公開日 2019/05/21
働き方改革の一環で副業・兼業への関心が高まっている。政府が提示した「働き方改革実行計画」ではイノベーション創出を目的に副業・兼業促進が宣言され、副業・兼業の推進に向けたガイドラインの策定や副業・兼業を認める方向でのモデル就業規則の改定が進められてきた。これを機に、副業・兼業を推進する方向に舵を切るべきか検討し始めている企業も少なくないのではないだろうか。しかし企業にとって、不用意に副業・兼業を容認すれば、過重労働や秘密漏洩など様々なリスクを一気に抱えることにもなりかねない。そこで本コラムでは、企業が副業・兼業容認の是非を検討するにあたり必要となる副業・兼業のメリット・デメリットについてまとめた。
副業・兼業を検討するにあたり、気になるのが企業および働く個人の副業・兼業に関する実態である。そこで、パーソル総合研究所では、企業の人事担当者1,000名および働く個人3,569名に対し、副業・兼業に関する調査を実施した。
まず企業における副業・兼業の容認状況(図1)については、13.9%が「全面的に認めている(以下、全面容認)」、36.1%が「企業が設定した条件をクリアした場合に認めている(以下、条件付き容認)」となり、合わせて全体の50%が容認していることが分かった。一方で、残りの50%は「全面的に禁止している(以下、全面禁止)」と回答し、さらにそのうちの7割は「今後も全面的に禁止していく」意向(図2)を示している。副業・兼業がさかんに報じられ、社会的に推進の論調が多く見られる中、実際の企業現場では推進に舵を切る企業と禁止を貫く企業とがちょうど半分ずつに分かれる状況となっている。
図1 副業・兼業の容認実態 (%) (n=1,641)
図2 現在禁止企業の今後の意向 (%) (n=821)
副業・兼業を容認する方針の企業では、その効果や影響をどのようにとらえているのだろうか。図3は容認企業の人事担当者に、副業・兼業容認でどのような効果があったのかを聞いた結果である。「社員の収入補填」が1番高いものの、「働き方改革の促進」や「社員の社外での人脈拡大」「新規事業の創発(イノベーションの拡大)」「社員のモチベーションの向上」「優秀な人材の定着」といった企業にとってもメリットとなる効果が一定見られる。また、副業・兼業を経験した個人に聞いた調査結果(図4)でも、副業・兼業を行ったことによって本業における仕事のやり方が変化したとする回答が多く、副業・兼業の経験が本業に良い形で還元されていることがうかがえる。
図3 副業・兼業容認の効果 (%) (企業調査 n=159)
図4 副業・兼業を行ったことによる本業における仕事のやり方の変化 (%) (個人調査n=1,082)
【参考記事】副業・兼業が個人に与える影響とは?
副業・兼業が個人のキャリアに及ぼす影響について伺うべく、機関誌HITO
REPORTでは、社内で得られない経験の選択肢を提供する「NPO法人 二枚目の名刺」代表の廣優樹氏に、NPOに参加する個人の変容について取材しました。以下PDFにて記事がお読みいただけます。
>>「社外活動の経験が成長機会となり、キャリア自律に繋がる」NPO法人 二枚目の名刺 代表 廣優樹氏インタビュー記事
副業・兼業促進の方針が政府から提示されたものの、法制度面での整備が不十分である中、企業が副業・兼業容認を進めるにあたってリスクがまだまだ多いことは否めない。こうしたリスクを感じてか、図2のように現在、副業・兼業を全面禁止している企業のうち7割が、今後も引き続き全面禁止という方針を表明している。その理由(図5)としては「従業員の過重労働に繋がるから」「自社の業務に専念してもらいたいから」「疲労による業務効率の低下が懸念されるから」が特に多く、次いで「情報漏洩のリスクがあるから」「労務管理等の事務管理が煩雑になるから」が挙がっている。これらは法律の側面からも企業が負うリスクが大きいものであり、企業としては法的リスクを充分に理解した上で必要な管理を徹底すべきだろう。例えば、副業・兼業を容認するとしても、容認の在り方を工夫するなどである。具体的には、労働時間管理について、企業側で通算の労働時間を把握し、過重労働になっていないかをチェックするために「従業員から副業・兼業として労働した時間を明確に申告してもらう」「週何時間までの副業・兼業であれば容認する」といった条件を設けるなどが考えられる。また「約束した労働時間は超えない」「職務専念する」「秘密保持する」といった内容について、事前に誓約書を締結することも有効だろう。
図5 企業が副業・兼業を禁止する理由 (%) (全面禁止企業n=300)
【参考記事】法律の要点を押さえる
機関誌HITO
REPORTでは、法律家の監修の下、副業・兼業を容認するにあたって企業が気をつけるべきポイントをまとめています。詳しくは、以下PDFをご参照ください。
>>「従業員の副業・兼業に潜む法的リスク
~法律をふまえ、より戦略的な取り組みに繋げる~」
今回の調査では、図6の通り、実際に副業・兼業を容認レベルに制限がないほうが、デメリット発生率が高まるという結果が得られている。さらに、容認レベル別に副業者の割合を見たところ、全面禁止の企業において5.5%が隠れて副業していることも分かっている。こうした隠れ副業者は、公然と行う副業者以上にリスクは大きくなるだろう。
図6【企業の副業・兼業容認レベル別】副業者に生じたデメリットの割合 (%) (副業者 n=673)
また一方で、副業者のフォローを行う企業のほうが、副業・兼業に対するメリットを強く感じていることも調査から明らかになっている。企業によるフォローとは具体的に「会社による副業の労働時間の把握」や「副業のやり方などについてのアドバイス」などのことであり、調査結果から、これらのフォローが副業者の本業の会社に対するロイヤリティや、仕事に対するモチベーション、継続就業意識に影響を与えている(図7)ことが分かった。今回の調査結果をふまえると、副業・兼業は条件付きで容認し、容認後もフォローを行うという運用の在り方が、企業にとってもメリットを最大化できる可能性が高いと考えられる。
図7 本業に効果のある副業者へのフォロー
【参考記事】「条件付き容認」や「フォロー」を行う企業の事例
コニカミノルタとオイシックス・ラ・大地では、企業戦略の一環として、実際に条件付きで副業・兼業容認に踏み切っています。制度化の進め方や副業者へのフォローなど、両社の具体的な施策や効果については、以下の機関誌HITOのPDFにてお読みいただけます。
>>事例1:コニカミノルタ「副業・兼業解禁で社員の知見拡大と成長を促し、新たなイノベーション創出の土壌をつくる」
>>事例2:オイシックス・ラ・大地 「目的は、副業・兼業を支援することではなく、"会社と社員の成長を支援すること"」
以上の通り、今回の調査では、副業を容認する企業は半分程度であり、現在全面禁止としている企業において7割が今後も禁止の方針を貫くとしている。こうした結果の背景には、法的に未整備な部分が多いことに対する懸念も大きいだろう。だが、既に副業・兼業を容認している企業においては、「働き方改革の促進」をはじめ様々な側面でメリットを実感しているという効果も見られた。さらに、副業・兼業における労働時間や仕事内容など副業・兼業の状況を細やかに管理し、時には副業者にアドバイスするようなフォロー体制の下で容認している企業は、より一層、副業・兼業容認のメリットを強く実感していることも明らかになった。
以上のことから、企業がこれから副業・兼業の取り組みを検討する場合、リスクを恐れてむやみに全面禁止をするのではなく、また一方で安易に全面容認とするのでもなく、メリットや労働安全衛生の観点でのリスクを見据えながら、自社として何のために副業・兼業を容認するのかを充分に議論・検討した上で戦略的に容認していくことが肝要なのではないだろうか。
※本記事は、機関誌HITO REPORT vol.5『副業・兼業の光と陰』からの抜粋です。
働き方改革の一環で副業・兼業促進の動きが加速しています。パーソル総合研究所では、企業が副業・兼業促進を検討するにあたり参考となる情報の提供を目的に、企業と個人の実態調査を実施。本誌では、調査結果とともに先進企業・識者への取材等を通して、副業・兼業のメリット・懸念点について紹介しています。
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