公開日 2017/02/03
法政大学大学院 政策創造研究科 石山恒貴教授
2017年1月18日東京コンファレンススクエア・エムプラスで「"進化"するタレントマネジメント」フォーラム(パーソル総合研究所主催)が開催されました。基調講演では法政大学大学院政策創造研究科石山恒貴教授に「タレントマネジメントの潮流」と題し、タレントマネジメントの定義や導入する際の課題、課題解決のポイントなどについて事例を交えてご講演いただきました。
タレントマネジメントという言葉はマッキンゼー社が「ウォー・フォー・タレント(人材育成競争)」という概念を提唱し、優秀人材を獲得することが企業の成長につながると発表したことに端を発します。その後、タレントマネジメントについて、その定義を巡って様々な議論が行われてきました。代表的な議論の軸は①社員全員を対象にするか、一部の幹部候補を対象とするか②タレントとは生まれながらに優秀な人のことか、後天的に育成をできるか③タレントとはインプット(個人の内面のキャリア意識や動機、ポテンシャルなど)で見分けるべきか、アウトプット(成果)で見分けるべきか④タレントとは個社の環境に縛られるものか、様々な場で活躍できるか、などがあげられます(Dries, N. (2013) "The psychology of talent management: A review and research agenda,"Human Resource management Review, Vol.23, pp.272-285)。
タレントマネジメントの定義はまだ定まっていないといえるかもしれません。その中で私が優れていると考える定義が「戦略的タレントマネジメント」という定義です。これは「企業の競争優位に貢献するキーポジションを特定し、そのポジションにふさわしいタレントをタレントプールから開発、育成し、有能な人材をキーポジションに充足することができる人材のアーキテクチャーを構築すること」(Collings, David G. and Mellahi Kamel (2009) "Strategic Talent Management: A Review and Research Agenda," Human Resource Management Review, Vol.19, No.4, pp.304-313.)と捉えています。この定義は一部の欧米企業が実際に取り組んでいることを明文化したもので、どちらかといえば幹部候補者にフォーカスした定義といえます。このような定義でタレントマネジメントを実施している外資系企業十数社にヒアリングしたところ、実施の流れについて共通した部分があることが分かりました。以下具体的な流れについてご紹介します。※図1参照。
① キーポジションの特定
企業の競争優位に貢献するキーポジションを特定します。例えば全世界に十数万人の社員がいるような企業では世界で300のキーポジションを特定することを意味します。
② 行動基準(バリュー・コンピテンシー)の整備と評価
どのような行動が会社に貢献するか、タレントにふさわしいかを設定していきます。ここで重要なのは企業の競争優位につながる、その企業に特徴的で適切な行動基準を設定することです。
③ パフォーマンスの管理
会社の業績に貢献するためにパフォーマンスを最大化するマネジメントを実施します。
④ ブロック図などに基づき人材の棚卸
業績と行動基準に基づき、パフォーマンスを上げているか、実績を上げているかなどを評価しタレント候補を棚卸しします。
⑤ パネルセッション
経営幹部や人事部門などでブロック図などを活用し、タレントをレビューする会議を開きます。
⑥ サクセッションプランニング
タレント、後継者を決めます。
⑦ IDP(インディビジュアル・ディベロップメント・プラン)
タレントを対象とした個人別能力開発の計画をつくります。
⑧ キャリア開発
IDPに基づきタレントのキャリアを開発します。
⑨ リテンション
人材の流出を防ぐための施策を実施します。
この定義は幹部候補者をタレントと特定し、マネジメントする流れになっていますが、私は幹部候補者を対象とするか全社員を対象とするかという問題は必ずしも対立するものではないと考えています。まず幹部候補者を対象に実施し、それが十分に運用できるようになってから他の社員に対象を拡大するなど、両立できることなのではないでしょうか。
タレントマネジメントを日本企業に導入する際のポイントはどのようなことがあるのでしょうか。まず日本型人事管理の特徴として、能力主義(人にひもづいた総合的な能力を重視する)と年次管理(社歴や年齢に基づく人材配置)があげられます。部分的に職務主義(職務そのもので処遇する)を取り入れる形で役割主義などが試みられていますが、役割主義と言いながら、年次管理で運用されている場合があります。そうなると、昇進や役職を重視した動機づけとなり、専門性への動機づけが弱いこと、グローバルな人事制度になじまないなどの問題が生じてきます。
このような従来型の日本型人事管理を行う企業でタレントマネジメントを実施するということは、年次管理だけに依存しないこと、行動基準に基づく評価制度の整備や研修、様々なデータを蓄積し活用するITシステムの構築など、実施に向けては、大変な時間と労力を必要することになるでしょう。しかし、今後一層グローバル化、経済環境の変化の加速化が進む中でタレントマネジメントを導入することは重要だと思います。
タレントマネジメントの導入に成功している日本企業にヒアリングしたところ、成功するには4つの共通するポイントがあることが分かりました。それは①人事部門がタレントマネジメントの全容や方向性を把握していること②経営幹部が覚悟をもって取り組んでいること③幹部候補者を選抜した社長塾などまずは導入しやすい施策から段階的に実施していること④多様性や人材の抜擢などを許容する風土であることです。これらのポイントを踏まえ、経営幹部と人事部門が人材の抜擢などをオープンに話し合う、タレントレビュー会議(パネルセッション)の場を整備することが必要だと考えています。この会議の中で、蓄積された行動データなどの材料を行動基準に基づき評価し、人材のポテンシャルを測り、抜擢し組織やタレントの活性化を図ることがタレントマネジメント導入の一歩になるのではないでしょうか。
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