「パーパス経営」の肝どころ――インボルブメントをいかに高めるか

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近年の企業経営の重要なキーワードとして「パーパス経営」が浮上している。パーパスとは、「企業の存在意義」ともいえる指針であり、企業が何のために事業を営んでいるのかを示すものだ。パーパスと銘打たずとも、企業理念やミッションといった経営の大目的に改めて向かい合う企業が近年目立っている。

しかし、ただでさえダイバーシティの浸透で働く価値観が多様になってくる中で、パーパスや企業理念を打ち出してその浸透を狙っても、従業員は簡単について来るわけではない。多くのパーパス・理念は、「上層部が言っているきれいごと」として現場にはまったく浸透せず、受け流されてしまっているケースが多々存在するのも現実だ。

そこで、パーソル総合研究所では、「企業理念と人事制度の浸透に関する定量調査」においてパーパス・理念の従業員への浸透プロセスについて調査し、浸透しない企業理念と浸透する理念の何が異なるのか、独自の検討を行った。

  1. 「浸透するか」どうかに、パーパスや企業理念の内容は関係ない
  2. インボルブメントこそが浸透の鍵
  3. 現実は、「一方通行」な浸透施策ばかり
  4. 「写像投影」モデルから「共鳴」モデルへ
  5. 行く手を阻む、「意志なき個人」
  6. 個人の「働くパーパスの創発」こそがパーパス経営の肝になる
  7. まとめ

「浸透するか」どうかに、パーパスや企業理念の内容は関係ない

まず、パーパスや企業理念の「内容」を見てみたい。パーパス・理念に含まれる内容をトピックとして把握すると、「顧客への貢献」「企業の社会的責任」「正直さ・誠実さ・法令遵守」のトピックがトップ3でほぼ同率で並んだ。今、多くのパーパス・理念には、このようなトピックが含まれているということだ。

図1:パーパス・企業理念に含まれているトピックス(複数回答・%)

図1:パーパス・企業理念に含まれているトピックス(複数回答・%)

出所:パーソル総合研究所「企業理念と人事制度の浸透に関する定量調査」


業界別に見ると、教育、医療は「社会の人々の健康・幸せ」や「地域への貢献」のトピックに触れるものが多い一方で、情報通信はそれらが低く、「革新やイノベーション」が多いという特徴も見られる。それぞれの業界の立ち位置が理念に反映されていて興味深いものだ。

図2:パーパス・企業理念に含まれているトピックス(業種別・%)

図2:パーパス・企業理念に含まれているトピックス(業種別・%)

出所:パーソル総合研究所「企業理念と人事制度の浸透に関する定量調査」


こうしたパーパス・理念の内容を改定したり制定したりする際には、経営陣を中心に多くの工数を費やし、議論を尽くす。「これからの時代のパーパスには、企業の社会貢献性が大事だ」ともしばしばいわれ、社会的な動向も含めた多くの要素に言及されることも多くなってきた。

しかし、今回のデータの分析した結果では、「理念にどのようなトピックが含まれているか」は、浸透の度合いにまったくといっていいほど関連していなかった。プラスにもマイナスにも影響関係が見られなかったのだ。やや乱暴にいえば、「どのトピックが入っていようが、浸透しないものはしないし、するものはする」ということが示された。

インボルブメントこそが浸透の鍵

では、調査で明らかになったパーパスや企業理念浸透のための鍵は何か。それは、従業員の「インボルブメント」だ。ここでいうインボルブメントとは、パーパス・理念の制定や浸透のプロセスに従業員が関与を実感し、共感している度合いのこと。パーパス・理念の浸透には、この従業員のインボルブメントが高いことが、大きくプラスの影響を与えていることが分かっている。

図3:インボルブメントとパーパス・企業理念の浸透(平均値・pt)

図3:インボルブメントとパーパス・企業理念の浸透(平均値・pt)

出所:パーソル総合研究所「企業理念と人事制度の浸透に関する定量調査」


簡単に言い換えれば、従業員がいかに浸透施策に「巻き込まれているかどうか」がパーパス・理念の浸透度合いを大きく左右するということだ。これは直感的にも首肯しやすい結果であろう。そしてさらなる分析の結果、インボルブメントを高めるための巻き込み施策には、大きく3つの施策に効果があることも分かっている。

図4:インボルブメントを高めるための浸透施策

図4:インボルブメントを高めるための浸透施策

出所:パーソル総合研究所「企業理念と人事制度の浸透に関する定量調査」


1つ目のポイントは、浸透施策に「対話」の機会が設定されていることだ。具体的には、社員を対象としたワークショップ・対話イベント・ヒアリングなどによって、従業員がパーパス・理念について直接話したり対話したりするためのイベントやプロセスが実施されていることだ。

2つ目は、アイデア募集や公募など、従業員の「意見の吸い上げ」が何らか行われていることだ。社長が一人の頭の中だけで考えたものではなく、企業の現状やこれからのありたい姿などについて、オープンに意見を聞いたりアイデアを募集したりするような機会があることが、インボルブメントを高めていた。

3つ目は、浸透プロセスの透明性が担保されていることだ。検討プロセス・議論内容・検討内容が従業員から「見える」状態になっていることが重要になる。この目的のためには、議事録の公開やオープンな場での議論、また、より広く透明性を確保するためには、パーパス・理念のための社内の特設サイトを作る企業も多い。

現実は、「一方通行」な浸透施策ばかり

では、現在の日本企業は、パーパスや企業理念浸透のためにどのような施策を打っているのだろうか。調査結果を見れば、浸透施策は、「全体説明会」「社内イントラ」「社内報」などの「一方通行型」のコミュニケーション施策が突出して多い実態が明らかになっている。つまり経営陣が会議室の中で検討し、決まったパーパス・理念を下に「落とす」ようにトップダウン的に伝達しようとするパーパス経営が主たるものになっている。これでは、インボルブメントは上がらず、パーパス・理念の浸透はなかなか見込めない。

図5:パーパス・企業理念浸透施策の媒体・イベント実態

図5:パーパス・企業理念浸透施策の媒体・イベント実態

出所:パーソル総合研究所「企業理念と人事制度の浸透に関する定量調査」

「写像投影」モデルから「共鳴」モデルへ

多くの経営層は、人が増え、多様な人材が集まる中で、「なんとか創業時の想いを継承したい」「一体感を持って働いてほしい」と考え、さまざまな浸透施策を実施する。しかし、企業規模が大きくなり、多様性が上がる中で、多くの従業員の心に同じものを描こうとしても難しいだろう。「多様な価値観を認めていく」というダイバーシティの原理と、パーパスや企業理念によって人々の価値観を統一する、ということの原理的な相性の悪さがここにはある。

それでもなお、パーパス経営の狙いをダイバーシティの原理原則とすり合わせるならば、同一のパーパスの「写像」を他者にコピーしていくような考え方ではなく、部分的な「共鳴」を狙う方向へ転換するしか道はないように思われる。筆者はその変化を、「写像投影モデルから共鳴モデルへ」というスローガンにまとめている。

図6:パーパス・企業理念浸透の在り方

図6:パーパス・企業理念浸透の在り方

出所:筆者作成


図のように、経営者が描いた理念やビジョンを従業員という「他者」の心に劣化コピーのように写しとらせることを狙う(写像投影)よりも、従業員個人と企業がそれぞれ持つ2つの別の理念・ビジョン・パーパスの間に、どこかしら「共鳴」する部分を探すという取り組みが、これからのパーパス・理念浸透の指針となっていくと筆者は考えている。

「共鳴モデル」の要諦は、企業側の理念・ビジョン・パーパスと、従業員側の働く目的意識やビジョンと「重なり」があることだ。そのためには、企業の理念との間に、適度な「余白」が必要になる。ガチガチに決まりきった大目的を与えられても、従業員側の主体性を発揮するための「遊び」がないからだ。できるだけ同じ思いを抱かせようとする「写像投影」モデルとはこの点でも異なる。

「写像投影」モデルから「共鳴」モデルへの変化は、パーパス・理念浸透という営為そのものの理論的な負荷を下げることにつながる。自社のパーパス・理念全体はどこか他人事かもしれないが、共鳴するところが部分的にでもあれば、それは十分にその人がその会社で働く理由になり得る。ダイバーシティが進むほどに、この共鳴モデルのような考え方が、今後のパーパス経営の潮流になっていくように思われる。

行く手を阻む、「意志なき個人」

「写像投影」モデルから「共鳴」モデルへの転換が必要になることを述べたが、ここで、もう一つのハードルが存在することも付記しなくてはならない。それは共鳴するべき個人側の「パーパス」がそもそも存在しないという大問題だ。

「なんのために働くのか」「仕事を通じて何をしたいのか」「どんなキャリアを歩みたいのか」といった、働くことへの大目的を明示的に示せるならば、それに基づいた「共鳴」ポイントを見いだせるが、そうしたパーパスを持たない従業員が多ければ、それは当然難しい。

自己肯定感も低く、かつ社会貢献への意識も低い日本人において、個人の働くパーパスを明言できる個人は多くはない。この売り手市場において、パーパス浸透を狙うのであれば、企業は自社従業員側の働く意思こそを「創発」する施策が必要だということだ。

個人の「働くパーパスの創発」こそがパーパス経営の肝になる

ここまでの議論で、「共鳴モデル」の可能性と難しさが明らかになってきた。ではどうしたらよいのだろうか。 すでにパーソル総合研究所の研究では、自身のキャリアへの主体的な意志がある従業員の特徴は、キャリアについての対話の経験が豊富であること、個人目標と組織目標がひもづいていること、主体的な異動配置でジョブが決まっていることなどが明らかになっている。詳しくは「従業員のキャリア自律に関する定量調査」を参照いただきたい。

実際、パーパス経営において最も先進的な日本企業から、コミュニケーションの伝達によって「浸透」させるのではなく、従業員側の「マイ・パーパスの掘り起こし」へと浸透施策の重心をシフト・チェンジしていっている企業が現れ始めた。

これらの動向は、「浸透」そのもののモデルを共鳴的な発想へずらすと同時に、従業員側の働くパーパスの創発こそが必要だという本コラムの主張の文脈に沿うものであるとともに、自律的な働き方を目指すHRM(人的資源管理)のロングトレンドとの一貫性もある。

逆にいえば、会社主導の配置転換で従業員のジョブを自由に動かし続け、目標管理という名のノルマ管理で縛りながら、「意志なき労働者」を大量に作り、さらに「理念浸透をさせたい」というのは実際にはなかなか難しいということだろう。

まとめ

本コラムのデータと議論から見えてきたのは、パーパスや企業理念の浸透とは、表面的なインナーコミュニケーションでどうにかなるレベルのものではなく、共に組織で働く「人」を動かすものとして人材マネジメント総体と組み合わせて行うしかないということだ。つまり、メディアと発信を考える「社内広報」施策ではなく、「人事企画・広報」施策なのである。

パーパス経営というトレンドに流され、「企業理念の重要性を伝えていく」程度のパーパス経営ではなく、真摯に「従業員の他者性」を見つめ、理念の「共鳴」を考えるのであれば、従業員の自律的な働き方とは何か、という問題に立ち返る必要がありそうだ。

執筆者紹介

小林 祐児

シンクタンク本部
上席主任研究員

小林 祐児

Yuji Kobayashi

NHK 放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年入社。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行っている。専門分野は人的資源管理論・理論社会学。著作に『罰ゲーム化する管理職』(集英社インターナショナル)、『リスキリングは経営課題 日本企業の「学びとキャリア」考』(光文社)、『早期退職時代のサバイバル術』(幻冬舎)など多数。


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