ChatGPT時代に求められるのは、正しく活用するための《知識とモラル》そして変化を恐れない《姿勢》

公開日 2023/05/18

2022年11月30日(※)に公開されて以来、一気にトレンドワードとなった「ChatGPT」。そのベースとなる文章生成技術や高度な対話機能によって、さまざまな産業に一段と大きな変化をもたらすことが予想されている。HR領域においても例外ではなく、すでに海外では、採用の場面でプロフィールや求人情報の自動生成を可能にするサービスが登場している。ChatGPTに代表される新しいAI技術は今までのAIと何が違うのか、また、HR領域ではどのように活用でき、どのような利点があるのか。AI総合研究所 NABLAS株式会社の中山浩太郎氏に伺った。

※日本時間では12月1日

中山 浩太郎 氏

AI総合研究所 NABLAS株式会社 代表取締役/所長 中山 浩太郎 氏

大阪大学大学院情報科学研究科にて博士号を取得した後、同研究科研究員、東京大学知の構造化センター助教・講師、東京大学大学院工学系研究科松尾研究室などを経て、2017年に東京大学発のスタートアップとしてNABLAS社の前身を設立。最先端のAI技術を社会に届け、人が人らしく生きることができる社会の実現を目指し、AI分野における人材育成、研究開発、コンサルティングを提供している。

  1. ChatGPTはこれまでのAIと何が違うのか
  2. HR領域における可能性も無限大
  3. 自社でAIをどう活用するか、戦略に合わせた意思決定と組織改革が課題

ChatGPTはこれまでのAIと何が違うのか

――まるで人間と対話しているかのように文章を作成すると話題になっているChatGPTですが、ChatGPTとはどういうものなのかを改めて教えてください。

ChatGPTはアメリカのOpenAIという会社が開発したチャットシステムで、「質問応答」「文章の自動生成」「プログラミング」などをはじめとして、多様な作業について、人間のように取り組み、処理することができます。


まず質疑応答は、インターネット上にある情報を要約して提示してくれるというもの。例えば「量子コンピューティングをシンプルな言葉で説明して」などと入力すると、AIが検索した結果を文章にまとめて打ち出してくれるので、私たちが自分でウェブサイトをいくつも開いて情報収集する手間が省けます。2つ目の文章生成は、例えば「求人情報サイトに載せるための魅力的な文章」のような、場面に応じた文章を作れるというものです。3つ目のプログラミングについては、簡単なものであれば、システムエンジニアがいなくても、個々のニーズに応じたプログラムをAIが作成することができます。


いずれも企業の業務効率化につながる便利なツールとなりえますが、技術上の限界もあり、どういった分野でどのような力を発揮できるのかは未知数の部分も大きいです。


――ChatGPTは今までのAIと比べて何が違うのでしょうか。

今までに実用化されてきたAIが得意としていた作業は、大量の画像の中から猫の画像だけを抽出するような、「識別」の能力を応用したものでした。他方、ChatGPTには「生成ディープラーニング」や「生成AI」と呼ばれる技術が使われていて、新しいデータ(画像・テキスト・音声など)をコンピューターが生み出せるようになったというのが最大の特徴です。ChatGPTの場合は文章(テキスト)ですが、画像や音声、動画の生成ができるサービスも次々に登場しています。種類の違うデータを複合的に扱いながら新しいデータを生成する技術もすでに開発されており、AIができることがさらに広がると期待されています。


――生成AIの実用化は、社会にどのくらいのインパクトをもたらそうとしているのでしょうか。

はっきりとした予測は難しいですが、AIの識別能力をメインに利用する技術に比べると、数倍から数十倍のインパクトがあると考えられます。今回、ChatGPTのように誰でも触れるサービスが出てきたことで、多くの人がその威力を実感しつつあると思いますが、社会に対する具体的な影響はこれからもっと見えてくるでしょう。

HR領域における可能性も無限大

――ChatGPTは、HR領域ではどのように活用できるでしょうか?

活用方法は無限にあると思いますが、例えば採用についていえば、魅力的な会社の紹介文や、応募者とやり取りするメールの文章などをChatGPTを使って作ることが考えられます。AIは良質なデータを豊富に学習することで性能が向上しますが、会社の紹介文について、一般的にどのような言葉や内容が文章に盛り込まれているかは、Web上に公開されているデータに多数含まれているため、良質な文章が生成されることが期待できます。人事担当者が文章作成にかけていた手間を減らすことができれば、より多くの候補者に対応したり、候補者に向き合う時間を増やすなど、別のところに注力できると思います。


人事評価でも、管理職が評価した結果の要点などを読み取らせ、個々の社員に向けた丁寧かつ、とげのない表現の通知文を作成するといったタスクに活用できるでしょう。しかし、AIは伝え方として要点を踏まえた文章を作るだけであって、あくまで内容は人が考えなくてはなりません。AIは読み手がどのような人かを本当に理解して書くわけではないという点には注意が必要です。


研修においては、人に代わってAIがよくある質問に答える「AIメンター」としての利用がすでに始まっています。ただ、現段階ではChatGPTが間違った情報を提示する場合もあるので、何でも任せられるわけではありません。


――ChatGPTの課題についてもう少し詳しく教えてください。

ChatGPTは、一般的な質問には多くの場合において妥当な答えを出すことができますが、これはWeb上に存在する大量のデータから一般的な知識を学習しているためです。しかし、学習したデータに出現しないような特殊な事例や一般常識から外れた内容に対しては、妥当な答えを返さないケースが多々見受けられます。さらに、言葉や概念の意味を完全に理解しているわけではないので、常識に欠ける反応が返ってくることもあります。


また、間違った情報をさも真実かのように提示してくることがあるのですが、確信度についての情報がなく、ユーザーとしてはどこまで信じて受け入れてよいかを判断しにくいという課題もあります。それから、ChatGPTはある程度、会話のキャッチボールができますが、やり取りが長くなると、文脈を判断できなくなって的外れな受け答えをするようになることがあります。


ChatGPTはよくできたシステムですが、できないこともあります。その限界点を見極めるために、それぞれの職場で少しずつトライアンドエラーを繰り返しながら、どう活用していくかを判断することが大切です。

自社でAIをどう活用するか、戦略に合わせた意思決定と組織改革が課題

――ChatGPTなどの生成AIを効果的に使っていくために、経営者や組織のリーダーたちには、どのような対応が求められるのでしょうか。

AI技術がこれだけ急速に進化し、多くの産業において大きな変革を起こしている状況の中では、まずは経営者や政治家など、重要な意思決定をする立場の人がAI技術に関する知識を持たなくてはなりません。例えば、ハーバード大学では2018年に議員向けのAI教育プログラムを開始しています。アメリカだけでなく、カナダやイギリスなど、さまざまな国のAI研究機関が重要なミッションのひとつとして、経営者や政治家など、重要な意思決定をする立場の人間に対して、AIの知識を正しく身に付けてもらうための教育機会を提供しています。


日本の経営者たちも、AIを活用して生産性を上げようと、問題意識を持っている人は多いと感じます。ただ、自社でAIをどのように導入し、どこに注力していくのかといった戦略を策定し、それに合わせた組織改革を行うなどの具体的なアクションはまだこれからという印象で、これが多くの経営者たちにとって次の課題といえるでしょう。


――企業がAI人材の育成面で取り組むべきことは何でしょうか。

強力な武器となる生成AIを使いこなすには、技術的にできること・できないことを理解して、どう活用するかを判断するための《知識とモラル》を持った人材がますます必要になってきます。これはプログラマーやエンジニアといったIT系職種に限った話ではありません。例えば地方自治体の公務員など、最先端技術と縁遠いように思える職場であろうと、AIの影響は必ず受けますし、むしろ活用することで大きな価値を生み出すことができるかもしれません。企業としては、社員全員が正しい知識やモラルを持つための機会を設けるなどの取り組みをしていくべきだと思います。


知識とモラルのほかに、AIに対する《姿勢》も問われます。世の中では「AIの普及で人の仕事がなくなる」といった脅威論も耳にしますが、正しい知識に基づかずにAI技術の利活用をただ単純に避けたり制限したりするような国や組織は、いずれ中国やアメリカといったAI開発に積極的な国によって、産業全体が飲み込まれて淘汰される結果となってしまう危険性があります。AI技術がこれだけ進化した今、日本の中でどう生かしていくのかを考え、変化に対応していく姿勢を持った人材を育てることが大切です。業界・職種・役職に関係なく、働く人全員がAIに関心を持って、変化していくべき時代がきています。


※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のものです。


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