「パーパス」は誰によって、どう語られるか――企業理念のシェア実態を探る

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近年、パーパス経営が耳目を集めている。企業の活動において社会への貢献性を強調する流れの中で、企業理念やビジョンが「パーパス」と呼ばれ、改めて浸透施策が打たれることが増えてきた。パーパスや企業理念のような経営の大目的が従業員へどのように共感され、認識されているかについての重要性は、企業経営の領域のみならず、人事領域においても強く認識され始めている。

しかし、パーパスや理念の重要性を叫ぶ言説と比べて、そうしたものが具体的にどのように浸透していくかについての知見はまだまだ少ない。パーパスも企業理念も、テレパシーのように透明に人の心に染み入っていくものではない。具体的な人のコミュニケーション・やり取りの中で認識され、同意を得て、行動に移されるものだ。

そこで、パーソル総合研究所が行った「企業理念と人事制度の浸透に関する定量調査」では、パーパスや理念を「誰が話すか」という浸透施策の登場人物と、従業員が職場においてそれらについて「誰と・何を話すか」という従業員のうわさ行動の2つの側面から実態を明らかにした。これが理解できれば、「浸透」という抽象度の高い議論を、より具体的な行動として検討することができるはずだ。

図1:浸透施策の登場人物と従業員のうわさ行動

図1:浸透施策の登場人物と従業員のうわさ行動

出所:筆者作成

  1. 誰がパーパスや企業理念を語るのか
  2. パーパスや企業理念についての従業員の「うわさ」
  3. 「拡散されやすいエモーション」とは
  4. 生成AIが作成した企業理念の評価実験結果
  5. まとめ

誰がパーパスや企業理念を語るのか

まず、誰がパーパスや企業理念を語るのかという点である。企業によって行われるパーパスや理念の浸透施策はさまざまにある。従業員説明会はもちろん、毎日の朝礼での読み上げ、社内報やイントラネットへの掲載、評価制度への反映から紙での掲示板まで、浸透施策は多様なものが実践されている。そうした浸透施策において、理念やパーパスの語り手として「誰が登場するか」という点である。

実態を確認すれば、「社長・会長・CEO」が登場する施策は53.2%。「部長・本部長級の管理職」は51.7%。「課長・リーダー」は46.1%であった。主な登場人物としても社長級が圧倒的に多く、33.0%を占めた。やはり企業理念を語らせるならば最上位の者から、というのが経営の通例となっている。

図2:パーパス・理念浸透施策における登場人物(%)

図2:パーパス・理念浸透施策における登場人物(%)

出所:パーソル総合研究所「企業理念と人事制度の浸透に関する定量調査」


しかし、この誰が話しているかによって、従業員への浸透への効果を確かめてみると、その効果はまったく異なるものであった。この調査では、理念浸透を「理解」「同意」「実践」「習慣化」という4つのフェーズに分けて測定しているが、社長や部長クラスが語っていても、浸透への効果はまったく確認できなかったのである。

図3:浸透施策の登場人物とパーパス・理念浸透への影響

図3:浸透施策の登場人物とパーパス・理念浸透への影響

出所:パーソル総合研究所「企業理念と人事制度の浸透に関する定量調査」


これは一見して、社長を前に立たせてパーパスを語ってきた多くの企業にとってのショッキングなデータであろう。社長から直接現場に語り掛るだけの浸透施策では、残念ながらその効果は薄そうだ。

ただ、この結果は主にメンバー層に対しての浸透効果を測定した結果であることには注意が必要だ。課長層やリーダー層へとパーパスを伝えていく際には、やはり社長や部長クラスといったポジションから語ることも必要だろうし、会社規模によってもそれぞれの階層の大きさは異なる。

また、興味深いのは、「従業員家族」による浸透が強い効果を示したことだ。子供による仕事参観や社内報でのインタビューなど、従業員家族を巻き込む形の社内報や浸透施策も、一部企業では実践されている。ファミリーデーのような家族交えたレクリエーションの中でメッセージを伝えていくという方法も、外資系企業でも見られる光景だ。そうした家族ぐるみのコミュニケーション施策の実効性を示唆させる結果だ。

「誰が語るか」という点についてまとめれば、いかに「半径5メートル以内」の人を登場させるかという点が重要そうだ。普段会うことも無い社長が高いところから語っていたとしても、現場社員の浸透度には影響を及ぼすことはなさそうだ。

パーパスや企業理念についての従業員の「うわさ」

次に、職場での従業員の語りについて見てみよう。当然だが、働く個人は、ただ伝達され「浸透」を待つ受動的な存在ではない。パーパスや企業理念の内容や、それについての個々人の感想は、現場における「うわさ」行動によって広がっていく。こうした生々しい活動のリアリティは、既存の研究ではまったくといっていいほど注視されていない。

そこでパーソル総合研究所の調査では、企業理念について「誰と・どのくらい会話したか」を聴取した。すると、従業員の約5割が「同僚」「上司」「先輩」と話しており、「同僚」は「5回以上話した」も2割を超えている。このうわさ行動の頻度は、やはり無視できるものではない。

図4:企業理念に関するうわさの頻度と相手

図4:企業理念に関するうわさの頻度と相手

出所:パーソル総合研究所「企業理念と人事制度の浸透に関する定量調査」

「拡散されやすいエモーション」とは

うわさ行動によるシェアは、どのような感情とともにシェアされているのだろうか。従業員からシェアされやすいパーパスを、感情別に分析すると、「危機感」「共感」「ワクワク」「新規性」「驚き」の印象が持たれたものがより拡散されやすいということが分かった。

逆にいえば、従業員にとって何の驚きも新しさもない理念やパーパスの浸透施策は、従業員の間で話題に上がることは少ないということだ。いくら企業の社会性が強調され、きれいで美しいコピーライティングで表現されたパーパスであっても、そこに何らかの感情を揺さぶるような仕掛けや内容、施策が伴わない限り、シェアされずにスルーされるということが示される結果だ。

図5:パーパス・企業理念に関して話した会話の内容の感情

図5:パーパス・企業理念に関して話した会話の内容の感情

出所:パーソル総合研究所「企業理念と人事制度の浸透に関する定量調査」


また、うわさ行動の頻度と、内容のポジティブさ(好意度)をまとめて、職位別に分析してみた。すると、頻度、ポジティブさともに階層が上がるほど高く、一般従業員との差が大きいという実態が浮かび上がった。上位階層と一般従業員のうわさ行動の大きな落差は、先ほどのトップからのメッセージに施策が偏っていることと合わせて見れば、階層が離れるとともにパーパスについてのメッセージも、心理的な距離が遠いものになっていることを傍証している。

図6:パーパス・企業理念に関するうわさ行動の頻度とポジティブさ(職位別)

図6:パーパス・企業理念に関するうわさ行動の頻度とポジティブさ(職位別)

※「うわさ行動の頻度」はうわさ行動の平均回数(回)、「うわさ内容のポジティブさ」は会話相手ごとのポジティブ(好意度)の平均(pt)

出所:パーソル総合研究所「企業理念と人事制度の浸透に関する定量調査」

生成AIが作成した企業理念の評価実験結果

では、もう少し具体的にイメージできるように、生成AIを用いた実験的な調査を実施した。生成AI(ChatGPT)を用いて「典型的な企業理念」を作成し、ビジネスパーソンにそれを読んでもらい評価させるものだ。世の企業理念の「あるある」のような理念が、どのように一般の就業者に感じられるかを参考にするためだ。でき上がった文章は、以下のようなものである。

私たちは、常に顧客満足度を追求し、高品質かつ革新的な製品・サービスを提供します。
社員一人ひとりが主体性を持ち、チームワークを発揮し、
創造性とイノベーションを追求することで、企業価値を高めます。
私たちは社会的責任を果たし、持続可能な社会の実現に貢献していきます。

どこかで聞いたことのあるような、企業理念の文面が作成された。とはいえ、まったく関係のない企業の理念を評価させるのは自然でないため、自社の理念に「似ている」と回答した者のみ分析を行った。ちなみにこの理念が自社のものに「似ている」と回答したのは43.2%。生成AIの「あるある理念」としての精度はなかなか高いようだ。

図7:典型的な企業理念の評価

図7:典型的な企業理念の評価

出所:パーソル総合研究所「企業理念と人事制度の浸透に関する定量調査」


評価として高かったものは、「内容が綺麗ごとばかりだ(36.9%)」「内容がふんわりしている(36.7%)」「表面的な世間体をつくろっていると感じる(36.4%)」といった、無関心さ、独自性のなさが35%を超えた。やはりこうした一般的で当たり障りのない理念は、内容そのものには感情を搔き立てるような力はなさそうだ。理念内容ではなく、浸透施策に工夫がより一層求められよう。

まとめ

今回の「企業理念と人事制度の浸透に関する定量調査」で明らかになったのは、パーパスや企業理念は、従業員にただ伝達されるだけでなく、従業員同士のうわさ行動によって「シェア」されており、その頻度や内容のポジティブさもまた、浸透施策の在り方に大きく左右されているということだ。一般従業員にとって、驚きや新規性のないトップからのメッセージだけの浸透施策は、シェア行動も低く、ポジティブにシェアすることも少ない。

パーパスや企業理念浸透といった経営の根幹となるような指針が、現場で「流行」し、「浸透」するかどうかは、こうした具体的コミュニケーション行動によって支えられている。自社の浸透施策や理念が、現場で好意的にシェアされるようなものになっているかどうか、改めて振り返りたい結果となった。

執筆者紹介

小林 祐児

シンクタンク本部
上席主任研究員

小林 祐児

Yuji Kobayashi

NHK 放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年入社。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行っている。専門分野は人的資源管理論・理論社会学。著作に『罰ゲーム化する管理職』(集英社インターナショナル)、『リスキリングは経営課題 日本企業の「学びとキャリア」考』(光文社)、『早期退職時代のサバイバル術』(幻冬舎)など多数。


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