公開日 2023/08/10
誰もがAIを使いこなす時代が間もなくやってくると予測されている。今後、どのような人材が求められるのか。HR領域における影響や人事部門の在り方は、どのように変化するのか。AIをはじめとするテクノロジーを用いた人材育成に携わる両氏に伺った。
株式会社人的資産研究所 代表取締役 進藤 竜也 氏
早稲田大学創造理工学部卒業後、株式会社セプテーニ・ホールディングスに入社。採用・育成・配置の分野においてアナリティクスの技術支援を行う。グループ内研究機関である人的資産研究所の所長を経て、2021年より現職。
株式会社TDAI Lab 代表取締役 福馬 智生 氏
東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。2016年同大学院修士課程在学時に鳥海研究室発AIベンチャーであるTDAI・Labを設立。最先端のAI研究とその導入支援を行っている。人的資産研究所の技術顧問も務める。
――ChatGPTなどの生成AIの登場は、HR領域にどのような影響をもたらすと思いますか。
進藤竜也(以下、進藤):個人的には2つのインパクトがあると考えています。1つめは、人事業務自体の効率化と人事業務自体の効率化と品質向上で、これは間違いなく進んでいくでしょう。2つめは、生成AIが現場の業務に広く普及した場合の「人材育成」への影響です。どのような人を育てるべきかが現在と異なってくるのではと思っています。
福馬智生(以下、福馬):私は3つの観点で影響があると考えます。まず、1つめは、AIが「誰を助けるのか」という観点です。人事の業務をサポートするツールにしたいのか、人事の役割自体を担うのか、目的を明確にすることが大事になります。2つめが「責任の所在」です。基本的にAIは間違いを犯すものだと考えたとき、その責任を誰が取るのかを考えておかなければいけません。また、機械学習をHR領域に応用する際、避けて通れないのがバイアスの問題です。採用活動などにおいて、性別や学歴といったバイアスがかかり、公正性が損なわれた場合にも責任の所在が問われます。3つめは、AIを「どのようにコントロールするか」。AIが間違えたりバイアスをかけたりする可能性を踏まえると、すべてを完全に自動化するのではなく、人間がコントロールできるシステムをどのようにHR領域の中に作るかということが、重要になってくるでしょう。
――今後、生成AIのビジネス活用が進んでいくと思われますが、どのような人材の需要が高まっていくのでしょうか。
進藤:生成AIはさまざまなシステムに当たり前のように組み込まれ、誰もが自然と使えるようになると思います。例えば、生成AIで表や資料を作成できるようになれば、そうした作業はスキップされて、スピードは速くなるでしょう。一人ひとりの仕事のレベルがある程度引き上げられ、定型的な仕事ができることによる差別化や優位性はなくなるということです。
すると、多くの仕事を効率的にこなすプレイングマネジャーよりも、チームを束ねてリードしていくといった、本来のマネジャーとして力のある人材が、今後はより求められると感じています。
福馬:私も、ChatGPTのような生成AIを使えることは、ビジネスの前提になると思います。現在は、良いプロンプトを書けるスキルが大切だといわれていますが、いずれはスキルとして認められなくなるでしょう。
企業は、資金や人を集めてレバレッジ(テコの原理)を利かせることで、1の力で10の結果を出すように、少ない投資で収益の最大化を図ります。2000年以降はコード(プログラムを実行するための専門用語で書かれた文書)でもレバレッジをかけられるようになりました。FacebookやGoogleなど、豊富な資金・人材・コードによるアプリ開発などが良い例かもしれません。このコードの部分にChatGPTが登場したことで、資金や人を集めなくても個人単位でレバレッジを利かせた事業が行えるようになりました。今後は、自分でレバレッジをかけられる人のニーズが高まっていくのではないでしょうか。
また、生成AIがインフラ化した社会では、「なぜ自分はその事業に従事するのか」という目的をしっかりと説明できる人に価値が出てくると思います。その他、訓練では身に付けられない知識やスキルー好奇心や情熱、人間性といった「特殊技能」がますます価値を高めていくでしょう。これらは外注や自動化ができないものなので、人間的な個性が光る人材が求められるようになると思います。そうした人材を採用するために、企業はその人のやりたいことが、いかに自社の事業にマッチしているかを伝えられるか、企業のブランディングが重要になってくるでしょう。
――個人の資質や人との関係性が、よりクローズアップされる時代になりそうですね。
進藤:生成AIの活用で仕事の効率化が進んでいくと、最終的に大事になってくるのは、個人の「想い」や「意志」だと思います。「どうしてもこれをやりたい」と周囲を巻き込んだり、引っ張っていったりする「WILL」の部分です。そういった強い想いや情熱を持った人が、福馬さんのおっしゃる通りレバレッジを利かせやすくなるからです。逆に、業務遂行力に長けた人ばかりの組織や社会では効率は上がれど、新たな価値は生まれにくいでしょう。
セプテーニグループでは、「育成方程式」(図)という概念に基づいて人材を育成していますが、仕事(W)の習得を一定程度まではAIがサポートするようになると、チーム(T)の部分がより大事になってくると思います。周りの人と協力してコミュニケーションをとることも、自動化できない要素です。
図:育成方程式
福馬:先ほど、訓練では身に付けられないスキルの話題に触れましたが、これまでスキルと呼ばれていたものは、あくまで「過去に得た知識をうまく組み合わせてアウトプットする」ことに過ぎなかったということが、生成AIの登場によって明らかになったといえます。
これからは生成AIの広がりも相まって、経験をしなくても得られる知識が一気に増えていきます。つまり、より一層スキルのコモディティ化が生じるのです。その結果、企業の採用方針においては経験重視に捉え方が変わってくるでしょう。その人が実際に、見て・感じて・行動して、なぜそれを行いたいと思うのかといった個人を形成する「経験」に、今まで以上の価値を帯びてくるということです。
――環境を提供していく人事部門としては、どのようなことが求められますか。
福馬:生成AIの時代になったからといって、基本的に人事部門がやることに変わりはありません。ただし、従業員が新しいテクノロジーを使いたいと希望しているにもかかわらず、前例がないからといったネガティブな理由だけで、人事部門が禁止することは避けたほうがいいでしょう。
これは、テクノロジーを活用しないことで生産性が落ちるという問題よりも、新しいテクノロジーを受け入れない旧態依然とした会社では、従業員の心が離れてしまいかねないことが問題だからです。
進藤:人事部門として仕事のスキルアップのための研修を行うことなどは、具体的で提供しやすいものですが、どのようにチームのやる気を引き出すか、マネジメントにチームをまとめていくのかといった関しては難しい部分です。人事部門は「人を活かしていく」プロの立場で、マネジャーのパートナーのような存在になるといいのではないでしょうか。
※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のものです。
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