の人事異動を行う企業が多い。一方、随時異動型の企業は基本的にポジション起点の異動しか行わない。日本型人事の典型のように思われている適材適所型の人事異動を行う企業は3割程度にすぎず、非管理職層についてはすでにポジション起点で行われる異動が中心になっている。

図3.定期異動と随時異動

定期異動と随時異動

目配りされないミドルパフォーマー

ミドルパフォーマーは異動させる必要がないのか?

人事評価と人事異動の関係(図4)では、事業部門は直近の生産性を重視して配置を行う傾向がある。そのため、ミドルパフォーマーは各部門の基幹戦力といった位置付けになり、事業部門からすると何か特殊事情がない限り「異動させる理由がない人」になる。

図4.評価成績と人事異動

評価成績と人事異動

このヒアリング調査と並行して実施したインターネット定量調査「一般社員層(非管理職層)における異動配置に関する定量調査」によると、同じ部門に5年以上在籍すると成長志向、学習意欲、キャリア自律への関心が下がってくる(図5)。現時点では問題なく今の部署で今の仕事を続けているミドルパフォーマーも、先々のキャリアを考えた場合には定期的な棚卸し機会を設けるほうがよさそうだ。

図5.非異動経験者の知識形成面、意欲面の状態(在籍年数別)

非異動経験者の知識形成面、意欲面の状態(在籍年数別)

※社内知識形成、学習意欲、キャリア自律度については、1項目ずつ抜粋
※聴取方法:あてはまるーあてはまらない5件

特に後回しになりやすい事務系のミドルパフォーマー

技術系の職種は専門性がはっきりしており職種別リソース管理の必要性も高いため、職能本部組織などが全社横断的に担当職種を目配りしている場合も多い。一方、事務系については、財務、法務などの職種を除くと職種別に全社横串でリソース管理をしている企業はほとんど見られない。

事業部門に人事権がある場合、人事部門は事業部門が作成した異動案を確認することはあっても、異動案に入っていない人材の異動を検討することはほとんどなく、誰を異動候補とするかは部門任せになりがちだ。

人事部門はミドルパフォーマーに関する課題意識を持っていても、ハイパフォーマーとローパフォーマーへの対応の優先順位が高いため、どうしても後回しになるというのが実態だ。

一般的ポジションの社内公募にも関心は高いが様子見状態

一般的ポジションの社内公募に踏み切れない理由

社内公募は対象とするポジションによって3つのパターンに大別できる。①新規事業などに限定する、②一般的ポジションを含む、③特定業務に限定する、の3つだ(図6)。

図6.社内公募のパターン

社内公募のパターン

社内公募を新規事業などに限定する企業は比較的多い。既存事業の営業など一般的なポジションの公募については、積極的な企業がある一方で、拡大したいが踏み切れない企業も多い。

その理由は主に2つで、ひとつは転出部門の欠員補充が難しいというもの、もうひとつは戦略的配置を行いにくいというものだ。特に欠員補充を課題として挙げる企業が多い。一方で、積極推進している企業のコメントを聞くと、ある面、割り切りの問題のようにも見える。

若年層は適性の見極め方で異動配置方針が大きく変わる

新卒から10年目までの若年層については、「10年間で3部署」から「原則として異動なし」まで内容はさまざまだが、各社それぞれ決まったやり方があるといってよさそうだ。非管理職層、特に若年層の異動配置のやり方は業種ごとにかなり似通っている。

別の観点では、大きくは人事権の所在と人材育成観によってパターンが分かれる。その組み合わせで若年層の異動配置には各社なりの型ができているといえそうだ。

新卒の職務適性をいつ誰が判断しているかは4つに大別できる(図7)。各企業ともどれかに軸足を置いているものの、実際には4つのやり方を組み合わせている。

図7.適性判断の主体とタイミング

適性判断の主体とタイミング

30代半ばから優秀人材の選抜・育成配置の動きが本格化する

30代半ばから40代前半はマネジメント人材の選抜が焦点

各社にある程度共通する年代層別の異動配置傾向を紹介する(図8)。

図8.年代層別の配置概況

年代層別の配置概況

各企業とも30代半ばには各人の適性判断にほぼめどをつけ、優秀者選抜の動きを加速させている。まずは管理職や次世代経営人材候補選抜の優先順位が高い。育成重視の次世代経営人材プール編成も30代半ばから本格化する。30代半ば以降は管理職や次世代経営人材候補として選抜された人とそれ以外の人とで、異動配置方針が分かれる。

ハイポテンシャル人材の部門横断的育成配置に注力

30代半ば以降の中堅層になると各部門の抱え込みも強くなり、特にハイポテンシャル人材の抱え込みは、事業部門の人事権が強い企業の人事部門共通の悩み事になっている。その中で、人事部門が意志を持って少数のハイポテンシャル人材にターゲットを絞って、育成のための部門横断的配置に取り組んでいる様子がうかがえる。ハイポテンシャル人材同士のトレード的な異動や、登竜門的な仕事を経験させるパターンは今も健在だ。

専門性が乏しい専門職の配置に苦慮

30代半ば以降、管理職以外の社員の配置は固定化してくる

30代半ば以降、管理職以外は広い意味で専門職的な人ということになるが、必ずしも「非管理職=専門性が高い専門職」ということにはならない。

専門職的な人は、30代前半以前に比べて異動頻度が少なくなり、特に事業部門に人事権がある企業のミドルパフォーマーの場合は同一部門に長期在籍し、特別な個人事情や事業上のニーズがなければ各部門の基幹戦力として同じ業務を担当し続けるパターンが増える。

40代半ば以降は専門性の有無が鍵になる

40代半ばになると管理職は経営人材に向けて切磋琢磨の真っただ中で、そのほかの人が新たに管理職登用される機会は激減する。かといって、必ずしも本格的な専門職として通用する人は多くはなく、実質上、専門職と「管理職でも専門職でもない人」とに分かれてしまう。 後者はしっかりとした専門分野を持った専門職というより、もっぱら同じ仕事を長く担当してきたベテランであり「専任職」と呼ぶほうがぴったりくる(図9)。

図9.40代半ば以降の配置

40代半ば以降の配置

40代半ば以降は相当数の専任職的人材を抱える企業が多く、その配置が課題になっている。専任職的人材の配置は、①消去法で現在の業務を担当し続ける、もしくは、②高度な専門性が要求されない業務に量的バッファとして配置されるというパターンが多い。②の場合、人材需給状況に応じて会社都合で異動を繰り返すことも珍しくない。

50代半ば以降は元管理職も専任職的人材に

50代半ばを過ぎると管理職ポストを外れた元マネジメント人材が増える。管理職離任後、専門職として通用すれば問題ないのだが、実質的に専任職的人材の数が増え配置に苦慮する状況になっている(図10)。また、役職定年制については見直しの動きも出てきている。

図10.50代半ば以降の配置

50代半ば以降の配置

分析コメント

事務系ミドルパフォーマーにも目配りを

非管理職層の異動配置において各企業の人事部門はどのような方針で取り組んでいるのか、運用の実態がどのようになっているのかを見てきた中で、事務系ミドルパフォーマーの専任職人材化がタレントマネジメントのボトルネックになるように思えてならない。

社員の大多数を占めるミドルパフォーマーのエンゲージメントや専門性開発は欠かせない。事業部門に人事権がある場合、ミドルパフォーマーは「異動させる理由がない人」という位置付けになり、30代半ばから40代半ばの年齢層で特定範囲の仕事を担当し続けることが多くなりがちだ。しかし、自分の専門性に関して意識することがないままに同じ仕事でその年代を過ごすことになりやすい。そして40代半ばになり実質的に管理職登用の可能性がなくなったと同時に自身の専門性の乏しさにも初めて気付くということになりかねない。

それを回避するポイントは、各部門の基幹戦力として何の問題もないように見える30代半ばから40代前半のミドルパフォーマーに各人の専門性を広げ、深める機会を与えることだ。そのためには、一般的ポジションの社内公募と適材適所型異動候補者リストが効果的だ。まずは一般的ポジションの社内公募を拡大してほしい。新規事業などの社内公募だけでは機会になりにくい。

2つ目は人事部門が適材適所型の異動候補者リストを作成することだ。社内公募を拡充させても手を挙げない人は一定数いる。「自律」が望ましいが、そうでないなら「自立」を促す必要がある。手を挙げない人も定期的に棚卸しして、能力の深耕場所を検討する適材適所型異動候補者リストは有効だ。実際に異動させなくてもしっかりとスクリーニングしフィードバックすることに意味がある。すべてを事業部門任せ、社員本人任せにはできない。これは、人事部門の責務だと考えるがいかがだろうか。

※本調査を引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所「非管理職層の異動配置に関する実態調査(2021)」

大手企業における非管理職層の異動配置に関する実態調査(2021)

大手企業における非管理職層の異動配置に関する実態調査(2021)

上記で紹介した「非管理職層の異動配置に関する実態調査(2021)」の結果を1冊にまとめた冊子です。WEBサイトで紹介しきれなかったヒアリング企業のコメントや異動配置に限らない今後の課題を追加し再編集しているほか、本調査を踏まえた研究員の考察も収録しています。

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