成長「実感」の効果は、「目指す」ことのおよそ3倍
成長実感と志向の効果比較

成長「実感」の効果は、「目指す」ことのおよそ3倍成長実感と志向の効果比較

2017年春、パーソル総合研究所では「人々の働くことを通じた成長」をメインテーマとした1万人規模の就業実態調査を実施しました。その中で中心となる設問に、人々が日々の仕事のなかで「成長を実感しているかどうか」、そして、働くことを通じた成長をどのくらい「重要だと思っている(志向している)か」を聴取する問いがあります。つまり、仕事の中で成長を感じているかということと、そもそもどのくらい成長を目指しているのかを別々に測定したということになります。

今回はその2つの設問データを軸にして、こうした成長の「実感」と「志向」の程度が、人々の働く意欲や意識にどのように影響するかについての分析結果を紹介したいと思います。

人々はどのくらい成長を実感/志向しているか

まずは成長についての「実感」と「志向」について、単純な結果を見ておきましょう。

性年代別の成長実感と志向

図1.png図2.png

上のグラフは、「実感」と「志向」についての「あてはまる」回答率(7件法のTOP3)を男女年代別に示したものです。 これを見ると、成長を実感している割合(オレンジの棒グラフ)は、10代をピークにして高齢になるほど下がってしまっています。男女ともに、仕事経験の浅い若年層のほうがより成長を実感しやすいことは直感的にも納得できます。

成長実感に比べて落ちにくい成長「志向」

しかし、ここでのポイントは、成長を重要だと感じている「志向性」(青の棒グラフ)のほうは、歳を重ねてもそれほど下がっていない、ということです。結果的に、特に実感が大きく下がってしまう男性の50代以降で最も「実感」と「志向」のギャップが広がっています。大多数が正社員として働いているこうした中高年層の活性化は、今多くの企業が課題として頭を抱えている領域です。働く本人の意識の中でも「思うように成長できていない」「成長したいと思っていてもその余裕がない」といった様子がうかがえる結果になっています。

実感と志向のどちらが大切なのか

成長実感と成長志向の影響度

図3.png

上のグラフは、「成長実感」と「成長志向」が、仕事への意欲や就業満足度、組織のパフォーマンスといった、働くにあたって重要な要素にどれくらい影響を与えているかを見たものです。それぞれの項目を結果変数にした重回帰分析の結果を示しており、オレンジが成長実感の、青が成長志向の影響度をそれぞれ表しています(また、性別年齢やその他基礎属性は影響を除くため、コントロールしています)。 オレンジと青のグラフを比べると、影響度は大きく差がつきました。どの項目に対しても、「成長実感」の影響度のほうがずっと大きくなっています。特に、仕事への意欲で3倍、就業満足度では、6倍もの差がついています。

また、図の右側に示しましたが、「成長実感」は「その会社で働き続けたい気持ち」を上げ、「転職意向」を下げており、成長志向に比べてリテンションの効果も大きそうです。端的にまとめれば、成長は「志向する」ことだけではほとんど仕事への意欲や満足度を向上させておらず、実際に「実感」することができるかどうかが就業意識を大きく変化させるということです。

社員の成長について企業はどのようなアプローチをとるべきか

この結果は、企業の人事施策にどのように活かせるでしょうか。人材育成は、企業の人事部門が抱える大きなミッションの一つです。そして、従業員の成長が「重要ではない」という企業は、ほとんど存在しないものと想像できます。そして、企業の人材育成・成長施策の中でとりうるアプローチは、大きく2つに分けて整理することができます。1つは、「成長が大切であること」を従業員に向かって積極的にメッセージングし、成長志向性を内面化させていくいわば〈啓蒙主義的アプローチ〉。2つ目は、大切であるかどうかは別にして、職場の中で従業員が成長を「実感」できる機会を与えていくことに注力する、いわば〈行動主義的なアプローチ〉です。

そして今回の調査結果から示唆された結論は、従業員の成長「志向」を伸ばしていくよりも、実際の「実感」を生み出していくほうが、意欲を向上させ、満足度を伸ばし、定着に寄与する、ということでした。どちらかを選ぶとするならば、2つ目の〈行動主義的アプローチ〉のほうが、働く人々のためにも、そして組織のためにも近道と言えそうです。卑近な比喩で言い換えれば、目の前に「成長」という美味しそうな人参をぶら下げて走らせることが重要なのではなく、きちんと人参を食べさせる機会を多く与え、成長を実感させることができる組織のほうが、従業員は意欲・満足度高く働き、結果、企業にとっても多くのメリットがあるということです。

まとめにかえて

では、企業として、どのような方法で従業員に成長機会を与え、成長実感のチャンスを増やしていくことができるのでしょうか。今回の調査結果からは、望ましい成長機会のあり方は従業員の属性やタイプ別に異なるということが見えてきています。そちらの結果はまた別のコラムにてお目にかけたいと思います。

【調査概要
調査主体:株式会社 パーソル総合研究所
調査名:働く1万人成長実態調査2017
調査対象者:全国男女15-69歳の有職者
対象人数:10,000人(性別及び年代は国勢調査の分布に従う)
調査期間:2017年3月

※引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所「働く1万人成長実態調査2017」

執筆者紹介

小林 祐児

シンクタンク本部
上席主任研究員

小林 祐児

Yuji Kobayashi

上智大学大学院 総合人間科学研究科 社会学専攻 博士前期課程 修了。
NHK 放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年よりパーソル総合研究所。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行う。
専門分野は人的資源管理論・理論社会学。
著作に『罰ゲーム化する管理職』(集英社インターナショナル)、『リスキリングは経営課題』(光文社)、『早期退職時代のサバイバル術』(幻冬舎)、『残業学』(光文社)『転職学』(KADOKAWA)など多数。


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