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コラム

2015.08.04

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人材の定着が会社の未来を変える。そのために、今すべきこと

キャリア リテンション 人事制度

採用難と人材確保競争の激化

今、日本の企業は大変な人材確保難に直面している。毎月厚生労働省が発表している有効求人倍率は、2015年6月で1.19倍(季節調整値)に達しており、リーマンショック前の水準を超え、近年稀にみる人材難と言える。

図:市場/有効求職者数・有効求人数・有効求人倍率の推移

有効求人倍率.png

出典:一般職業紹介状況(厚生労働省)
(注)数値は季節調整値。主な景気の名称は内閣府の景気基準日付によりHITO総研にて通称を記載

グローバル化や高齢化をはじめとした大きな変革期を迎えているなか、日本は労働史上経験のないほどの人材確保難に陥っているのである。それは、過去の取り組みの繰り返しや焼き直しでは到底解決し得ない事態とも言える。労働者人口は団塊の世代の引退により、今後さらに減少の一途を辿ることは明白だ。そのため、こうした人材不足の危機的状況が当分の間続くとの声も多い。

筆者にご相談いただく企業の中にも、実際に人材の確保に悩んでいる企業は少なくない。事業の安定的な成長のためには、当然、それを担う人材の安定的な確保が必要不可欠である。しかし、現在のような人材獲得競争下では、募集をかけてもなかなか適合性の高い候補者が集まらないため、より一層、時間もコストもかかる。一方、人材が定着しなければ穴埋めに手一杯で、なかなか新しいことを始められない...と悩む企業も多い。

人材の確保には、「獲得」と「定着」の大きく2つの要素が重要であると考えられる。

筆者の試算では、例えば新たな事業戦略のための10%増員と離職者の穴埋めを同時に進める場合、離職率が数%違うだけで目に見える採用コストだけでも大きな差が生まれることが分かっている(下図参照)。

図:離職率の差による採用コストのシミュレーション比較

比較前提.png

コスト比較グラフ.png

人材の穴埋めには採用コスト以外にも多くのコストを必要とするためである。今のような採用難時代では当然、採用単価も上昇傾向となるため、採用コストのさらなる増加も避けられないだろう。

また、負担は時間と共に重くのしかかる。人材確保は解決に時間をかければかけるほど負荷が大きくなる構造であるためだ。それはまた、新たな価値創造のための活動の足かせとなることも意味している。

人材の流出による損失 ~人材不足がもたらす深刻な事態~

人材の流出によって発生する損失は、後任者の募集・選考等に掛かる直接的な費用だけではない。下表にまとめたように、間接的なものも含めると、人材の離職による損失は計り知れない。

表:人材の離職による主な損失

損失表.png

ある米国企業では、1人の人材の離職による損失額が、その人の年収の最大200%とされた予測や、10人の専門職または管理職の離職で約100万ドルが失われるとするデータも存在する。また、我が国においても、入社3年未満の人材の離職により、1人あたり1,800万円の損失が発生するとする識者の見方もあるほどだ。

このようなことからも、定着が重要なのは明らかであり、打てる手はできるだけ早く打つことが求められる。

人材定着の阻害要因

では、離職を防止し、定着を進めるにはどうすればよいのだろうか。

人材の定着の阻害要因には、大きく分けて2つの要素がある。1つは「本人」の興味や志向性、能力によるもの、もう1つは会社の制度やルールを含めた「環境」によるものである。前者は、会社が求めることができない、応えきれないというもので、多くの場合、採用ミスマッチにより発生している。仕事の与え方で多少の解決は図れるだろう。また、採用の適正化に力点を置くのであれば、採用の基準を適正にし、その基準に基づいて正しく選考されることが求められる。それをどのように実現していくかについて語ることは、また別の機会に譲るとして、ここでは後者の「環境」に着目したい。

「環境」と一口に言っても非常に幅が広い。経営との関係性、会社の制度・ルール、待遇、職場の人間関係、仕事そのものなど、非常に多岐にわたる。そのため、問題を解決するには、複雑に絡み合った課題を丁寧に分析することが求められる。なぜなら、ある人が離職を検討するきっかけは1つに特定できたとしても、最終的に離職を決定づけた理由は他の要因も含め総合的な判断によることが多いためだ。それはまた、何か施策を打っても、その効果検証が難しいことも同時に意味している。

このテーマにおける先行研究の多くは、ハーズバーグの二要因理論を参照している。

ハーズバーグの二要因理論

ハーズバーグ.png

これは職務満足を高める要因を分析したものである。同理論では、職務満足を高める要素は、「動機づけ要因」と「衛生要因」の2つに分類される。動機づけ要因とは、仕事そのものにより得られる要素で満足を高める要素。衛生要因とは、主に仕事以外の要素で、不満足を解消する要素とされる。この2つの要素のどちらが欠けても、職務満足の状態とはならない。そのため、職務満足を向上させるための継続的な改善活動が不可欠となる。特に、本質的な課題の特定と対応策の検討というPDCAの「P」が非常に重要と言える。

なかにはその重要性を認識し、自分たちで課題の特定と対策の検討を試みている企業もある。しかし、なかなか成功しているケースは少ない。失敗の理由は、筆者の経験上、主に2つに集約される。それは、会社が社員の本音を理解していない(分析が甘い)ということと、それに起因して会社が建前上の対策しかできない(対策が甘い)ということだ。

課題を特定するには、先に述べたような職務満足を不足させている衛生要因の特定と、より職務満足を高める動機づけ要因の特定の両面からのアプローチが必要となる。特に、職務満足など、社員の意識を把握するには、本音にアプローチすることが求められるが、会社が行う社員向けのアンケートでは残念ながら、社員はなかなか本音を語らない。それを解消するために匿名でのアンケートが有効と考えられるが、「本当に匿名性が担保されるのか?」という社員からの疑念を払しょくすることは難儀である。

また、分析においては、各社員の定着の度合いと「環境」を構成する各要素の満足度との因果関係を見る必要がある。これにより、定着に強みとなっている要素と弱みとなっている要素が見えてくる。それは、社員が転職を考えた時に他社と比較している要素となっていることが多く、裏を返せば、採用における自社の強みであり弱みであることも少なくない。

離職を防止し、定着を進める取り組み

筆者は現在までに、このテーマで約40社近くの企業を支援させていただいている。これらの企業での取り組みを振り返っても、やはり「衛生要因を充足」「動機づけ要因の最大化」の両面からアプローチし、ある施策のみを打って終わりにせず継続して改善活動を行っているものが多い。

例えば、ある物流業の企業では、経営理念の浸透(動機づけ要因)と労働時間マネジメント(衛生要因)に着手した。同社では、業界の構造的な問題からドライバーを中心として長時間労働が慢性化し、より就業環境の整った他社へ人材が流出していた。そこで、社長が交代したばかりの状況もあり、現場と経営との距離を縮めるとともに、「なぜ同業他社ではなく、この会社で働くのか?」という根本的な問いを社員に投げかけることで、帰属意識と就業継続意向を上げている。

また、ある商社では、部下とのコミュニケーションや評価、フィードバックに力点を置いた管理職育成(動機づけ要因)と、業務の効率化や削減、適正配分などを中心とした働き方改革(衛生要因)を同時に行った。同社では、全社的な取り組みとして残業時間の削減は実現できていたものの、一部の社員に作業負荷が偏って長時間労働となっており、それに起因した離職が継続的に発生していた。そこで、業務の進め方やプロセスにまで踏み込んで無駄な作業を削減するとともに、タスクマネジメント、ピープルマネジメントに力点を置いた管理職の育成を行うことで、早期に定着化を図っている。

あるサービス業の企業では、社員表彰制度(動機づけ要因)とハラスメント対策(衛生要因)を見直した。同社では従来、著しい貢献が認められた場合に、社長から年1回表彰される制度があったが、非常にハードルが高く、動機づけに効果を発揮していなかった。そこで、社員の投票により表彰する社員参加型の制度に転換した。一方、ハラスメント行為の被害者の離職が相次ぐ問題も抱えていたため、一段踏み込んだ対策を打つことにした。これにより孤立する社員をなくし、組織や仕事に対する主体性を社員一人ひとりが持つようになっている。

ここに紹介した事例はほんの一例だが、これだけ見ていただいても、定着促進施策は非常に多岐にわたること、そして、これをやれば定着が解決するという特効薬がないことがお分かりいただけると思う。

また逆に、考えうるすべての施策を同時進行で進めることは現実的ではない。だとすると、期待効果や実現性などを基に、優先順位を付けて、順次実行していく以外に方法はない。1つの施策を打ったら、その効果を検証し、また新たな課題に対し継続的に取り組んでいく。この繰り返しが最も重要なことではないだろうか。

人材の定着化への取り組みは、正に終わりなき戦いだ。

執筆者紹介


ディレクター

甲斐 順也

Junya Kai

大手総合コンサルティングファームの組織・人事コンサルタントとして、人事制度改革、人事システム構築・ERP導入、人事業務BPR、シェアードサービスセンター構築、運用支援など組織・人事にまつわる多岐にわたるプロジェクトをリード。2013年2月より現職。

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