公開日 2018/12/13
パーソル総合研究所では、立教大学・中原淳教授と共に、長時間労働についての大規模調査を行っています。本コラムでは、その調査結果から会議にまつわる分析をご紹介します。
長時間労働や労働生産性について議論する際、しばしば指摘されるのが、「会議、打ち合わせの多さ」です。果たして、日本企業はどのくらいの時間を会議に費やしているのでしょうか。我々の調査結果から、役職別の年間の社内会議・打ち合わせの時間を推計しました。
メンバー層で週に3時間を超え、係長級で6時間、部長級になると8.6時間になりました。これを年間の時間に拡大推計すると、メンバー層で154時間、部長級では434時間を超えます。そして、従業員規模が多いほど、上司層の会議時間は飛躍的に伸び、1万人を超える大企業になると、630時間にも及びます。注意してほしいのは、この時間に、顧客・クライアントなどの社外関係者との打ち合わせは入っていないということです。これだけの時間を割いている会議時間は、果たして有益に使われているのでしょうか?
実際の会議参加者の意見を聞いてみましょう。会議をムダだと思っている割合を調査すると、メンバー層で23.3%、上司層で平均27.5%の方が会議にムダが多いと感じています。より組織的視点で会議に参加しているはずの上司層のほうが、会議時間を「ムダ」と感じているということです。
これらを再度拡大推計してみましょう。1500人規模の企業においては、ムダな社内会議時間は年間9万2千時間(約46人分の年間労働時間に相当)、企業の損失額は年間約2億円になることがわかりました。1万人規模の企業においては、ムダな社内会議時間は年間約67万時間(約332人分の年間労働時間に相当)、企業の損失額(ムダに費やしている人件費)は年間約15億円もの規模にのぼります。
さて、こうしたムダはどのように発生しているのでしょうか。性・年代、業種・企業規模などをコントロールした分析の結果、最もムダ指数に強く影響していたのは、「会議が終わっても何も決まっていない」「終了時刻が延びる」「些細な議題で会議を開く」といった終わり方に関わる会議のあり方でした。
逆に会議のムダを減らしていたのは、「所要時間の制限」「司会者による決定事項の明確化」でした。
こうした会議のムダ要因ですが、職種別に見てもそれぞれに特徴があります。たとえば、企画・クリエイティブ系職は、ブレスト・アイデア出しが多く、全体の会議時間も6職種区分では最も多くなりました。「何も決まっていない」ことも多く、答えの出にくい議論に多くの時間を割いているようです。
興味深い結果としては、影響度は高くないものの、「遠隔会議(テレビ会議)」の普及、そして「議事録文化」が有意に「ムダ会議指数」を増やしていることもわかりました。推論にはなりますが、以前だったら出張・訪問などで外出していれば呼ばれなかった会議が、遠隔会議システムの発展で出席可能になったこと、さらに、いまだ遠隔会議システムにしばしば感じられる音声・接続トラブルや、議論のしにくさが影響している可能性は考えられます。
議事録文化については、詳細過ぎる議事録をつくる、作成した議事録を一度確認してから回すなど、会議の後工程を増やしています。読まれない議事録は要点だけにするなどの見直しを考えてみても良いかもしれません。
推計された時間数を見ると、やはり、端的に会議の開かれる数が多すぎるようです。それは参加者自身が最も感じています。会議時間に多くの人件費を費やされていることを会社全体で意識し、必要とされる人と議題を絞り込むことが、第一の原則になります。
また、育児や介護などで制限された時間しか働くことのできない人、テレワークや在宅勤務のマネジメントにおいても、このことは重要さを増します。「会議を開く」ことに依存した意思決定は、設定できる会議時間帯が少ないこれらの人を意思決定から排除してしまうことに繋がります。実務上、時短社員の「会議設定時間が限られる」ことに悩むマネジャーは多いですが、修正すべきは、そもそもの会議の数が多すぎることのほうかもしれません。
上述したように、会議は「終わらせ方」が決定的に重要です。「うまくいく会議のTips」などでしばしば指摘される、事前準備や目的の明確化などの「始まり方」はほとんどムダに影響していません。データから見る限り、何よりも「終わらせ方」こそが会議のツボのようです。
事前準備をして資料を共有するのにも、時間はかかります。それよりも終わり方、をコントロールする「司会」「ファシリテーター」の役割を一回一回の会議においてきちんと明確化すべきです。日本企業は、会議のファシリテーターのスキルを特別に学ぶ機会が少なく、そもそも司会者を明確化している率も2割を切っています。
歴史的に、職場メンバーの同質性が高く、同じ時間・空間を共有することで組織内の「仲間意識」を醸成してきた日本企業においては、「集まること」「みんなで話すこと」に意義が置かれがちです。その意味で、「ただみなが集まって、役割も明確でないまま、最後に何も決まらない会議」、というのは旧態依然としたシンボリックな日本企業の風景と言えます。
しかし、より柔軟で自由な働き方が望まれている今、この繰り返される「ムダな会議」を無くすことは、プライオリティを上げて取り組まれるべき課題のように思います。
パーソル総合研究所/中原淳(2017-8)「時間労働に関する実態調査(第一回・第二回共通)」 | |
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調査方法 | 調査会社モニターを用いたインターネット調査 |
調査協力者 | 全国20~59歳の正社員 ※企業規模10名未満は除外 |
調査対象人数 | 6,000人(上司層1000人、メンバー層5000人) 合計12,000人 |
調査期間 | 第一回調査:2017年9月 第二回調査:2018年3月 ※第一回と第二回は別サンプルでの調査実施 |
調査実施主体 | パーソル総合研究所/中原淳 |
※引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所・中原淳(2017-8)「長時間労働に関する実態調査(第一回・第二回共通)」
シンクタンク本部
上席主任研究員
小林 祐児
Yuji Kobayashi
上智大学大学院 総合人間科学研究科 社会学専攻 博士前期課程 修了。
NHK 放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年よりパーソル総合研究所。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行う。
専門分野は人的資源管理論・理論社会学。
著作に『罰ゲーム化する管理職』(集英社インターナショナル)、『リスキリングは経営課題』(光文社)、『早期退職時代のサバイバル術』(幻冬舎)、『残業学』(光文社)『転職学』(KADOKAWA)など多数。
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