公開日 2022/06/07
パーソル総合研究所は、地方圏への移住の意思決定に影響を与える要因構造の可視化に関する研究を実施。2022年3月に「地方移住に関する実態調査」結果を発表した。
本稿は、地域政策と幸福度、シニア世代のウェルビーイングの研究を行っていらっしゃる、法政大学大学院政策創造研究科 教授 高尾 真紀子 氏に、地方でのウェルビーイングな生活を実現するための要素について寄稿いただいた。
地域の幸福度ランキングが人々の関心を集めることがある。地方への移住を考えるとき、誰しもそこで幸せな生活が送れるかどうかを考えるだろう。
ウェルビーイングとは直訳すれば幸福、健康のことであり、身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを意味する。また学術分野で使われる主観的ウェルビーイングには、生活や人生の満足度、楽しいとかうれしいといった感情、アリストテレスの最高善としてのエウダイモニアの3側面があると言われる。エウダイモニアとは人との関係を含めた意義ある人生を送ることである。
多くの研究で人々のウェルビーイングに影響する要因としては、所得など経済的要因、家族や友人などとの関係、そして健康が共通して挙げられている。
地方に移住したときにウェルビーイングを実現するには、仕事や収入など経済的基盤があること、家族や友人など良好な人間関係があること、そして健康が重要なことはいうまでもないだろう。
地域政策とウェルビーイングの関係について以前実施した調査※では、ウェルビーイングに最も影響していたのは失業の不安がないことややりがいのある仕事に就けることなど雇用・所得に関係する政策だった。それに加え、住民が交流できる場所があること、地域活動や祭りなどに参加できること、福祉や防災など安心・安全に関する政策が充実していることが、ウェルビーイングに影響を与えていた。特に交流や安心に関する政策は、地域活動や地域への愛着を通じてウェルビーイングにつながっていた。
今回の調査の結果を見ても、所得水準が変わらないこと、柔軟な働き方ができること、やりたい仕事ができることは移住への後押しとなっていることがわかる。
一方、移住後のウェルビーイングには人との関係も重要そうだ。知人・友人の存在や一緒に活動できる仲間がいることは生活満足に関係している。また地域の街並みや景観、歴史や文化などに愛着を感じることも生活満足につながっている。そして地域愛着には「地域の雰囲気は生活リズムに合っている」ことが大きく関係しているようだ。私たちは自分の故郷に帰ったときや、知らない地域であってもその地に来たときに何となくホッとすると感じることがある。それはもしかしたらその土地のリズムが自分のリズムに合っているからなのかもしれない。
地方移住によってウェルビーイングを実現するには、幸福度ランキングで示されるような共通の要素だけでなく、自分にとってやりがいのある仕事、仲間など人とのつながり、そして、その地域に愛着があるか、自分のリズムと合うかどうかといった要素も大切になるのではないだろうか。
※高尾真紀子、保井俊之、山崎清、前野隆司(2018)「地域政策と幸福度の因果関係モデルの構築-地域の政策評価への幸福度指標の活用可能性-」『地域活性研究』Vol.9,pp.55-64
法政大学大学院政策創造研究科 教授
高尾 真紀子 氏
1985年東京大学文学部社会心理学科卒業。長銀総合研究所に入社、経済調査、産業調査(流通産業・ヘルスケア産業)を担当。価値総合研究所主任研究員(民間企業のコンサルティング、官公庁の受託調査に従事)を経て、2015年4月より現職。地域ウェルビーイングプログラム担当。現在の研究テーマは地域政策と幸福度、シニア世代のウェルビーイングなど。
※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のものです。
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