公開日 2020/05/28
我が国における外国人労働者数は急増し、2019年10月時点で約166万人と過去最高を更新した。しかし、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行を受け、外国人材を取り巻く環境は不透明感を増している。入国できない外国人労働者、経済悪化に伴う解雇や雇止め、休業補償未払いなど事態が急変する中、出入国在留管理庁は在留資格の変更、技能実習生の転職を可能にする特例措置(※1)の発令など対応策を打ち出している。国や企業の対応を外国人材は注視しており、不誠実な対応があればSNSなどを通じて瞬く間に世界中に広がっていくだろう。
長期的に見て日本の人口減少は止まらず、外国人労働に頼らざるを得ない構図は変わらない。外国人材の採用・定着・マネジメントの課題は様々あるが、中でも重要な「賃金」について各種統計なども活用しながら考えてみた。
※1 新型コロナウイルス感染症に対する特例措置 出入国在留管理庁(2020年4月17日)
※2 パーソル総合研究所が実施した調査
外国人雇用に関する企業の意識・実態調査
外国人部下を持つ日本人上司の意識・実態調査
日本で働く外国人材の就業実態・意識調査
まず、外国人労働者の属性を確認しておきたい。厚生労働省の「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和元年10月末現在)によると、国籍別(図1)の2トップは中国(25.2%)とベトナム(24.2%)で全体の5割を占める。次いでフィリピン(10.8%)、ブラジル(8.2%)が続く。対前年伸び率では、ベトナム(26.7%)、インドネシア(23.4%)、ネパール(12.5%)が上位を占める。
在留資格別(図2)では、「身分に基づく在留資格」が32.1%、次いで、「技能実習」23.1%、「資格外活動(留学)」を含む「資格外活動」22.5%、「専門的・技術的分野の在留資格」19.8%となっている。なお、対前年増加率は、「技能実習」が24.5%、「専門的・技術的分野の在留資格」は18.9%。
外国人労働者の中でも特に、国籍別では東南アジアや南アジア、在留資格別では技能実習生が増加していることが明らかになっている。
図1.国籍別外国人労働者の割合
図2.在留資格別外国人労働者の割合の割合
図1.国籍別外国人労働者の割合 図2.在留資格別外国人労働者の割合の割合
出典:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和元年10月末現在)
厚生労働省が令和元年(2019年)に実施した「賃金構造基本統計調査」によると、外国人労働者の賃金は月額22万3,100円(33.4歳)で、日本人を含む一般労働者の同年代(30-34歳)の約8割(差額5万2,800円)と大きく下回っていることが明らかになった(図3)。また、参考までに在留資格区分別に一般労働者の同年代と比較してみると、専門的・技術的分野(32.3歳)は32万4,300円で、正社員(30-34歳)よりも約1割高い水準となっている。これは専門的・技術的分野には、技術・人文知識・国際業務、技能、経営・管理、企業内転勤、高度専門職などが含まれており、希少性の高い人材が多いことが影響していると考えられる。一方、技能実習は15万6,900円(26.7歳)で、非正社員(25-29歳)の8割未満であった。制度上様々な制約があるため単純比較は難しいものの、同一労働同一賃金の思想に照らして日本人との間に不当な賃金差があることは許されないことから、待遇改善を進めるべき課題である。
図3.賃金構造基本統計調査
出典:令和元年賃金構造基本統計調査(2019年6月)
※令和元年より外国人労働者の賃金等を把握するための外国人に係る調査項目を初めて追加
そもそも日本の賃金水準は世界的に見てどの程度なのだろうか。経済協力開発機構(OECD)が発表した「2018年の平均賃金」(図4)によると、日本の賃金は40,573USDで、加盟国37ヵ国中17位。OECD平均46,686USDよりも低く、最も高いアイスランド66,504USDの約6割にとどまっている。また、日本の賃金の推移は、厚生労働省「令和元年賃金構造基本統計調査」によれば、対前年比(2018→2019)でわずか0.5%の増加である。一方、JETROが発表した「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」の賃金の昇給率(2019年→2020年)によると、パキスタンの11.4%を筆頭に、インド8.8%、インドネシア7.2%、ベトナム7.1%など南アジアや東南アジアの昇給率は総じて高く、東アジアやオセアニアでは3%前後である。
つまり、日本の賃金水準は世界的に見て中程度で昇給率も見劣りする中、南アジアや東南アジアなど現在は日本よりも低賃金の国・地域では昇給率が高水準で推移しており、賃金だけを見れば日本の優位性はどんどん失われていくと考えられる。
図4.OECD各国の平均賃金(2018)
このような状況の中、外国人材の賃金設定について企業はどう考えているのだろか。パーソル総合研究所が実施した「外国人雇用に関する企業の意識・実態調査」の結果によれば、外国人材をすでに雇用している企業の「賃金水準」(図5)は、正社員、パート・アルバイトは「日本人と同水準」とした割合が7割超で、「日本人よりも低水準」が2割前後であった。一方、外国人雇用を検討している企業の「想定賃金」(図6)は、「日本人よりも低い」と回答した割合が4割近くに上り、外国人材は日本人よりも「安い賃金」で雇用できると考えている様子がうかがえる。
この思い込みは改める必要がある。なぜなら、外国人材を「安い賃金」で雇うと、定着していない実態も明らかになっているからだ。正社員(同じ職種)において、外国人材の離職率が日本人よりも高い職場では、日本人と外国人の賃金GAPが大きかった(図7)。もちろん勤続年数などによる賃金GAPの可能性はあるものの、賃金設定を誤ると、せっかく採用した外国人材の離職を招く懸念があることを認識するべきだ。
図5.外国人材の賃金水準(雇用企業)
図6.外国人材の想定賃金(雇用検討企業)
図5.外国人材の賃金水準(雇用企業) 図6.外国人材の想定賃金(雇用検討企業)
図7.外国人と日本人の賃金GAP
外国人材にとって「給料」がいかに重要か見ていきたい。「日本で働く外国人材の就業実態・意識調査」では、外国人材が抱える職場への不満は、「給料が安い」「給料が上がらない」「昇進・昇格が遅い」といった処遇に関する不満、「明確なキャリアパスがない」が上位に挙がった(図8)。また、APAC14ヵ国・地域で働く人を対象に行った調査でも、仕事を選ぶ際は「希望する収入」を重視し、転職によって「給料や処遇」を上げる、「給料に対する不満」が転職理由になるなど、「給料」を重要視していることが明らかになっている。つまり、「給料や昇給」は自分自身の成長を図る物差しであり、給料を上げるためには「昇進・昇格」が必要で、それを実現するために「明確なキャリアパス」が重要なのだ。日本で働く外国人材は、母国よりも生活コストや住居費が高い場合も多く、その分リスクを負っているため切実だ。採用・育成した外国人材に、定着して高いパフォーマンスを発揮し続けてもらうためには、最初の賃金設定はもちろん、その後の昇進・昇格・昇給の評価基準を明確にし、年功的運用の排除や早期選抜を進めていく必要がある。
図8.外国人材が抱える職場への不満
コロナウィルス収束後は、再びアジアをはじめ世界中で人材獲得競争は激化し、賃金だけを見れば日本より好待遇な国は増えていく。外国人材を安価な労働力とみなしている国や企業は、外国人材のほうから見切りをつけられてしまうだろう。自社に必要な外国人材を採用し、定着してもらうためには、「賃金」などの労働条件、外国人材が働きやすい労働環境を継続的に改善・整備し、働く場としての魅力を高めていく努力が求められる。
パーソル総合研究所
客員研究員
高月 和子
Kazuko Takatsuki
大手広告代理店において人事・秘書・研究開発など合わせて26年間勤務し、研究開発局では10年にわたりグローバルな生活者調査を統括。
2018年11月よりパーソル総合研究所にて、主にAPACに関する調査・研究や外国人材雇用プロジェクトを担当。
2021年4月より客員研究員として活動中。
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