公開日 2021/01/29
高度外国人材に、働く場所として日本を選択してもらうためにはどうすればいいのでしょうか。高度外国人材から見た「日本の魅力」や、高度外国人材の採用・定着のために日本企業がすべきマネジメントの要諦を解説します。
日本政府は経済成長と技術革新のために高度な知識や技能を持つ外国人材の受け入れを積極的に進めている。未来投資戦略2017では、2020年末までに高度人材ポイント制 による高度外国人材(高度専門職)の認定数を1万人、2022年末までに2万人を成果目標(KPI)に設定していたが、未来投資会議2020(第40回、2020年7月)の成長戦略のKPI評価によると、2019年12月末までに認定数は21,347人となり前倒しで目標を達成した。このため目標を更に引き上げ、2022 年末までに当初予定の2倍にあたる4万人の認定を目指している。
図1.高度人材ポイント制の認定件数(累計)の推移
出所:出入国在留管理庁(西暦)高度外国人材の認定数の推移(2020年6月末)
しかしながら、出入国在留管理庁の発表によれば、2020年6月末の在留外国人数は288万5,904人で、前年末に比べ4万7,233人(1.6%)減少しており、コロナ禍でのKPI達成には困難も予想される。
【参考】高度外国人材の定義について
出入国在留管理庁が管轄する高度人材ポイント制においては、日本の経済成長等に貢献することが期待されている高度な能力や資質を持つ外国人を対象に、「高度学術研究活動」、「高度専門・技術活動」、「高度経営・管理活動」の3つの活動類型を設定し、それぞれの活動の特性に応じて、「学歴」「職歴」「年収」といった項目ごとにポイントを設け、その合計が70点以上に達した外国人を「高度外国人材」と認定し、出入国在留管理上の優遇措置を講じている。
一方、JETROと各省庁が連携している高度外国人材活躍推進ポータルサイト「Open for Professionals」においては、次の1~3を同時に満たす人々を高度外国人材としている。
日本政府の目標を達成するには、まずは高度外国人材に「日本」を選択してもらう必要がある。そこで、世界各国・地域と比較した「日本の魅力」を確認したい。 スイスのビジネススクール「IMD World Competitiveness Centre」が2020年11月に発表した最新の「世界人材ランキング2020」(対象63ヵ国・地域)を見てみよう。このランキングは、①海外や国内の高度人材にとってどれだけ魅力的な国であるか(Appeal)、②高度人材を労働市場においてどれだけ供給可能か(Readiness)、③高度人材の開拓にどれだけの資源を投資しているか(Investment&Development)の3点で評価される。 トップ10は、1位スイス(4年連続)、次いでデンマーク、ルクセンブルク、アイスランド、スウェーデン、オーストリア、ノルウェー、カナダ、シンガポール、オランダと続く。
日本は38位で、過去5年間は低下傾向にある(2016と2017年は31位、2018年は29位、2019年は35位)。評価の詳細を見ると、①魅力的な国については27位、②高度人材の供給については54位、③高度人材開拓への資源投資は36位であった。
なお、①高度人材にとって魅力的な国の評価項目には、生活コスト、生活の質、ビジネス環境、労働者のモチベーション、給与やボーナス、税、公正さなどの下記11項目が含まれている。
図2.高度人材にとって魅力的な国の評価項目
この「魅力的な国」ランキングのトップ5は、スイス、アメリア、カナダ、スウェーデン、ルクセンブルクであった。ちなみに、アジア太平洋地域で日本(27位)よりも上位だった国・地域は、ニュージーランド(13位)、オーストラリア(16位)、香港(18位)、シンガポール(22位)、台湾(26位)であった。
また、OECD・経済協力開発機構が2019年5月に発表した「人材誘致に関するOECD指標」ランキング(対象35ヵ国)では、高学歴労働者(高度な技能を持つ人の中でも修士や博士の学位保有者)にとっての「魅力的な国」で日本は25位。同じアジア圏の韓国(23位)よりも低位であった。
上記2つの国際的な評価結果を見る限り、世界各国・地域の中での「日本の魅力」は中程度といったところだろう。高度人材にとって突出した魅力がない日本を選び、定着・活躍してもらうためには、どのような点に重点を置くべきだろうか。 そこで、日本の魅力や改善すべき点、マネジメントの要諦について、当社「外国人雇用プロジェクト」で実施した定性・定量調査結果を用いながら考えてみたい。
日本で働いている高度外国人材は、どのような点に日本の魅力を感じているのだろう。高収入(年収1千万円以上)・高学歴の高度外国人材を対象にした定性調査では、日本(東京)の暮らしやすさに対する評価は一貫して高く、治安の良さ、街の清潔さや空気の良さ、交通の便利さ、食事のおいしさなどを評価していた。便利で快適な生活、週末の旅行・レジャーを楽しめる等の生活面の満足度の高さから、当分の間日本で働き、永住や長期居住も検討していることが分かった。ただし、子育て環境に関しては不満も聞かれたので改善が必要である。また、日本で働くことを選んだ動機やキッカケは、日本の大学・大学院で学ぶ機会を得てそのまま日本で就職し、日本の暮らしやすさを気に入って継続勤務するケースが多かった。これらを考えると、日本の暮らしやすさは高度外国人材を惹きつける魅力(強み)と考えて良いだろう。
ちなみに、日本で働く外国人材に対する定量調査おいても、日本を選んだ理由のトップ3は、安全性の高さ、清潔感、生活環境が整っている点であった。
ここ数年、世界で起きている様々な環境変化(政情不安、気候変動、自然災害の増加、新型コロナウィルス感染拡大など)により、生活環境に対する人々の関心は高まっていると考えられる。そこで、治安の良さを維持し、子育て環境の改善や災害時対応の強化も図りながら日本の暮らしやすさに磨きをかけ、他国と差別化することができれば、高度外国人材に対する大きなアピールポイントになるだろう。
日本を選び、定着してもらうためには、高度外国人材が感じる不安や不満を解消していくことも重要になる。来日前の最大の不安は仕事・生活両面で「日本語」であり、来日後も「日本語の習得」が最大の障壁になっていた。日本語しか通じない環境でコミュニケーションを上手く取れず、孤独を感じて日本で働き続けることを諦める人もいるという発言もあった。
また定量調査によれば、企業が外国人材(正社員)を雇用する目的のトップは外国人材の高い専門性、次いで海外での事業展開と語学力が必要な業務への対応、外国人としての感性・国際感覚等の強みを発揮してもらうこととなっており、これらは日本語でなくても実現可能な目的であると言える。一方、外国人材(正社員)が定着・活躍するためには、上司には「言語による表現・コミュニケーションスキル」が必要であることが分かったが、英語などで十分な意思疎通ができるマネジメント層は多くないため、必然的に外国人材に日本語スキルを望む傾向は強くなる。
このような要因もあり、多くの日系企業は外国人材に「高い日本語レベル」を求めがちだが、「高いスキル」と「高い日本語レベル」を持つ人材はそもそも希少で争奪戦も激しい。そこで採用時に高い日本語レベルを求めず、入社前後の日本語学習をサポートしてレベル向上を図ることや、職場の英語・多言語対応を進めるなど柔軟な発想と対処が必要だろう。
高学歴で高いスキル、向上心とキャリアの自律性を持つ高度外国人材は、より良い地位や待遇を得られる機会を求めて転職によりポジションや待遇を上げていく。そこで、高度外国人材が定着し、活躍しやすい環境について考えてみたい。 高度外国人材は、フェア(公正)な評価、納得できる処遇、成長できる・やりたい仕事、働き方の自由度、ワークライフバランスの良さに対する満足度が高かった。また、裁量の多さ、多様性を受け入れる企業風土なども重視している。一方、年功序列や不公平な評価、日本独自のビジネス習慣・マナー、効率の悪さやスピード感の欠如等に対する不満も多く聞かれた。
日本と外国では、文化や習慣、考え方など多くの要素が異なるため、双方が歩み寄って個人のニーズと組織のニーズの良いバランスを見つけることが肝要である。そのためには、意思決定プロセスや情報伝達経路を外国人材にも分かりやすくシンプルにして、可能な限り経営情報を開示する等の工夫も必要だろう。また、マネジメント層がグローバルなビジネス慣行や高度外国人材の志向性を理解し、マネジメント力を高めることも必要になる。
いわゆる「日本的」なビジネス習慣や組織構造を改善し、高度外国人材が活躍しやすいグローバルスタンダードな労働環境や企業風土の整備が求められる。
図3.職場や仕事に対する満足点と不満点
下表は企業(特に日本企業)に求められる具体的な施策についてまとめたものである。中長期的な取り組み、来日前後~定着後の時間の経過とともに変化する悩みやニーズに対応するものもある。高度外国人材を雇用する真の目的を達成するために、企業は労働環境や職場を整備し、サポートしながらマネジメントしていくことが肝要である。
図4.高度外国人材の採用・定着に必要なこと
パーソル総合研究所
客員研究員
高月 和子
Kazuko Takatsuki
大手広告代理店において人事・秘書・研究開発など合わせて26年間勤務し、研究開発局では10年にわたりグローバルな生活者調査を統括。
2018年11月よりパーソル総合研究所にて、主にAPACに関する調査・研究や外国人材雇用プロジェクトを担当。
2021年4月より客員研究員として活動中。
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