公開日:2022年12月22日(木)
調査名 | 管理職の異動配置に関する実態調査(2022) |
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調査内容 | 管理職の異動配置の考え方と実態、今後の方針を明らかにする |
調査対象 | ●各業界大手企業34社(五十音順) 株式会社アマダ/アルフレッサ株式会社/株式会社イトーヨーカ堂/稲畑産業株式会社/株式会社インフォメーション・ディベロプメント/エイチ・ツー・オー リテイリング株式会社/エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社/王子マネジメントオフィス株式会社/大塚製薬株式会社/岡三証券株式会社/オリエンタルモーター株式会社/株式会社オンワードホールディングス/株式会社学研ホールディングス/グローリー株式会社/双日株式会社/サッポロビール株式会社/JSR株式会社/株式会社商船三井/ソフトバンク株式会社/東急株式会社/東京エレクトロン株式会社/株式会社東京スター銀行/大和ハウス工業株式会社/株式会社デンソー/日本新薬株式会社/日本郵船株式会社/パナソニック株式会社エレクトリックワークス社/ファナック株式会社/ブラザー工業株式会社/三菱重工業株式会社/株式会社ポーラ/本田技研工業株式会社/森永製菓株式会社/ヤマハ発動機株式会社 ※企業名は2022年12月現在 ●管理職に適用されている人事制度 「職能型」(役割等級制度併用を含む*1):21社 「ジョブ型」(役割等級制度含む*2):11社 その他:2社 *1 併用型の企業は職能資格に役割等級を付加と考えられるため、職能型に分類 *2 役割等級単独の企業はジョブ型に分類 ●人事責任者/人事異動責任者 ●調査対象一覧に社名開示するが、伺った内容と個社名をひもづけて掲載しないことを条件に協力いただく |
調査時期 | 2022年 5月10日-7月20日 |
調査方法 | 1社当たり60分のヒアリング調査 |
調査実施主体 | 株式会社パーソル総合研究所 |
※凡例の括弧内数値はサンプル数を表す。 ※「課長」は公式組織の管理職としての課長を表す。※図版の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、合計と内訳の計は必ずしも一致しない場合がある。
「誰を課長に昇進させるか」という課長登用の権限は、「各部門が主導」との企業が8割強。部門主導の企業のうち半数は「各部門に権限」があり、半数は「人事部が確認」と回答。
課長登用の年齢は、実態として概ね「早い人は35歳、標準40歳」との企業が多い。「登用年齢の前倒しを予定・実施」企業が15%、また、「登用年齢上限を定める」企業が20%あり、「若返り」志向が見られる。なお、登用年齢上限を、40代前半とする企業も目立つ。
部長登用の年齢は課長登用の年齢とは異なり、30代の会社もあれば50代の会社もあり、バラつきが大きい。部長登用年齢は課長登用年齢の延長線上で設定しているというよりも、役員登用年齢からの逆算と見られる。
総合職社員の課長昇進率は7割以上から1割まで企業によってさまざまで(図1)、一概に「総合職=管理職要員」とも「課長=選抜人材」ともいえない。
企業によって総合職の捉え方が異なり、「総合職=管理職要員」としてできれば全員を課長にしたいと考える企業もあれば、課長登用は「昇進トーナメントの結果」と考える企業もある。総合職の捉え方以外では、職種・年齢などの労務構成の違いも無視できない。
なお、管理職の人事制度が「職能型」である企業における課長昇進の考え方を見たところ、「管理職相当の等級の社員にはできるだけ管理職を経験させる」とする企業と、「職能等級なので管理職であってもなくても気にする必要はない」とする企業があり二極化している。
図1.総合職社員の課長昇進率
課長から部長へ昇進する確率は「3割以下」とする企業が95%、「1~2割」の企業が67%(図2)。専門能力が求められる課長に対して、部長はジェネラルなマネジメント能力が求められており、課長としての能力・実績によって部長昇進できるわけではないとのコメントが目立つ。課長から部長への昇進は狭き門であり、管理職の多くは「標準40歳」で課長に登用後、部長に昇進することなく、役職定年または定年まで課長として勤務することが分かる。
図2.課長の部長昇進率
内部昇進以外では管理職のキャリア採用ということになるが、実施率は約6割であり、それほど高くはない。実施企業も「部門・職種限定」(24%)、「観察期間付き」(15%)など、条件がついている場合が多く、広範に採用即任用のキャリア採用を行う企業は約2割にとどまる。数年に1~2名、または、まったく行わないという企業も約4割(図3)。
キャリア採用を行う企業の中では、「財務・法務・IR・情報システム」など管理部門に限定する企業が20%。「新規事業・DX部門」に限定する企業が20%。「数カ月~1年の観察期間後にポスト登用」する企業が25%であった。
また、営業職は内部昇進候補者層が比較的厚いため営業課長を採用するという企業はほとんどなかった。むしろ営業を含め、変革のスピーディな推進を期待して部長クラスを採用するという企業が複数見られた。
図3.管理職のキャリア採用実施率
管理職の社内公募制度「あり」とする企業が約3割。ただし、公募実績がある企業は2割にとどまる。管理職に適用されている人事制度別で見ると、「職能型」企業は制度があっても「実績なし」が半数あり、「ジョブ型」企業のほうが社内公募の活用度が高いことが分かる。
管理職の社内公募は一般社員層との比較では消極的な企業が多い。検討中を含めると66%が肯定的であり、いずれ制度導入すると思われるが、職能型企業で運用が定着するか否かは、動向を見定める必要がある。
図4.管理職の社内公募実施率
管理職のサクセッションプランについて見たところ、課長や部長、拠点長などの個別ポジションのサクセッションプランを策定する企業が全体の3分の1。管理職に適用されている人事制度が「職能型」企業では、約4割が策定している。一方、「ジョブ型」企業では、役員・部長などの階層別の「人材プール型」の方が多いという結果だった(図5)。
サクセッションプラン策定の動きは2020年の調査時は少数の企業に留まっていた。しかし、2022年にかけて、コーポレートガバナンス・コード改訂や人的資本経営・情報開示に向けての取り組みが活発になり、経営層からの取り組み要請が一気に強くなってきている。今後さらに実施企業が増えると思われる。
図5.管理職のサクセッションプラン実態
管理職の同一ポジション在任年数の実態を見たところ、「在任年数のルールあり」とする企業は約31%。「特に気にせず」は34%。「3年程度」、「5年程度」と回答した企業は、在任年数のルールは設定しておらず結果的に3~5年程度となっている。「ルールあり」「3年程度」の企業は理由として人材育成観点でのローテーションなどを挙げる企業が多く、「5年程度」「特に気にせず」の企業は組織改編に伴う異動などを挙げる企業が多い。管理職の積極的ローテーションを行うべきと考える企業とそうでない企業に二極化している。
図6.管理職の同一ポジション在任年数
管理職の兼務実態を聞いたところ、ほぼすべての企業が兼務「あり」と回答。ほとんどの企業は、上長が傘下の管理職を兼ねる「タテ兼務」である。中には、兼務に任期を設定する企業も見られた。同階層の管理職を兼ねる「ヨコ兼務」はほとんど見られない。
兼務の理由は「人材不足」が77%と最も多く、特に課長不足を挙げる企業が目立つ。課長が不足する理由は①「ワイングラス型」の労務構成で30代-40代が不足、②管理職になりたがらない若年層の増加、③細分化された技術専門分野の後継者がいないことが挙げられている。
それ以外の兼務理由には、小規模拠点は「コスト観点」から拠点長に傘下の一部組織の管理職を兼務させる、メンバーは組織を分けるが「機能観点」から管理職は同一人物にする、「対外対応」のため「次長兼課長」にするなど、意図的に兼務発令する企業もある。意図的な兼務は「職能型」の企業に多い傾向だ。
図7.管理職の兼務理由
役職定年制度の有無については、「役職定年制度あり」が約6割。ただし、「例外運用が多い」、「人材不足」、「エイジフリー」などの理由から「廃止予定」(13%)企業もあり、「今後も役職定年制度を維持する」としている企業は5割を切る。主に「65歳定年延長対応」に伴って過去数年内に役職定年制度を「新設」(13%)した企業もあるが、65歳定年延長絡みを除けば廃止の傾向である。
図8.役職定年制度の有無
課長と部長の役職定年年齢はともに「55~57歳」が約7割(図9)(調査対象企業の大半が60歳定年)。役職定年年齢の設定パターンは、役職に関わらず「一律」が60%、役職別(上位役職の方が遅い)が27%、その他(部長以上のみ役職定年ありなど)が13%であった。
なお、図中の「60歳」は、65歳定年延長の際に役職定年を「60歳」として新設した会社である。
図9.課長・部長の役職定年年齢
役職定年制度の運用状況は、「ほぼ例外なし」(31%)とする企業から、「半数以上を役職定年延長」(23%)とする企業までさまざま。必ずしも役職定年に達すれば離任するとは言い難い状況だ。「ほぼ例外なし」の企業は、延長手続きを厳格に定めている。「1割程度」「2~3割」の企業は、後任者不在の場合にやむなく例外を認めるという考え方。一方、優秀者は延長されることがあるとする企業は、例外運用が多くなる傾向がある。中には、もともと緩やかな運用を想定しているという企業や、課長ポストの役職定年運用は各部門に任せているという企業も見られた。
図10.役職定年制度の運用状況
課長登用は、各部門主導で人選・配置を行う企業が8割を超えている。今後さらに各事業最適・各機能最適な登用の在り方が求められ、各部門の裁量余地が大きくなっていくことになりそうだ。人事部門は事業戦略推進支援を基本スタンスにしたうえで、管理職登用基準が専門能力と実績に偏りすぎないように、マネジメント品質担保策を講じていく必要がある。
人事制度が職能型で「資格先行」の場合は、資格昇格審査の際にマネジメント適性を見極める機会があるので心配が少ないが、事業部門が期待するスピードで管理職相当資格へ昇格できるようにルールや運用を見直す必要があるかもしれない。資格滞留年数の短縮や飛び級などが選択肢になる。ジョブ型の場合は、職能型の場合よりも部門裁量が大きくなりそうだ。人事部門は各部門が適切な人選を行うことができるようにアセスメントなどの人材データを部門と共有するとともに、管理職登用後のマネジメント教育や360度評価などを従来以上に手厚く行うことが必要だ。
課長登用基準と部長登用基準は異なるとの指摘が多い。課長は専門能力で登用できるが、部長にはジェネラルなマネジメント視点が求められる。部長に限らず、課長クラスにも一定割合はジェネラルなマネジメント視点を持つ管理職が必要だ。一口に管理職といっても、各事業ニーズに即して柔軟に登用配置する「スペシャリスト型マネージャー」と、部門横断的なローテーションなどを通じて育成する「ジェネラリスト型マネージャー」とは仕組みを分けて、それぞれ、登用権限やローテーション施策を最適化する方向になるのではないだろうか。
また、大半の企業で課長の部長昇進確率は1~2割に過ぎず、多くの課長は役職定年や定年まで、20年近く課長を務めることになる。そして、ポストオフ後の期間が5年程度、今後はさらに長くなるものと思われる。ポストオフ後の就労については、専門能力不足がネックになっている。ここでの課題が、課長在任期間中に専門能力を伸ばすことができなかったのか?ということだ。課長クラスは、会議資料作成に関するやり取り、会議、1on1などのピープルマネジメント、各種承認業務などのマネジメントルーチンが多い。それらでほとんどの時間が割かれる人も珍しくないだろう。課長在任期間は思いのほか直接自分で市場や技術に触れるインプットの機会が少ないといえるかもしれない。その働き方を20年続けた後に、プレーヤーとしての専門性を求められても応えきれないということではないだろうか。
対策としては、管理職全ポストについて、2~3年の任期制を提案したい。
特に「スペシャリスト型マネージャー」と「スペシャリスト」間の双方向の行き来を想定している。もちろん、適所適材観点での再任や、他の管理職ポストへの異動もあろうが、人生100年時代において各人の専門能力を維持向上させていく一つの策になると考える。「ジェネラリスト型マネージャー」の場合は、各管理職ポストを歴任するというかたちになりそうだ。
※本調査を引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所「管理職の異動配置に関する実態調査(2022)」
大手企業における管理職の異動配置に関する実態調査(2022)
上記で紹介した「管理職層の異動配置に関する実態調査(2022)」の結果を1冊にまとめた冊子です。WEBサイトで紹介しきれなかったヒアリング企業のコメントや管理職への抜擢の実態を追加し再編集しているほか、本調査を踏まえた研究員の考察も収録しています。
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