職能資格からジョブ型へ、 そして「人財力」重視の人事運営に~ジョブ型を先行導入したJ.フロント リテイリング人事制度の変遷~

公開日 2021/03/08

大丸や松坂屋の百貨店事業を中核に、PARCOや不動産事業、クレジット金融事業などを展開するJ. フロントリテイリングは、小売業の枠を超えた「マルチサービスリテイラー」としての成長と発展を目指している。同社では約20年の間に人事制度を職能資格制度から職位等級制度、ミッショングレード制へと改訂を行い、2021年3月からは「人財力に基づく人事運営」を本格的にスタートする。ジョブ型先行企業事例として、それぞれの狙いと経緯、今後の展望について同社人財戦略統括部グループ人財政策部長の梅林 憲 氏にお話しを伺った。

  1. 2000年、職能資格制度からジョブ型制度へ移行
  2. ジョブ型からミッショングレード制度へ移行
  3. ミッショングレードから「人財力に基づく人事運営」へ

2000年、職能資格制度からジョブ型制度へ移行

――J.フロント リテイリングでは職能資格制度をいわゆるジョブ型の職位等級型制度に変更した後、2012年からミッショングレード制度を導入し、さらに現在は「人財力に基づく人事運営」への移行に取り組んでいるとお伺いしています。まず、ジョブ型制度に変更した経緯について教えてください。

梅林氏:大丸では1998年まで職能資格制度を採用していましたが、業績悪化に伴い「営業改革」に取り組んだ後、2000年から予め標準化・規定化した役割・職務の価値に基づき評価・処遇する仕組みとして職位等級制度、いわゆるジョブ型を本格稼働させました。その背景には、百貨店ビジネスの中身は大きく変化していたにもかかわらず、人員体制は昔のビジネスモデルに適合したままになっていたという問題がありました。具体的には、自分たちで商品を仕入れて販売する売場が減少し、お取引先様にお任せする売場が大半になっていましたが、ずっと「人が要る」といって採用を続けていたのです。しかし90年代後半になると消費税の引き上げや金融危機があり、収益の悪化が顕著となったことから、売場の業務を科学的に分析、再構築し、適正な数の人員を配置する「営業改革」に取り組みました。職務を規定するため、例えば、販売員のAさんがどんな仕事を一日の中でやっているのかをストップウォッチで計測し、最適な人員配置を売場の仕入と販売のパターンで分類し決めていったのです。

梅林氏

営業改革以前は、マネジャーというネームバッチを付けた人が売場に4人も5人もいましたが、本当にマネジャーの役割を行っているのは1人だけという状況も見られました。これは職能資格で一定の等級まで上がればマネジャーという資格が与えられる仕組みだったからです。つまり、遂行している職務内容と支払っている処遇がアンバランスになっていました。営業改革が進行し、業務効率化が進むと売場から人が溢れ、別の仕事への異動が生じます。給与の下方硬直性が強い職能資格制度による処遇や人事運営では立ち行かないのは明白で、「今後はあなたが担う職務に応じた給与を支払います」と大転換する一方、誰がやっても一定の職務が遂行できるよう、職務基準書(ジョブディスクリプション)を作成し、「役割・職務の大きさ・困難度に応じて給与を支払う」と決めました。

――従業員の受け止め方はいかがでしたか。

梅林氏:当然、厳しいものがありました。「なぜ私がこの仕事をやらなければいけないのか」という反発に加え、職務の変更に伴い給与が大きく減額となった人もいましたから、従業員からするとかなりショッキングだったと思います。 新制度への転換にあたっては、月例給与が5%以上減らないような激変緩和措置策を導入しましたが、賞与は半期の成果で等級に応じたテーブルで決定する仕組みのため、大幅に減額となった人もいました。

当時は、売場をはじめとする組織体制全体の改革をしていました。例えば、売場の括り方・管理範囲を変え、同時にポスト数の統廃合を推進したため、2つの売場が1つになって1人のマネジャーしか残らない場合、もう1人は別の売場のマネジャーになるか、他部署のスタッフや外商のセールスに異動になる、あるいは、マネジャーを支える部下のチームリーダーやスタッフなどの役割に変更となりました。そうすると、役割・職務に応じた処遇を行うわけですから、等級が下がり、月例給与も賞与も大きく減額するという状況が発生しました。

営業改革により会社の業績や業務の生産性は大きく改善し、赤字すれすれだった営業利益は大きく回復しました。一方、後のテーマにもなりますが、「人に向き合わない組織」という別の問題が生じてきました。ジョブ型制度への移行に伴い評価権限を職制に移したのですが、配置が処遇に直結するだけに、その局面で人をしっかり見る必要あったにも関わらず、「職場がなくなり仕事が変わったから給与が下がっても仕方ない」といった説明がなされ、人をしっかり見ることが疎かになってしまったのです。しかし本当は、その人の仕事ぶりを上司自らが評価した結果として、ポジションや仕事が変わり給与が下がったのです。つまり、上司も部下も仕事と評価に厳しく向き合うことを避けるようになりました。これに慣れてしまうと、仕事を通じた育成や教育にも力は入らなくなり、十分な成果発揮のない人から内省の機会を奪うことにもなるため、結果として一人ひとりの生産性や価値創造を高めるといった本来の目的を達することが難しくなっていたのかもしれません。

ジョブ型からミッショングレード制度へ移行

――職位等級制度からミッショングレード制度に移行したのはなぜでしょうか。

梅林氏:背景からお話をすると、2010年に大丸と松坂屋が経営統合し、2年ほどかけて人事制度を大丸の職務型に統合する一方、リーマンショックの影響により業績の悪い店舗の閉鎖を行いました。大丸と松坂屋が本当に1つになった頃、この厳しい状況から脱却するにはどうすればよいのか。そこで重要になるのは「クリエイティビティと挑戦」が、最重要課題として経営から強くメッセージされるようになりました。

当時、利益は出ていたもののリーマンショックにより売上は下がってきていたので、「常に新しいことに取り組んで成長を目指さなければならない。それには効率的なオペレーションばかりではなく、クリエイティビティを発揮して常に挑戦し続けることが必要である」と。職能資格制度から職位等級制度に移行してからは、職務給一本で運営してきましたが、決まった役割を決められた通り遂行しているだけでは成長は描けません。そこで役割・職務の枠を緩めて、新しいことにチャレンジすれば、それを評価するように2012年から変えていきました。

職位等級制度の問題としてはもう1つ、異動、配置の硬直化がありました。職務型制度は、職務の価値により処遇する仕組みであり、当社ではマネジャー職にウェイトをおいていたこともあり、マネジャーの部下であるスタッフは、マネジャーの等級を超えないことをルール化しており給与差がありました。一方、営業改革による売場の統廃合でマネジャーのポストは減少していましたので、マネジャーの管轄範囲は広くなり、ベテランでなければ務まらず、若手へのローテーションがなかなか進まない状態に陥っていました。加えて、職務型の人事評価制度なので、予め標準化・規定化された職務を忠実にやっていれば標準評価を得ることができるため、自ら挑戦的な目標や課題を設定するといった意欲が湧かず、仕事を通じた人財育成を標榜していた当社の狙いに反して、次代のマネジャーも育ちにくくなっていました。そして、マネジャーも自らのポジションを守るため、部下に仕事を教えないという悪循環になっていたのです。

また、経営陣から見ても、経営戦略を実現するために優秀な人を高いポジションに配置したいと思っても、部長の下には部長より低い等級のスタッフしか配置できない決まりになっていたので、大胆な人事配置が難しかったのです。 このような職務型制度に基づく人事運営を見直さなければ、クリエイティビティや挑戦を促進することは難しいと考えました。

――職務型人事制度の構造的な問題ですね。どのように役割の枠を緩めたのでしょうか。

梅林氏:一口にマネジャーといっても、経験豊富なマネジャーから昇格したばかりの駆け出しマネジャーまで、実力はさまざまです。そのため、柔軟な配置を実現させるために、同じ等級にするのではなく、対応する等級の幅を持たせてもよいのではないかと考えました。また、管轄している業務の戦略上の難易度や業績インパクトの大きさも等級決定に反映する必要があるのではないかということで、2012年から役割等級的な制度運用を行うようになりました。

これにより、抜擢人事がしやすくなりました。以前はマネジャー職に抜擢すると等級も給与も一気に上がりますが、十分な成果発揮がなくマネジャー職からスタッフ職へ異動となっても、極端に処遇を下げることもできず、結果としてコスト高になってしまう懸念があったため、チャレンジングな配置をやりにくい状況でした。しかし、配置後の実績を確認しながら等級を上げることができるようになったため、育成視点でのチャレンジングな配置が可能になったのです。

ミッショングレードから「人財力に基づく人事運営」へ

――2021年3月からスタートする予定の「人財力に基づく人事運営」とはどのようなものですか。

梅林氏:従来は、職務価値と処遇が連動する職務型の成果主義をとってきました。これからの「人財力主義」は、個々の従業員の「人財力」にスポットを当て、採用から配置、育成、評価、処遇に至るまで常に人財開発を中核に据え、これを基軸とした人事運営を行い、最終的にはグループビジョンである「くらしのあたらしい幸せを発明する。」の実現につながる組織風土、企業文化の刷新を目指すものです。

人財力とは、実際の成果・貢献はもちろん、具体的な行動や知識・スキルといった表出した部分と、その基盤をなす職務遂行能力や変革に不可欠なエネルギー、学習行動に加え、各人の性質・気質を含めた総合的な力と定義しています。特に成果・貢献に直結する職務遂行能力や新たな価値を創造していく力を「人財価値」として定義し、重視します。

この人財価値は「革新・創造力」「影響力」「折衝力」「意志・意欲」「学習力」「育成力」という6つの力から構成します。これは、従来の職務型制度において職務価値を測る際に用いてきた職務遂行能力に加え、これからの企業の成長に不可欠な力として「意志・意欲」「学習力」「育成力」をより重視して設計しました。

梅林氏

従業員の総合的な力である人財力については、組織における職位階層と緩やかに連動する形で、人財力の大きさを4つのステージに分類しています。ステージⅠがいわゆる一般職、ステージⅡが係長職、ステージⅢが課長職、ステージⅣが部長職に相当します。ステージを昇格するということは人財力が高いということですから、 ステージごとの要件を規定した「人財力定義書」に沿って経営層や人事の担当役員がきちんと面談し、業績や各種評価・アセスメントデータをしっかり確認し、本当にその人が昇格したステー ジで力を発揮できるかを見極めた上で行っていきます。

――2000年に職位等級制度を導入してから、20年に渡り基本的にジョブ型の人事運営をされてきましたが、新しい制度はそれを否定するものですか。

梅林氏:ジョブ型の否定ではまったくありません。また、職能主義に先祖返りしたわけでもありません。今回も人事評価では成果を重視しています。やはり営利企業ですから、成果を発揮してもらうことが最も大切です。その成果を生み出すものは何かというと人の行動や保有する知識・スキルであり、それを支えるのが先に上げた人財価値の6つの力です。さらに人財価値の基盤にはその人の性格や気質があります。つまり、一人ひとりの従業員を上から下まできちんと見るために、人を構造的に捉える枠組みを作ったのです。もちろん性格や気質で評価は行いませんが、その表れとされているような能力があるので、そこはいろいろな手段を用いてしっかりアセスメントしていきます。

当社は、過去に職能型から職務型へ大きく舵を切り、これまで都度見直しをしながら人事運営してきました。つまりそれぞれのメリット・デメリットを実感しています。その結果として、人の保有能力のみにフォーカスする、ジョブの内容や価値だけ見るというのではなく、そのジョブを担う人財一人ひとりの力により、生み出される付加価値には大きな違いがあることに気づきました。また、ジョブそのものもこれまでと同じではなく、時代の変化に常にシンクロし進化させなければならないことに直面しています。 このため、当社にとってどのような人事制度が最適か考えた結果として、この人財力を基軸とすることにたどり着いたのです。過去の否定ではなく、未来を見据えた人事としての挑戦でもあると捉えています。

――今回の取り組みはサクセッションプランとも連動していますか。

梅林氏:当然、それは意識しています。当社は2017年に指名委員会等設置会社に機関設計を移行し、ガバナンスの変革を進めています。その中でサクセッションプランは重要なテーマになっています。コーポレートガバナンス方針書の中には経営陣幹部に求められる資質が明記されており、その下にいる将来の役員候補である部長に何が求められるかをコーポレートガバナンス方針書に近いレベル感で記述しなければ繋がっていきません。その意味では、人財力の定義はサクセッションプランと一貫した形といえます。

――J.フロント リテイリングでは2000年から2020年の間に大きな人事制度改革が複数ありました。そこでのトップの関与はどのようなものでしたか。

梅林氏:人事戦略は経営戦略に密接にリンクしていますので、トップの関与は非常に大きいです。ボトムアップだけでは変えられません。営業改革を推進し社長を務めた後、現在は取締役会議長に就任している山本良一は、先が見えない時代に企業を永続させるには、やはり最後は 「人創り」であるとよく言っています。戦略を描くのも実行するのも人である。では次代の戦略立案と実行を担える人財が当社にいるのか。やはりそれはもう一度、きちんと見ていかなければいけない。このグループが存続するために一番必要なのは「人創り」である、と。

――ニューノーマルへの移行も含め、今後の展望についてお聞かせください。

梅林氏:私たちが次の人事戦略で取り組まなければいけないテーマとしてはまず、働き方の変革や、社会の変化と価値観の多様化に応じた「人が循環する仕組みづくり」があります。例えば人生100年時代を迎え、年齢が上の層のリスキルや、当社を本拠にしながら副業で他所からも報酬を得るような働き方の構築が考えられます。一方、若い層が細った要員構造では事業がもちませんから、若手層をどう増やし組織・要員構造を変えていくか。そして専門能力の高い即戦力人財をどう外部から採用し、既存人財と融合させ育成するのかも重要な課題です。今、逼迫しているDX人財だけでなく、経営環境の変化で事業のコアが変更になれば、百貨店とは異なる業界の知識やスキルを持っている人をも採用し、アサインできるようにする必要があります。

このように、一人ひとりが自分の特性・持ち味を活かし、やりたいことを実現できる環境を作ること、そして多様な個性が有機的に結合し、様々な化学反応を常に起こし続けられる組織風土・文化を作らなければなりません。そうしなければおそらく、若い人たちから働く場所として選んでもらえなくなるでしょう。

プロフィール

梅林 憲

J.フロント リテイリング株式会社 人財戦略統括部 グループ人財政策部長

梅林 憲

Akira Umebayashi

1995年、株式会社大丸に入社。大丸東京店での販売、営業企画CS推進室営業企画部、グループ本社管理本部業務推進部などを経て、2017年業務統括部グループ人事部部長、兼 取締役会室スタッフ、18年より現職。

※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のものです。

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