パーソル総合研究所

HOMEコラム 「外国人材は定着しない」は真実か──日本型育成の落とし穴

執筆者:シンクタンク本部 小林 祐児

2020年2月以降、新型コロナ・ウイルス感染拡大の影響で、外国人労働力の流入は突如、ほとんどストップしてしまった。この過去に類を見ない状況が、労働力人口が減り続けていくこの国の労働市場に大きな影響を与えている。コロナ・ウイルスの感染拡大状況も、グローバルな規模で予断を許さない状況が続いている。
しかし、すでに日本に入ってきている外国人は多く存在している。その一つが、日本の教育機関で学んでいる留学生だ。新規流入はほぼストップしているものの、すでに日本に来ている留学生のうちの一定の割合が、卒業後は日本で就職して働き続けていくだろう。
そうした留学生の入社においてしばしば課題となってきたのが、入社後の「早期離職」だ。筆者の周囲でも、留学生が入社後定着しない、という企業人事の声はしばしば聞かれる。企業における外国人受け入れの課題として定番の話題でもある。
では、本当に外国人は企業に定着しないのだろうか。実は、これらを定量的に示すデータはほとんどない。パーソル総合研究所が企業を対象に行った独自調査※注1では、自社の正規雇用の外国人について、「日本人よりも離職率が高い」と答えた企業は21.3%、逆に「日本人よりも低い」と答えた企業は17.7%。企業規模別に見れば、外国人の方が離職率が高いと答えた割合は、従業員50人未満の企業では15.8%、1000人以上の企業では24.1%になる。つまり、一般的に従業員の定着率が高い大企業において、日本人と比べると外国人が入社後定着しないということが報告されている。

※1::パーソル総合研究所「外国人雇用に関する企業の意識・実態調査」

  1. 外国人材への統計的差別
  2. 「この会社では働き続けたくない」外国人材の本音
  3. 「遅い昇進」システムが生む外国人との意識差
  4. 「郷に入れば郷に従え」の育成をやめよ

外国人材への統計的差別

こうした「外国人は定着しない」という課題は、その数字以上に深刻な課題をはらんでいる。「外国人を採りにいってもどうせ定着しない」と考えた企業は、外国人の採用そのものに消極的になっていく。かねてから女性の多くが晒されてきたこのような差別を、経済学では「統計的差別Statistical discrimination」と呼ぶ。これは企業からみれば短期的には合理的な判断に見えてしまうので、差別の中でも非常に厄介なものだ。

実際、今のほとんどの企業の採用活動は、外国人に対して「同じ門を開けておく」にすぎない。日本の就活情報は「日本語」で埋め尽くされており、多言語対応したサイトはほとんどない。就職活動という極めて日本独特の風習を維持しつつ、「その風習に合った」外国人しか採用しようとしない企業が大勢を占める。入社後の定着についても同様だ。特に外国人材向けのサポートは実施せず、日本人と「同じ扱い」をすることによってよしとしている。

企業からのサポートについてデータを確認しても「母国語を話せる指導者」がついている割合は18.0%、「社内の掲示が日本語以外で書かれている」は10.5%、日本語以外の相談窓口は7.5%にとどまる。すでに外国人を雇用している日本の職場においても圧倒的な「日本語優位」の状況だ。果たして外国人材の定着は、そうした「日本人に最適化された」人事管理でうまくいくのだろうか。そこで今回は、日本で正規雇用として就職した外国人の新入社員を対象とした調査データから、早期離職の根本的な原因について探ってみたい。

企業の入社後のサポート・配慮

出所:パーソル総合研究所×CAMP共同調査「留学生の就職活動と入社後の実態に関する定量調査」 。以下同様。

「この会社では働き続けたくない」外国人材の本音

まず、外国人従業員についてしばしば聞かれるのが、「キャリアへの独立心が強いので定着しない」というものだ。これは半分当たっていて、半分間違っている。我々の調査でも自律的なキャリアへの意識は、日本の大学生と比べて極めて高いことが明らかになっている。しかし、かといって、日本の大学に来ている外国人留学生は、最初から「すぐ辞めよう」と思って入社を決めているわけではない。むしろ、日本人よりも内定承諾満足度や入社直後における企業への満足度は高い。下図に見るように、内定時から徐々に満足度は「下がっていく」線を描く。その下降の度合いまで、日本人と同様だ。

就職先企業への満足度

また、同調査では、外国人の若手社員(入社3年以内)が日本で働き続けることを希望する年数は、平均で11.6年だった。平均で10年を超えるということは、永住権や帰化の選択肢が視野に入る年数まで日本で働き続けたいと考えている外国人が多いということだ。その一方で、「今の会社で働き続けたい」と考えている平均年数は6.7年にとどまり、4人に3人が5年以内の転職を想定している。シンプルに換言すれば、多くの外国人従業員は「日本で長く働き続けたい」と考えており、入社後にそれが「この会社では働き続けたくないが、日本では働き続けたい」に変化してしまうのだ。しかも、外国人の多くが会社への不満を口にせず、隠れ不満として孤独感を高めていることも明らかになっている。このことを企業組織側の問題ではなく、外国人側の問題にしてしまうのは、問題のすり替えに他ならない。

「遅い昇進」システムが生む外国人との意識差

では、日本企業のどのような特徴が、外国人労働者の就労意欲を下げるのだろうか。かねてより、日本の雇用を国際的に見たときの特異性として、「遅い昇進」という特徴が長らく指摘されてきた(小池1981)。入社後に(正規雇用であれば)広く幹部層候補までのキャリアパスへの参加権を与えつつ、「同期」という入社年次の職務横断的なコミュニティに埋め込んでいく。その後、異動をいくつか繰り返しながら少しずつ同期の中で評価に差がつく「隠微な選抜」(八代2002)を経て、次のリーダー候補者を絞り込んでいく。「職域ごと」ではなく「学年ごと」の集団で塊を作りながら、ゆっくりと長いレースを走って差がついていくこの平等主義的かつ競争主義的な人事管理を、筆者はしばしば「校内マラソン型」人事管理と呼んできた。

小池和男,1981,『日本の熟練』有斐閣
八代充史 (2002) 「日本のホワイトカラーの昇進は本当に 「遅い」 のか」 『日本労働研究雑誌』 No. 501, pp. 41-42.

こうした人事管理を行う伝統的日本企業では、年度初めの4月に一斉に新入社員を入社させ、白板に近い状態から研修を一斉に実施する。この組織社会化プロセスのなかで想定されているのは、先程のデータで見たとおり、「日本人」か「日本人並み」の外国人だ。就活と同様に、「郷に入れば郷に従え」型の育成しか行われていない。
しかし、日本のような成熟経済において、こうした「既存の成員構成」に準拠した人材育成がビジネスに対して新しい価値を生み出しにくいものであることは自明だろう。「郷に入れば郷に従え」型の組織参入とは、すでにあるビジネスを「うまく回し続けてくれる」人材を生み出し続けることに最適化されたやり方だ。そして、そうした「遅い昇進」と「郷に入れば郷に従え」型の人事管理は、外国人の意識と真っ向からハレーションを起こす。

入社後の不満

 データを確認しても、労働時間やサービス残業の多さなど働き方周りの不満に次いで、「給与報酬が上がらない」「昇進・昇格しない」「与えられている裁量や権限が小さい」といった不満は高い。これらのデータは、(日本人に比して)キャリアの自律性が高く、自らの市場価値を早めに上げたい外国人にとって、その組織で働くことによって得られるメリットが感じられないということを示唆している。外国人労働者の就業不満は、こうした日本の伝統的な人事管理そのものに根ざしているようだ。

「郷に入れば郷に従え」の育成をやめよ

さて、外国人にまつわるこうした課題を解決するにあたり、企業はどうしたらよいだろうか。外国人労働者受け入れへと大きく舵を切った日本史の「先端」として現在を眺めてみれば、外国人労働者に対しても、やはり特別なリテンション・マネジメントが施されるべき段階に来ているといえよう。データからは、言語サポート、定期的な面談や同僚との交流機会など、コミュニケーション支援を手厚く行うことによって、外国人の定着が促進されていることも明らかになっている。これらを見ても、外国人材は「もともとのキャリア意識が異なるから定着しない」という認識は誤りだ。
職場で働くのは日本人が多数なのだから、少数のために多言語対応や特別なサポートを用意するのは、「わざわざすることではない」ように見えるし、「手間がかかる」ことだ。しかしそれは、今後も人口減少が続くこの国の中で、「何も変えない」ことによって長期的な最適化の機会を逸し続けていることに他ならない。

企業からのサポート・配慮要因

多くの日本企業で見られる「遅い昇進」の特徴は、各企業が人事スローガンとしてしばしば掲げる「早期選抜」や「若手登用」の流れによって、解消に向かいつつあるように見える。その一方で、管理職ポストの減少と組織の高齢化によって、管理職への昇進速度は全体として早まってきてはおらず、部長級においてはむしろ遅くなってきている傾向も確認されている(大井2005)。このような複合的な状況の中で、選抜の構造を変革させるには、各企業はかなり強力なポリシーメイキングを行う必要があるといえよう。

総合的に見れば、「留学生は定着しない」といった現象は、外国人へのステレオタイプを凝り固めるための素材ではなく、日本人に最適化された自社の人事管理を見直す「機会」として捉えることが賢明だろう。そうした視点は、自社の既存のビジネス・モデルに合わせた人材戦略の限界をどこに見るか、という長期的な視座と響き合う。「早い昇進」の特徴を持つ企業の方が、女性活躍も進んでいるという実証研究もあり(脇坂2018)、こうした人事管理の影響範囲は外国人だけに留まらないことも付言できる。
コロナ・ショックによって一旦止まってしまった外国人労働者受け入れだが、そのことは外国人労働力の重要性の低下を意味しない。外国人労働者を、「使い捨て」的な低賃金労働者としてではなく、「扱いにくく、すぐ辞める」というステレオタイプの反映先でもなく、自社の人事戦略の転換へのきっかけとして見る視点の先に、真の共生はあるだろう。

脇坂明,2018,『女性労働に関する基礎的研究 女性の働き方が示す日本企業の現状と将来』日本評論社.
大井方子,2005, "数字で見る管理職像の変化." 日本労働研究雑誌 545 .


関連コンテンツ

執筆者紹介

小林祐児のプロフィール写真

上席主任研究員

小林 祐児

Yuji Kobayashi

NHK 放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年入社。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行っている。専門分野は理論社会学・社会調査論・人的資源管理論。

小林 祐児のプロフィール
小林 祐児の記事一覧

新着記事

パーソル総研 メルマガ

【経営者・人事部向け】

パーソル総研 メルマガ
パーソル総研 メルマガ

雇用や労働市場、人材マネジメント、キャリアなど 日々取り組んでいる調査・研究内容のレポートに加えて、
研究員やコンサルタント・講師のコラム、お得なセミナー・研修情報などをお届けします。

お問い合わせ

お問い合わせはこちら

PAGETOP
PAGETOP