【イベントレポート】タレントマネジメントの実務を通じて見えてきた課題と展望(1)

公開日 2017/02/06

アサヒビール株式会社 人事部長 杉中宏樹氏

P1010219222-e1486343669416.jpg前回の法政大学大学院石山教授の基調講演に続き、「"進化"するタレントマネジメント」フォーラム(パーソル総合研究所主催)の様子をご報告します。企業事例紹介ではアサヒビール株式会社人事部長杉中宏樹氏にタレントマネジメントシステムの導入の背景や現在取り組んでいることなどをご紹介いただきました。

タレントマネジメントシステムの導入の背景

まず、会社を取り巻く環境の変化とタレントマネジメントシステムを導入した背景からお話しさせていただきます。アサヒビールの主力商品であるビールの国内市場は1994年をピークに減少傾向にあります。そんな減少傾向にある市場の中で、アサヒビールは着実にシェアを拡大し2001年にはビール類の国内シェアナンバー1になりました。しかし、2001年以降も市場の減少傾向は続き、現在のビール類の市場規模はピーク時の約3分の2度にまで縮小しています。ビール市場が縮小する中で、アサヒビールでは2000年ごろから商品の多様化やグローバル化、グループ経営の強化などに取り組んできました。例えば、商品別の売り上げ比率でいえば、2000年ごろは売り上げのほぼすべてをビールが稼いでいました。しかし現在は総合酒類メーカーとしてビール以外の様々な商品を扱い、ビールの売り上げ比率は約60%まで下がりました。

このような会社の劇的な変化の中で、人事業務も変化してきたように思います。以前は単一の商品をつくり販売するシンプルな事業構造だった為、人事業務も比較的シンプルでした。採用では「明るく元気で、すこし知性がある」人材が求められ、アサヒビールが大好きな社員が集まる集団でした。しかし、グローバルに展開し、様々な商品ラインナップが揃う現在、求められているのは「独自の長所や国際感覚、柔軟性」を持つ人材です。グローバル化や事業展開のスピードに人事業務も対応することが求められ、人事業務は多様化、複雑化しています。このような変化に対応し、社員の成長や社員が活き活きと働ける環境を構築する為にもタレントマネジメントシステムの導入が必要だと考えました。

タレントマネジメントシステムの導入に関して

アサヒビールでは、これまで勤怠情報や評価データ、人事基礎情報などを別々のシステムで管理していて、各情報が一元化されていませんでした。そこで人材の情報バンクを構築するという目的で「HITO-Talent」(パーソル総研が提供するタレントマネジメントシステム)を導入し、あらゆる人事情報を一元管理するようにしました。人事データを一元管理することで、どのようなスキルや経験、年齢の社員がどこに何人いるかというようなことが可視化できるようになりました。可視化された情報を基に人材の過不足を判断し、採用や育成に取り組んでいます。理想としては必要な時に必要な人材を即時供給できる人事体制を構築したいと考えています。

そして、今年から「HITO-Talent」で分析したデータを新卒採用に活かそうと取り組んでいます。例えば、過去のデータからハイパフォーマーの条件を洗い出し、採用基準を見直すことや面接時の質問などに活かしていくことなどを想定しています。また、どのような人材がどこにいるのかという人材の見える化や各職場の職務要件の精度をもっと上げていきたいとも考えています。様々なデータを蓄積し、職務要件を再整備することで、より精度の高い人材マップをつくっていこうと思います。

最後になりましたが、タレントマネジメントに関して2つのポイントをあげさせていただきます。1つは経営の協力が不可欠だということです。アサヒビールでは定期的に社長から全社員に向けて人事施策などに関する発信をしています。経営が覚悟をもって取り組むことが必要だと思います。2つ目のポイントは人事としての感性を忘れてはならないということです。アサヒビールではタレントマネジメントシステムで様々な情報を集め、分析しているのですが、最終的に決定する際、人事としての感性を重視しています。システムやデータはあくまでもツールであるということを忘れてはならないと考えています。


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