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2018.03.09

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労働市場の今とこれから 
第7回 全社員型タレントマネジメントという考え方

タレントマネジメント

本連載の2月号において、「2025年には583万人の労働力が不足する」という推計結果をご紹介しました。超人手不足時代の到来に向けて、企業には「個人を選ぶ立場」から「個人に選ばれる立場」への転換が求められています。個人に選ばれる企業とは、給与の高さや福利厚生の充実度などの外的報酬のみによって決まるものではありません。成長実感や働きがいなど個人の内発的動機づけに働きかけることの重要性が指摘されています。

それでは、個人に選ばれる企業へ変革するために、企業はどのようなことに取り組む必要があるでしょうか。その手がかりとなるのが、近年、人事の領域を中心に注目を集める「タレントマネジメント」という考え方です。もともとタレントマネジメントとは、将来の経営幹部候補をはじめとする一部の優秀者層を対象に、その早期発掘から適正配置、育成支援に至るまでの一連のプロセスを統合的に捉える人材マネジメントの新たな試みとして、2000年以降、欧米企業を中心に広まった考え方です。

「一部の優秀者層に選ばれる企業」を志向して生まれた欧米企業発のタレントマネジメントが日本企業に本格的に普及し始めたのは2010年前後のことです。注目すべきは、世界に類を見ない超人手不足時代の到来を前にして、近年、日本企業のタレントマネジメントは欧米企業とは異なる歩みをし始めているということです。それでは日本企業のタレントマネジメントとは一体どのようなものなのでしょうか。本号では、昨年パーソル総合研究所が実施した日系大手企業24社を対象に実施した「タレントマネジメントサーベイ」の調査結果から見えてきた、近年のトレンドをご紹介します。

全社員型タレントマネジメントへ

調査の結果、まず浮かび上がってきたキーワードは「全社員型」です。次世代経営人材をはじめとする一部の優秀者層だけでなく、ミドルパフォーマーの底上げやローパフォーマーのフォローに注力する動きが近年の特徴の1つとして挙げられます。人手不足の深刻化に伴い、タレントマネジメントの対象範囲が「一部の優秀者層」から「全社員」に拡大するのと同時に、1人ひとりの個にフォーカスした個別的な施策を講じるという点にその特徴があります。

それでは、この一見相反する2つのベクトルをいかに統合し、「全社員型タレントマネジメント」を実現していくのでしょうか。「人事評価」「異動配置」「活躍支援」という切り口から見えてきた3つのトレンド「将来の貢献可能性を重視した評価」「個の見える化を前提としたキャリア自立の促進支援」「個を引き出すマネジメント」を手掛かりに、具体的な取り組みを見ていきましょう。

1.将来の貢献可能性を重視した評価
第1のトレンドは、人材評価の重要項目に「将来の貢献可能性」を設ける企業の増加です。その顕著な例が「市場価値基準による評価」の導入です。管理職への昇格審査や次世代経営人材の発掘に際して、外部のアセスメントツールや専門家による面談を導入している企業が増えています。

これまで上長による推薦や人事面談など社内での評価基準を重視してきた企業が、社外評価(市場価値)を取り入れようとする背景には、事業の成長戦略を過去の延長線上で描くことが難しくなり、個人評価においても過去の実績や成功体験が必ずしも将来の価値発揮を予測するモノサシとして機能しなくなったことが挙げられます。ある情報通信業の人事責任者は、「過去の成功体験に基づく自社基準の評価だけでは、変化が激しく、熾烈な競争環境をリードできる経営人材は育たない」と危機感を募らせています。

市場価値をベースにしたアセスメントの導入はまだ一部の上位層に限った動きですが、今後はその対象層を拡大していく傾向にあるといえるでしょう。

2.個の見える化を前提としたキャリア自立の促進支援
第2のトレンドは、適材適所の実現に向けて、社員の情報を積極的に収集・活用しようとする動きです。これまで多くの日本企業が収集・管理してきた社員情報といえば、入社年次など基本的な属性情報や異動履歴・評価履歴などいわゆるハードデータが中心でした。一方、社員1人ひとりのキャリア志向や強み・課題などソフトデータは、人事や上司の頭の中に「記憶」という形で属人的に管理されるのが一般的で、異動配置の検討材料に有効活用されることは少なかったといえます。

しかし近年、社員のソフトデータを積極的に収集・管理し、適材適所やキャリア開発に生かそうとする動きが広まりました。例えば、ある小売業では数年前から人事部のメンバーが毎年1,000名以上の社員と1対1の面談を行い、そこで得た鮮度の高い社員のソフトデータをシステム上で一元管理することで、人事異動時の重要な検討材料に役立てています。

3.個を引き出すマネジメント
第3のトレンドは、上司のマネジメントスキル向上を図る企業の増加です。その背景には、「職場OJTの機能不全」という課題が挙げられます。

例えば、あるサービス業では業務に用いられるツール・テクノロジーの進化に伴い、上司が部下の行っている作業を理解できず、上司がこれまで培ってきた経験や知識・スキルが部下指導に活用できないという事態が生じているといいます。こうしたビジネス環境の変化だけでなく、就業価値観の多様化などに伴い、会社組織に対する帰属意識や上司との信頼関係が希薄化していることもOJTの機能不全をもたらす要因となっています。

機能不全に陥った職場のOJTを強化するためには、上司の部下育成に対する意識を改め、必要なマネジメントスキルを身につける支援が求められています。そのキーワードは「個を引き出すマネジメント」です。

ある小売業の人事責任者は、「確たる戦略と徹底したトップダウンマネジメントがあれば成長できた時代は終わり、上司には現場で働く社員の創造性や能力を最大限に引き出すリーダーシップが求められるようになった」と指摘します。近年、この小売業社では上司に向けてファシリテーション研修を実施し、上からの押し付け型ではなく、部下の自発的なアイデアを引き出すマネジメントスタイルの浸透を図っています。

こうした施策が機能するか否かは上司と部下の信頼関係にかかっているといっても過言ではありません。上司に求められることは、まず時間をかけて部下と向き合い、その成長にコミットメントを持つという姿勢でしょう。また、職場のOJT強化に向け人事に求められる役割は、「育成パートナー」として現場マネジャーと密な連携を図り、必要な施策や知見を提供する働きであるといえます。

本号では、日本企業24社に対する調査から見えてきた日本企業のタレントマネジメントの動向を「全社員型タレントマネジメントへのシフト」と読み解き、そのエッセンスを「3つのトレンド」としてご紹介しました。全社員をタレントと捉え、社員1人ひとりの将来価値やキャリア志向性に目を向けた人事評価、異動配置、活躍支援を行う取り組みは、単なる人事改革ではありません。「個人に選ばれる企業」に向けた経営変革として捉えるべき動向であり、全社員型タレントマネジメントに向けた企業の動きは今後も加速していくことが予想されます。

本コラムは「冷凍食品情報(2017年8月号)」(一般社団法人日本冷凍食品協会発行)に掲載いただいたものを再編集して掲載しています。

執筆者紹介


フェロー

田中 聡

Satoshi Tanaka

2006年、株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)に入社。事業部門を経て、2010年にHITO総合研究所(現パーソル総合研究所)の設立に参画。シンクタンク本部主任研究員を経て、2018年より現職。専門は、経営学習論・人的資源開発論。立教大学経営学部 助教。一般社団法人経営学習研究所 理事。

田中 聡のプロフィール
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