入社後の「こんなはずじゃなかった」を防ぐ就活の3つのポイント

入社後の「こんなはずじゃなかった」を防ぐ就活の3つのポイント

就活における「不都合な真実」、リアリティ・ショックとは

インターネット時代の就職活動市場は、完全な情報戦です。口コミサイト・就活ナビの乱立、メディアの報道...など、企業側、学生側に向けたありとあらゆる情報が飛び交っています。

学生は志望する企業に入社するために、企業は要員計画に伴った学生を質と量ともに確保するために、日々尽力しています。そのニーズに合わせて、「面接テクニック」や「グループ・ディスカッションでの人の見極め方」「書類の書き方/書かせ方」「新しい就活/採用手法」などの就活・採用テクニックが毎日のように発信されています。

言うまでもなく、就職活動・採用活動は、学生から社会人への移行=トランジションを果たすための重要な活動です。その活動のための情報を提供する/利用する側に悪意があるとは思いません。ですが、それらの情報に取り囲まれて、学生と企業の双方が陥ってしまっているのは、「就活をうまくやること」「うまく採用すること」の自己目的化です。

そして、それらすべての努力を無に帰する最大の落とし穴があります。それが、就活、採用の「あと」に訪れる、「こんなはずじゃなかった」という入社後のイメージ・ギャップです。
第一志望群の企業からいくつ内定をもらっても、入社できる企業は一つです。その表面的な「成功」は、入社後に「こんなはずじゃなかった」という経験ですべて台無しになります。企業側にすれば、優秀な人材をいくら確保しようが、「こんなはずじゃなかった」「話が違う」と早期に辞められては、多大な採用コストが無駄になります。

入社後の現実と事前イメージとのギャップ(リアリティ・ショック)は、就活と採用の目的を根底から覆す重要な概念であり、日本中のありとあらゆる新卒採用で起きています。しかし、残念ながら内定獲得/人材採用を第一に動いている採用担当者や就活生は、眼の前の目的に追われ、そのことを直視できていません。今回は、パーソル総合研究所がパーソルキャリアのキャリア教育支援プログラム、CAMPと共同実施した調査データ(※)を紹介しながら、リアリティ・ショックの実態と、それを防ぐ3つのポイントを紹介しましょう。その意味で、リアリティ・ショックとは、誰しも気がついているのに手を打たない、「不都合な真実」です。

情報過多な市場においては、客観的事実に基づく議論が極めて重要です。今回は、パーソル総合研究所がパーソルキャリアのキャリア教育支援プログラム、CAMPと共同実施した調査データ(※)を紹介しながら、リアリティ・ショックの実態と、それを防ぐ3つのポイントを紹介しましょう。(※全国の大学1-4年,社会人1-3年生合計1700人を対象とした定量調査)

【図1】で示したように、入社後、報酬・昇進・仕事のやりがい・働きやすさなど、入社後に、事前イメージとの何らかの違いを感じる新社会人は76.6%にも及びます。逆に言えば、入社後、スムーズにイメージ通り働いている社会人は4人に1人もいないということです。

図1.入社後にリアリティ・ショックを受ける人の割合図1.入社後にリアリティ・ショックを受ける人の割合

図2.イメージと異なっていたこと図2.イメージと異なっていたこと

より重要なのは、【図2】に示したその具体的な中身でしょう。「イメージよりも悪かった/低かった」の回答率を示したものですが、これを見ると、「給料・報酬」「昇進・昇格のスピード」と、報酬周りの項目が高くなっています。また、「達成感」や「裁量の程度」、「働きやすさ」もイメージとのギャップが大きくなっています。
簡単に言い換えれば、「この程度しかもらえないのか」「この程度の仕事しかさせてもらえないのか」「こんなに忙しいのか」となります。

学生にとって売り手市場の現在、意欲ある学生の成長志向に答えるために、各社が「うちの会社では、若いときから活躍できる」をアピールします。若手社員をロールモデルに据え、キラキラした活躍社員と触れ合う機会を作り、リクルーターが個別に口説き落とします。

しかし、「入社後」に大きくギャップを与えてしまっては、それらは逆効果としか言いようがありません。社会人であれば、こうしたアピールがアピールでしかないことにすぐ気が付きそうなものですが、社会人と接触する機会が少ない学生は、過度な期待を抱いてしまいます。

リアリティ・ショックは「成長できない」離職を招く

若手の早期離職の話題になるとしばしば、「3年間で成長し、他の企業に転職していくのだから、それでいいではないか」という声が聞かれます。「離職」≒「卒業」と捉える意見です。当然ながら、早期離職者にはそうした人もいます。しかし、【図3】で示したように、成長実感がある層とない層を比べると、ない層の方が、リアリティ・ショックは明らかに高くなっています。また、リアリティショックは「仕事を楽しんでいない」こととも強く紐付いており、幸せな離職とは言い難そうです。

図3.リアリティ・ショックの高さと入社後の状況図3.リアリティ・ショックの高さと入社後の状況

就活においてリアリティ・ショックをいかに防ぐか

リアリティ・ショックの概念の核心は、イメージとの「ギャップ」に源泉があることです。単なる入社後の実態の悪さではなく、事前の期待値との相互作用によって発生します。つまり、入社後の実態がどんなに素晴らしくても、学生の期待値がそれ以上に大きかったとすれば、リアリティ・ショックは発生してしまいます。逆にいえば、「事前のイメージ・期待の正確さ」ことによって防ぐことが可能ということです。

言い換えれば、リアリティ・ショックを防ぐための鍵は、「入社前に、企業や組織・自分の適性をどこまで理解できるか」にかかっています。人間関係、組織の状況、求められる能力など、「入社前にその会社のことをいかに正確に知りえていたか」が分かれ道です。

「内定を獲得すること」「希望の会社に入社すること」が就活の目的になってしまうと、この点がおざなりになり、面接テクニックやエントリー・シートの書き方など、表層的な就活テクニックに走りがちです。歪んだイメージで志望した企業に、多くの時間をかけて対策を練り、上がりきった期待値が、入社後にことごとく裏切られる...こうした就活・採用を毎年繰り返しています。

リアリティ・ショックを招く就活行動、3つのパターン

学生生活から社会人へのスムーズなトランジション(移行)を実現するためには、陥りがちないくつかのパターンを避けなければいけません。多くの企業でリアリティ・ショックを生み続けている、「陥りがちな就活」のパターンを3つ、データを参照しながら見てみましょう。

「頼れるあの人」の意見に振り回される

就活は、誰でも初心者からのスタートです。親、先輩、OB、ゼミの教授から兄弟まで、様々な人に相談し、アドバイスを求めます。しかし、学生の相談先のリソースは限られています。就活に消極的な学生は特に、「相談できた」相手に話を聞きにいきがちです。就活生が相談先を絞ってしまうと、情報が限定され、事前の理解を阻害していました。

図4.就活における相談先の数と入社前理解図4.就活における相談先の数と入社前理解

【図4】は入社前理解を3分類し、相談先の種類で比較したものです。入社前理解が低い群は、1.2種類程度の相談先しか持っていませんでした。これでは情報が偏ってしまって当然です。
親、先輩など、「就活の経験者」から得られる体験談は貴重なものです。もちろん耳を傾ける価値のあるアドバイスもあります。しかし、そうした相談先から得られるのは、あくまで「過去」の、「その人からみた」情報であり助言です。「現在」の、「別の角度から見た」情報も積極的にとって多角的に見なければ、会社理解は進みません。

気をつけるべきは、特に就活生から若年社会人といった「若者」には、「助言したがる」大人も多いということです。SNSでは、4月になるたびに誰からも頼まれていない「新入社員へのアドバイス」であふれます。特に就活で満足いく結果を得られた先輩-社会人の中には「自分から話したがる」先輩も多く、その意見が強ければ強いほど、その一面的意見に惑わされます。その意見を「否定する」というよりも、いくつかの相談先を確保し、情報を「相対化」していくことがまず大切です。

「とりあえず参加する」インターン・シップ

就活において、ここ5年間で最も変化したことは、インターン・シップへの参加率です。今やほとんどの就活生にとってインターンへの参加は必須の状況です。しかし、3年生の夏・冬のインターンに「とりあえず参加してみる」意識の学生が目立ちます。どのようなインターンが入社前理解を促進しているのでしょうか。データを見てみましょう。

図5.インターンでの経験と入社前理解図5.インターンでの経験と入社前理解

分析を行うと、「目的・目標を設定して」インターンに参加し、積極的に「社員とのつながり」を得ることで、入社前の会社・適性理解が促進されていました。社員を通じて、「企業・職場の雰囲気を直接知る」ことが大切であり、そのためには「とりあえず会場にいる」スタンスでは叶えられません。

現状では、インターンの「目標設定」を行えているのは学生の59%、「社員との継続的人脈構築」ができている学生は31.4%にとどまっています。企業側も、人事担当者だけでなく、現場社員とのふれあい・交流の機会を多くもたせることで、リアリティ・ショックを事前に防止することができます。

最後のポイント──就活は、「他者との差別化」ではない

企業の採用活動は、学校の試験のように、はっきりとした正解があるではありません。フィギュアスケートのような得点化もされません。しかし、多くの学生は、「グループ・ディスカッションでどう振る舞えばアピールできるか」「エントリー・シートには何を書けばいいか」という試験と同じような「対策」で差別化しようとしています。しかし、データを見ると、そうした意識は、裏目にでているようです。

具体的には、「就活で、他の学生との違いを積極的にアピールしたい」という意識が強い学生は、入社前の理解が進まないまま、入社してしまっている傾向にありました。「人と差をつける=他者との差別化」意識を軸にすると、自ら失敗に近づいてしまうということです。

差別化アピールがなぜいけないのでしょうか。それは、最初に述べた、「内定獲得」が自己目的化してしまうからでしょう。これまで述べた通り、必要なのは、その企業をよく知ることであり、そのための行動です。自分の優秀さをうまくアピールできれば、内定はとれるかもしれませんが、それは「内定獲得」という目的しか達成できていません。
その就活のゴールを覆してしまう入社後のリアリティ・ショックを防ぐ、そのために今何ができるかを考えたとき、「差別化」思考はその助けにならなさそうです。

リアリティ・ショックを防ぐために、企業はどうすればよいか

これまで、就活におけるリアリティ・ショックの防止策を中心に述べてきました。では、企業サイドからみれば、どのように防止できるでしょうか。

1つには、現場社員を巻き込みつつ、職場のリアルを伝えることです。今の学生は、企業がだす表向きのオフィシャルな情報には極めて懐疑的です。表層的なアピールでは学生の心をつかめない時代になっています。むしろ学生側は、その懐疑心があるために、たまたま入手し得た「裏情報」「真実に見える情報」に飛びついています。しかし、その多くは、「OB」や「先輩」が伝える限られた情報です。そんな歪んだ情報で「真の姿」を見極められた気になられるよりは、会社側からリアリティを伝える工夫を凝らすべきでしょう。

例えば、上述したインターンを行うにあたっても、現場社員を巻き込んで、積極的に学生とコミュニケーションをとってもらうことはやはり効果がありそうです。そのためには会社全体での「採用」意識の醸成、、事業部の積極的な巻き込みなど、必要な工夫は多くあります。最近では、企業ブランディングの強化の一環で、社内広報をあえて外に出すことで、毎日のようにネット上で職場の様子を伝える企業もあります。

もう一つは、分業化している「採用」と「教育(定着)」機能を接続することです。採用した人材が入社後にどのくらいの割合で辞め、どのくらいのパフォーマンスを出しているのか、採用部門が定量的に追っている企業は極めて少数です。採用面接時の評価とパフォーマンスがどう紐付いているかを見ず、見ていても採用担当者は責任を負わないのが常です。リアリティ・ショックという「不都合な真実」の結果責任を、企業の中の誰も負っていない状況が多く見られます。こうした機能不全の状態を解消し、「横串」で手を尽くせる体制をまずは整えるべきでしょう。

リアリティ・ショックは、企業と学生双方が差し出す情報が歪んでいることによる、「ギャップ」の問題です。眼の前の目的に双方が向けている労力が、少しでもこの問題に割り振られることを願っています。

調査概要


パーソル総合研究所×CAMP 「就職活動と入社後の実態に関する定量調査」
調査方法 個人に対するインターネット調査
調査対象者 居住地域:全国 18歳以上30歳未満の大学生・初職入社1-3年の社会人(離職者含む)
合計サンプル数 1700人
調査日程 2019年2月22日~2月25日

※引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所×CAMP 「就職活動と入社後の実態に関する定量調査」

執筆者紹介

小林 祐児

シンクタンク本部
上席主任研究員

小林 祐児

Yuji Kobayashi

上智大学大学院 総合人間科学研究科 社会学専攻 博士前期課程 修了。
NHK 放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年よりパーソル総合研究所。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行う。
専門分野は人的資源管理論・理論社会学。
著作に『罰ゲーム化する管理職』(集英社インターナショナル)、『リスキリングは経営課題』(光文社)、『早期退職時代のサバイバル術』(幻冬舎)、『残業学』(光文社)『転職学』(KADOKAWA)など多数。


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